エリアマーケティングとは?得られるメリットや実施のポイント、事例などを紹介

2022.09.13

2022.08.31

エリアマーケティングは、店舗運営や企業経営において欠かせないマーケティング手法のひとつである。地域特性に基づいたエリアマーケティングを行うことで、その地域に適切な広告戦略や販売促進の施策が打ち出せるため、効率化や売上の向上が図れるだろう。

ここでは、エリアマーケティングの概要とメリット、実施するうえでの重要なポイント、また企業におけるエリアマーケティングの活用事例を紹介する。

エリアマーケティングとは?

地域特性を知るうえで欠かせない「エリアマーケティング」は、的確に実行することで、売上の向上や効率化が目指せる。エリアマーケティングとともに、重要な商圏分析の概要について見ていこう。

地域の特性ごとに販売戦略を展開するマーケティング手法

エリアマーケティングとは、地域密着型マーケティングとも呼ばれ、その地域が持つ特性に基づいて行うマーケティング手法のことを指す。市場の特性は地域によって大きく異なるため、その地域の市場特性を詳しく分析した結果をもとにエリアごとに最適なアプローチ方法や施策を選択して、売れる仕組みづくりを行うのが目的である。

該当エリアへの新規店舗の出店時だけではなく、既存店舗の運営や地域限定のプロモーション活動を行ううえでも、エリアマーケティングのような地域に密着したビジネス展開は欠かせない。

エリアマーケティングで必要不可欠な「商圏分析」

エリアマーケティングを行ううえで必要不可欠な要素に「商圏分析」がある。店舗ビジネスにおける商圏(Market Area)とは、その店に来店が見込める顧客が生活する地理的な範囲のことをいい、店舗を中心とした円形の地域を指す。

円の中心の店舗から辺縁部までを「商圏距離」、その店舗の利用の有無にかかわらず、商圏内の全人口を「商圏人口」と呼ぶ。商圏の範囲は、店舗の業種や形態、地域の特色によって異なる。

一般的に店舗の数が多く日用品や食料品などを扱うコンビニやスーパーなどは商圏が狭く、アパレルや高級品を扱う百貨店などは商圏が広く設定される。商圏分析とは商圏内の地域特性や特徴を把握することであり、さまざまな調査・収集データからターゲットやニーズが分かるようになるので、営業や販促活動の目安になるものである。

エリアマーケティングで得られるメリット

エリアマーケティングを行うことで得られるメリットにはどのようなことものがあるのか、一例を紹介する。

自社の現状や課題が把握できる

エリアマーケティングには、自社の現状や課題を把握できるメリットがある。既存店舗のある商圏でターゲットと成り得る顧客の人口構成や生活様式が把握できれば、自社のサービスや商品が商圏とマッチしているか、最適な施策が行えているかどうかの判断が可能となる。

また、ここで得られたデータをもとに、将来、新規店舗を出店する際には、効率的な販促やターゲットに合わせた商品開発が行えるようになるだろう。

売上や需要の予測が立てられる

エリアマーケティングで潜在顧客の行動を分析することで、自社店舗の売上やこのエリアにおける需要の予測を数値化できる。既存店舗や競合店の現状も把握できれば、売上目標などの達成度合いが計測できる「重要業績評価指標(KPI)」を設定したり、出店候補地を選定したりする際に、論理的に筋道を立てて進められるだろう。

ほかにも、「投下資本利益率」や「投資利益率」とも呼ばれる「ROI(費用対効果)」の計算にも役立つので、適切なコストをかけて、より効果的に販促活動が行えるようになる。

顧客に最適なアプローチ方法が立案できる

自社の顧客と成り得る人口構成や商圏が見極められれば、そのエリアに特化した広告戦略の立案が可能になる。ターゲットが存在する地域のみに最適な広告配信や資金投入を行うことで、不要なコストを削減できるだけではなく、リピート率の向上も期待できるだろう。

エリアマーケティングにより商圏内の人々の特徴が掴めると、子供向け商品の出店候補地には若い夫婦が多い地域を選定したり、若者が多い地域にはSNS、高齢者が多く住む場所であれば折込チラシで販促を行うなどアプローチ方法を変えたりと、顧客に合わせて適切な施策を打ち出すことも可能だ。

商圏分析を実施するうえで重要なポイント

エリアマーケティングで必要不可欠である商業分析を実施するうえで、重要となるポイントを見ておこう。

マクロ環境を分析して市場を把握する

エリアマーケティングでは、まず大きい視点で対象地域の市場特性が把握できるマクロ環境を分析する必要がある。マクロ環境とは、自社を取り巻く外部環境の中でも、コントロールができない人口統計的環境や政治環境、社会環境といった広い視点で見た経済環境を指す。

マクロ環境を分析するには、人口統計や人口分布、昼夜間の人口差、世代・年代構成、学生数、高齢者数などのデータをもとに、具体的に地域特性を把握するとよいだろう。

マクロ環境を把握する際には、総務省統計局が作成する統計データや推計データが参考になる。市場の調査・分析が正確であれば、今後この地域でどのように人口構成や年代構成が変化していくのかが予測でき、より効果的に中長期的なマーケティング戦略が可能となる。

顧客のライフスタイルを調査・把握する

マクロ環境の分析で市場特性を把握したら、次は移動手段や移動距離、消費傾向、消費の平均額といった顧客のライフスタイルを調査して、エリアでの需要を分析していく。商品を購入する消費者の年代や購買行動のプロセスなどが分かれば、ターゲットごとのニーズ、この地域での自社のサービス・商品のマッチ度が把握できる。

移動手段が車か電車かでも、まとめ買いが可能な大型スーパーに需要のある地域と、商品が手に取りやすい小型スーパーにニーズのある地域とに分かれる。ほかにも、電車通勤が多い地域ではICカードの利用率が高いため、キャッシュレス決済のサービスに需要があると予測できるだろう。顧客のライフスタイルを分析することで、顧客満足度や購買率の改善にも役立てられる。

地域が持つ文化的特性や物理的情報を分析する

マクロ環境とは反対に、小さい視点で物事をとらえるミクロ環境の分析では、地域の文化的特性や物理的情報を把握して、ターゲットごとに短期的な販売戦略が立案できるのがポイントだ。ミクロ環境の分析は、具体的にその地域の住民性や慣習、歴史、土地柄、気候、地形、特産物など、住民の行動を左右する地域特有の特徴について調査していく。

例えば寒い地域では、温暖な地域に比べて外出のハードルが高く、一度にまとめ買いをしたり、通販を利用したりなど、気候に左右される購買行動が見受けられる。

食べ物や衣服の好みも、冷やして食べるより加熱調理するのが一般的であったり、薄手の生地より厚手の衣服が売れやすかったりする傾向があるだろう。ミクロ環境の分析結果をもとに、ローカライズされた商品の提供やその地域での売れ筋の把握ができるわけだ。

既存の競合企業を調査・分析する

消費者はよりニーズが満たせる利用先を選ぶことから、商圏内の顧客に自社を選んでもらうためには、ライバルとの競争に勝ち抜く必要がある。競合の現状を把握するには、店舗数や売り場の規模、立地、売上、営業時間、サービス内容・取り扱い商品、市場シェアといった観点から、競合店舗のデータを定量的に調査・分析するとよいだろう。

これらの情報を踏まえて、競合他社が選ばれている理由が分かれば、自ずと顧客が求めるニーズや店舗を選ぶポイントが明確になるため、ライバルに対抗するための施策や今後の戦略が的確に立案できるようになるはずだ。また、競合企業の強みや弱みが把握できれば、ブランディング戦略や商品開発の差別化が図れる。

エリアマーケティングの活用事例を紹介

エリアマーケティングを成功させるためにはどのような点を押さえればいいのか、エリアマーケティングを活用する企業の成功事例を紹介する。

「カーセブン」の活用事例

全国に100を超える店舗を展開する中古車の販売・買取を手掛ける「カーセブン」は、デジタルとエリアマーケティングを組み合わせた施策が成功した企業の一例である。全国一律で販促活動を行うのではなく、地域特性や顧客分析に応じて折込チラシやポスティングなどの内容を変え、効率的な広告プロモーションを行うことで、各エリアで着実に売上を伸ばしている。

例えば女性の多い地域にはコンパクトカーに関するチラシ、ファミリー層にはミニバンのチラシなど、用途別にチラシを配布する施策を打ち出している。顧客分析を行う際には、紙のアンケートを用いずにタブレットでアンケートを収集し、リアルタイムでデータを反映させて、販促活動や広告宣伝に役立てている。

「パルコ」の活用事例

出所:point.parco.jp

全国でファッションビルを運営する「パルコ」は、オムニチャネルに力を入れており、自社の公式アプリ「POCKET PARCO」などを開発する。顧客との位置情報を連携させることで行動分析を行い、店舗の周辺5km以内でアプリを利用するユーザーに販促活動を行う施策を展開。アプリで収集したデータをもとに、店舗のある商圏の地域特性を把握して、店頭での販促にも役立てている。

また、各店舗でショップブログを積極的に活用することで、ブログ読者から商品の取り寄せや取り置きが増えてきた背景から、今まで取りこぼしてきた潜在的な需要の顕在化に成功する。店舗独自の特性を大切にした情報発信により、顧客ニーズを的確に掴めた好事例といえる。

「京浜急行電鉄」の活用事例

神奈川県に本拠地を置く「京浜急行電鉄」では、Bluetooth信号を使った端末「Beacon」を活用した取り組みを展開している。この販促実験では、京急沿線に計17個のBeaconを設置して、近くを通ったユーザーに対してお得な沿線情報を配信する取り組みである。

ホットペッパーグルメと共同で企画は行われ、ユーザーに沿線情報のほかにも、駅周辺の飲食店の情報やクーポンがリアルタイムで配信される。この施策はユーザーの位置情報を活用した販促であり、ターゲットに直接訴求できる効果的な販促方法の一例といえる。Beaconを活用した取り組みは、京急以外でも、富士急ハイランドや京セラドーム大阪球場のようなエンタメ領域で広く活用されている。

エリアマーケティングでは商圏分析が成否を決めるカギ

エリアマーケティングで商圏を分析して地域特性を的確に把握することで、顧客ニーズにマッチしたきめ細やかなサービスや商品が提供でき、さらに企業の業績向上も期待できるだろう。エリアマーケティングは、その地域に最適な施策が実施できる手法であり、商業分析の精度が成否を決めるカギといえる。

各地域での価値観の傾向や行動・購買特性は日々変化していくため、スピーディーな施策の実行が欠かせない。成功事例を参考にしながら、地域に合った最適なエリアマーケティングを実施しよう。

お役立ち資料データ

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