上代・下代とは?概要や似ている言葉との違い、計算方法などを解説
2023.01.04
2022.12.02
商品取引において使用される概念に「上代」「下代」がある。
もともとは小売業や卸売業などの商品の仕入れ取引の際に使用されていた用語だが、近年ではインターネット上での個人取引やEC事業の拡大により、使用されるシーンも多くなってきた。この記事では上代と下代それぞれの概要と似ている言葉との違い、活用シーンや計算方法について解説する。
上代の概要や似ている言葉との比較
上代の概要と似ている言葉との違いを解説する。
商品の販売価格を指す
上代(じょうだい)とは、メーカーや卸、問屋などが仕入先に対して設定する販売価格のことだ。仕入先である小売店などは、上代をもとに一般消費者へ商品を販売するときの価格を設定する。また上代価格とも呼ばれている。
店頭やオンラインショップで表示される販売価格が、上代にあたる。
一般的に消費税は含まれない
上代は、一般的に消費税を含まない金額が表示される。ただし、企業や取引条件によっては消費税を含んだ金額を上代としていることもあるため、取引時には確認が必要だ。
参考上代との違い
上代と似ている言葉に参考上代がある。参考上代とは、メーカーや卸元が販売先に対して販売を希望する金額のことだ。ただしあくまで希望金額のため、実際に販売するときの価格設定に拘束力や義務はない。取引先や業種によっては、上代=参考上代を指す場合もあるため注意が必要となる。
メーカー希望小売価格との違い
メーカー希望小売価格とは、メーカーが販売先に対して販売を希望する金額のことだ。参考上代と同義だが、メーカー希望小売価格という名称はあくまでメーカーのみが使用できる名称という違いがある。なお「上代」という名称がついていないため、取引先によっては参考上代よりも拘束力が弱いという印象を持たれる可能性もある。
オープン価格との違い
オープン価格とは、メーカー側が参考上代やメーカー希望小売価格を設定せず「オープン」な状態にしていることだ。小売側が自由に販売価格を設定できる。おもに電化製品やゲーム機、スマートフォンなどでオープン価格が設定されていることが多い。小売店は市場の動向を見つつ、自由に価格を設定できるなどのメリットがある。
オープン価格が誕生した背景には、小売り側による不当な二重価格表示の防止がある。
たとえば、実際にはメーカー希望小売価格が設定されていないのにもかかわらず「メーカー希望小売価格の半額」と表示して販売する、または競合店の平均販売額を高く設定し「競合店よりも値引き価格で販売」と表示して販売するのは、不当な二重価格表示として景品表示法違反となる。
不当な価格表示によって消費者が間違った選択をするのを防ぐために、特に家電製品などの高額な製品はメーカー側があらかじめ「オープン価格」を設定するケースも多くなった。
定価との違い
定価とは、メーカー側が設定した販売価格のことだ。上代や参考上代、メーカー希望小売価格とは異なり拘束力があり、小売店が自由に値上げや値下げするこはできない。そのため定価が設定されている場合には、小売側は定価で販売しなければいけない。上代は値引きが可能だが、定価が定められた商品は値引きができない。
ただし、現在は独占禁止法によって定価が設定されているのは、たばこと著作物(書籍、CD、DVD、新聞など)のみとなっている。
下代の概要と計算方法を解説
上代とともに覚えておくべき下代の概要と計算方法を解説する。
仕入価格を指す
下代(げだい)とは、小売店側がメーカーや卸から商品を仕入れる際の仕入価格のことだ。「卸値」「卸価格」「仕入価格」「仕切り」は同義として使用されている。小売店側からは「仕入原価」とも呼ばれる。
条件によって変動する
上代はメーカーや卸側が一律で販売価格として設定しているのに対して、下代は取引先や条件によって同じ商品でも変動するのが特徴だ。たとえば上代が1万円の商品があった場合、下代はA社が7,000円、B社は8,500円、C社は6,000円ということもある。
上代×掛け率で算出される
下代は「上代×掛け率」で算出される。
たとえば上代1万円の商品で掛け率が50%だった場合、10,000×0.5=下代は5,000円となる。掛け率が40%なら「4掛」50%なら「5掛」と呼ばれることもある。なお掛け率を尋ねるときには「何掛か?」という聞き方をする。
なお、上代と下代がわかっていて掛け率を算出したいときには「下代÷上代×100」で算出できる。
下代の利益率に関係する掛け率について
上代が一律であるのに対して、下代は取引先や条件によって同じ商品でも変動する場合がある。下代を決めるポイントとなるのが「掛け率」だ。掛け率の概要や設定方法、似ている言葉との違いについて解説する。
掛け率を決める要素
掛け率は、取引数の実績や取引先との取引年数、仕入れる量などによって変動する。たとえば長い間付き合いのある取引先や大量仕入れを行う取引先に対しては、ほかの取引先よりも有利な掛け率で取引をするケースも多い。
掛け率の目安や相場
掛け率の相場は業種によって異なり、食品業界やおもちゃ業界で70%前後、アパレル業界では50~60%程度、飲食業界では30~50%程度が目安とされている。ただし、取引先との仕入れ量や取引実績によって掛け率は変動するため、同じ業種内の取引でも掛け率が違うことは珍しくない。
季節外商品、型落ち品、過剰在庫などいわゆる「訳あり品」は、一般的な掛け率よりも低めに設定されることが多い。そのため訳あり品の仕入れ取引では、その都度掛け率を設定するのが一般的だ。
利益率との違い
利益率とは、売上高に対して利益がどの程度の割合にあるのかを示したものだ。掛け率が仕入れや商品の値付け、価格交渉時に用いられるのに対して、利益率は商品が売れた合計額に対して、利益がどのくらい出たのかを算出するのに用いられる。
利益率には限界利益率や営業利益率などがあり、算出したい利益の性質によって用いるものが異なる。
限界利益率についてはこちらの記事でも詳しく解説している。
値入率との違い
商品の販売価格(上代)と、仕入れ原価(下代)の差額の販売価格に対する比率を表したのが、値入率。「値入高(販売価格―仕入原価)÷「販売価格」×100」で算出できる。
たとえば仕入原価が200円の商品を1,000円の販売価格で売った場合の値入率は80%だ。さらに、仕入原価200円の商品を値入率80%で売りたいときには1,000円で売れば良いことになる。販売価格から仕入れ原価を引いた値段を「値入高」または「値入」と呼び、この場合は800円になる。
原価率との違い
原価率とは、売上高に対する売上原価の割合を表したものだ。売上原価とは製造業なら製造活動、小売業なら仕入などおもな事業活動において発生した費用を指す。なお、「原価」「原価率」はどの立場からも同一の名称で使われる特徴がある。
たとえば下代は、メーカーや卸側からは「卸値」と呼ばれ、小売り側の「仕入原価」と同じ数値を指すものでも違う名称で呼ばれる。一方で原価はメーカーや卸側、小売り側ともに使用される。
掛け買いとの違い
掛け買いとは代金を後払いする約束をしたうえで、先に仕入れる商品を入手することだ。月内の異なる日に商品を発注して購入し、月締め分を翌月末請求で一括に支払う、という取引ができる。「掛けで買う」ともいわれる。仕入や取引に関する専門用語だが、「掛け」という名称はついているものの掛け率とは全く異なることのため注意しよう。
掛け率を下げて利益率を上げる方法
掛け率を下げると下代が下がるため、商品ひとつあたりの利益率が上がる。利益率にもつながる掛け率を下げるための方法を解説する。
複数のメーカーや卸から見積もりを請求する
商品の仕入先に複数の候補があれば、複数の見積もりを請求する。企業ごとの掛け率が把握できるのと、相見積もりにすることで掛け率の交渉材料にできるメリットがある。
在庫をかかえないタイミングで大量仕入れをする
商品の仕入数を多くすることで、掛け率を下げる交渉材料にできる。ただし商品を多く仕入れたことにより過剰在庫を抱えてしまうと、在庫管理の負担や費用が発生してしまう。市場で人気のあるものや、季節商品など多く仕入れても販売できる確信があるものなら、大量仕入れをして掛け率を下げるのも有効だ。
先方が販売数量を稼ぎたいタイミングを見る
メーカーや卸の営業担当者は、月の販売数量目標を持っていることが多い。営業担当者が販売数量目標に達していないときに、仕入数を多くする代わりに掛け率を下げてもらう交渉ができる。営業担当者の声や意見にしっかり耳を傾けておこう。
交渉は狙いを定める
頻繁に掛け率の交渉をすると、メーカーや卸の担当者が辟易した結果交渉自体を受け入れてもらえない可能性が高い。頻繁ではなく、ここぞというときに交渉を行うようにしたい。
上代と下代は利益を左右する重大な要素
上代と下代の概要と下代を決める要素となる掛け率について、掛け率と似た言葉との比較と掛け率を下げる方法を解説した。上代には似ている言葉があり、定価のように拘束力がある項目もある。取引先によっては似ている言葉を同義として使っていることもあるため、取引時には気をつけたい。
下代は仕入原価、卸価格と使用する立場によって呼び方が変化するが、いずれも仕入価格を指す。上代と下代の差を決める掛け率は、下がれば下がるほど利益率が上がる。取引先との関係や仕入数などを考慮し、販売による利益を最大化するための交渉に活かそう。