限界利益とは?意味や計算方法、粗利や営業利益との違い、損益分岐点との関係などを解説
2023.01.04
2022.12.02
企業の利益を示す指標のひとつに「限界利益」がある。1年の決算書である損益計算表上の項目として限界利益というものは存在しない。
けれども、企業の経営状況を判断する重要項目のひとつといえるだろう。この記事では、限界利益の概要や算出方法、損益分岐点を活用した分析方法やほかの利益との違い、限界利益の活用方法を解説する。
限界利益とは
限界利益とは、売上高から費用のなかでも「変動費」を差し引いて算出される利益のことだ。もうひとつの費用である「固定費」は限界利益のなかに含まれているため、限界利益から固定費を差し引いた金額が実際の利益となる。
限界利益、固定費を含めることで、商品やサービスを実際にいくら販売したかの数値に連動する利益が算出できる。
限界利益と限界利益率の算出方法
限界比率を算出することで、毎月の固定費を含めた売上高を算出できる。経営判断にも活用できる限界利益と限界利益率の算出方法を解説する。
固定費と変動費を算出する
まずふたつの費用である「固定費」と「変動費」を算出する。
固定費とは家賃や人件費、保険料、機器のリース料など商品やサービスの売上高に影響を受けず、毎月固定で発生する費用のことだ。
一方で変動費とは、材料費や仕入費、販売手数料など商品やサービスの売上高によって変動する費用のことを指す。固定費と変動費を合わせたすべての費用を「総費用」と呼ぶ。
限界利益を算出するときには、損益計算表の内容を固定費・変動費に分類に再分類して計算し直した変動損益計算表を使用する。たとえば損益計算表における「売上原価」は変動費に、「販売人件費」「家賃」は固定費に変換される。
売上高から変動費を差し引く
限界比率は、「売上高-変動費」によって算出される。実際の利益を算出する場合には、さらに限界比率から固定費を差し引いて算出できる。
限界利益率を算出する
限界利益率とは、売上高に対して限界利益がどの程度の割合を占めるか算出した比率のことだ。「限界利益 ÷ 売上高」で算出できる。限界利益率を算出することで、商品やサービスひとつあたりの売上高が増えると限界利益がどの程度増えるのかがわかる。
例:売上高100の商品Aと売上高200の商品B
商品Aの変動費が40の場合、限界利益は100-40=「60」、限界利益率は60÷100=0.6=「60%」
商品Bの変動率が120の場合、限界利益は200-120=「80」、限界利益率は80÷200=0.4=「40%」
売上高は商品Bの方が多いが、限界利益率は商品Aの方が多い。商品Aは少ない販売数で利益が出せる(商品Bで利益を出すには、商品Aよりも多い販売数が必要)ということがわかるだろう。
なお、限界利益率は業種や業態、ビジネスモデル、企業の経営状況によって大きく変わるため、一般的な指標はない。
たとえば総費用のなかでも原材料費や仕入費、輸送費などの変動費が大きくかかる製造業や小売業、卸売業の場合は、限界利益率が低くなる傾向にある。
一方、コンサルティング業や知的財産料など固定費よりも変動費が少ない業種の場合は、限界利益率が100%となる場合もある。自社の業種や業態をふまえた限界利益率を把握し、指標とするのが重要だ。
損益分岐点を算出する
損益分岐点とは、売上高から固定費と変動費すべてを差し引いて算出する「損も利益も出ていない地点」のこと。
限界利益とともに損益分岐点を算出することで、経営状況が赤字か黒字かを判断できる。損益分岐点は「限界利益-固定費」で算出できる。さらに、「固定費÷限界利益率」で下回った場合赤字となる「損益分岐点売上高」が算出できる。
損益分岐点についてはこちらの記事でくわしく解説している。
限界利益とほかの利益との比較
企業の利益を示すものは、限界利益だけではない。限界利益とほかの利益との違いを解説する。
粗利益とは
粗利益とは売上高から売上原価を差し引いて算出した利益のことだ。粗利とも呼ばれる。変動費のみ差し引く限界利益と異なり、固定費・変動費問わず売上原価のみを差し引いている特徴がある。
たとえば売上原価に含まれる「人件費」や「機器のリース料」は毎月固定で発生する費用のため、一般的には「固定費」とすることが多い。ところが、生産や建築状況によって人件費や機器の代金が変動する製造業や建築業では、人件費や機器のリース料を「変動費」とする企業もある。
その場合、同業種でも費用の取り扱いによって限界利益に大きな差が出てくる。そこで、固定費・変動費の影響を受けず純粋に「売上原価」を差し引く粗利益を採用することで、正しい利益の把握につながる。
固定費と変動費の内訳や業種によって、限界利益と粗利益どちらが指標として適切となるかが異なる。売上目標を立てるときには、業種で発生する費用の特徴を把握し、限界利益と粗利益どちらを指標とするかを決めよう。
粗利についてはこちらの記事でくわしく解説している。
営業利益とは
営業利益とは、企業が本業で稼いだ利益のことだ。売上高から売上原価、さらに販売費、一般管理費を差し引いて算出される。
計算式は「売上高-(売上原価+販売費および一般管理費)」。前述の粗利益から、営業活動に必要な費用も差し引いて算出された利益が、営業利益にあたる。
限界利益が固定費を差し引いていないのに対して、営業利益は固定費も差し引いているという違いがある。
そのため営業利益が赤字でも、限界利益では黒字になるという状況もあるだろう。この場合は固定費の削減、原材料費を安くするなど変動費の削減、販売する商品やサービスの量の増加によって、営業利益も黒字に改善できることが多い。
一方で限界利益が赤字となっている場合、商品やサービスを販売すればするほど赤字になるため、場合によっては取引中止などの対応をすぐ行う必要がある。営業利益と限界利益の両方を分析することで、正確な経営状況が判断できるだろう。
営業利益についてはこちらの記事でくわしく解説している。
経常利益とは
経常利益とは、企業が通常行っている業務で得ている利益のことだ。損益計算表の3番目に記載されている。「(営業利益+営業外利益)-営業外費用」で算出できる。
経常利益は本業での利益である営業利益に加えて、本業以外での利益と損失を加算して求められる。たとえば本業が小売業や製造業の企業が、投資や副業の不動産賃貸業で得た利益や損失も加わったのが経常利益だ。現在の企業の経済力や実力を測れる指標といえる利益に該当する。
企業が通常(=経常)で得る利益を指すため、一過性の利益や損失は含まれない。たとえば災害や事故による損失や不動産売買による儲けなどは一過性の利益や損失のため、経常利益の算出には含まれない。
限界利益は商品やサービスの販売数によって変動する利益のため、限界利益を把握することで最終的に残る利益(=経常利益)がどのくらいになるかも把握できるだろう。
貢献利益とは
貢献利益とは、商品やサービスをひとつ販売するごとにどの程度の利益が出るかを表したものだ。基本的に限界利益と概要は同じだが、商品やサービスひとつの単位あたりで算出される違いがある。商品やサービスそれそれがどの程度企業の売上に貢献しているかを把握できることから、貢献利益と呼ばれている。
貢献利益は、売上高から商品やサービスの1単位あたりの原価や費用を差し引いて算出できる。商品やサービスひとつあたりの競争力が把握できるので、企業の販売戦略にも活用できるだろう。過去の貢献利益の推移を参照すると、商品やサービスの競争力や販売力の推移や傾向も分析できる。
限界利益の活用方法
限界利益の経営や事業における活用の方法やポイントを解説する。
商品やサービスの直接的な利益が分かる
限界利益を算出することで、商品やサービスを販売したときにどのくらいの利益が得られるかがわかる。限界利益率の高い商品やサービスなら収益性が高いため、売れば売るほど儲かる。一方で限界利益率の低い商品やサービスは、たとえ売上が高くても利益が出しづらいことがわかる。
黒字となるポイントを把握できる
限界利益から損益分岐点を求めることで、固定費を回収できる売上高や、黒字になる売上高が把握できる。健全な経営判断をするための方向性や目標額の設定にもつながるだろう。
改善すべきポイントが判断できる
限界利益と損益分岐点を分析することで、黒字にするための改善点が固定費、変動費、売上高のいずれかにあるかがわかる。たとえば売上高が高くても限界利益率が低い場合に、固定費である広告費をかけて売上を上げるのは逆効果だ。家賃や水道光熱費などの固定費を削減し、限界利益率を改善することが利益につながると判断できるだろう。
最終的な企業の実力が分かる
限界利益は企業が通常の業務で得られる利益を示す、経常利益を決めるポイントにもなる。限界利益を把握すれば、自社の経営における実力がどの程度あるかの見極めもできるだろう。
限界利益を経営判断や戦略に活用しよう
限界利益の概要や計算方法、ほかの利益との違いや関係性、限界利益の活用方法を解説した。限界利益を算出することで、固定費を含めた売上高が把握できる。ほかの利益や損益分岐点と併用して分析することで、正しい経営判断や戦略の方向性を把握し、企業の利益の最大化も実現できるだろう。