コト消費とは?意味や消費行動の特徴、モノ消費、トキ消費、イミ消費などとの違いを解説

2023.06.15

時代の変化とともに消費者ニーズも変化し続けている中、近年注目されている消費行動に「コト消費」がある。コト消費とは、商品やサービスを使用・所有するだけでなく、その先の経験や体験に価値を見出す消費者行動を指す。ここでは、コト消費の特徴や種類、モノ消費や新たな消費スタイルとの違い、成功事例を解説する。

コト消費とは?意味や消費スタイルの違いを解説

BtoCビジネスに関わっていると、「モノ消費」や「コト消費」のような言葉を耳にする機会があるだろう。これらの用語は消費傾向を表しており、近年ではモノ消費からコト消費への変化に注目が集まっている。コト消費が拡大する中、既に新しい消費傾向も生まれている。コト消費の意味や概念、ほかの消費スタイルとの違いを解説する。

経験や体験の価値を重視する消費行動

コト消費とは、商品やサービスを購入する際に、経験や体験の価値を重視する消費行動のことを指す。コト消費は、2000年代前半頃から使われるようになった言葉で、1980〜1990年半ば頃に生まれたミレニアム世代の消費行動として注目されている。「体験消費」とも呼ばれ、習い事や海外旅行、演劇鑑賞、自然体験、パワースポット巡りなどがコト消費に当てはまる。

モノ消費の違い

モノ消費とは、消費者がお金を使う際に、商品そのもの、または商品を所有することに価値を置く消費行動のことをいう。経済産業省が公表した「平成27年度地域経済産業活性化対策調査報告書」によると、「個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること」とあり、商品の機能や品質を重視して家電製品や車、衣類など、形のあるものを購入する行動が当てはまる。コト消費が形のない経験や体験に価値を見出すのに対し、モノ消費は形あるものの価値を重視する点に違いがある。

トキ消費との違い

トキ消費とは、その時にその場所でしか味わえない体験に価値を置く消費行動のことを指す。例えばフェスやハロウィンの仮装イベント、聖地巡礼、コラボカフェなど、その日その時にしか行われない、限定的で希少性の高い事柄に参加する行動が当てはまる。経験や体験で得られる価値に重きを置く点では、コト消費とトキ消費には似ているところがある。しかし再現性のあるモノ消費やコト消費とは違い、トキ消費は限られた日程や時間に何をするかといった、再現が難しいことに価値を見出す。

コト消費に消費傾向が変化した背景

1990年代後半から2000年代にかけて、モノ消費からコト消費に消費傾向が変化していった背景には、大きく分けて3つの要因がある。

消費者の価値観や生活様式の変化

高度経済成長期には物を所有するモノ消費が主流であったが、物がいつでも手に入る豊かな社会になったことで、物質的な満足感よりも精神的な安定感が得られるコト消費が注目されるようになった。基本的な欲求が満たせるようになったため、消費者の価値観は自己実現への欲求に変化し、自然とコト消費への需要が高まったと考えられる。

インターネットやSNS普及による消費行動の変化

コト消費に消費傾向が変化した大きな要因として、インターネットやSNS、スマートフォンなどのスマートデバイスの普及が挙げられる。オンラインで物の購入がいつでもできるようになり、わざわざ現地を訪れる必要がなくなったのも、大きな要因だろう。現地を訪れることでしか得られない体験に価値を見出す人が増えたため、コト消費が普及した背景がある。

インバウンド客の増加

日本でしか体験できないことに価値を見出す訪日外国人が増えたことで、コト消費に消費傾向が変化していった背景がある。日本のものをインターネットで購入できるようになったのも、コト消費が拡大した要因として考えられており、リピーターの多くは、温泉巡りやスキー・スノーボード、日常生活や日本食の体験など、コト消費へのニーズが高い傾向にある。

コト消費の種類

コト消費は、目的や場所などによって7つの種類に分けられる。それぞれの特徴を詳しく見ていこう。

純粋体験型

純粋体験型コト消費とは、企業が提供する商品・サービスが体験や経験となっている消費を指す。例えば旅館やホテルなど宿泊施設の利用、遊園地や博物館などのレジャー施設、観光地の工芸体験、スキーやダイビングなどのアクティビティなどがある。体験価値を提供するだけでなく、手作り体験のようにその場でしか得られないモノを販売するモノ消費につなげる効果も期待できる。

コミュニティ型

コミュニティ型コト消費とは、商業施設に関わる場所でコミュニティを形成し、モノ消費につなげることを目的とした消費をいう。また形成するコミュニティは、「商品を中心としたコミュニティ」と「商品とは関係ないコミュニティ」の2つに分類される。例えば商品のあるサーフショップやダイバーショップ、商品とは関係なく、趣味や社会活動などでコミュニティを形成して、情報共有をすることなどが挙げられる。

イベント型

イベント型コト消費は、デパートなどの商業施設で開催するイベントでの消費のこと。季節限定や地方の物産展、コラボイベント、有名人を呼んでのトークショー、冬季限定のスケートイベントなどが該当する。イベント自体で利益を得るというより、イベントを開催することで新規顧客の開拓や、イベントに付随するものを販売するなどして、モノ消費につなげる効果がある。

時間滞在型

時間滞在型コト消費とは、商業施設が居心地のよい空間を提供することで、長時間滞在してもらえるよう促す消費を指す。例えば本を購入して飲み物を楽しみながら読書ができるカフェ併設のブックカフェや、簡単な飲食メニューや写真撮影・餌やりなどのサービスを提供して猫とゆっくり過ごせる猫カフェなどが挙げられる。長時間滞在の際に、どのようにしてモノ消費へつながる仕組みを構築できるかが重要になってくる。

アトラクション施設型

アトラクション施設型コト消費とは、デパートやショッピングモールなどの商業施設に併設されたアトラクション施設での消費のことをいう。映画館や水族館、アスレチック、遊園地、カフェなどを併設することで集客を促し、施設間連携を行って利用者にインセンティブを提供するなどして、施設内の商品や食事といったモノ消費につなげることが可能だ。

ライフスタイル型

ライフスタイル型コト消費は、商業施設が消費者のライフスタイルに沿った商品を包括的に提案することでファンを獲得し、購買につなげる消費のことを指す。例えばインテリアショップや雑貨店などが、商品の使用シーンがイメージができるようなディスプレイを展示したり、自宅のインテリアにマッチするような生活用品や家具を組み合わせて提案したりして、訴求を促す方法がある。

買い物ワクワク型

買い物ワクワク型コト消費とは、買い物という行為自体がワクワクした体験となるよう、店内のレイアウトや雰囲気を演出したり、ユニークな商品を取り扱ったりすることで、購買を促す消費のことをいう。他店舗にはないユニークなアイテムを多数扱う大手雑貨専門店や輸入食材店などが、陳列や導線に工夫を凝らし、ワクワク感のある独特な回遊体験を提供してリピーター獲得につなげている。

コト消費の成功事例を紹介

コト消費にはどのような事例があるのか、具体的な成功事例をいくつか紹介する。

日本の伝統文化を体験

訪日外国人が日本を旅行先に選ぶ理由はさまざまだが、日本の伝統文化に惹かれて訪れる外国人も多い。旅行先で、その土地ならではの伝統文化を体験するコト消費は特に人気が高い。例えば着付けや茶道、忍者やサムライ体験、食文化体験、寿司づくり体験、そば打ち体験、三味線や琴の体験、田舎暮らし体験などがある。

株式会社梅守本店は、東大寺を訪れる外国人観光客向けの寿司職人体験「うめもり寿司学校」を2013年に開催し、5年で30万人の訪日外国人の取り込みに成功した。寿司を楽しむだけでなく、職人の衣装を貸し出して、寿司職人になりきるエンターテイメント性の高い体験を提供している。

浅草商店街の取り組み

東京都台東区の浅草商店街への訪問客は、渋谷や新宿、銀座などの繁華街に奪われた時期があったが、2010年代以降、インバウンドの増加とともに息を吹き返すこととなる。特に浅草近辺で代表的なコト消費に、隅田川花火大会や人力車の利用、浅草サンバカーニバルの開催などがある。2012年以降は、東京スカイツリーへの訪問も人気を博している。

有名な観光スポット以外にも、メロンパンブームを作った花月堂や歌川広重の浮世絵に描かれた駒形堂といったニッチなスポットを訪れる外国人も多い。街路の整備やメディアでの魅力発信といったさまざまな取り組みが実を結び、国内外から訪れる観光客は年々増加している。

VRやARなどを活用した観光誘致

観光庁では、日本出国時に課税される国際観光旅客税を活用して、インバウンド客の消費拡大を後押しする体験型コンテンツの開発事業を実施している。VRやARといった最先端ICTを用いて、街並みや観光地などを紹介することで、画像や動画だけでは体験できないリアリティある魅力や雰囲気を伝えられる。

大手旅行会社のH.I.Sでは、VR技術を活用したコンテンツ導入して、旅行先の下見ができる施策を提供している。イメージと実際の印象のギャップを解消することで、顧客満足度を向上させ、競合他社との差別化を図っている。

イミ消費やエモ消費、ヒト消費も増加

消費スタイルの変化は時代の変化とともに常に変化し続けている。スマートフォンやSNSが普及してきたことで、コト消費にとどまらず、トキ消費、イミ消費、エモ消費、ヒト消費へと若者の消費行動は変化してきている。

2020年以降のコロナの影響で、コト消費やトキ消費のようなイベントへの参加が難しくなった。トキ消費はオンライン化し、環境や地域社会に配慮した商品を購入するイミ消費や、精神的な満足度を重視するエモ消費、アイドルやアニメの推しにお金を使うヒト消費が盛んに行われている。

おわりに

消費活動の潮流が変わっていっても、ほかの消費行動を行う消費者がいなくなるわけではない。消費行動はそれぞれ重なっていたり、関係していたりするので、消費者のニーズを把握して効果的な商品やサービスを提供していくことが重要である。目に見えないものへの価値を求める時代だからこそ、コト消費や他の消費活動への理解を深めて企業戦略に活かしていこう。

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