新型コロナ対策の中でも対応必須!義務化「HACCP」実務

2020.08.12

オフィスS&Qサポート 渡邉常和

2018年の食品衛生法の改正により、今年6月よりHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Pointの略称、ハサップ)が施行されました。猶予は1年で、来年6月からは完全実施となります。

しかし、ハサップの進ちょくについては、新型コロナ対策で止まっている会社も多く、また管理職の中には、義務ではなく努力目標と勘違いしている人も少なくなく、ハサップが思うように進んでいないスーパーマーケット(SM)も多いようです。

ハサップ制度は大きく2つに分かれる

ハサップは、直訳すると「危害分析重要管理点」方式と呼ばれる衛生管理の手法で、1960年代にアメリカで安全な宇宙食を作るために考えられた食品の工程管理の手法です。そしてコストや取り組みの難易度を考慮しながら、食品の安全を脅かす危害要因の除去や低減を考えて行うのが現在のハサップです。

日本のハサップ制度は大きく2つに分かれています。

食品メーカーなど大規模な企業が行う「HACCPに基づく衛生管理」と、SMなどの小売りや飲食店などの事業者が行う「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の2つです。

大きな違いは、3つの危害(細菌などの微生物、農薬などの化学的なもの、固い異物)に対する取り組み方と進め方です。

メ-カーなどのハサップでは、コーデックスHACCPの7原則(※1)を実践、3つの危害を各工程で確認しながら管理を行います。

もう1つのSMなどの事業者では、少人数で、手作業も多く、品揃えも多様で、そして内容もよく変わることから、一般衛生管理(個人衛生、手洗い、洗浄消毒、防虫防鼠など)を基本として、危害は主に食中毒(微生物)に重点を置き「温度と時間」で管理します。

そしてこのハサップでは、各業種の団体が「手引書」を作っており、これを手本に「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行うことになっています。

SMでは、全国スーパーマーケット協会が中心となり手引書を作成し、厚労省の確認を得た上で、18年公表、19年に改正案が出されました。

時間がない中、SMは進ちょくに苦戦?

次にSMへのハサップの導入により、店の作業がどのように変化するか考えてみます。

簡単に言えば、「店での原材料などの受け付けから販売までの作業が全て明文化され、主な作業についてはその実施結果も記録として残す」ということになります。

そのため、それによって「誰が」「何の作業をやったか」「何を実行したか」が明確になります。そして、実施した記録により、過去の状況も含め確認することが可能となり、時系列的な調査もできるようになります。

原則、店舗の作業内容や、温度チェック、個人衛生、教育などの計画と実施の記録が、義務付けとなります。結果、会社としては、工程ごとの作業内容や問題点の把握もしやすくなり、商品の品質が向上するとともに、作業効率の改善にもつなげることができます。

ハサップは実施チェックなどにより一時的な作業量が増えますが、後日商品の問題などが起きた場合の確認や、現状の作業の見直しにも使え、全体としてのメリットが大きいと考えます。

また保健所は、今後全国的に同じ考え方、見方で加工場の作業内容を確認することとなります。作業が明文化されますので、店での「知りませんでした」「分かりません」が、通らなくなります。

もう時間があまりありません!

しかしながら、実際には、多くのSMが進ちょくに苦戦しています。

その要因として、SMにおけるハサップは、他の業界の手引書と大きく違う点が2つあるためと考えています。逆にこの2つの進め方を整理すれば進ちょくしやすいと考えます。

1つは、「部門ごとに行う」ことです。SMの手引書では、やるべきことを共通と部門ごととに分け、作業の流れを考え、ポイントも説明しているのですが、少し混乱してしまうようです。

もう1つは、他の手引きとは違い、「表示」を注意ポイント(重要管理ポイント)として重視していることです(他に惣菜業界が採用)。

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の手引書の多くは、「表示」を重要管理ポイントとはせず、製品説明書で割り切って扱います。しかし、SMでは店内加工が多く、表示誤りが多いため、表示を取り上げています。特にアレルギー食材(※2)、添加物、原産地などの表示誤りは、回収問題にもなります。

中でも、添加物やアレルギー表示では苦戦しており、2次、3次原料(※3)まで調べるのに苦労しています。

成功のポイントは「できるだけ店舗の事務作業を減らす」

それでは、どのような考え方で進めればよいのかを考えます。

①組織作りと役割の明確化

ハサップの成功のポイントは、本部と店舗の組織作りとコミュニケーション、役割分担の明確化にあります。

ハサップの運用から考えてみます。

ハサップでは、全て文書による記録が求められ、導入後もレベルアップのため見直しが続くため、店舗と連携を取りながら、本部が主体で行います。

成功のポイントは、できるだけ店舗の事務作業を減らすことです。そのため、本部のまとめ役は専任者である必要があります。

役割は、本部が全体の企画、管理、教育、改装などを含め予算立案を担い、店舗が、現状の問題と改善提案、実践と実施後の問題点と改善提案などを担います。

具体的には、商品や製品説明書、工程表は、商品部や営業部(SVなど)が中心になって本部が作り、現場での手順などの適合確認は店が行います。

教育は、品質管理と人事教育が行います。また、店舗も含め、本部全員の事前教育も必須です。

店舗の施設設備、レイアウトの不備による見直し、新規購入などは、商品・営業部、営繕部、経理部の代表が一緒に動き、予算化、スケジュール化します。

そして店は、ハサップ導入前に現行の衛生管理ルールや各加工場のレイアウト、施設設備の不備(冷蔵・冷凍庫の不足)などの問題と、それの改善案を上げます。

店のまとめ役は、店長または代行とします。また肝心な生鮮・惣菜の責任者は、日常業務が忙しいと下に振り逃げる傾向があるので、自覚を促すため、会社として、人事発令し業務を周知させ、店舗で発足式も行います。

②ローカルルールの採用

SMは、店舗年齢や規模、施設設備、品揃えも異なり、一律ルールでは運用できない場合もあります。その場合ローカルルール(その店独自)も認めます。ただし、その場合も工程の見直しなどは、本部も参加し、確認承認を得て、社内登録します。

本部の作業量は大きいですが、この部分を無視し一本化を図ると、必ず表に出ない、裏ルール運用が始まります。正しくハサップを定着させるためにも、現状の問題を整理し、最善ではなくても、次善の方法を考えステップアップするやり方で進めましょう。

③表示はインラインで

表示は毎年法律が変わります。そのため店舗オリジナル商品も含め本部で把握し、表示作りをしないとミスは防げません。

またアレルギー、添加物などの表示で、入っていないものも表示し、回収指導を受ける例が出ています。

そうなってしまった理由は、表示がよく分からないので、入りそうなものを全て表示すれば問題がないと考えたとのことでした。

これは法律違反です。

表示が複雑化する中、店任せのやり方でミスは防げません。本部がインラインで店舗の表示変更なども管理するやり方にすべきです。確かに投資は必要ですが、人時生産性が上がり、コストも下がり、リスク管理も徹底します。ぜひ導入を検討願います。

ハサップへの対応が業績格差を生む時代

それでは、最終的に困ったときはどこに相談すればよいのでしょうか。

これは自社の地域にある保健所への相談が一番です。コストもかからないし、親身になって相談に乗ってくれます。

ただ、今は新型コロナ騒ぎで忙しい時季なので、事前予約を取ってから訪問するようにします。またその際は、自社の一通りの流れは作り、その上で訪問するようにします。そして聞き違いがないようにメモなども取りやすいように2人以上で行くようにします。

最後にお伝えしたいことは、「ハサップは、業務改善などにもつながり、部内のコミュニケーション向上、品質向上等による利益アップにもつながる」ということです。

そして今後は、ハサップを確実にものにした企業と、形だけの企業では、業績の格差が大きくなると考えます。

ハサップ導入だけで終わるのではなく、PDCAを続け、レベルアップを進めた企業が最後は勝ち残ると考えます。

※1 コーデックスHACCPの7原則とは

国連の専門機関が作った「国際的な食品規格」をコーデックスと呼びます。この中でHACCPの実施に当たって行う次の7つの決めごとを7原則と言います。

原則1 工程での危害要因分析

原則2 管理するための重要管理点の決定

原則3 2で管理するための管理基準の設定

原則4 3を測定する方法を決めること

原則5 管理基準が守られなかった場合のトラブルを元に戻す方法を決めること

原則6 決めたことが守られているかを確認すること

原則7 記録と保存方法の設定

※2 アレルギー食材とは

アレルゲン(アレルギーを引き起こす原因物質)を含んだ食材のことです。表示義務のある特定原材料7つと、推奨表示の特定原材料に準ずるものが21品目(昨年9月にアーモンドが追加)あります。

※3 2次、3次原料とは

豚カツを例に挙げます。1次原料はパン粉、小麦粉、卵、豚肉、大豆油です。この中でパン粉の2次原料は小麦粉、酵母、ショートニングなどになります。次にショートニングの3次原料は、牛脂、豚油、ビタミンAなどになります。このように階層別に原料を調べることを指します。

わたなべ つねかず 1951年生まれ。74年ダイエー入社。店舗13年(担当、店長)、商品部10年(青果)を経験。店舗では中三百貨店、スーパーマーケット、JR北海道への出向を経験。96年消費経済研究所へ移籍。スーパーマーケット、飲食店、ホテルの店舗衛生管理、品質管理業務を担当する。専門は、小売業・飲食業への食品衛生・品質衛生管理全般の指導、店舗への衛生・品質管理の階層別教育、食に関するトラブル対応。実験を多用し面白くて役に立つ「品質・衛生管理」研修に定評がある。

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