21年4月より総額表示の義務化|制度の変遷や注意点を解説

2021.01.08

小売店や飲食店には、本体価格と消費税額を合算した「総額表示」が、2021年4月から義務付けられると、聞いたことはないだろうか? しかし、流通業界に詳しい人なら、「あれ? 総額表示って、もっと前から義務化されていたんじゃなかったっけ」と思う人もいるだろう。ではいったい、総額表示の義務化とは、どういうことなのだろうか?

総額表示の義務化とは?

総額表示の義務化とは?

流通関連の仕事をしていると、価格の「総額表示」というワードを耳にすることも多いのではないだろうか?

「総額表示」とは、消費者に商品を販売したり、サービスを提供したりする場合、値札やチラシなどに記載する価格を、消費税相当額(地方消費税額も含む)をあらかじめ含めた支払いの総額とする表示方式のことだ。

国税庁によれば、本体価格1万円、消費税10%を例にすると、次のような表示が、総額表示に該当するという。

・11000円

・11000円(税込)

・11000円(税抜価格10000円)

・11000円(うち消費税額等1000円)

・11000円(税抜価格10000円、消費税額等1000円) 

つまり、上記の例のように、商品やサービスの本体価格と消費税額の内訳がわかるように表示するのは、もちろんかまわないが、「本体価格と消費税額の合計金額」をはっきり示すことが、ポイントとなるわけだ。

例えば、「10000円(税込11000円)」という表示も、消費税額を含んだ価格がはっきり示されていれば、総額表示に該当するという。

なお、総額表示で税込み価格を設定する場合、1円未満の端数が生じるときは、端数を四捨五入しても、切捨てても、切上げても、差し支えないとされている。

そして、2021年4月から、小売業や飲食業などに「総額表示が義務付けられる」という話題も、よく取りざたされているのをご存じだろう。

総額表示は、消費税課税事業者が、消費者に対して商品の販売などを行う場合、小売段階の価格表示をするときに義務付けられる。つまり、小売店や飲食店でも、消費税の免税事業者には、表示義務がないのだ。免税事業者は、「税抜き価格」を表示して別途、消費税相当額を受け取るといったことが、想定されていないからだ。

消費者に対する価格表示であれば、媒体の種類を問わず、総額表示が義務付けられる。具体的には、次のようなケースが考えられる。

・値札、商品陳列棚、店内表示、商品カタログへの価格表示

・商品のパッケージなどへの印字、あるいは貼付した価格表示

・新聞折込み広告、ダイレクトメールなどで配布するチラシ

・新聞、雑誌、テレビ、インターネットホームページ、電子メールなどを利用した広告

・ポスター

ただし、例えば、屋台での口頭による価格の提示といった、価格表示を行っていないケースは、総額表示の義務の対象には含まれない。

実は、すでに平成16年(2004年)4月から、総額表示は義務化されている。ところが、実際には、現在も総額表示をしている店舗と、していない店舗がある。例えば、「10000円(税抜)」「10000円+消費税」といった値札の表示を、見かけたことがあるだろう。それはいったい、どうしてなのか?

その答えは、令和3年(2021年)3月31日まで、必ずしも総額表示をしなくてもいいという特例が定められていたからだ。つまり、その特例が3月で終わってしまうので、4月からはいよいよ例外なく総額表示に切り替えなければならないというのが、“総額表示の義務化”というわけだ。

総額表示の特例とは?

消費税率を10%に引き上げたのに伴い、「消費税転嫁対策特別措置法」によって、平成25年(2013年)10月1日から令和3年(2021年)3月31日までは、条件付きで総額表示をしなくてもよいことになった。

具体的には、「現に表示する価格が、税込み価格であると誤認されないための措置」を講じていれば、税込み価格を表示しなくてもよいとされた。

誤認されないための措置とは、「価格は税抜きです」のような説明文を商品に記載するといった具合に、消費者が商品を選ぶときに、「価格に消費税が含まれているかどうか」をすぐに判別できる状態にしておくこと。

例えば、レジ周辺だけに「当店の価格は税抜きです」と表示したり、商品に表示された説明文の文字が小さくて消費者が読みにくかったりすれば、誤認されないための措置が不十分とされることがある。

では、総額表示について、どうしてそのような特例が設けられていたのだろうか? 

それは、消費税を納付する事業者に、過大な負担をかけないための配慮なのだ。

消費税率の引き上げと同時に総額表示を義務化すると、事業者は引き上げの時期に合わせて、値札の張り替えといった価格表示の変更をしなければならない。

また、ITシステムでレジの精算や会計・税務処理を行っている場合、総額表示にも対応できるように、ITシステムも更新しなければならない。

消費税率引き上げの決定から実施までの期間が短い場合、あるいは、消費税率引き上げが立て続けに行われた場合、事業者にとって、総額表示を行うためのコストや手間は、とても重くなってしまう。

そこで、事業者の負担を軽減し、総額表示にスムーズに移行できるようにするため、特例によって、総額表示をしなくてもいいという猶予期間を設けたわけだ。

例えば、令和元年(2019年)10月に、消費税率が8%から10%に引き上げられたときのことを考えてみよう。

引き上げの時期は当初、2015年10月の予定だったが、景気対策のため、政府が17年4月、19年10月と二度にわたって延期し、しかも、食品にかける消費税には、8%の軽減税率を適用する制度が新設されるなど混乱した。

もし、総額表示を義務付けられていたら、個人営業の小売店や飲食店は、二転三転する消費税制に振り回され、大変な苦労をしたかもしれない。

だが、総額表示の特例のおかげで、とりあえず本体価格をそのまま表示し、「税抜き価格」といった表示を併記していれば容認されたので、混乱を防ぐことができた店舗が、多かったのではないだろうか?

とはいえ、政府も、猶予期間をいつまでも事業者に与え続けるつもりはない。総額表示へ移行するための十分な準備期間は設けたとして、特例措置の期限を2021年3月としたのだ。

例えば、猶予期間中に、事業者が、消費税率の変更に即応できるようなレジシステムや会計・税務管理システム、商品陳列棚の価格変更を自動化できる「電子棚札」などを導入することを、期待していたというわけだ。

また、消費税転嫁対策特別措置法では、特例で税込み価格を表示しない事業者も、「できるだけ速やかに、税込み価格を表示するよう努めなければならない」という努力義務規定を盛り込んでいる。

総額表示の義務化はなぜ必要?

ところで、そもそも政府はなぜ、総額表示を事業者に義務付けようとしているのだろうか? それについては、国税庁が理由を明確にしている。

流通業界では、これまで消費税相当額を価格に含めない「税抜き価格表示」が主流だった。そのほうが、価格訴求をしやすいといったメリットがあったからだ。

例えば、「100円均一ショップ」は、実際の商品の税込み価格は「110円」でも、税抜き価格の「100円」と表示したほうが、消費者にはアピールできるわけだ。

しかし、税抜き価格表示では、レジで請求されるまで最終的に対価をいくら支払えばいいのかが、消費者にはわかりにくい。また、税抜き価格表示の店舗と、税込み価格表示の店舗が混在していると、同一の商品やサービスでも、価格の比較がしづらいといった問題が生じていた。

一方で、総額表示を実施すれば、消費者は、いくら支払えばその商品やサービスが購入できるのかが、値札や広告を一目見ただけで簡単にわかるし、店舗間の価格の比較も容易になる。

税抜き価格表示によって生じていた煩わしさが解消され、消費税に対する国民の理解を深めることにもつながると考え、総額表示を義務化したと、国税庁は説明している。

総額表示の義務化への対応を解説

冒頭で説明したように、「本体価格+消費税額の合計金額」をはっきり示してさえいれば、総額表示の方法は、各社の自由でかまわない。

とはいえ、多店舗展開しているチェーン店の場合、価格表示の統一ルールを決めておくべきだ。同じチェーンなのに、店舗によって価格表示が違うと、顧客が混乱しかねないからだ。

大型店やショッピングセンターによっては、価格表示の統一ルールを決めているところもあるようだ。テナントとして入居している店舗は、統一ルールがあるかどうかを確認し、自社の価格表示ルールとのすり合わせをしたほうがいいだろう。

とりわけ、注意したいのが飲食部門。料理を店内で食べるのか、持ち帰るのかで、消費税率が変わってしまうからだ。これまでは税抜き価格表示でも対応できたが、2021年4月以降は、メニューなどでの総額表示でも、イートインの場合、テイクアウトの場合に分けて、併記する必要がありそうだ。

2020年12月18日付日本経済新聞は、総額表示が義務化される2021年4月以降、小売業や飲食業の主要企業の過半は、税抜き価格表示と総額表示を併用する予定だと報じている。コロナ禍で先行き不透明感が広がる中、消費者の節約志向も強まっているため、総額表示のみで値上げした印象を持たれるのを避けたい狙いがあるようだ。流通業界の価格戦略にも、影響を与えそうだ。

税抜き価格表示の店舗は、4月までに値札などを総額表示に切り替えなければならないが、前述のように、デジタル表示の電子棚札システムを導入している店舗なら、すべての商品の価格をごく短時間で総額表示に変更できるので、便利だという。

まとめ

なお、総額表示については、法律で罰則が定められていない。つまり、総額表示が義務化されているとはいえ、違反した場合にも、処罰されることはないわけだ。

しかし、国税庁が主張しているように、総額表示は、消費者にとって利便性が高いため、消費市場に浸透しやすいと考えられる。総額表示が流通業界のスタンダートになる以上、消費者も総額表示に慣れていくだろう。総額表示をしていない店舗は、顧客からの信用を失うリスクもはらんでいる。

店舗にとってコストや手間がかかるといっても、総額表示への移行は、怠りなく進めたほうがいいだろう。

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