脱プラスチックはなぜ必要? 現状と課題を各企業の取り組みと合わせて解説
2022.10.25
2021.04.30
近年、世界規模での脱プラスチック運動が加速している。脱プラスチックとは、プラスチックの利用をなるべく減らす取り組みのことだ。グローバル企業は相次いで「プラスチックフリー」の目標を掲げ、環境改善へと乗り出している。日本でも、店頭でのレジ袋有料化が身近な脱プラスチックの取り組みとして記憶に新しい。
それでは、具体的にどうしてプラスチックが環境に悪いのかご存知だろうか。本記事では、世界的に脱プラスチックの動きが盛んになっている背景から、世界の廃プラ問題や日本の現状や課題を踏まえ、有名企業の脱プラスチックへの取り組みなどを解説する。
なぜ脱プラスチックが求められる?
2015年9月、国連サミットにてSDGs(エスディージーズ)が採択された。SDGsとは「Sustainable Development Goals(=持続可能な開発目標)」を略したもの。国連に加盟する193の国において2030年までに達成すべき、経済、社会、環境のバランスが取れた世界を目指すための17のゴールのことである。
海洋プラスチックごみ問題
SDGsにおけるゴール14では「海の豊かさを守ろう」と掲げられ、海洋汚染の原因の1つとして海洋プラスチックごみの問題が指摘されている。
世界中で捨てられたプラスチックは、最終的に海に行き着く。すでに1億5000万tのプラスチックごみが海洋中に廃棄されており、毎年800万tずつ増えている。このままプラスチックが廃棄され続けると、2050年には海中のプラスチックごみの重量が、世界中の魚の重量を超えてしまうという。プラスチックが海辺の生き物に直接絡まって窒息死を招いたり、飲み込んだ胃の中で消化不全になり大量死を引き起こしたりといった事例もある。
海洋プラスチックごみの中で特に問題視されているのが、波や紫外線によって朽ち、細かく砕かれていくマイクロプラスチック(5㎜以下のものを指す)だ。回収不能なほど小さな破片となったマイクロプラスチックは海の生き物や微生物の体内に取り込まれ、やがては魚を食べる鳥や動物、そして私たち人間の体内にまで混入し蓄積される。海の中だけにとどまらず、地球の生態系全体へ影響を及ぼす危険性があるのだ。
●温室効果ガスによる温暖化
プラスチックと地球温暖化問題は、切っても切り離せない関係にある。プラスチックごみを処理するために燃焼する際、温室効果ガスが排出されるということもあるが、海洋プラスチックごみが太陽光や海水によって劣化する過程で、メタンなどの温室効果ガスを発生させるというハワイ大学の研究報告もある。地球温暖化による異常気象の被害が増える昨今、廃プラスチックを減らし気候変動の激化を抑制することが求められているというわけだ。
生物に害のある化学物質
プラスチックの包装や製品を作る際、多くの場合は利便性を求めて硬さや性質を変える化学物質が添加されている。代表的な化学物質であるBPA(ビスフェノールA)は、食品のパッケージや缶詰の内側に施されたコーティングなどに使われる成分だ。
容器に含まれるBPAは温度変化や化学反応、劣化などによって中の食品や飲料に染み出し、それらを摂取することによる健康被害が懸念される。BPAの内分泌かく乱作用によってホルモンや代謝に有害な作用を来し、不妊症やがん、糖尿病や心血管疾患などの病気を引き起こす危険があるといわれている。
日本の脱プラスチックの現状と課題
世界の脱プラスチックへの取り組みを見るに、国内の脱プラ運動は後れをとっているといわざるを得ない。日本のどのような部分に課題があるのか、現状から解説していく。
ごみの処理を他国に頼りすぎている
日本は、家庭から出るプラスチックごみの多くを中国へ輸出してきた。中国は18年にプラスチックごみの輸入廃止を開始するまで、世界で輸出される廃プラスチックの実に半分を受け入れていたといわれている。
多くのごみ処理を他国に依存していた国々では、中国の受け入れ停止以降、プラスチックごみが飽和状態となってしまった。日本国内では台湾や東南アジアなどの、中国に比べ国土の小さい地域への輸出先変更を余儀なくされた。それでも総輸出量自体は激減し、プラスチックごみの廃棄そのものを削減する必要に迫られている。
こういった現状を受け、政府は対策の一端として21年3月9日に「プラスチック資源循環促進法案」を閣議決定した。家庭から出るプラスチックごみを、資源として一括回収する仕組みを導入する。施行は22年4月を予定。飲食店などには、提供方法の見直しによる削減策づくりを義務付ける。
リサイクル率が一見高く見えるが実は低い
日本のプラスチックのリサイクル率は86%(17年時点)と、一見すると大変高い。しかし内訳を見てみると、プラスチックごみを燃やした際に発生する熱エネルギーの回収を意味する「サーマルリサイクル」が58%も含まれ、リサイクル率の大半を占めている。
サーマルリサイクルは、欧米基準では「熱回収」「エネルギー回収」と呼ばれ、純粋なリサイクルとは明確に区別されている。サーマルリサイクルを除いた場合の日本のリサイクル率は19%(13年時点)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国34カ国中27位と低い。ちなみに、1位のドイツはリサイクル率65%を記録している。
脱プラスチックへ向けた国内有名企業の取り組み
世界的な脱プラスチックのムーブメントとともに、日本の企業もさまざまな取り組みを始めている。ここでは6つの企業をピックアップし、取り組み事例を見ていく。
すかいらーくホールディングス
ガスト、バーミヤンなどのファミリーレストランチェーンを運営するすかいらーくホールディングスは、国内の外食産業大手としては最も早い脱プラスチックへの取り組みを開始。20年までにプラスチック製ストローの順次廃止を目指す。利用客から要望があった場合にはプラストローを提供する。
日清食品
日清食品では18年8月、カップ麺容器を紙や発泡スチロールから、自然分解可能な「生分解性プラスチック」に順次移行していく方針を発表。日清食品が採用した新たな容器「バイオマスECOカップ」は、バイオマス度81%を実現しつつ従来の保温性や保香性も兼ね備えた作りになっている。
サントリー
サントリーは19年5月、30年までの全ペットボトルの100%サステナブル化を打ち出した。ペットボトルを再びペットボトルへリサイクルできる水平循環リサイクルを推し進める方針だ。
ネスレ
食品・飲料の製造販売を行うネスレは、25年までに全世界で販売する製品の包装を100%リサイクルまたはリユースできる素材に変更すると発表。国内では19年から、主力製品「キットカット」のプラスチック製外袋を紙製に変更する取り組みを始めた。これによりネスレでは、年間450tのプラスチック削減を実現したという。
セブン-イレブン
コンビニのセブンイレブン・ジャパンは19年6月、全てのおにぎりの包装を植物由来のバイオマスプラスチック配合素材に移行すると発表。原料の一部にサトウキビを使用し、脱石油を目指す。また19年11月からは、セブンカフェ用のストローを環境に配慮した生分解性バイオポリマー素材に変更している。
日本コカ・コーラ
飲料メーカーの日本コカ・コーラは、セブン&アイ・ホールディングスとの共同開発で、100%リサイクル可能な完全循環型ペットボトルを採用した飲料商品を発表。回収した使用済みペットボトルを再資源化し、再びペットボトルとして商品に使用する仕組み(ボトルtoボトル)を打ち出した。
脱プラスチックでサステナブルな社会の実現を
世界では過去50年間でプラスチック生産量が20倍近く増加し、年間4億tものプラスチックごみが排出されている。被害総額は日本円換算で1兆4000億円に及び、環境的にも経済的にも、一刻も早く排出量増加を食い止めねばならないのは明白だ。特に生態系そのものに悪影響を及ぼすとされる海洋プラスチックごみ問題は深刻である。
脱プラスチック運動は、一見すると地球環境や野生生物といった、自分以外の他者を取り巻く環境に寄与する取り組みのように思える。しかし、最終的には人間や自分自身にとっても住み良い環境を作り出すことを目標に掲げた、とても身近なテーマだ。ゴール達成のため、皆が力を合わせて推し進めていくことが実現への第一歩となる。