2020年10月酒税法改正「新ジャンル増税」の傾向と対策とは?

2020.09.09

更新:2020.09.10

酒文化研究所 山田聡昭

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10月1日に「酒税法改正」が行われる。注目はビールの税率が引き下げられる一方で新ジャンル(第3のビール)は引き上げられ、価格差が縮まる点だ。また、成長著しいレディトゥドリンク(RTD、缶入り酎ハイなど)の税額は据え置かれるため、新ジャンルとRTDの価格差は広がる。この改正でビール類の消費はどう変わるのか、小売店は変化にどう対応すべきなのかを整理しておこう。

350㎖缶でビールは7円下がり、新ジャンルは10円上がる

最初に今回の酒税法改正の内容を確認しよう。対象となる酒類はビール類と清酒・ワインで、図表に示したように今後6年かけて、これらの酒類の税率格差をなくす改正の第一歩である。

中でも注目されるのはビール類の動向だ。現在はビール、発泡酒、新ジャンルと、同種の製品でありながら3つの税率が存在する。今回の改正では350㎖当たりでビールは7円引き下げられ、反対に新ジャンルは10円引き上げられる(発泡酒は据え置き)。

ビールはケース(24缶入り)で168円、6缶パックで42円安くなる。新ジャンルはケースで240円、6缶パックで60円高くなる。ビールと新ジャンルの価格差が縮まることで、構成比がどう変化するのかに関心が集まる。

また、2016年以降2桁増で成長しているRTDの税率は改正の最終年となる26年まで据え置かれ、現在は同じ税率の新ジャンルと今回で10円、最終的に20円の税額差が発生する。値上がりする新ジャンルからRTDへの需要のシフトが、どの範囲でどの程度発生するかも注目されている。

なお、税改正の影響は主として家庭用市場で発生すると見られている。業務用で提供されるビール類はほとんどがビールであり、生ビール500㎖の減税額は10円だ。仮に提供価格が10円下がったとしても、ウイスキーハイボールやレモンサワーからビールに注文が変わるとは考えにくい。また、清酒とワインについては増減税額が小さく、消費への影響は3ℓ以上の大容量商品の一部に限られよう。

9月末の新ジャンル仮需対応は積極的に

次に酒税法改正の売場への影響を見ていこう。まず、増税になる新ジャンルは9月に仮需が発生する。酒文化研究所のアンケート調査では、新ジャンルユーザーの34%が買いだめすると回答しており、同じ人で昨年の消費税増税時に買いだめした人は16%にとどまった。

酒好きモニター約150人を対象とした小規模な調査ではあるが、今回は前回の約2倍の人が買いだめすると予想されるのである。理由は増税額が大きいからであろう。現在、新ジャンルの350㎖缶はスーパーマーケットなどでは2400円前後(税抜き)で販売されており、増税額240円は10%も値上がりすることを意味する。消費税が10%になった際の値上がりは2%、50円弱にすぎなかった。

それでは、仮需の規模はどのくらいか。消費税が引き上げられる直前の昨年9月の新ジャンルは、家計調査でも課税数量(メーカー出荷数量)でも前年同月を2割程度上回った。前述のアンケート調査と考え合わせると、今回の仮需は最大で消費増税時の2倍の4割近くになる可能性があると見ておくべきだろう。

仮需対応は需要の先食いであるが、他店で買われないための競合対策の側面がある。販売量が上振れすることでオペレーションコストを増やす可能性もあるから、十分に段取りした上で積極的に対応すべきである。新ジャンルに限った増税であり、まとめ買いしてもその後の来店頻度を下げるリスクは少ない。増税後の販売価格や増税額を明示して、9月19日からの連休で大々的に売り込むとよい。

10月はビールで家飲みにめりはりを提案

次に酒税法改正の後に小売業が取り組むべき施策を検討しよう。

お客の求めるものを見定め妥当な価格で適切に提供するのが、小売業の役割であるならば、今回の改正ではお客のメリットである「ビール減税」を明確に伝えることが最も重要な仕事だ。現在、ビールを愛飲している人は安くなったことを歓迎し、ビールよりリーズナブルであるという理由で発泡酒や新ジャンルを愛飲してきた人には、ビールに手を伸ばす機会が増える人がいる。

逆に、これまでもビールを愛飲してきた人が減税によって消費を増やすことはあまり見込めないため、ビールで売上げ増を図るには、発泡酒や新ジャンル、あるいはRTDを常飲している人が、「ビールを飲みたい」と思うきっかけをつくることがポイントになる。

そのために、いまのタイミングで提案すべきは何であろうか? 私は「自宅でビールを飲むことのほんの少しの贅沢感」であると考える。

理由はこの10年間でビールの特別感が強まったことと、半年におよぶステイホームでマンネリ化した家飲みにアクセントが求められていることを挙げる。新ジャンルとRTDが家飲みのスタンダードとなったことで、ビールは図らずして「ハレの酒」となり正月、来客、連休、イベントなどで好んで飲まれるようになった。また、ビールメーカーの飲用時品質の向上活動の結果、おいしい生ビールは料飲店での飲食のシンボルとなった。

そこにコロナ禍で在宅勤務が広がり飲酒の場は自宅にシフト、現在も半数以上の会社が料飲店での飲食を制限している。だからこそ家飲みにめりはりを付けクオリティを高める提案として、ビールをお勧めする。「冷えたグラスで、お店の生ビールをご自宅で」とアピールするのである。この勢いのまま12月のパーティシーズン、年末年始のハレの日へとビール需要の拡大を図るのである。

新ジャンルは改めてブランド訴求

もう1つの大きな役割は、新ジャンルのブランド訴求である。新ジャンルは、増税後もビール類で最もリーズナブルで、6年後に税率が一本化されてもそれは変わらない。メーカーはそれを見据えて、すでに昨年から新ジャンルの主力商品のブランド強化に力を注いでいる。味わいをブラッシュアップし、素材や製法を訴えて本格感の醸成を図り、大物タレントをメッセンジャーに起用してきた。ビールの代替品として安さで選ばれる構図は、今では過去のものとなり、新ジャンルは十分においしいブランドとなっている。

まとめ買いしなかった新ジャンル愛飲家には、10月からすぐに「やっぱりこの味(ビアテイスト)が好き」と投げかけて、単価の低いRTDへのシフトを極力防ぐ。長期的なトレンドとしては、新ジャンルからRTDへの流出は約2年前に一服しており、これから極端な変化はないはずだ。

しかし350㎖でRTDとは10円だった価格差が20円に開く。完全にRTDにシフトする人はわずかだろうが、新ジャンル6缶にRTDが1缶混じった人が2缶に増やすことはあり得る。新ジャンルに引き留め、商品単価を引き上げる方向に働きかけるとよい。

このプロモーションの山は11月第1週、文化の日が飛び石3連休だ。新ジャンルの仮需の消化はほぼひと月かかる。昨年の消費増税時で消費が前年並みに戻るまでに3週間を要した。今回はそれよりも1週間余計かかろう。通常の2倍の買いだめをした新ジャンル愛好家の最初の購買タイミングで、前年プラス増税分の売上げ確保を狙う。これができればビールの税改正対応は成功である。

やまだ としあき 1986年武蔵大学卒業後、マーケティング企画会社を経て91年に酒文化研究所の設立に参加。96年から同研究所の機関紙『酒文化』の編集長に就任し、2007年から一般向けフリーマガジン「さけ通信」編集長を兼任。酒類とその文化さらに酒販ビジネス全般に精通し、酒類企業のコンサルティングや酒類コンテスト運営、イベント運営など多方面で活躍中。

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