ウォルマートが西友株式の大部分を売却、KKRが過半数、楽天は新たに設立する子会社を通じて少数株式を取得へ
2022.04.12
2020.11.17
投資会社のKKR & Co. Inc.(KKR) と楽天は、ウォルマートが保有する西友株式について、KKRが過半数となる65%、楽天が小売業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目的に新たに設立する子会社が20%を取得することでウォルマートと合意し、契約を締結した。取引における事業価値は約1725億円と見積もられている。
一方のウォルマートは西友株式を15%継続保有する。本取引によって新たな株主が加わり、日本で意思決定ができるようになる他、新たな株主が持つ専門性を活用しながらイノベーションを進めDXを一段と加速できるようになるとしている。
西友は昨年6月に中期事業計画「スパーク2022」発表。「地域のみなさまに、良いものを安く」をコンセプトとし、新たに「お客様への4つの約束」を設定するなど意欲的な成長戦略を掲げ、お客へのさらなる価値の提供、生鮮へのこだわり、オンラインとオフラインを融合した利便性強化に注力している。実際、市場シェア、顧客満足度、アソシエイト(従業員)満足度、業績など、ビジネスおよび財務に関する主要指標で目標を達成し、一部は目標超えを実現しているという。
日本を代表するOMOリテーラーとなる
今後は株主3社がそれぞれの強みを投入することで、西友がこれまで推進してきた戦略実行を加速化させ、日本を代表するOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフライン〈実店舗〉の垣根をなくすことで、顧客がより効率の良い購買体験ができるようにするためのマーケティング施策)リテーラーとなるための取り組みを後押ししていく。
具体的な施策は以下のとおり。
・ デジタル・チャネル投資の加速化による、アプリを利用した買物、決済、配達の実現
・新たなキャッシュレス決済の導入
・ オンラインとオフライン(実店舗)を融合させたサービス体験の向上
・ 消費者のニーズを先取りしたエブリデー・ロー・プライス(毎日低価格)商品群の拡充
また、それによって次のような戦略を採る。
・ウォルマートは西友株式の15%を継続保有しながらKKRおよび楽天と協業、西友のDXを加速化
・グローバルベースでEコマースやデジタルマーケティングのプラットフォーム成長を推進してきた楽天とKKRは、両社の強みを生かして西友が革新的で日本を代表するリテーラーとなることを支援
・西友はオンラインとオフラインを融合した国内有数のOMOリテーラー、かつ地域に密着した革新的なバリュー・リテーラーとなることを目指す
・ウォルマートは「地域の特性に応じた最適なパートナーと最適な形で連携することで地域に根差した強いビジネスを構築する」という戦略を具現化
02年の業務提携から08年の完全子会社化、ウォルマート流を移植
西友はウォルマートと02年に包括的業務提携を締結し、次第に出資比率を高めるという方法で05年に子会社に、08年に完全子会社となった。その後、09年の合同会社への改組を経ていまに至る。この間、当時すでに世界最大の小売業となったウォルマートのノウハウがどのように西友に移植され、日本において展開されていくのかは、常に小売業界の大きな関心事だった。
情報システムを活用した効率的な取引や店舗運営がウォルマートの低価格を支えているとされ、実際に取引先との情報共有の仕組みであるリテールリンクやそれに基づいたジョイント・ビジネス・プラン、あるいは効率的な店舗運営の仕組みであるスマートシステムなどが西友に導入される動きもあった。また、ウォルマートの調達網を活用した商品の導入もたびたび図られた。
店舗展開においても、非食品のディスカウントストアに食品を加えることで、ウォルマートの強力な成長エンジンとなったワンフロアの大型店、「スーパーセンター」フォーマットと同様の店を日本でも展開する試みもなされた。
しかしながら、米国の小売りの巨人のシステムや商品は、国の違いもあって当初、幾つかの齟齬があった他、現在でも目覚ましい成果を挙げているとは言い難い。店舗展開においても、もともと衣食住を広範に扱う総合スーパー(GMS)企業ではあるにもかかわらず、スーパーセンター的な店の展開は限定的にとどまった。
店舗閉鎖も続き、400店を大きく超えていた店舗数も現在では300店台へと減少。GMS型の店舗も数多く残るものの、どちらかというと、食品を中心としたスーパーマーケットが主力の業態になっている。
MD面での独自路線は強まっていた
ウォルマートグループとして低価格にはこだわり、その低価格の実現にも確かに成果が出ていたが、やはり、①西友がもともと西武百貨店を出自とすることもあって、徹底的な低価格マーチャンダイジング(MD)に転換することの難しさ、あるいは②ウォルマートが米国では圧倒的なナンバーワンであるのに対して西友はそうではない、さらに③そもそも日本の小売りマーケットの難易度が高いといった要素が大きく横たわっていたように思う。
今回の日本と同様に100%所有から少数株主へと立場を変える予定の英国アズダの手法や商品を導入する動きもあったが、限定的にとどまった。
それもあって、昨今は特にMD面において独自路線を強化していた。プライベートブランド(PB)も、以前はウォルマートのブランドである「グレートバリュー」の日本版を展開していたが、12年に消費者調査による商品化基準を設けた日本独自のブランドとして「みなさまのお墨付き」を登場させ、主力PBを切り替えた。
昨年発表の中期事業計画「スパーク2022」も、「地域のみなさまに、良いものを安く」をコンセプトとするように「地域」を強調している他、生鮮や惣菜など、やはり日本のSMにおいて鍵となる商品分野が対象となっていることも、独自路線の一環といえなくもない。
さらに「スパーク2022」に基づく新たな取り組みとして、この秋にPB強化と共に発表された「統合型調達モデル」も西友独自の取り組みだ。
ウォルマートとしては先日、昨年から出口戦略を模索していた英国のアズダへの関与を弱めることを発表したばかり。
それに続く今回の西友の動きということになるが、西友としては進めてきた独自の取り組みを生かしつつ、新たな株主との協働によってさらなる変革を遂げていくということなのだろう。
英国ではアルディやリドルなどは強力な低価格勢力が競合として存在感を増していることが大きく影響しているが、日本の場合は、どちらかというと価格面も含め、競合との差別化がなかなかできなかったことが大きいといえる。ウォルマートの世界戦略がここに来て大きく変わっている。
次期CEOには大久保恒夫氏を指名
KKRは、長年に渡って大企業グループの子会社への投資を通じて各社の潜在力を引き出し、独立した会社としてさらなる成長と価値拡大を実現させてきた実績をベースに、自社が抱えるアドバイザー、ポートフォリオ企業、専門家のネットワークを活用しながら、西友に対しても業界のベストプラクティスおよびオペレーション改善にかかる知見を投入し、小売りビジネスのトランスフォメーションと価値創造を支援するとしている。
楽天とウォルマートはすでに、戦略的提携の下、楽天と西友の合弁会社を通じてネットスーパー事業「楽天西友ネットスーパー」を協働運営している。米国でも電子書籍サービス「楽天Kobo」の展開で協業している。今回の取引もその一環で、楽天は新会社「楽天DXソリューション(仮)」を通じて、楽天が保有する1億人以上の会員基盤やテクノロジーを活用して、西友を含む日本の小売業のさらなるDX推進を支援していく。
楽天DXソリューション(仮)は、国内で実店舗を運営する小売事業者のDX推進を支援することを目的に21年1月に設立予定の新会社。楽天がこれまで培ったあらゆるノウハウを結集し、日本の顧客に、オンラインとオフラインの垣根を越えた、最高の購買体験を提供することを目指すとしている。
一方、少数株主となるウォルマートだが、西友は今後も引き続きウォルマートのベストプラクティス、グローバル調達網、プライスリーダーシップと価値提供を可能にするスケールメリットを活用していくという。
CEOであるリオネル・デスクリー氏は、移行期間中は引き続き西友の事業統括に当たるが、その後はウォルマートに戻る見通し。西友の新たな取締役会はKKR、楽天、ウォルマート各社が選出する取締役で構成し、日本で意思決定ができる体制を実現する。また、新たなCEOは案件完了時をめどに指名する予定。
20年12月28日、3社は西友の新たなCEOとして、株式会社リテイルサイエンス代表取締役社長の大久保恒夫氏を指名することを発表した。
大久保氏は、1979年に早稲田大学法学部卒業後、イトーヨーカ堂やプライスウォーターハウスコンサルティング 、流通経済研究所を経て90 年、小売流通業向けのソフトウェア開発やコンサルティングを行うリテイルサイエンスを設立し、代表取締役社長に就任。
その後、ドラッグイレブン、成城石井、セブン&アイ・フードシステムズの社長を歴任するなど専門経営者としてのキャリアを積み、13 年にセブン&アイ・ホールディングス常務執行役員に就任するなどした後、18 年にリテイルサイエンスの社長に復帰していた。
なお、本取引は規制当局の認可を得た上で、21年第1四半期に完了する予定。
「実店舗におけるデジタル・トランスフォーメーションを加速させる」(楽天)
ウォルマート国際部門の社長兼CEOであるジュディス・マッキーナのコメントは次のとおり。「この一年は57年間の西友の歴史の中でも特筆すべき年でした。アソシエイトの皆さんは当社にとってかけがえのない存在です。お客さまが必要としているときに必要なサービスを提供できるよう常に迅速に対応してきました。当社の変革に向けた取り組みについても計画を超えるパフォーマンスを達成しています。ウォルマートはこれまで18年間にわたり西友の株主として協業してきたことを誇りに思うと共に、今回新たな株主を迎えることに大きな期待を抱いています。西友にとって最もふさわしいパートナーを迎えて最適な組織を組成し、日本の市場に根差した最強のビジネスを構築することに注力できるからです。今後はKKRや楽天と協業しながら、ウォルマートは少数株主として引き続き、西友の成長を支えてまいります」
KKRアジア・パシフィックのプライベート・エクイティ共同責任者でありKKRジャパン代表取締役社長の平野博文氏は次のようにコメント。「KKRは、私たち生活者に欠かすことのできない役割を担っている国内有数の小売業者である西友に投資する機会をいただいたことを大変光栄に思います。コロナ感染拡大という厳しい環境の中で日々消費者のために働いているアソシエイトの方たちに感謝をすると共に、今後は西友のさらなる発展に向けて共に働くことを楽しみにしています。将来的にはデジタル化を一段と進め、大きく変わりつつある消費者のニーズをとらえながら買物がより利便性の高いものとなるよう、経営陣やアソシエイト、そして楽天やウォルマートと連携し、協業してまいります。今回の投資はKKRジャパンにとって大きなマイルストンであり、日本企業の長期的な成長と価値創造の実現にコミットしていることの表明です」
最後に、楽天の副社長執行役員 コマースカンパニー プレジデントである武田和徳氏のコメント。「『楽天西友ネットスーパー』協業での成功から得たノウハウに加え、Eコマースやデータマーケティングなど楽天の有する知見を生かし、西友の実店舗におけるデジタル・トランスフォーメーションを加速させます。これにより、オンラインとオフラインの垣根を越えた最高の購買体験を、西友のお客さまに提供できることを楽しみにしています。さらに、このたび、西友を含む国内の小売り事業者におけるデジタル・トランスフォーメーション推進を支援することを目的に、新会社『楽天DXソリューション(仮)』を設立する予定です」