ザ・トップマネジメント「ヨークベニマル 大髙善興会長」:コロナ禍を経て改めて目指すSM像とDXの本質

2022.04.12

2021.11.05

これまでの特需がなくなり、人口減、高齢化が再度表面化、生き残りを懸けた競争はこれからが本番

——この間、コロナ禍での経営が続いた。

大髙 新しい生活様式、新しい日常ということで、お客さまの購買行動、あるいはライフスタイルも変わった。スーパーマーケット(SM)は、外出しない、巣ごもりという点では、この1年8カ月は非常に恵まれた産業だった。

ただ、これはコロナ特需だけであって、これからが、コロナが収束した後は、大変な厳しい時代になる。人口が減っていく、高齢化もしていく。

コロナによって非常に厳しくなってしまった産業で働く人たちの所得も上がらない。これからが(競争の)本番ではないだろうか。

ただ、厳しい中にあっても、SMはいろいろな産業と比べて、お客さまのライフラインを守る、お客さまの命と健康を守る産業ということで、マーケットが決してなくなるわけではない。

お客さまの中には、やはり質を求めるお客さまと、安さを求めるお客さまの両方があるが、私どもの目指す姿は、毎日の食卓を楽しく豊かに便利にし、そして常に新しい生活提案があるような「価値創造型のSM」。

それを目指していくためには、マーケットは非常に厳しいだろうが、お客さまの「味の良いおいしいものを食べたい」という欲求は永遠だと思う。同質であれば、必ず価格競争に巻き込まれる。

SMの来店動機はやはり、生鮮食品とデリカテッセン、惣菜の充実。まだまだ、わが家もできていない。それを実現するための商品開発、マネジメント、人材育成、そしていかにコスト構造を無駄、無理、むらを省いて、常にお客さま満足と利益を挙げるための方程式、フォーマットを常に進化させていくか。

皆、「大変だ、大変だ」と言うが、首都圏だって車で5分のシェアはせいぜい15%ぐらいだろう。85%ぐらいはまだまだ(他社に行っている)。本当にお客さまが満足できるような店なのかということ。課題も売上げ、粗利、在庫、値下げ、経費、無駄、無理、むらなどいっぱいある。

しっかり、当たり前のことを当たり前にきちっとやること。これからは「成長していこう」というよりは、まさに「生存の時代」なのではないだろうか。

「どうしたら生き残れるのか」ということだ。ベースにあるのは、価値ある商品と、特にSMはそれを実現するための技術とマネジメント。そういう組織と仕組みをしっかり作って、次の時代に備えていこうということで、この1年8カ月やってきた。

コロナ特需で「ゆでガエル」になる会社と、その間、危機感を持って未来のために人を育て、いま思い切って既存店の活性化もやり、新店もつくり、古い店を建て替えるなど、先行投資をしている。

先行投資をした中でも、上期はおかげさまで売上げも前年比は99.7%。(コロナ特需で売上げの高かった)昨年が108.6%だったから、19年対比でみれば高い水準だ。

それでも9月まではコロナ特需もあった。10月以降、お客さまの購買行動、生活もずいぶん、普段の生活に戻ってきている。だから、「これから」ではないだろうか。週を追うごとに厳しくなっている。それが現状だ。

活性化の肝はハードではない、ソフト部分を担う「人材」

——積極化した既存店の活性化の状況は。

大髙 (今期と来期の)2年間で48店舗の活性化を予定しているが、活性化した店舗はおかげさまで、新しいフォーマットに切り替えて、競合対策も含めてだが、大体(売上げは)10~15%ぐらい伸びている。新しいフォーマットに切り替えて、顧客満足、良い結果につながっているのではないか。

ただ、活性化で一番のベースにあるのは、ソフト。ハードはお金をかければ幾らでもできるのだが、そこでのリーダー、店長が「自分の店はこんな店にしたい」という熱い思い、情熱を持つこと。

店長がマネジャーやそこで働く従業員の皆さんについて、人を育て、人の持っている知恵を引き出し、改善するといったソフトの方が、業績を上げている背景として大きいと思う。

小売業では何が大事かというと、私は「何のために仕事をしているのか」というマインドだと思う。

「地域のお客さまのお役に立っていこう」という使命感と「こんな店にしたい」という明確なコンセプトを持って、そこで仮説、実行、検証というPDCAを回していく。そして、「立てた目標は必ずやる」というリーダーの強い信念。それが結果的に個店経営になる。

店数が増えて、会社がつぶれるのはなぜか。決して外部の競争が原因ではない。「何のために」というパーパスと、それを実現するための組織と仕組み、そこでの人材育成。

最近はドラッグストアやディスカウントストアとの競争の方が強烈だが、その中でどうやって顧客満足できるかということ。それには人を育てながらやっていくことが大事だと思う。むしろ、試練にぶつかる方が、長い人生の中で大事だと思う。学歴や経歴ではない。「苦歴」、試練を乗り越えていくから人が成長すると、ポジティブに考えて一生懸命やっている。

これからが本番だと思う。

——ドラッグストアは出店も多く、食品の取り扱いを増やしている企業も目立つ。

大髙 いまドラッグストアの出店が多い。冷凍食品なども本当に価格競争で、オーバーストアだ。(競合している店の)マーケットによっては距離や影響度によって、納豆、菓子、水、ラーメンなどで価格の対応をしている。ただ、「安さ」「安さ」で値段が合わせられると、打つ手がなくなってくる。原価があるから。

だから、SMの来店動機は何なのかということ。やはり自分の強みをどこで出していくかが大事で、限定商圏の中で、SMの場合は、やはりリアルの店舗で明るい笑顔とか、親しみのある接客とか、さらには味の良い、おいしいものを提供して、常にお買い得感を出しながら、質を上げていくことだと思う。

競争だから、とにかく質を上げていく。それをやらないで、値段だけやっているところはどんどんだめになると。

納豆は価格競争が激しいが、茨城県産の大豆を原料にしたあづま食品の「舌鼓」を下段を使
って展開するなど、必ずしも低価格商品ではない商品を売り込み、価値の提案を試みる

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DXはあくまで「手段」、使い方によって天国にも地獄にもなる

——DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みについては。

大髙 (今年2月16日に移転した)新社屋をつくるに当たって、コミュニケーションと人材育成に注力したが、特にコミュニケーションの点ではDXの対応ということで、ペーパーレス化を進めた。

店では、デイリー、加食はほとんどAI(人工知能)発注になっている。

ただ、AI発注にしたらうまくいくかというとそうではない。「AIは天国と地獄」と言っている。うまく使いこなせば天国だし、AIで楽をしようと思えば地獄に行く。

デジタルは「目的」ではない。お客さま満足をどうやって実現するか、利益をどう挙げるかの「手段」としてある。現場の買物体験のレベルを上げるためにDXがある。

DXは効率を上げるという点では有効だろうが、やはり小売業は「幾つ売ってみよう」といったマインド、意志のある明確なコンセプトなり、目指す姿なりを持った中にDXを入れていかないといけない。

(現在、3店で実験しているスキャン機能が付いた「スキャンカート」は)、来年から拡大する。このカートが素晴らしいのは、重量が量れること。お客さまにも従業員にも良い。一番の問題は、何かあったときにお客さまに対して万引き扱いしてしまうこと。その点、うちのカートは重量が分かるため、お客さまが間違ったとしても声がかけられる。そこにノウハウがある。

いま、高齢化が進んでいる会津若松と(本社のある)郡山と(首都圏に近く、店が)最も進化しているつくばにある3店で実験しているが、意外に会津若松、しかもお年寄りに人気だ。若者ではない。買物の途中でも買上金額が表示されるし、接触もなくスッと帰れる。

セルフレジでも見ていると、効率化というよりも、お客さまが望んでいる面もある。われわれは人を配置して接客した方が良いと思っているが、お客さまは自分で自分の買物をしたいようだ。

これからはアナログとデジタルをどうバランスよく使うかが大事。いま、「ネット時代」というが、確かにネットの良さもあるし、時代もそういう方向に行くだろう。でも、まだまだ、日本人は週2、3回買物に行く人が8割ぐらいいる。

「安さ」を求めるお客もいるだろうが、やはり「味」、「おいしいものを食べてみたい」「新鮮なものを家族に食べさせたい」という文化があるのではないか。「安さ」には限度があるが、「価値創造型」は無限の可能性を持っている。

ただ、「良いものは高くて良い」というわけではない。リーズナブルな価格で提案できなければだめだから、われわれSMの場合は、ドミナンスを作り、そこで物流とか、商品調達とか、販促費とか、あるいはシステムなど、店数が増えていくことを通しながら1店舗1店舗がローコスト経営につながるような経営をしていかないと生き残れないと思う。

やはり、ベースにあるのはローコスト経営。次の時代に向けて、無駄、無理、むらをなくしていく。まだまだいっぱいある。だからうちは成長のチャンスがあるよと。異常値だらけだから(笑)。

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