ザ・トップマネジメント コロナ時代の先進経営:「カスミ 山本慎一郎社長」 前編

2020.10.07

やまもと しんいちろう 1959年7月24日生まれ。2013年3月カスミ入社、14年5月常務取締役上席執行役員ロジスティック本部マネジャー、17年3月専務取締役上席執行役員、18年3月ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスICT本部長(現任)、19年3月ビジネス変革室マネジャー(兼務)、ビジネス変革室ビジネスリモデルマネジャー(同)を経て20年3月代表取締役社長に就任

「新型コロナがDXを加速、新しい形の決済とオンライン事業をグループにも拡大」

——8月も既存店売上高前年比の数値は108.6%と高水準だった。この間継続的に高い水準で推移した数値をどう見るか。

山本 8月は、今年は特殊事情。お盆で帰省されないお客さまがいらっしゃった。茨城はもともと帰省が関係ないが、われわれのお店を見ても、帰省が少なかった埼玉の店がやはり良かった。なおかつ外食、行楽もなくという中で既存店の数値が高くなった。

この間の数字を見ると3月の数字(既存店売上高前年比104.0%)は、われわれは低い方、その後も、少し売り方を考えたり、販促を変えたりしながらやってきて、とりあえずはそれほど落とさずにできているかなぐらいの感じ。どちらかというと、業界全体の話で、われわれのずっと上を走っているスーパーもいらっしゃる。

——客数より客単価が伸びている。

山本 それは変わっていない。もちろん、最初の緊急事態宣言が出たころの客数の縮み方と買上点数のものすごい増加と比べると、買上点数的にはだんだん元に戻ってきて、客数も以前ほどの低水準ではなくなってきている。

ただ、内食の傾向が高いので、バスケット単価はやはり高くなっている。点数よりも1点当たりの量目が増えていると思う。

——素材が好調の一方で業界全体として惣菜が厳しい。

山本 戻っては来ている。今年はデリカ強化でスタートしたので、予算には届いていないが、昨対レベルではだんだんオーバーしていくという感じだ。

——新型コロナウイルスの影響で、買物頻度を減らしてまとめ買いをする傾向が強くなったとの声があるが、それは今後も続きそうか。

山本 常態化しつつあるが、「頻度を減らす」という明確な意識があるかどうか。だんだん客数的には少しずつ戻ってきているため、それで戻ってこないのであれば、どこかに流出してしまったのではないかなどいろいろ考えられる。

ただ、1回当たり買っている量が去年より増えているということは、やはり家庭内の胃袋の数が(行けなくなった)外食分の数だけ多いのだろう。

業績上振れの原資は時間を早めて投資に回す

——業績は上振れしているが、この原資を新店や改装への投資に活用するか、もしくは価格に投資するか。

山本 まずやらなければいけないことがある。対コロナ対策として、シールドの類、レジの前、休憩室、イートインコーナーを含めた境界の対応。当然、バックルームなどの設備投資など、一般的にコロナで支出した部分、たまたま業績が去年より上向いたことで出ていくコストは上期ぐらいに終わる。

この後、下期にかけておそらくコロナが常態化する、ワクチンができるか、できないかもまだまだ不透明だ。いまやっておかなければいけないことは、時間を早めてやる必要があるという意味ではそこの投資に回す。

たとえば、われわれでも、セルフレジは当初40店舗ぐらいへの導入を考えていたが、お客さまが(対面レジで)あまり触れたくないだろうと考え1.5倍ぐらいの店舗数に増やした。来期はさらに不確定なので、そういった意味では手が入りきらなかったところに対する改装も含めた投資は今年中にやっておこうとしている。来年に備えて先にやっておくということが1つ重要な要件だと思っている。

業績のプラスは恒常的なプラスであれば、また別の考え方もあるが、おそらく一時的な話であり、この上がった分を喜んでよいのか。当然、この出た分、どう引っ込むのか。いま食費の中では、われわれのような小売りの原料系は伸びているが、食費の支出自体は落ちている。割合の問題なので、支出が低くなるということで、当然需要が冷え込むことが見えているので、そこに対する備えを考える必要があるだろう。

主にお客さまに対するコロナの常態化に対する対応と同時に、われわれのサイドでの一層のローコスト化。価格が低下することに対して、耐え切れるようなオペレーションコストをつくるための投資が必要だと思っている。

——節約志向も強まって価格に対して、今後競争が激しくなるという声もある。価格政策については。

山本 厳しくなると思う。(いま販促では)目玉みたいなものはやめ、クーポンの配布を主体にしている。1週間有効の10%割引のクーポンを週に2回配布しているし、5%割引のシニア対象のクーポン、子育て支援のクーポンを週2日利用可能にしているが、やはりクーポンの有効な曜日は混む。もちろん、同じものを買うのであれば節約できた方がよいのでそうなるのだろう。やはり、厳しいのはこれからではないか。

——それに向けてローコスト体質を作ると。

山本 そうだ。つまり、コロナがDX(デジタルトランスフォーメーション)のある一定部分を後押しした、スピードを加速したという面は否めない。そういう投資が相当ある。

セールは継続、チラシもメッセージ性を込めて継続

——この間の販促は。

山本 チラシはやめなかったが、広告の中身を変えた。目玉でお客さまを呼ぶような集客のためのチラシではなく、特にコロナの初期の段階ではやはりメッセージとして「安全な来店にご協力ください」だとか、3密を避ける、ソーシャルディスタンスといった話だとか、あるいはコロナに対するわれわれの姿勢として商品の調達に関する問題、店舗の営業に関する問題を載せていた。

単チラ(単独チラシ)をどんどん入れることはやめたが、週1のチラシはずっと入れていた。また、卵、ヨーグルトが安いなどの曜日のセールもチラシではうたわなかったが、継続はしていた。チラシをやめることで、単価を元に戻す(上げる)ことはしなかった。

ただ、以前は木曜日が1日10%割引、日曜日は午前中が10%割引で、その日が混んでいたが、それは最初の4月の頭段階で「だめだ」ということで1回中止した。その後、それをクーポンにしようということで木曜日と、日曜日も1日中にして2日間配った。1週間有効なクーポンなので、お使いになれるのはその後1週間ということで、分散化が図れたと思う。

目玉のようなセールでお客さまをある時間に寄せるようなことはやめたが、お客さまが期待しているレベルでは、お客さまを裏切るわけにはいかないということで継続した。

お客さまも、こういうときに、いままでと比べて値段が上がれば「何だ」という話になる。こういうときにこそ、安心して買物ができる環境を提供するのが小売りの使命だと思ってやった。

チラシはいまも週1で、毎週金曜日立ち上げのチラシを入れている。レシピの提案を主にしたりといった構成にしている。やはり広告には2種類あると思っていて、1つは、もちろん、いままでのセールスプロモーションとしての位置づけ、もう1つは、やはり企業が、われわれはちゃんと営業できている、こんな気持ちでやっているといったことをお客さまに伝える「広告」という意味では必要だと思う。

価格をお知らせするのがチラシではなく、メッセージ性の高い広告だ。何回か商品広告を一切載せないものも出した。みんな不安だし、(メッセージは)必要だと思う。

——DX的な意味でアプリの取り組みは。

山本 去年リリースしたユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)公式モバイルアプリの「Scan & Go(スキャン&ゴー)」がある。今年は、本当は水戸のエリアなど茨城県内で導入を進める予定だったが、コロナの影響もあって、いち早く東京方面を中心にした首都圏に振り分けた。通勤エリアなど人が混み合うようなところに持って行ったわけだ。また、追加も含めて今年度中にカスミに関しては全店、スキャン&ゴーを展開する。

スキャン&ゴーの中は、いまはまだ原始的な、基本的な機能だけだが、当然ここにお客さまとのコミュニケーションを図る仕組みを加えていく。

U.S.M.H公式モバイルアプリを通じてレジを通さずに決済できる「スキャン&ゴー」を拡大中。2019年10月につくば市の本社1階の無人店舗「KASUMI LABO(カスミラボ)」と筑波大学店で初めて導入

他にネットスーパーの概念を少し拡張し、最終的に店頭受け取りのBOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)に近いものまでやろうという「U.S.M.Hオンラインデリバリー」のアプリがある。

いま、数店の実験店で実装をしているところで、この後、年内に何店舗かで展開する。いま実験しているのはフードスクエアカスミ柏千代田店(千葉県柏市)で、フードマーケットカスミ鹿嶋スタジアム店(茨城県鹿嶋市)は11月開始予定で募集している。

鹿嶋スタジアム店では店頭に鍵付きの部屋として受け取りのスペースを作った。お客さまに鍵の情報を送り、受け取れるようになっている。このBOPISを今後展開していこうとしている。カーブサイドピックアップ(店外の駐車場などでの受け取り)に関しては、車の来店比率などで決まるが、BOPISに関しては全店で実装しようとしている。

現在の「カスミネットスーパー」のサービスから、このオンラインデリバリーに移行しようと考えている。

ネットスーパーの概念を拡張した「オンラインデリバリー」とは?

——ネットスーパーと、オンラインデリバリーの違いは。

山本 ネットスーパーはどちらかというと、店で扱っている商品を同じ値段で持って行くというのが基本的な考え方で、いまわれわれもそれでやっている。一方でオンラインデリバリーは、店とは違う商品、店では扱っていないのだけれども、オンラインではできる商品も含めて配送しようとしている。ネットスーパーを少し拡張した概念だ。

——アイテム数の目安は。

山本 いまネットスーパーで扱っているアイテムは、実際の店舗のアイテム数の7割ぐらい。売れ数が少なく、在庫が少ない商品まで入れてしまうと品切ればかりになってしまうため、ある程度「あるもの」に集約しだしている。これをオンラインデリバリーにした場合には、在庫の管理の在り方を変えていくつもりだ。

割とそちらの方が重要で、在庫の可視化のようなことをベースにして、もっとアイテム数を増やそうとしている。そうすると在庫をどこに置くのかという話が出てくるが、そうしたことを解決していきたいと思っている。

——店舗型、センター型などと分類されるがどのような形を目指すのか。

山本 ダークストアみたいなもの、あるいはMFC(マイクロフルフィルメントセンター、店内などに併設される小型センター)みたいなものかもしれないが、その辺りに解があるのではないかと思っている。あるいは、もちろん、1店舗でなく「面」でという考え方もある。何店舗かを「面」にして、そこを仮想の店舗みたいな形にするといった考え方で、これは在庫が分かっていれば可能だ。

たとえば「ドライグロサリーはここで積み」「生鮮はここで積む」といったことをする可能性もある。いまは1店舗での実験だが、この後はその辺りを、少しPoC(概念実証)を含めてやっていこうと思っている。

——普段店で置いないものを他の場所に置いておいて配送車が寄って持って行くというイメージか。

山本 別に地代が高い店舗に全て置いておく必要はない。やはりオンラインは品揃えを広げることがポイントなのに、店舗より少なければ失望感につながると考えている。

海外の事例などの話も聞いているので、その辺りを幾つか考えながらどれにしようかと。いままさにオンラインデリバリーをこれから始めて、動く実験をやっているところだ。次のステップは、いかに充足度、既存のネットスーパーと違う価値を作っていくかというところだと思っている。

鍵を握る基幹システムはU.S.M.Hで一本化へ

——やはりポイントとなるのは在庫か。

山本 在庫を可視化する必要があると思っている。そのためには、われわれの従前の基幹系の仕掛けを変える必要がある。そもそもわれわれ量販店のシステムは大体バッチ型(一定期間データをまとめてから処理する方式)で構成されていて昔からあまり変わっていない。

それを即時性の高い形で各種の情報、特に在庫を認識できるものを作りたい。

——根本的に基幹システムを入れ替えるということか。

山本 入れ替えが基本的な目標となる。世の中、DXといわれているが、DXをやればやろうとするほど、既存の基幹系の仕掛けがボトルネックになる。先ほどのネットスーパーの品切れなどは典型的で、(リアルタイムの)在庫が分からない。

たとえば、ウォルマートで、レジでスキャンしてチェックアウトすると20~30秒の間に(データ上の)在庫が減る。これはウォルマートだけでなく、海外の小売業はみんなそのレベルだ。

しかし、われわれのところは(データ上の在庫が)変わらない。情報がセンターサーバーに上がるのは当社のレベルでいま、1時間に1回しか上げていない。平均(時間差は)30分。リアルタイムの在庫が見えないのに、EC(電子商取引)なんてとんでもないということになる。

——基幹系の入れ替えのめどは。

山本 U.S.M.Hの3社、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東は基幹系を一本化しようと動いている。物流も含めて、いろいろなシナジーを考えないといけないのに、3社の情報系がずっとばらばらというのでは、さすがにもう無理ということになってきた。機が熟してきた。

実際、今年から3年の中期経営計画の間にほぼそれを成し遂げたいという目標を持っている。

(スキャン&ゴーをベースとした「新しい店」の形とは?…後編につづく

関連記事

お役立ち資料データ集

セミナー