ザ・トップマネジメント「ベイシア 相木孝仁社長」:新リーダーが描く次のステージ
2022.12.16
出店再開で再度成長に舵、商品力も強化し、ベイシアを「尖った」存在に
——もともとアドバイザーのような形でベイシアにかかわっていた。
相木 2021年7月から12月まで経営会議に出たり、個別にミーティングをしたりといった形でお手伝いのようなことをしていた。
——22年1月から副社長に、7月には社長に就任した。よりかかわりを深くという形か。
相木 そうだ。私もすごくおもしろいと思ったし、ベイシアの方々も興味を持ってくれた。
——期待される役割をどう考える。
相木 例えば、グループ企業のカインズもワークマンも「尖っている」といえる。ベイシアは着実に、堅実に歩みを重ねてきているが、すごく「尖っている」感じではない。
そこについて、いままで積み重ねてきたものをベースにしながら、次のステージに持って行きたいということだと思う。
商売を工業化する「商の工業化推進本部」がDXを推進
——ベイシアの強みについて、どう思うか。
相木 幾つかあるが、1つは、効率的な店舗オペレーション。チェーンストア理論に基づいた効率的な店舗オペレーションがしっかり根付いていると思っている。
具体的には自動発注、棚割りのデータ管理、在庫を増やさないような在庫管理。他、人時生産性をしっかり高めていくための作業割り当てシステムなども、最終的にはチューニングはしているものの、かなり自動化できている。画像認識といった分野もテストが始まっている。
やはりこれだけ商品の価格が上がっていて、かつお客さまは生活防衛のために食料にあまりお金をかけられない状況の中で、われわれもコストコントロールをするしかないと思っている。そこは店舗のオペレーション、店舗をどう効率的に運営するかというところにずっと、まい進している。
そもそも、「商の工業化推進本部」という名称の部門を持っているスーパーはあまりないと思う。それぐらい商売を工業化していくことにトライしている会社だと思う。いまサプライチェーンとか商品マスターなどにも力を入れている。お店のDX(デジタルトランスフォーメーション)はインパクトが大きい。
もう1つ、われわれの強みは店舗が広くて、買いやすくて、品揃えが豊富で、価格のメリットがあるということ。これらがお客さまにとってとても魅力的である。食品中心だが、衣料品、住関連とかワンフロアでのワンストップ(ショッピング)が実現できていることが強みだと思っていて、さらに近年はそれに加えて商品そのものの磨き込みもしている。
例えば、ブリとヒラマサを掛け合わせた「ブリヒラ」の展開、また物流ではコールドチェーンにも取り組み、梅の仕入れなどにも応用している。こうしたおいしさや鮮度という一番の中核にあるところにも、この数年力を入れてきている。
プライベートブランド(PB)にも一所懸命取り組んでいて、PBをさらに強化したいと思い、本部内に今年3月、ラボやテストキッチンを作った。
メンバーたちは頻繁に、私も2週に1回の「商品開発会議」に出席して開発商品の試食をしている。以前は本部以外の施設を使っていたが、本部の中に持ちたいということで設置した。いま食品強化が重点ポイントになっている。
われわれとしても、モノを流通させるだけだと限界があると思っている。われわれはSPA(製造小売業)企業になると。
もっともっとやりたい。いまは全体売上の10%強だが、いまの倍ぐらいにはできるのではないか。いま「PBプロジェクト」ということで取り組んでいるが、もう少し商品を目立たせようといったことをやっている。
改装による既存店磨き直しを経て出店を再開へ
——逆にベイシアの課題は。
相木 1つは、われわれは食品の鮮度やおいしさにこだわっているが、発展途上ではあるものの断トツにはなっていないこと。そこを磨かなければいけない。
もう1つは、発展途上で良くなっているのだが、それがお客さまに正しく伝えられていない。これはわれわれのマーケティング面での努力不足。だから、モノそのものを良くしていって、それをしっかりお伝えするという両方をしっかりやっていく。
あとは、利益と成長が企業の重要なミッションだとすると、利益はある程度は取れてはいるものの、トップラインの売上げが3000億円前後でそれほど伸びていない。これを伸ばさなければいけない。
特にこの4年ほどは、改装はしているが、新店を出店していなかった。出店を止めていたのは既存店をもう一回磨き直すためだった。
毎月の既存店の(売上高)前年比をずっとトラックしている。それをわれわれの営業しているエリアの企業と比べているが、改装していることもあってわれわれが一番良い。もともと4年前の狙いどおり、足元を強くすることはできてきている。
ただ、会社の全体の売上が伸びていないのは新店を出していないから。実力が付いてきたので、もっともっとお店を出していこうと考えている。
1都14県がわれわれのメインフィールドだが、特にわれわれが強いのが群馬、埼玉、千葉。ここでも、まだドミナント形成できていないエリアがいっぱいあるので、ここは最重要。他に東海の愛知、静岡も、カインズと組んで成功している店がほとんどなので、もっとできると思う。
他、岐阜とか滋賀とか1店舗(岐阜)、2店舗(滋賀)しかないところは、厳選しながらも密度を濃くしていく。
——年間の出店数の目安はあるか。
相木 コンスタントに6、7店舗は出さないといけないと思っている。
——フォーマットでいうと、大型店のスーパーセンターを出店する用地は、なかなかないと思うが。
相木 われわれでいま、最も特徴があるのはスーパーセンターであると思っていて、スーパーセンターでいけるのであればいきたい。ただ、3000坪のスーパーセンターは広すぎるという感じがしていて、いまコンパクトスーパーセンターと位置付けている2000坪ほどの売場面積の店舗であればまだまだ余地はあると思っている。
さらに、どんどん都市部を攻めていくときにスーパーセンターに限っていては物件が取れないので、スーパーマーケット(SM)、あるいはネイバーフッドショッピングセンター的に他社と組んでモールを形成するといったことも同じぐらい重要だと考えている。
——SMの出店は。
相木 人口が多いところに出していきたいと思う。その先に(小型店の)ベイシアマートがある。これはもう1回プロジェクトを作って取り組んでいる。これを都市部に出店していく。
他社の力も借りながら魅力的な空間をつくる
——他の企業も含め、総合スーパー(GMS)は業態として厳しいという環境だ。
相木 多層型のGMSはなかなか売場のメンテンナンスが大変かと思うが、われわれのようなワンフロア型のGMS的なもの(スーパーセンター)は十分いけると思う。
——衣料、住関連も需要があると。
相木 ある。それにベイシアが十分に応えられているかというとまだまだだが、ここはいろいろなてこ入れ策を考えている。基本は、食品は自分たちでやるつもりだが、衣料、住関連を100%自営でやり続けようとは考えていない。
一番大事なことは、スーパーセンターの空間が最も魅力的になる状態をつくること。それによってたくさんお客さまが来ること。これが最重要。
そのためには他社と組む。よくあるのは別棟でテナントに入ってもらう形だが、そうではなくてスーパーセンターの中に入っていただこうと思っている。例えば(100円均一店の)セリアには30店舗以上、テナントで入っていただいている。それによって、若い女性のお客さまがたくさんいらっしゃるので、両方にメリットがある。
それを拡大しようと思っていて、ベイシア寄居北店(埼玉県寄居町)では西松屋に入っていただいた。これもパターン化していければ良いと思う。われわれの食品の来店頻度に魅力を感じていただけているようだ。
住関連には「スポーツ」から何からビジネス単位がいっぱいある。それを販売効率などで見ていかなければいけない。どれをどこまで自営でやるかをよく考えないといけないと思っている。
特にいま強化しているのが、「ペット関連」。確実にニーズがあって、ペットフードの需要はすごく大きい。特にいまはキャット(猫)。この辺をしっかり展開すると数字にしっかり出る。
また、少し生活シーンに深く入ったもの、例えば「プロテイン」などは比較的強い売場になる。あと、「ドラッグ」は規制がある他、人の拡充などの問題もあるが、これもまだまだやり切れていない。ドラッグについても、基本はいまのところは自営で考えているが、本当に強い専業の企業と組んだらどうなるのかという話はしている。
専門業態と組むことは、1つはもちろん、コラボして良い空間をつくるということがあるが、もう1つは、われわれは直営事業を諦めたのではなく、いっしょに組んで勉強させてもらいたいということもある。全店で組むわけではなく、学ばせていただいてわれわれ自身が強くなることも考えられる。
衣料はまた、違う作戦を考えている。パワフルな人材を招聘し、その人をヘッドにしてもう1回衣料をやり直そうとしている。さらに全部われわれが調達して動くというよりは、外部と組んで何かできたらおもしろいと思っている。
われわれの衣料品売場には赤ちゃん用からおじいちゃん・おばあちゃん用、男性のフォーマルから女性の下着まであるが、例えば、自分の欲しいものが決まっていたりすると、なかなかこの空間に入って来ないお客さまもいると思う。
だから衣料品売場は、独立した空間の集合体のようになっていったらおもしろいと思う。
ネットスーパーはあくまで店舗を起点に買物頻度の向上目指す
——グループシナジーをどう考える。カインズとの共同出店などをしているが。
相木 そこはこれからもやりたいと思っている。電気代の対策をいっしょに議論するなど、連携はしている。いまカインズで開発を長年統括していた人に同じようにベイシアについても関わってもらっている。いままでは別々だったが、この数カ月、いろいろな案件の話を相談し合えるようになっている。
また、ベイシア100%子会社であった流通技術研究所をベイシアグループソリューションズに名前を変え、グループで持つ体制にした。よりITやテクノロジー関係のグループ間の連携は増えると思う。
情報インフラ、セキュリティ、AI(人工知能)、先端技術などは、それぞれがやっても、人集めも大変だから、連携してやる。
——デジタル戦略は。相木社長の経歴から見ても、強みを発揮できそうだ。
相木 デジタルは得意といえば得意かもしれないが、もっと得意な人が世の中にはいっぱいいる。ただ、「何が求められているか」「何を使えば実現できるか」といったところの勘所はあると思う。
それが、おそらくスーパーの中で遅れてきた分野であると思うので、そこで付加価値が出せるのではないかと思っている。
——デジタル戦略の進ちょくは。
相木 実は、われわれがアプリを始めたのは2020年12月からと後発なのだが、元々のデジタルのメンバーと中途入社のメンバーがうまくコラボしてくれて、良いアプリになっている。とてもよく使っていただいている。去年のある調査では食品スーパーのアプリで一番使われているというアプリになった。
お客さまには、アプリ限定価格やポイントなどいろいろあって、お得なのでよく使っていただいている。ここはまだまだ改善していくが、ファーストフェーズはできたと思っている。
データ分析は着実に進んでいる。アプリを使っているユーザーが何を好まれているかは分かる。ただ、それを個別に販促に生かせているかといえば、それはまだ。本来は買っているものに基づいてアプリのファーストビュー、クーポンが変わってくる。これが本来の姿だが、ここまでは行っていない。
いま加えて、デジタルの分野ではネットスーパーを強化している。楽天と組んで、楽天のプラットフォームを使っているが、運営や拡大はわれわれの責任。いま12店舗で展開しているが、もっと増やしたい。
——ネットスーパーの売上比率はどうか。
相木 日に日に増えているが、まだまだ低い。アプリが急速に普及したのは、やはり店内でのご案内を相当やったからということもあるので、それぐらいやらないと(広がらない)。
あとは店舗に対する気遣いもあるかもしれない。ネットスーパーチームが品揃えを充実させると店舗が欠品してしまうなど慮っている。
だから、「店舗の売上が多少減ったとしても、店舗とネットスーパーを足して店舗単独よりも増えれば良いから」と話している。
——全店で展開する予定か。エリア単位で集約するような考えは。
相木 全店に近づけていきたいと思っている。われわれはお店が大きいこともあって、お店から配送するモデル。そうするとピッカーなどスタッフを1店1店、育成していかなければいけないので一気に増やすことはできない。
全く新しい需要をつくるというよりは、いろいろなご事情でなかなか家から動けない方々に食品をお届けしているということだと思う。新しいお客さまを見つけているというよりは、週1回来店されるお客さまが2回目にネットスーパーで買ってくださるようなイメージかもしれない。
——事業としての損益は。
相木 いまこの瞬間で儲かっているかといえば、儲かっていない。投資フェーズだと思っている。できるだけローコストオペレーションでやっているので、1つ1つのお店で黒字転換するように追求している。それに向かって1店1店進んでいる。
デポとかフルフィルメントセンターを造ると大きな投資になるが、それはいまのところやる気はない。
——楽天とはいっしょにデータ分析なども行っている。
相木 もっともっとやっていきたい。どちらかというとわれわれのデータ分析のキャパシティが足りないので、もっともっと人材を採用して、育成していかないといけない。楽天も送客などしてくれている。
通過点として年商5000億円にはならないといけない
——値上げ基調の中、価格政策は。
相木 電気代などのオペレーションコストが上がっている。一企業が対抗できるレベルではなくなってきている。
全く値上げしないことは不可能だと思っている。われわれができることは、できるだけ(値上げを)遅らせる、あるいはできるだけ値上げ幅を抑える努力をするということ。そうなると粗利が削られてくる。それではどうやってコストをセーブするのかという話になる。
あとは、「値上げやむなし」となったとき。ナショナルブランド(NB)とPBの提案の仕方、組み合わせであったり、どうしても値上げせざるを得ない商品とは別に「この商品、この部分は値段を抑えよう」ということで、お客さまに選択肢をしっかり残す努力をしていかなければいけないと思う。
マクロで考えれば、これだけデフレが長く続いて、ようやくインフレの兆しが出てきて、世界的に見て異常に値段が安くなっていることを考えれば、「モノの値段は上がっていく」というのが普通だが、われわれこの商売をやっている以上、「それでは上げますか」とはさすがに言えない。
お客さまの中には限られた年収で生活されている方もたくさんいるので、そこに選択肢を残さないといけない。スーパーを展開している立場としてはそう考える。
——ベイシアとして定量目標はあるか。
相木 これから作っていこうとは思っているが、かちっとしたものはない。われわれはいま(年商)3000億円ぐらいだが、これをやはり日本で、トップ5ぐらいで戦っていこうと思ったら5000億円、1兆円の世界に入っていかないといけない。通過点としての5000億円にはならないといけない。
規模を追っているわけではないが、それぐらいスケールしていかないと、これからの日本の社会での存在感のある戦いができないと思っている。