ザ・トップマネジメント 「西友 大久保恒夫社長兼最高経営責任者(CEO)」:新生西友の経営戦略

2022.04.12

2021.06.14

食品スーパーナンバーワンの規模を生かし、商品開発を強化し、売り込むことで日本の流通構造を変える

——3月1日から株主構成が変わり、大久保氏がCEOに就任することでマネジメントも変化した。変わること、あるいは変わらないことは。

大久保 もともと西友として大きく成長したが、その後ウォルマートの資本下になり、それで今回、また新たな資本構成に変わったということで、「軸がぶれているのではないか」という見方もあるかもしれない。しかし、私としては積み重ねられて非常に良くなっていると思っている。

もともと西友は革新的な企業だったし、日本で非常に成功していた。そのDNAの上に、マネジメントレベルなど世界最大の小売業であるウォルマートの良さが付け加えられて、今回、それを基盤にさらに発展させていくという態勢ができてきていると思っている。ウォルマートがいままでやってきたことの良さをさらに生かしていこうと考えている。

世界的にも有名なウォルマートのミッション(使命)やバリュー(行動原則)が、西友の中でどう受け止められていたかを、かなりの数のアソシエイト(「共に働く仲間」の意を込めた従業員のこと)にインタビューやアンケートで聞いたのだが、相当支持されている。「良い」「素晴らしい」「継続したい」という声が多く、定着していることが分かった。

やはり、アソシエイトにとっても「ウォルマートは良かった」と。そのカルチャーをベースに、「より日本のお客さまが求めていることに応えるために必要な変革を行っていきたい」というイメージ、気持ちを持っていることがとても感じられた。

そのため、ミッションなどは大きく変更せず、微調整だけで大丈夫だと確信した。

新たなミッションはほぼ完成しており、今後発表していくが、ウォルマートがベースになっていると明らかに分かるものになっている。そういう意味でも、「大きく変わった」というよりも、「これまでの良いところが積み重ねられて、さらに良くなっていく」と考えている。

——ウォルマートは依然として15%の資本が入っているので、なかなか否定ができないという面もあるのではないか。

大久保 それは関係ない。この体制変更の発表の際にも「独立した会社として意思決定を行っていく」ということが明確になっている。ウォルマートの影響力があるから、遠慮して変えていないというわけではない。

——ウォルマートの方針で、日本に合っているところ、合っていないところは具体的にはどのようなものがあるか。

大久保 (日本に合っているところでは)まず、ウォルマートといえば「EDLP(エブリデー・ロー・プライス、毎日低価格)」ということで、EDLP戦略が強みだ。内部からも「EDLPをどうするのか」と非常に関心が高かったが、私は非常に良い戦略だと思っているので、「さらに強くしていく」という言い方をしている。

時代的にも、EDLPが受け入れられる環境になってきたと思っている。日本の場合は、ハイ&ローという違う集客の方法がある。専業主婦が多くて、チラシを見て、「ここが安い」「今日安い」で駆け付けるみたいな集客が日本では結構効いていたと思う。

いま専業主婦がどんどん減ってきて、「日替わり」「数量限定」と言われても「買いに行けない」という人が増えている。毎日、いつ行っても安いという方が便利だという環境になってきていると思う。いまこそEDLPだと思っている。

ロピアにしろ、オーケーにしろ、EDLPが日本のお客さまに受け入れられてきていると思う。EDLPは今後も強化する。

もう1つは、(日本に合っていないところでは)やはり価格志向が強かったこと。ウォルマートはそれで成功したが、日本は価格以外のニーズも強い国。日本の(店の売上げ)ナンバーワンの小売業はコンビニエンスストア。世界中どこを探してもそんな国は他にないのだが、日本は価格以外の価値提供が結構支持される。

利便性であったり、品質、ローカルなどそうだろう。いまはコロナなので料理提案や健康志向が強くなってきていると思うので、そういう方向は今後、強化していきたい。一律固定的にローコストにしましょうというところを、今後変えていきたいと思う。

今後の西友は、価格以外のニーズに対応するのだが、それをローコストオペレーションで対応したいと思っている。価格以外のニーズへの対応をして、お客さまから支持されて、非常に伸びている企業があるが、価格が少し高めなのかなと思っている。価格がもう少し安くなればもっと支持されていると思っている。そこにチャンスがあるのではないかなと思っている。

トレードオフではなく、「トレードオン」の時代

——トレードオフ的な、価格以外の部分を強化すると、その分手間もかかるようなところもあると思うが。

大久保 私は、もう「トレードオフ」の時代ではないと思っている。「トレードオン」で、あれもやって、これもやってということで、両立させないと支持されないということだと思う。価格以外のニーズは、低価格(EDLP)で対応して両立させる。それができる企業がこれから生き残っていくだろうと思っている。

——それはなかなか難しいと思うが。

大久保 それを何とかするということ。流通構造全体の改革とか、生産段階まで踏み込むとか、物流効率、在庫効率、情報システムの活用などいろいろな手段があると思う。そういうものを活用して、他ではできていないことをできるようにする。それが、これから成長する小売業だろうと思っている。

西友の業績は、昨年、過去10年間で最高水準の売上高と収益率を達成しているので、さらに飛躍したいと思っている。トップ企業を目指そうと思っているので、ナンバーワンを目指すのであれば、「他ができないことをやっていかないといけない」「他がやっていることをまねしていてはだめ」と言っている。トレードオフではなくて、両方達成することはできるはず。

例えば、いままでのようにメーカーが作ったものから「これを買います」というようなバイイングだけではだめで、当然、(トレードオンは)できない。

だから、「仕入改革」「商品改革」と言っているのだが、小売業が主導権を持って生産段階、原材料段階に踏み込んで、生産効率、物流効率、在庫効率まで効率化していくことが必要だ。

食品スーパーでは、それをやっている企業はあまりない。(以前、大久保氏が社長を務めた)成城石井は、その方向で改革したので業績も良くなったと思っているのだが、他業態で製造小売業的に、非常に利益の高い会社がある。そういう形に、食品スーパーもできるはずだと思っている。

——やはり、独自性のある商品が肝になるか。

大久保 独自性がないと価格競争になってしまう。ナショナルブランド(NB)だけではだめだ。

——そうなるとプライベートブランド(PB)になるか。

大久保 PBにさえすればよいという考え方でもない。PBも強化するが、より広く「セレクト商品」が重要になると考えている。日本各地や世界中を探すと良い商品を作っている生産者がたくさんいる。

それはどこでも売っている商品ではない。私はそれをセレクト商品という言い方をしているが、そういう商品を見つけることが小売業の商品開発力だと思っているし、あとは留め型みたいな商品開発も重要だと思っている。

PBにすると、相当量を売らないと効率は良くなくて、利益が出ないというのは何回も経験している。安易にPBということではなく、「他では売っていない商品を開発しましょう」と言っている。

ただ、(現在あるPBの)「みなさまのお墨付き」がこれだけ評価いただいており、私も自分で食べてみて、「これは良い」と思っているので、これはやはり西友の強みとしてこれからも強化していきたい。

もちろん、ブラッシュアップも含めての強化ということ。あまりむやみやたらに作っても商品力が上がらないとだめだと思うし、あまり量が出ないものはPBにすると、かえって利益が出なくなる。

第三者機関が実施する消費者テストで80%以上の支持率を獲得したものだけを商品化する方針のPB「みなさまのお墨付き」は強化の方針

——ウォルマートというとNBの低価格販売のイメージが強いが、それとは若干違うと。

大久保 それ一辺倒ではない。ウォルマートもPBとして「グレートバリュー」などを開発しているし、それはバランスだと思う。NBのディスカウントもやはり集客のためには重要だと思うので、それをやめるわけではない。組み合わせていくという感じだと思う。

——仕入体制はどうするのか。

大久保 先ほど、「ローコストの中でそれを実現したい」とお話しした。これは成城石井とは少し違うと思っている。それをコストアップしないでできるようにするという考え方。

成城石井ではいろいろオリジナル商品を開発して、それで業績を上げてきたということがあるが、(売上高)数百億円レベルの中堅企業だった。いまは数千億、1兆円近い(2020年の年間売上高7850億円)ので、もっと規模を生かしてオリジナル商品を開発する。それも、価格以外のニーズの商品をローコストで開発するということになる。

ウォルマート流のシステムは入れ替える

——2020年12月期決算の業績の状況は。

大久保 売上高は7850億円、前年比5.6%増。EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortization、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えたもの)が売上比5%ということで、結構利益が出ている。

——新型コロナウイルスの影響はあるか。

大久保 少し追い風にはなっているが、その前から良くなってきているので、コロナだけということではない。

——今年に入ってからの状況は。前年比で厳しくなってくる部分もあると思うが。

大久保 そんなことはない。各社の今期の計画と比較しても、恐らく西友は利益的にはかなり良いと思う。

——その根拠は。

大久保 私がこれまで他社で注力してきた、商品開発力を強化して、それを売り込んでいくことによって売上げ、粗利を上げ、生産性も上げる、ということをいまもうすでに始めている。実際に成果も上がってきている。それがきちんとできれば、さらに業績が上げられると思う。

——3月に就任したばかりなので、商品開発はまだ進んでいないのでは。

大久保 いまある商品の中にも結構良い商品があるので、まずはそれについて、私がいままでやってきた単品大量販売に取り組む。絞り込んで、売れ筋商品を集中的に売り込むことで業績は絶対に上がる。

単品大量販売だから、効率も上がり、仕入原価も下げられるという方向でやっているので、さらに良くなると思う。

売上げについては、(前年は)コロナの追い風があったので、売上げを追いかけると業績が急激に悪化すると思うので、自然体でやったら良いと思う。(前年は)コロナで、商品が店からなくなるくらい売れたが、これを追いかけたらとんでもないことになる。

それを目標にして、チラシを打ったり、販売促進をやったりしても追い付かないので、普通にやる。無理やり売上げを挙げない。一方で、利益的にはいろいろな打ち手があって、まだまだ良くなっていくので、効果的な手を打って行けば相当良くなるだろうと思っている。

「売上げは無理やり追うな、利益はしっかり確保しよう」という考え方で進めている。

——いままでウォルマート流のシステムを移植してきたと思うが、それはどうするのか。

大久保 日本の独立した会社としてやっていくので、ウォルマートシステムはかなり入れ替える予定だ。それくらいの投資ができるくらい利益がしっかり出ている。

私も外部で見ていて、「西友の業績は大変なのでは」と思っていたが、内部で見たら「こんなに利益が出ているのか」ということが分かった。なので、前向きな投資、店舗の改装などもだいぶやってきている。今期も含めると100以上、3分の1くらいは改装を行う。前向きな投資ができる態勢になっていると思う。

——システムは自前で作るのか。

大久保 いまはいろいろと開発をどうするのかを検討しているが、パッケージを利用したり、自前の部分があったりと、最適なものを開発しようと思っている。良いチャンスなので、最新、最善のものを導入し、情報システム的には非常に進んだものになる。そういう意味でも非常に強い会社になると思う。

——発注や物流も変わるのか。

大久保 リテールリンクや売場管理、人員管理などはウォルマートのものを入れていたので、その辺りは入れ替えたい。2、3年という相当なスピードで最新のものに入れ替える。

自動発注も入れ替える予定。いまの時代なので、若干、予測なども入れる。ただし、予測、AI(人工知能)と言っても、簡単なものから本格的なものまでいろいろある。小売業が本格的なAIを入れると何億円もかかってしまって(採算が)合わない。回帰分析くらいのものもAIと言われているので、それくらいで十分と考えている。

——それでも十分、最新のものになると。

大久保 そうだ。コスト対効果を見ながら、最新で最適なものを入れていく。

——ネットスーパーのシステムは。

大久保 ネットスーパーは全く日本的なもので、ウォルマートのシステムと全く違うため、入れ替えの必要はない。OMO(Online Merges with Offline)の方向性では、リアルとネットは連携、連動していく。

ウォルマートの商品含め、商品開発を強化

——商品ではウォルマート経由の商品はなくなっていくのか。

大久保 いや、そんなことはない。ウォルマートの調達網や取引先に協力いただけるので、取り扱っていく。むしろ、どうして引っ張って来なかったのかと思う商品がいっぱいある。特にグレートバリューには探せば良い商品がある。

——いわゆる直輸入商品か。

大久保 DI(ダイレクト・インポート)で良いものを低価格で提供できる。例えば、グレートバリューのオリーブオイルやクリームチーズなどは安くてお薦めだ。日本でもいくつか取り扱っており、かなり売れている。

先ほどもお話ししたように「商品力強化」が重要なので、米国ウォルマートに限らず、DIを強化しようと思っている。一例としてウォルマートのグループ会社が取引している生産者を紹介してもらって、そこに日本の西友向けの商品を作ってもらうことが、すでに始まっている。そういう意味では、(ウォルマートの出資が)15%残っていることはプラスになっている。良い関係で商品開発がどんどん進んでいくので、増えてくると思う。

——アイテムは絞るのか。

大久保 単品大量販売して売り込む。私のいう「売り込む」というのは、「優位置に出して」「フェースを広げて」「在庫を積み増して」「POPを付けて」「一声かけて」ということ。そうすると棚から落ちてしまう商品があるが、それは落としておく。結果としてアイテムは少なくなってくる。

その方が、お客さまも買いやすい。「売り込み」というと、何か「売り手側がお客さまに押し付け販売しているのではないのか」と思われるかもしれないが、いまはむしろお客さまは「売り込んで欲しい」という感じになっている。いっぱいあって「この中から自分で選んでください」と言われても意外と困ってしまう。違いが分かりにくいからだ。

その中から「これがすごく良いですよ」という商品を選んであげて、「お薦めです」と言って売り込むことで、お客さまは「良い商品を選んでくれた」「それを買ってみます」となるのが良い流れだと思う。私は、これは小売業の役割だと思っている。特に買い物も時短で済ませたいニーズが高いコロナ禍なので、お薦めする方が喜ばれると思う。

——今後、売場も変わってくる。

大久保 変わってくると思う。売り込みが相当増えて、価格も安くできて、利益も出るようになってくる。私は3月から西友に来ているが、すでに4月から始めていて、5月、6月とどんどん拡大しているので、少しずつだが売場は変わってきている。「変わってきましたね」とよく言われている。

社内でも、「すごいですね」「売り込んだらこんなに売れるのですね」「びっくりです」という感じになってきている。

売り込み商品は社内では「ヒーローアイテム」と呼称し、単品集積などで売り込む。エンド展開のみなさまのお墨付きのレトルト食品
生鮮食品でもヒーローアイテムを設定。写真は精肉の米国産アンガス牛
鮮魚のヒーローアイテムのチリ産アトランティックサーモン。さまざまな提案で売り込む
ヒーローアイテムはPB、NB共に設定。写真は日清食品の袋麺
ヒーローアイテムのコカ・コーラ。集積して売り込む

——売り込む商品の選定はどうしているのか。

大久保 商品部が選定し、店の人が、その中から自店はここでこのように売ると自分で考えて売り込むようにという方向に変えてきている。

いままでは一律固定的で、ローコストがベースだったが、私は、商売は現場の人が楽しく働くことが重要だと思っているので、「自分で考えて売り込む」。売れたらすごくおもしろいので、それをやりましょうと。

そのためにはサポート機能がいるので、スーパーバイザー機能的なものを強化する。いまでもある程度はあるが、強化していく。商品開発をして、それをスーパーバイザー機能がサポートしていく中で、お店の人が自分で考えて売り込むという形に変えていく。

実際、「売り込み」はすでに成果が上がってきているので、商品開発を強化するのと、販売力、売り込むことを強化するという2本柱で強化していく方向が進んできている。

——売る商品をバイヤーが決め、現場は売り方を考えるという流れか。

大久保 そうだ。売る商品は結構たくさんあり、売り方を現場が考えている。「自店はこれをもっと売り込む」とか、強弱をお店が自分で考えて、「この場所で」「こうやって売りたい」「だからこれだけ売る」という計画を立てる。

ローコストオペレーションやEDLPなどウォルマートのモデルを生かしつつ、「もっと商売をおもしろく、楽しくやりましょう」というと、「それ昔、西友でやっていました」という人もいた。

チェーンストアなので、ある程度、7、8割は本部主導型で、お店が自分で考えるのが2、3割。それでも、そこが一番おもしろいということだ。

既存店の改装を進めつつ、年間4、5店を出店

——西友は歴史的には大型店も手掛けつつ、スーパーマーケット(SM)を手掛け、いまはSMがメインになってきている。いま、業態の考え方はどうなっているか。

大久保 西友はほとんど食品スーパーになっている。西友は総合GMS、イトーヨーカドーやイオンなどと同じような業態だと思っていたが、売上高構成比などを見ると総合量販店ではない。

——東京都にたくさん店を抱えるが、一方で地方の店をどう考えるか。

大久保 「地方の店は大赤字ではないか」と言われるが、中を見ると全然違う。地方の店をやめる必要は全然ない。黒字なのにどうしてやめるのかという感じだ。

多分、ウォルマートの知恵があったのだろうと思うが、福岡も、福岡市内がほとんどで、九州全域では全然ない。ほとんど集約されている。仙台もそう。北海道も札幌しかない。飛び地に出店しているのとは効率が全然違う。

——いま残っている店は基本的に残すと。今後の出店は。

大久保 今年(インタビューの5月17日までに)、2店出店したが九州だ(2月25日オープンのサニー福岡長浜店、福岡市中央区、4月24日オープンのサニーガーデンズ千早店、福岡市東区)。別に首都圏のスーパーにする気もないし、西友は全国スーパーだ。ただ、未出店地域にはまだ出ない。

——西友春日店(福岡県春日市)を4月29日の改装に際して、「サニー春日店」に名称変更した。

大久保 私がドラッグイレブンの社長をしていたときよくサニーに行っていたが、「サニー」はもともと(百貨店の)岩田屋グループだったのでイメージも良く、福岡では「サニー」の方が親しみがある。それでサニーの方が良いだろうと判断した。

——九州は全店をサニーにするのか。

大久保 食品スーパーのサニーと全く異なる商売をしている、アパレル、住関連商品も扱うような大きな店は「サニー」といわれると違和感があるので、それはしない。春日店も大型店だったが、今回、モールのオーナーを代わっていただいて、西友は食品スーパーとして入ったので「サニー」ブランドに変更した。なので、大きな方針の変化があったわけではない。

——今後の出店面の想定は。

大久保 既存店の見直しがまだ優先だ。まだ改装をしていきたい。ネット強化の改装もあるし、既存店でまだまだ投資をやって良くして行けるチャンスがあると思っているので、重視していく。ただ、新店を出さないということではなく、適度に出していく。今年は4店舗。

今年は九州の2店と長野(6月10日オープンの南石堂店、長野市)、愛知に出店する。

——売場面積としてはどうか。

大久保 いまある既存のお店が中心になるので、「何坪」が基本という形ではない。いまは結構小さい100坪くらいの店から大型店まである。その辺りは日本なので、面積にこだわっていたら物件が見つからなくなってしまう。

楽天とはネットスーパーに加え、情報システムでも協力

——改装は一巡していないのか。

大久保 いま約330店ほどあるが、まだまだやらないといけない。去年50店、今年も50店強の改装を進めている。

——「ネット強化の改装」とは。

大久保 ネットスーパーはニーズがすごく大きく、いますべてのオーダーを受け切れない状態にある。それはお店が出荷するためのピッキング能力などが追い付いていないことによる。だから、スペースが足りないところや効率化を進めるための改装をやっていく。

主にピッキングの効率化と、かなりの量を出荷するようになってきたことで置いておくスペースがなくなってきているため、大きくするといったものだ。ピッキングについては、人員は問題ないが、作業する場所の問題がある。

——ネットスーパーについては店の他、センターも配置しているが、どのような考えか。

大久保 センターと店とを組み合わせたハイブリッド型になる。今年1月に港北(横浜市都筑区)にかなり自動化を進めたセンター(三井不動産ロジスティクスパーク横浜港北)を開設した。大阪(大阪府茨木市)にも計画がある。

ただし、それで店舗を減らすわけではなく、とにかくすごい勢いで(ニーズが)増えているので、店舗も増やすし、センターも増やす。

センターは東京、大阪を中心とした都市部になると思う。地方にはセンターを造るほどマーケットがないと思うので、店からの配送になる。

——ネットスーパーの最終的な売上高構成比はどこまで行きそうか。

大久保 ものすごく上がると思っている。あっという間に10%、20%へとどんどん売上高構成比は上がっていくはずだ。

(共同でネットスーパーを運営している)楽天が資本も入れていただいてすごくプラスになっている。楽天エコシステム(経済圏)があり、日本全国で1億人、日本の国民のほとんどに相当する数の会員がいるといわれているので、大きなチャンスだ。

——楽天との役割分担はどのようなものになるか。

大久保 ネットスーパーを共同で運営すること。それから、楽天は情報システムが非常に強いので、情報システム化ではだいぶご協力がいただけるという感じだ。いまのところはネットスーパーだが、リアルとネットが融合していくので、リアルのお客さまの購買データ活用や、ネットプロモーションなりが進んでいく。楽天にはいろいろ知見があるので、活用しながらビジネスを強化していく。

——ネットはこれから肝になる。

大久保 ネットに対応しないと生き残れない。社会自体が、「車社会」から「ネット社会」になっていると私は思っている。いままでだと駐車場を大きく持って、車で買物に来るというニーズに対応したところが成功していた。

いまはネットで情報を得て、ネットで買物もしてという購買行動が増えているので、ネットに対応しなかったら絶対に生き残れない。その意識が、まだまだ低いと私は思っているので、西友はぜひ最先端を走っていこうと思っている。

——そうなると、必ずしも出店しなくても良い感じもあるのか。ネットにシフトしてしまうようなところもあるのか。

大久保 ネットはかなり伸びる。ただ、リアルがなくなることはなく、リアルとネットの融合が重要だと考えているので、リアルの出店をやめるわけでは決してない。

——そうすると、いまの出店地域以外に出店することもあるのか。

大久保 いまのところそれはない。まず、いまあるリアルで成功事例をつくることが大事だ。

DXは現場に即した地道なところから

——デジタルトランスフォーメーション(DX)が巷間言われている。決済ではスマホでお客がスキャンするといった取り組みもしていたが。

大久保 技術の進歩に合わせていくことになる。だんだんそういう世の中になるとは思うが、まだまだコスト対効果は悪い。いまは、まだセルフレジくらいだろう。いま西友は最先端のセルフレジに入れ替えている。

レジは対面にもセルフにもなる新タイプに切り替えている。さらにクラウド型で一括コントロールできる

将来的にはレジレスにはなるとは思うが、いまはレジレスでは効率化はできない。実験はやっているが、どこの話を聞いても効率は悪く、投資の割にはあまり効果が上がっていないようだ。

DXというと大げさに、「いまはまだない最先端の奇抜なもの」みたいなイメージを持たれているかもしれないが、例えばPOSデータの活用とか、個人別の購買履歴データの活用などもまだ十分にできていないと思っている。まず、そういったデータの活用を十分に行うことや、定番売場の棚割りのシステム化、売り込みの実績データに基づいたPDCAサイクルを精度高く回すといった、もっと現場に即した地道なところを強化するのが、DXの第一歩だと考えている。

だから、システムとデータを活用して、いままであまりできていなかったことを、まずやるというところから、しっかりやっていきたい。

そのうちにAIなり、自動化なりが進んでいくので、適切なタイミングで合わせてやっていく。いまの段階でいきなりそういったことをやると、全然効果がないのにお金ばかりかかってしまうので、いまは効果が出るシステムの活用から進めていく。

例えば、定番売場がきちんとシステム管理されているのかというと、そういう食品スーパーは少ない。自分のところの売場で、どこの位置で、何を、どのくらい売って、どのくらい売れているのかというデータが、システムに登録されて、それがデータとして把握されて、問題点に対して手が打てているかというと、打てていない。そこからやらないといけない。

それでは売り込み売場はどうか。売り込み売場も、どこの位置で、どういう風に売って、結局、どれくらいの売上げがあったのか、計画値に対してどうだったのか。うまくいったのか、いかなかったのか。

「それは分析するよね」と思うだろうが、きっちりとはできていない。そのPDCAを回すことが先決。それもリアルタイムのデータ、少なくとも週次のデータで、「ウィークリーマネジメントを行う」という本来やるべきことにまずは注力したい。

こういうところからDXを進めていく。定番売場、売り込み売場、人の効率的活用などをシステム、データを活用してマネジメントを強化する。その中で、だんだんデータ分析がAI化などで効率化・自動化され、予測値が精度が上がって出てくるという流れになり、小売業が使えるレベルまでコストも下がってくるだろうと。その時点で入れていくという考え方だ。

DXという言葉が躍っているが、あまりそれにとらわれない方が良いかなとは思う。もちろん、情報システムが進化してきて、それをツールとして使わなければいけないのは間違いないので、それは進めて行った方が良いと思うが。

——いまは、リアルタイムでデータは把握できるのか。

大久保 まだまだできていない。例えば、粗利データは普通、棚卸しをしないと出ない。

売価還元法ではなく個別原価法に全部変えることで、POSデータがピッと鳴ったとたん、粗利まで出る。リアルタイムで売上げも、在庫も、粗利も、人の生産性も出る。こういったことがあるべきだと考えている。いまはまだできていないが、そうしたデータを把握できるシステムをつくろうとしている。

——他の企業についてどのように見ているか。

大久保 もともとコンサルティングをしていたので、他社の情報はかなりいろいろと参考にはしている。西友はEDLPでやりながら、価格以外のニーズにも対応する独自の方向を目指していく。いままでにない新しい小売業の姿を西友から作り出したい。

日本の流通構造を変える、あるいは日本の他企業に参考になるような企業にしていきたいと思う。いろんな点からチャンスが大きい企業だと思う。現場は元気だし、優秀な人もたくさんいる。

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