ザ・トップマネジメント 「JFRカード 二之部 守社長」:変わる決済・金融と小売業の未来

2021.09.02

百貨店のビジネスは変わる、物販にとどまらないグループ全体のサービスを捉えた戦略が必要

1986年3月東京大学文学部卒業、91年5月ニューヨーク大学経営大学院MBA修士課程修了ファイナンス専攻、86年アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社入社。2000年11月同社グローバル・ネットワーク・サービス 日本/韓国地区副社長。05年8月トラベラーズチェック・ プリペイドサービス副社長などの要職を経て、11年9月、ビザ・ワーイルドワイド・ジャパンのビジネスデベロップメントⅡのヘッドに就任。15年10月ビジネス・アドバイザリー・サービス代表、17年2月Origamiアドバイザーを経て、18年3月現職に。

新型コロナウイルスは、小売業界に大きな影響をもたらしたが、大きく売上げを伸ばした日常消費の業態とは対照的に、ハレの消費を担う百貨店は休業を強いられるなど大きなダメージを受けた。少子高齢化など、コロナ禍前から小売業界全体には変革が求められていたが、今回のコロナ禍の影響を受け、百貨店の変革はDX(デジタルトランスフォーメーション)と共にまさに待ったなしの状況にある。大丸松坂屋百貨店を抱えるJ.フロント リテイリンググループで決済・金融事業を担うJFRカードの二之部守社長に、変革を求められる百貨店、あるいはDXも含めた形で、これからの事業の戦略を聞いた。

——JFRカードはJ.フロント リテイリング100%子会社だが、どのような事業内容になるか。

二之部 「大丸松坂屋カード」を発行する事業、イシュイング事業を中心に、加盟店と契約を交わしてカードを使えるようにし、送客をしたりポイントを付けてもらってお客さまにお得になってもらう加盟店事業、その他に保険代理店として、主にカード会員に対して生命保険、損害保険などを販売したりする保険代理業が主なものだ。また、オリックス・クレジットと提携、ローン商品もカード会員を中心に販売している。

——昨年、新ブランドとして「QIRA[キラ]」を立ち上げた。

二之部 いま中心に展開しているのはQIRAポイントで、新たなポイントプログラムとして立ち上げた。リニューアルした大丸松坂屋カードに、大丸松坂屋ポイントとは別にポイントとしてQIRAポイントが付くようにした。

この「QIRA」ブランドはポイントのみならず、オリックス・クレジットとの提携ローンを「QIRAローン」のブランドで展開している他、大阪・心斎橋にあるラウンジ施設を「QIRAフィナンシャルラウンジ」として紹介している。ポイントが中心だが、サービスプラットフォームのブランド名として「QIRA」として立ち上げたわけだ。

グループの戦略として、今後、百貨店のビジネスモデルが変わっていく。「GINZA SIX」(東京・中央区)が良い例で、以前の松坂屋銀座店がGINZA SIXの形に変わった。また、いままでの屋号の大丸松坂屋の中でもビジネスモデルが変わっていくということもある。

また、グループにパルコが入ってきたり、「BINO(ビーノ)」という商業施設を開発したりしている。また、26年に名古屋の栄に高層ビルを共同で開発する。

そうしたマルチブランドで商業施設を展開していくとなったときに、グループの中の決済・金融事業を担う当社として、大丸松坂屋百貨店だけではなく、広範囲にわたるいろんな商業施設、地域、また、グループが持っている資産、これから開発していく商業施設にわたる決済・金融事業を展開していく中で、いろんな商品、サービスを展開するときのブランドとして「QIRA」を使って行こうと考えた。

その第一弾が、QIRAポイントであり、QIRAローンであるということ。

——大丸・松坂屋のポイントから、QIRAに移行していくのか。

二之部 現在のところ、「大丸松坂屋」のブランドは非常に強く、たくさんのお客さまもいる。継続していくことを前提としている。ただ、将来のことは未定だ。

リニューアルされた「大丸松坂屋カード」。大丸・松坂屋のポイントとQIRAポイントが両方貯まる他、さまざまな付帯サービス、優待サービスが受けられる。「Visaのタッチ決済」の機能も付加した

——QIRA については、いろいろな機能を付け加えていくことになるのか。

二之部 いまは大丸・松坂屋のポイント、Tポイント、Amazonギフト券などに交換できるようになっているが、将来的にはPARCOポイントなどにも拡大していく。

あるいは今後、開拓していくカードの加盟店でポイントが貯まる、使えるといったことを、例えば、東京の上野御徒町、名古屋の栄、大阪の心斎橋などグループが重点的に開発する地域で展開していこうと思っている。

他、展開している商品に「QIRA」のブランドを付けることで、お客さまに親しみを持っていただいて、暮らしの設計、老後を含めた将来設計、家族の幸せといったことをお手伝いできるようなサービス、相談機能を付けて行こうと思っている。

「JFR」はコーポレートネームであって、消費者ブランドではない。消費者ブランドは「大丸」であり「松坂屋」であり「パルコ」であり「GINZA SIX」だ。その中で、どういったポイントプラグラム、金融サービスを展開していくか。その中で1つ、拠り所となるブランドとして「QIRA」を立ち上げた。まだまだこれからで、これから認知度の向上を図り、サービス内容を含めて充実させなければいけないと思っている。

当グループの場合、屋号がそれぞれ違うマルチブランド。違ったお客さまのセグメントをターゲットとしていて、全体を見る決済、金融企業という立ち位置なので、それに合ったブランドを認知させていきたいと思っている。

600万人のID顧客データをマーケティングに生かす

——カード事業の事業環境についてどのように捉えているか。

二之部 取扱高の半分程度が大丸松坂屋百貨店での取り扱いになっている。コロナの状況下で(百貨店グループの)カード会社としては大きな影響を受けている。もう1つ、お客さまにカードに入会していただくことも大きいのだが、その意味では百貨店の休業の影響は大きかった。

ただし、取扱高の部分では19年度よりはまだ下回っているが、昨年レベルよりは増加してきている。ゆるやかなスピードではあるが、戻っていくとは思う。一方で、百貨店の売上げや来店客数は以前の形に戻ることはないと思っている。

やはり、新しい価値をお客さまに提供していくことが重要になる。それは百貨店もしかり、カード会社もしかりで、いままでどおりの形では減少傾向になってしまうので、変わっていかなければいけない。

——日本のキャッシュレス、クレジットカードの将来をどのように見ているか。

二之部 日本の場合、まだまだ現金の取り扱いが非常に大きい。コロナに加え、昨年は行政によるキャッシュレスポイントプログラムもあったこともあり、大きく電子決済が伸びていく状況にある。まだまだ現金を置き換えていくという意味では電子決済は増えていくとは思う。

電子マネーに代表される非接触の決済ツール、コード決済などはまだまだ増える余地はあると思う。そこは決済業界全体としては比較的、楽観視している。

その中ですみ分けはできていくと思う。単価によって少額決済は電子マネー、高額品はクレジットカードがまだまだ主軸であろうと思っている。使われる場所としては小さな個人事業のような店はコード決済などが受け入れられるだろう。

クレジットカード事業者にとっては、少額決済は手数料などもあって収益性で難しい部分はあるが、コンビニやスーパー、ETCなどで財布代わりに使っていただき、メイン、あるいは2枚目のしっかりしたカードになっていくという意味では、少額決済は重要なセグメントである。

——ポイントプログラムの充実についてはどうか。

二之部 まだ、立ち上げたばかりなので、しっかり認知度を上げて浸透させていく。さらにQIRAポイントについては、お客さまにもっと魅力的になるように改善に改善を重ねていきたいと思う。

——顧客分析についてはどうか。

二之部 そこはこれから。カード会社独自で、マーケティングオートメーションを進めて行こうと思っており、一昨年辺りから投資を始めている。

グループ全体としてはパルコのデータ、大丸松坂屋のデータ、それからカード会社が持っている決済データを集めて、統合でデータベースを作ってしっかり分析して、それぞれの事業のマーケティングに使っていくなど、グループ全体の取り組みはすでに始めている。

やはり、パルコと大丸松坂屋という、少し違った顧客層の小売業のデータを集めること、また、クレジットカードのグループ会社外のデータもあるので、その決済データをどのようにグループ各社の事業に有効活用していくか。分析を始めたばかりなので、これから実用化を目指していく。

データのプラットフォームを作るということと、スタッフが分析して、どうやって収益化に結び付けていくのは大きなチャレンジだと思う。かなり良いデータが蓄積されているので、あとはそれをどうやって分析するかに尽きると思う。パルコ、大丸松坂屋、JFRカードのグループ全体のID顧客で600万人のデータを持っている。これをどう統合し、分析し

お互いグループ内で活用するかということになる。

リアルの百貨店で、新しい価値を提供できるかが勝負

——日本の小売業界、特に百貨店をどのように見ているか。

二之部 時間はかかるかもしれないが、インバウンドはゆっくり戻ってくると思う。一方で国内の百貨店の売上げはどれくらい戻ってくるかというと、19年レベルには戻らないのではないか。コロナによって、消費者の購買行動もかなり変わったと思う。百貨店自体がビジネスモデルを変換していかなければいけない。

1つは定借化。松坂屋銀座店をGINZA SIXに変えた。大丸心斎橋も大きく定借に舵を切っている。ビジネスモデル自体を商業施設、不動産業に変わっていくのが1つ。

そうは言っても、百貨店が培ってきたブランド、顧客ベースがある。特に富裕層に向けて、外商顧客に対して新しい商売、新しい売り方をしていくことはチャレンジになる。

オンラインで外商のお客さまに商品を案内したり、時計やアートに力を入れていこうとしている。これが2つ目。

3つ目は、百貨店自体が「もはや物販ではない」ということで、違う価値提供をいま持っているブランド、あるいは店舗という資産を使っていけるかというところ。

——そうしたグループの動きに、カード会社としてかかわっていく際、「QIRA」ブランドが鍵になる。

二之部 いままでのように、百貨店でモノを買ってポイントを付けるということが将来サステナブルかどうかは疑問だと思っている。そのときに、百貨店の他のサービスの決済を押さえていくことで、お客さまとのリレーションを作り、地域でお得なポイントをしっかりアピールしていくというのが、百貨店の変遷と共に生き残っていく1つの道筋だと思っている。

——「DX」という言葉が巷間をにぎわせている。デジタル化の取り組みは。

二之部 例えば、オンラインのサービス問い合わせ、明細書のチェック、住所などの変更、決済手段の変更をウェブ、アプリで提供している。

あとはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を立ち上げて、お客さまとのコミュニケーションのチャネルを、以前の店頭からSNSに変えている。まだまだ認知度、フォロワーをつくっていくのには時間がかかるが、しっかり、お客さまとのタッチポイントを作っていきたい。

ただし、強みはリアルにあると思っているので、良い場所に、良い施設を持っているので、そこでどういう価値を提供するか。ウェブやバーチャルの世界でネット企業の大手と勝負しようと思っているわけではない。

ネット企業はバーチャルの世界では圧倒的に強いが、リアルの場所を持っていない。お客さまとのタッチポイントとしてデジタルのチャネルは拡充していくが、リアルの強みをしっかり利用しながら、お客さまとつながっていくことだと思う。

お役立ち資料データ

  • 原理原則を知る②-値入ミックスの極意-

    企業活動において、非常に重要となる価格設定ですが、その原理原則についてポイントをまとめたのが本資料です。 ニューノーマルが求められる現在においても、基本的なことを改めて振り返っていただければと思います。 ①値入ミックスとは何か? ②活用しやすい業態、条件 ③具体シミュレーション方法  

  • DX推進で陥りがちな間違いと対策

    本資料は、DX推進で陥りがちな間違いについて、経営と現場のすれ違いを減らす手法を提案することで、 成果に繋がるDXに繋げていただくことを目的に作成しております。 DX失敗のプロセス DX(デジタルトランスフォーメーション)への誤解 経営と現場のすれ違い事例 「仮定の検証」してますか? 全体最適のために必要なこと 本部がもう少し考え抜くと… 推進していくDXに欠かせないもの  

  • 業界寡占が進む「ドラッグストア」の強みと弱み

    新型コロナウィルス発生後、スーパーマーケット同様に売上好調であるドラッグストア業態。 業界は寡占化が進みつつあります。 改めて業態としての強みと弱み、また歴史を振り返りつつ、今後どのなるのか? 業界編集長の野間口氏にまとめていただきました。 ・ドラッグストア業態の「強み・弱み」 ・ドラッグストア業態の「過去と未来」