スマートコントラクトとは?仕組みやメリットなどを企業の取り組み事例を交えて解説

2022.11.08

2022.08.31

近年、さまざまな企業で業務プロセスや処理を自動化し、効率化を図る動きが見られる。ブロックチェーン上で契約の自動化を行う仕組みであるスマートコントラクトにも、大きな注目が集まっている。

そのスマートコントラクトに関して、本記事では概要から仕組み、メリット、デメリット、企業の取り組み事例まで解説していく。

スマートコントラクトとは?

スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で契約を自動化するための仕組みのことを指す。ブロックチェーンは「インターネット以来の技術革新」と呼ばれ、取引履歴データの偽造や改ざんなどのリスクを低減できる技術だが、その関連プログラム・プロトコルとしてスマートコントラクト機能が存在する。

スマートコントラクトはイーサリアムのプラットフォームで採用されるのが最も一般的となっているが、概念自体は1994年に法学者であるNick Szabo氏によって提唱された。

特定のルールに基づき、条件が満たされれば取引を自動的に実行。プロセスを自動化することで業務の効率化を図れるだけでなく、取引履歴の透明性の高さなども、スマートコントラクトを活用する大きな利点だ。

スマートコントラクトの仕組み

スマートコントラクトの仕組みは、自動販売機で例えられるケースが多い。最初に行うのが契約の定義。自動販売機の場合、契約定義は各商品の価格に該当する。

次に実施するのが、条件の提示。自動販売機にジュースと商品価格を並べていき、購買に必要な条件を消費者に示す。

その次に行うのが、条件の合意および契約の実行。各商品の金額に合意の上、指定の金額を投入してボタンを押せば契約の実行、つまり商品が取り出し口に出てくる。そして、商品を取り出せば契約は完了となる。

もし、金額が不足していれば、ボタンを押しても商品が出てくることはない。当然の仕組みだが、店舗で商品を購入する場合、レジスタッフを介して会計・商品の受領を行うのが基本。その点、スマートコントラクトの技術を活用すれば、会計・商品受領のプロセスをプログラムで自動化できる。

イーサリアムのプラットフォームの場合は、ブロックチェーン上の契約を自動履行するプログラムを採用。設定された取引条件を満たせば、プログラムが契約を自動的に実行するため、第三者の仲介や時間の損失は発生しない。

スマートコントラクトは金融業界だけでなく、非金融業界でも活用が進んでいる。例えば、紙媒体での契約がまだまだ主流となっている不動産業界では、スマートコントラクトを利用することで、物件の申し込みから入金の確認、売買契約書の送付などを自動化することも可能。

その名の通り、スマートな社会の実現にもつながる技術と言えるだろう。

スマートコントラクトのメリット

ここでは、スマートコントラクトの技術を導入することによるメリットを解説していく。

契約処理をスピーディーに進められる

スマートコントラクトで事前に設定した条件が満たされると、契約処理は即座に実行される。一般的に、契約の発生から締結までには、契約内容の確認・契約書案の作成・契約書案の修正・契約書の取り交わしなど、多くのステップを踏む必要がある。

そのプロセスにおいて、ドキュメントの作成ミスなどが生じるケースも少なくないが、デジタルで自動処理を行うスマートコントラクトの技術を採用すれば、人為的ミスの発生を抑制可能。

加えて、書類の確認業務に時間を費やすこともなく、契約締結までのリードタイムを大幅に削減できる。スピード感を持たせ、機会損失の少ないビジネスを展開可能と言えるだろう。

第三者の関与なしで信頼性の高い取引を行える

取引を行う上で必ずチェックするのが、相手企業の信頼性。その信頼性を担保すべく、近年では第三者が仲介し、安全に取引を交わせるサービスが多数登場している。

しかし、高額な手数料が発生し、利益率が低下するケースも多い。その点、スマートコントラクトは条件に従って処理を自動で行うため、仲介業者は不要。手数料を大幅に削減しつつ、第三者の関与なしで信頼性の高い取引を行えるのも大きなメリットと考えられる。

情報の透明性が高い

スマートコントラクトの取引実行履歴は、ネットワーク参加者の全てのコンピュータで同一の台帳情報を保有し、保存される特徴がある。常に公開される情報を参加者は確認可能なため、高い透明性を持つのが大きな魅力。

情報共有が容易になるだけでなく、ネットワーク内で参加者に監視される公開情報でもあるので、データの改ざんなど不正操作を防止することにもつながる。

契約の中断が発生しない

ブロックチェーン上で採用されるスマートコントラクトは、分散ネットワークで処理が実行される。クライアント・サーバー型システムの場合、機能や情報を提供するサーバーに障害が発生するとサービス自体停止するが、各ノードが処理を行うブロックチェーンであれば、サービスが停止することはない。

高い可用性で円滑に契約を進められるだろう。

スマートコントラクトのデメリット

業務の効率面・コスト面・セキュリティ面など、多様な面でメリットを受けられるスマートコントラクトだが、デメリットも存在する。ここでは、スマートコントラクトを利用することによるデメリットを解説していく。

後から契約を変更できない

スマートコントラクトはブロックチェーンに保存すると、本人含めて契約を変更することができなくなる。データの偽造や改ざんなどを防止するブロックチェーンの特性が故に、発生するデメリットと言える。

特に、プライバシー性の高い情報に関しては、慎重にデータを取り扱いたい。

プログラムの不具合によるリスクを伴う

どのシステムにも共通していることだが、スマートコントラクトはプログラムで構築されるため、不具合が発生する可能性もある。実際、2016年には仮想通貨業界で「The DAO事件」が発生した。

The DAOとは、イーサリアムのプラットフォーム上において、ファンド参加者の投票を基に投資を実施する非中央集権型のサービス。利益が上がれば、投資者に配分するシステムが採用されていた。

The DAOには、運営に賛同できない場合に出資を止め、ETHに変換する「スプリット」というシステムが存在する。一度のスプリットで処理は完了するが、スマートコントラクトによって資金の移動が行われる前に何度も送金指示を送れば、The DAOの保管資金が移動するという重大な欠陥がプログラムにあった。

これにより、当時の価格にして約50億円に上る、約364万ETHもの額がハッカーに盗まれた。なお、スプリット機能には最低27日間ETHを引き出せない特性があるため、その間にハッキングされた取引を無効化するハードウォークにより事態は収拾。

スマートコントラクトは効率性の高さが魅力的だが、自動処理によるプログラムの不具合に留意したい。

取引の処理速度が低下する恐れがある

スマートコントラクトを採用したブロックチェーンは、取引量が増えるとトランザクションも増加していく。トランザクション量は処理速度に影響し、増加すると速度も低下。

スマートコントラクトは処理の自動化で高速な取引を行えるのが大きな特徴であるが、将来的に利用者数の増加に伴い、取引の処理速度が遅延する可能性も問題視されている。

手数料が高くなる可能性がある

トランザクション量の増加に伴い、処理時間や手間も増えてしまうため、手数料が高くなる可能性が懸念されている。また、安全性を担保するために、イーサリアムではプライバシー保護技術も導入予定。

快適かつ安全に取引を行える一方で、今後手数料面において弊害をもたらすかもしれない点に注意したい。

スマートコントラクトの取り組み事例

ここでは、国内企業におけるスマートコントラクトの取り組み事例を紹介していく。

三菱商事

三菱商事はデジタル通貨プラットフォーム環境の構築、およびスマートコントラクトを作成し、海上輸送で発生する滞船料などの自動計算とデジタル通貨での自動決済の検証を実施した。諸外国と貿易取引を行う日本だが、契約当事者間の作業重複・請求から決済までのオペレーションの煩雑さ・資金化までのタイムラグが長いなど、各種料金の決済において多様な問題を抱えている。

そこで、三菱商事が行う貿易取引の決済に関して、デジタル通貨とスマートコントラクトを利用した契約自動執行の実証実験を実施。複雑な取引の簡素化、および資金の受け渡しまでの期間を短くすることを目標とした。

実証実験の結果、スマートコントラクトを導入し、なおかつデジタル通貨DCJPYで決済を行う仕組みが有効であることを証明。契約の自動執行システムにより、案件登録から決済までの処理を一つのシステムで一貫処理し、企業間決済に係る作業を最大約80%まで削減することに成功した。

本仕組みは日本の中小企業から大企業まで、共通の企業間決済業務で効果を発揮。特に、決済件数が多くて煩雑性の高い企業ほど、大きな効果を得られて取引の負担を軽減可能と考えられた。

みずほ銀行

みずほ銀行はブロックチェーン技術の導入、およびスマートコントラクトの特性を活かし、個人向けデジタル社債を実現するための実証実験を行った。投資家のニーズに沿った銘柄の多様化が進む中、社債市場の拡大・活性化を目指し、新たなシステム基盤のプロトタイプを構築。

ブロックチェーン上で社債原簿を管理できることで、発行体が投資家の情報を獲得可能に。直接接点を持つことにより、新たなマーケットリサーチ手段や効率的な広告提供手段として、情報を活用できるようになる。

ポイント発行会社とシステム連携を行えるのも、本取り組みの魅力。個人投資家がポイントの付与など+αの価値を享受でき、発行体もポイント経済圏の拡大につながる。

また、小口・小額で個人向け社債のオンライン販売も実現可能。発行体・証券会社にとっても、若年層やファミリー層など新たな顧客層の獲得を見込める。

沖縄ICカード株式会社

沖縄ICカード株式会社は、一般社団法人沖縄しまたて協会やモバイルクリエイト株式会社、他7社と提携し、ブロックチェーン技術により移動関連データを蓄積・共有・活用可能な「MaaS データプラットフォーム」を開発した。沖縄の交通系ICカード「OKICA」を利用することで、あらゆる公共交通機関を一つにまとめて提供する沖縄版MaaSの実現を目指す。

その背景には課題として、公共交通機関の利用率の低さが挙げられている。沖縄県民や観光客の主な移動手段はマイカー・レンタカーとなっており、慢性的に交通渋滞が多発。

しかし、利便性を向上させるための交通施策を検討する際は、5年ごとに実施される国勢調査といった統計調査データを利用。実際の交通実態と合わないデータを活用している。

また、交通サービスの利用により得られるビッグデータの所有権は、民間事業者に帰属。リアルタイム性の高いデータを活用したいという意向を持つ一方で、個人情報の取り扱いも障壁となっている。

本取り組みではブロックチェーン技術を採用し、乗降時間・乗降場所といった移動関連データをIDとして匿名化。利用者の特定が困難なIDをリアルタイムビッグデータとして蓄積し、地方公共団体や事業者に共有することで、地域の活性化につなげる。

さらに、スマートコントラクト機能で、個人情報を使用せずに複数サービスの利用状況を把握。利用に応じてクーポンを発行するなど、公共交通機関の利用促進を図る。

東京海上日動

東京海上日動はディーカレットと共同で、保険料の領収・支払いなどの保険契約に係る業務プロセスを、ブロックチェーン技術およびスマートコントラクト機能で自動化する実証実験を実施した。

具体的には、ブロックチェーン上に保険契約情報を登録し、事故が発生した際に事故情報をブロックチェーンに読み込むことで、保険金の支払い条件に合致するか自動的に判定。保険金をデジタル通貨で即座に支払う仕組みについても、有効性を検証した。

また、東京海上日動とその若手有志団体「Tib」に対し、ブロックチェーン上でトークンを発行。トークンを保険料や保険金と見なすことで、保険金請求支払業務を自動化できるかも、有効性を実証した。

保険の契約手続きを効率化・迅速化し、顧客の利便性を向上させるだけでなく、保険会社の業務効率化にもつなげていく。

博報堂DYメディアパートナーズ

博報堂DYメディアパートナーズは、DAOと呼ばれる分散型自律組織で運営することを目標に、ブロックチェーン技術を活用した分散評価システム「PlayChain」を開発した。

タスクをスマートコントラクト化し、パフォーマンスをお互いPlayChain内で分散評価。そして、事前に定義された成果物と報酬に基づき、評価に応じて報酬を支払う。

組織内のさまざまな仕事を一つひとつ契約化し、スマートコントラクトの機能を用いて自動化していくことで、経営者が存在しない場合でも自律分散的に運営される組織を目指していく。

スマートコントラクトのまとめ

スマートコントラクトは従来、暗号資産を中心に利用されていたが、近年では非金融分野でも活用が進んでいる。処理の自動化でスピーディーな契約を図れるのはもちろん、ブロックチェーン技術の特性から、情報の透明性・耐改ざん性・耐障害性に優れているのも大きな利点。

ただし、後から契約を変更できない点や、将来的に処理速度の低下・手数料の高額化などを招く可能性が高い点には注意したい。活用事例を参考にしつつ、自社でもスマートコントラクトの導入を検討してみてはいかがだろうか。

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