スーパーマーケット業界とは?特性や動向、直面する課題などについて解説

2023.06.20

2023.06.15

食料品や日用品などの商品を取り扱うスーパーマーケットは、日常生活にもっとも身近で親しみやすい小売店とも言えるだろう。

近年、デジタル化やコロナ禍、少子高齢化などのさまざまな社会的影響を受け、スーパーマーケット業界を取り巻く環境も変化した。また、働き手不足や環境への配慮といった課題を抱えているスーパーマーケットの店舗や企業も少なくない。この記事では、スーパーマーケット業界の特性や近年の動向、今後の課題について解説する。

スーパーマーケット業界の特性

スーパーマーケット業界の仕組みや特性について解説する。

スーパーマーケットの概要

スーパーマーケットとは、食料品を中心に日用品などの家庭用品をおもに取り扱い、地域の一般消費者へセルフサービス販売をする小売店だ。

経済産業省の商業動態統計では、スーパーマーケットの定義を「売場面積の50%以上についてセルフサービス方式を採用している事業所であって、かつ、売場面積が1,500平方メートル以上の事業所」としていた。

ただし経済産業省の商業統計調査が廃止となったことを受け、スーパーマーケットにおける業態分類は日本標準産業分類に一本化されている。現在は食料品比率が70%未満で衣料品や住関連品の売上が10%を超えていれば「561百貨店・総合スーパー」、食料品比率が70%以上もしくは衣料品や住関連品の売上がそれぞれ10%に達しなければ「581各種食料品小売業」に分類される。

「581各種食料品小売業」には、百貨店などのスーパーマーケット以外の小売事業者も含まれるため、2023年6月現在スーパーマーケット業を特定できる定義や分類は存在していない。

スーパーマーケット業界の仕組み

スーパーマーケット業界は、おおむね、消費者へ商品を届けるために以下の仕組みを構築している。

・商品を取り扱う「製造業者(メーカー)」または「生産者」から「卸売業」に出荷
・「卸売業」から各「スーパーマーケット」に商品が卸される
・「スーパーマーケット」から「消費者」へ商品が届けられる

スーパーマーケット業界の取り扱い商品

スーパーマーケット業界では、以下の9分類の商品を取り扱っている。

・青果…野菜類、果実類、花など
・水産…魚介類、塩干物など
・畜産…食肉類、肉加工品など
・一般…食品調味料、瓶缶詰、乾物、米、小麦粉、乾麺、嗜好品、菓子、酒類
・日配…豆腐、こんにゃく、納豆、練製品、佃煮、漬物、パン、卵、乳製品、生菓子、冷凍食品、アイスクリームなど
・惣菜…惣菜、折詰料理、揚物、弁当、おにぎり、寿司、インストアベーカリー、ファーストフードなど
・非食品…日用雑貨品、医薬・化粧品、家具インテリア、家電製品、婦人衣料、紳士衣料、文具、玩具など
・その他…テナント売上高、タバコ・ギフト販売、その他取次業(DPE、クリーニング、宅配便、レンタル、チケット販売等)

特に「青果、水産(鮮魚)、畜産(精肉)」の3品目を「生鮮3品」と呼び、スーパーマーケットでは中心品目として取り扱っている。

スーパーマーケット業界の商圏と競合

スーパーマーケットは地域の消費者をターゲットとした小売店のため、商圏は半径500m~1km以内と言われている。コンビニエンスストアなどの生鮮類を強化している小売店や、休日の商圏外のショッピングモールなどが競合となる。

スーパーマーケットの業態による種類

スーパーマーケットや店舗規模や取り扱い商品によって、以下の種類に分けられる。

店舗の種類特徴
スーパーマーケット(SM)食料品と日用品を中心に取り扱う、一般的なスーパーマーケット
総合スーパーマーケット(GMS)食料品や日用品のほか、衣料品や家電、家具等の商品も総合的に扱うスーパーマーケット
業務用スーパー業務用食品を取り扱うスーパーマーケット。基本的には業者への販売がメインだが、一般客の利用が可能な店舗もある
ミニスーパー小型のスーパーマーケット
高級スーパー取り扱い商品を高級路線としたスーパーマーケット
宅配スーパー消費者の自宅まで商品を届けるスーパーマーケット
ディスカウントストア低価格で商品を販売するスーパーマーケット

スーパーマーケット業界の動向

全国スーパーマーケット協会発表の「2023年度版スーパーマーケット白書」および「2022年次統計」、経済産業省の「2022年小売業販売を振り返る」より、スーパーマーケット業界の近年の動向について解説する。

売上、店舗数ともに増加傾向で推移

2022年のスーパーマーケット業界の総販売額は約25.5兆円、売場面積1200~1600平方メートルの店舗における年間売上高は約14億円となった。全店ベースでは100.8%と前年実績を上回ったが、既存店ベースでは99.5%と2年連続で前年実績を下回っている。

小売業全体でもスーパーマーケット業界は前年度よりも増加となっている。店舗数は全国22,762店舗と、前年度比+226店舗の増加となった。

スーパーマーケット業界の売上や店舗増加の背景には、コロナ禍による外出や外食自粛の影響を受け、自宅で食事を取る機会や中食の需要が増えたことが挙げられる。

総菜や日配品が好調、生鮮品や衛生用品が低下

商品カテゴリー別の売上を見ると、惣菜部門が102.7%と2年連続でもっとも伸び率が高いカテゴリーとなった。コロナによる行動制限の緩和により、自炊よりも中食需要が高まりつつあることが追い風になったと予測される。次に好調となったのが日配カテゴリーで、100.0%と前年並みの実績を記録した。相次ぐ値上げと冷凍食品の好調が影響したと考えられる。

青果、水産、畜産の生鮮品カテゴリー、一般食品カテゴリーは、単価は上昇したものの前年をわずかに下回った。コロナによる行動制限緩和により、家庭内食品需要の低下が影響したと考えられる。またマスクをはじめとする衛生用品のコロナ特需からの反動が続いている非食品部門は 95.4%と、マイナス幅がもっとも大きい結果となった。

キャッシュレス決済が拡大

2019 年 10 月に実施されたキャッシュレス・ポイント還元事業、およびコロナの影響による非接触決済の需要の増加にともない、キャッシュレス決済の導入が中小企業にも急速に拡大した。「スーパーマーケットにおけるキャッシュレス決済に関する実態調査」によれ

ば、スーパーマーケットにおける決済比率は、クレジットカードが15.9%(前年比56%増)、電子マネー・QR コード決済が13.1%(前年比75%増)となり、スーパーマーケットでもキャッシュレス決済利用は着実に拡大している。

政府は2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度にまで拡大させることを閣議決定している。キャッシュレス決済導入側のスーパーマーケットでも、導入に対するメリットを感じる事業者が増えている一方、現状では現金とキャッシュレス決済両方に対応しなければならない事務負担の増加や、決済事業者に支払う手数料の負担から導入に踏み切れない事業者もいるのが現状だ。

PB(プライベートブランド)商品が好調

総売上高に占めるPB商品売上高比率は、全体では平均10.3%。前年と比べたPB商品売上高は、全体では「増加している」の割合が生鮮・日配で42.3%、食品(ドライグロサリー)で41.7%となっており、生鮮・日配は前回調査時から「増加している」の割合が高くなっている。原材料費高騰や値上げのなかでも、低価格で販売されているPB商品に消費者のニーズが集まった結果と予測されている。

スーパーマーケット業界の課題と取り組み

スーパーマーケット業界を取り巻く社会情勢の変化を受け、新たな課題が発生している。スーパーマーケット業界の抱えるおもな課題と取り組みを解説する。

少子高齢化による働き手不足

少子高齢化によりスーパーマーケット業界でも人手不足の傾向にある。正社員が不足している部門は「水産・鮮魚」「精肉」「惣菜」の順、パート・アルバイトが不足している部門は「レジ」「水産・鮮魚」「惣菜」の順となった。人手不足対策(採用活動)の取り組み内容としては、「リクルート活動の強化」「高齢者の再雇用」「パート・アルバイトの正社員化」の順となっている。

環境への配慮

環境への配慮もスーパーマーケット業界に求められている。スーパーマーケットで実施している環境への取り組みには、廃棄物リサイクルがある。調査結果によると、各スーパーマーケット事業者が回収を実施している品目は、「ダンボール・古紙」「廃油」「発泡スチロール」の順となった。

食品ロスへの対策

持続可能な社会の実現のために、環境への配慮とともに取り組みが必要なのが食品ロスだ。スーパーマーケット業界では、「惣菜」「水産」「畜産」の順に食品ロスが発生しており、特に総菜のロス率平均値10.1%にも及ぶ。

食品ロス削減の取り組みとして、「値引きによる売り切り推進」「発注の精度向上・需要予測型発注の導入」「少量販売・小口販売の推進」「販売期限の見直し」「フードバンクの活用」「商品の予約販売強化」「発注の精度向上・需要予測型発注の導入」などが行われている。

スーパーマーケット業界は安定的に需要の高い業界

スーパーマーケット業界の概要や近年の動向、課題と取り組みについて解説した。食料品や日用品を主要商品として取り扱うスーパーマーケットは消費者の暮らしの中で欠かせない小売店だ。

今後も安定した需要は見込まれるものの、小売店間での競争で勝つための優位性や、発生する課題に対応できる企業力を身に付けることも求められていると言えるだろう。

編集長竹下より

食品という需要が安定的に再生産され商品を主力に取り扱っていることから、スーパーマーケットの事業は市場という意味では安定しているといえる。

一方、生鮮食品を始め鮮度の重要性が高く、数量も安定しない商品分野が主力であることから調達の広域化、大規模化が難しいため結果的に「各地に企業が群雄割拠」する状態が続いている。

これは欧米とは異なる傾向といえる。需要の安定のため、急激な売上減に見舞われることが少ないことから急速に再編が進むことはないが、少子高齢化、人口減少が急速に進む日本では、やはりじわじわと企業の集約化が進むことになるとみられる。それがどのような単位で、どの程度のものになるのか。注目すべきポイントである。

リテール総合研究所所長『リテールガイド』編集長 竹下浩一郎

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