キーワードは「体験」機能の強化、世界最大級食品見本市「シアル・パリ2026」が示すグローバルフードトレンド
2026.08.20
世界最大級の国際食品見本市である「シアル・パリ(SIAL Paris)」。1964年にパリで初めて開催され、60年以上の歴史を持つ世界最大級の食品見本市である。西暦の偶数年の10月にパリで開催され、今年2026年は10月17〜21日の期間、いつもの会場であるパリ・ノール・ヴィルパント(Paris Nord Villepinte)で開催される。会場の規模は28万㎡の広大なもので、今回も約200カ国から8000社規模が出展し、約29万5000人の来場が見込まれるなど、国際色豊かな巨大イベントとなっている。日本から調達、視察に向かうバイヤー、経営者も多い。
新商品を対象とする「シアル・イノベーション」や「シアル・フォー・チェンジ」といったコンクール、トークイベントの「シアル・サミット」など、商談以外のコンテンツも数多く並び、最新トレンドの情報を含めたキャッチアップの場としても定着している。ここのところ、スローガンとして「Inspire Food Business」を掲げている。シアル・パリのディレクターとして来日したオドレイ・アシュワース氏に「シアル・パリ2026」の概要と食品業界のトレンドについて聞いた。

商談の場に「体験」を重ねる仕掛けづくり
食品の国際見本市は、メーカーと流通のバイヤーが一堂に会し、商談と情報収集を同時に済ませる場である。出展者にとっては、自社の営業網では届かない国、地域のバイヤーに一度に会える数少ない機会であり、来場者にとっては、世界の商品トレンドを数日で見渡せる場になる。日本の食品メーカーの場合、国内市場が人口減少の局面に入る中で海外市場は数少ない伸びしろの1つ。国際見本市に出展することは、その意味で輸出の可能性を模索する手段になり得る。まずは「シアル・パリ2026」の注目点から聞いた。
「大きな新機軸として、まず1つのホール全体を『スナッキング』に特化させます。スナッキング(間食、軽食)は、いまのトレンドとして、もはや無視できない存在になっているからです。また、今回は世界のストリートフードに注目し、『ストリートラボ』というコーバーを新設します。ホール6の前方にパリの街並みを会場の中に再現し、そこを歩きながら世界のストリートフードを実際に味わっていただく。ただ食べる体験だけでなく、空間そのものを体験していただきたいと思っています。
また、『シアル・サミット』という(登壇者を招いての)トークイベントでも、さまざまなコンテンツをお届けします。「出展者の動向としては、スタートアップがどんどん増えていて、スタートアップ向けの専用スペースは、前回(2024年)に比べて3分の1ほど拡大しました。『シアル・フォー・チェンジ』も、コンクールを実施するだけでなく、今回は展示スペースを設けます。その展示を見ていただければ、いまどんなトレンドがあるのかがひと目で分かるようになっています」

スナッキングはここ10年ほど指摘される食事の仕方の傾向である。伝統的な食事の回数と時間帯が崩れ、まとまった1食を取るというよりは、何かをしながら少しずつ食べるようになっているといわれる。自ずと商品開発も販売方法もそれをターゲットとしたものが増えていくだろう。
また。今回は「シアル・イノベーション」が30周年を迎えるという。どんな仕掛けを用意しているのか。
「30周年に合わせて、『シアル・テイスト』のスペースを強化します。『シアル・イノベーション』で紹介された商品を、その場で試食、試飲していただける場です。前回も試食、試飲スペースを設けていたのですが両者は分かれていました。今回は完全に一体化させます。
選ばれた商品や企業が、5分から10分ほど、『どこがイノベーティブなのか』『なぜ、開発に至ったのか』を、自らの言葉で紹介できます。出展者にとって自分たちの取り組みを、来場者に直接語れる機会にもなるんです」

見本市が商品との出会いや商談の場であること自体は、いまも変わっていない。ただ、商品の情報だけであれば、実際に出向かなくてもオンラインでも相当程度まで得られるようになった。
一方で、オンラインだけでは伝わらないものもある。しかも、食品はこの要素の重要性がかなり高い分野だ。実演と試食を強化したことは、その意味で理にかなっているように見える。
「体験ということでいえば、『シアル・ベーカリー』ではパン職人が実演し、その場で焼きたてを試食できます。新しい技術や新しい製法のデモンストレーションを、時間割のように、絶えず誰かが手がけている。ピザの実演ゾーンもあります。(広い会場を)見て回るためのテーマごとの見学ルートや、出展者と来場者をニーズに合わせて引き合わせる『ビジネスマッチング』も用意しました」
「ストリートラボ」にせよ「シアル・ベーカリー」にせよ、今回は「体験」に価値を置く。その狙いは、どこにあるのか。
「食品業界は、ただ何かを食べて味わうだけのものではありません。コンビビアル、つまり、『和気あいあい』とした雰囲気があり、そこに新しい発見がある。そうしたものを、この見本市で形にしたいと、ずっと考えてきました。そこに、いまのトレンドが重なっているんですね」
商談の場であることに変わりはない。そこに実演と試食を重ね、2026年版は「体験」の密度を高める
激変の世界情勢を「チャンス」と捉え直す
世界的なインフレ、そして中東情勢の不安定化。こうした変動は、フードビジネスや見本市の運営にどのような影響を与えているのか。
「産業への影響は大きく、その筆頭がエネルギー問題です。世界では危機が次から次へと起こり、国際的な規模で影響が広がっています。近年ではまずウクライナの紛争があり、(食品や原材料の)供給網が完全に分断されました。いったんは乗り越えて安定しつつありましたが、ウクライナとロシアの問題はまだ終わらず、イランをめぐる問題も出てきています。
それらがエネルギー価格に影響し、食品や加工の産業はエネルギーを非常に多く消費しますから、当然その影響を受けます。(包装資材の)パッケージングや印刷のコストにも、影響が及んでいます。何かが起これば、食品業界はさまざまな分野で、その影響を受けてしまうんです。
イランは、世界で流通する石油の2〜3割ほどに関わるとされます。そのすべてではありませんが、世界のどこかで何かが動けば、ほかの地域にも影響が及ぶ。それでも私は、いつも前向きで、楽観的なんです。課題をきちんと読み解けば、そこに『チャンス』を見いだせる。企業や産業が課題を読み解き、そこにチャンスを見つける手助けをするのが、われわれSIALの役割だと考えています」
変化をチャンスに変えるということか。
「そうです。SIALのような見本市があれば、対話を続けられます。しかも、(各国の)大使や大臣といった公的な参加も多く、SIALは『外交のハブ』でもあるんです。その場を生かして、ともに解決策を見つけていく。それもまた、SIALが果たすべき役割なのです」
日本から出展する企業、来場する人々に、シアル・パリは何を期待し、何を提供できるのか。
「まず、日本の出展者すべてにお伝えしたいのは、コンクールにぜひ参加してほしいということです。出展料の中に参加権が含まれていて、応募に追加費用はかかりません。自社の商品がイノベーティブだと思ったら、遠慮なく応募してほしいですね。(各国から集まる)国際審査員が審査し、選ばれれば、世界のプレスやメディアにも紹介されます。自社を輝かせる絶好の場であり、得るものはあっても、失うものは何もないんです。


『シアル・フォー・チェンジ』も同じです。目的は、『何でもできる会社であること』を示すことではありません。小さな会社であっても、その規模なりの取り組みが、大きく評価され、業界と共有する価値を持つことがある。だから、ぜひ応募してほしいのです。
もう1つ、(出展の)プロフィルを、できるだけ詳しく書いてください。ざっくりと適当にではなく、真剣に、細かく書く。そうすればするほど、重要なバイヤーと出会うための(引き合わせの)マッチメイキングが、より良く機能します」
出展社数が8000社規模になれば、来場者が全てのブースを見て回ることは物理的に不可能である。検索や絞り込みに引っかかるかどうかが、出会いの可否をそのまま決めることになる。プロフィルを細かく書くという助言は、心構えの話ではなく、そうした構造から出てきた極めて現実的なノウハウと受け取るべきだろう。
来場者に向けては、何を勧めるか。
「『宿題』をしてきてください。宿題とは、つまり(来場前の)事前の準備です。誰に会いたいのか、自分の目的は何かを事前に見極め、配布されている情報に目を通しておく。参加したいカンファレンスも、あらかじめチェックしておく。いかに効率よく会場を回るかを、思い描いてきてほしいんです。そして最後に、これも大切ですが、いい靴を履いてきてください。とにかく、たくさん歩きますから(笑い)。
いずれにしても、主役はシアル・パリではありません。来場してくださる皆さま、出展してくださる皆さまがあってこそです。われわれは、その場を提供しているだけなんです」
シアル・パリが掲げるスローガンは前述のとおり「Inspire Food Business」。「食のビジネスに刺激を与える」という言葉どおり、今回は「体験」の機能を大幅に強化することで、来場者の五感に訴えかけると共に「実際にその場に訪れる」ことの意義を一層高めている。

インタビューに先立って行われたプレス向けの発表会では、コンサルティング会社のプロテインXTCがまとめた直近のアジア地域の食の世界トレンド(2022年から25年の変化)も発表された。「イノベーションは『パーソナライズ』の方向へ」とした上で、「食の喜び」「健康」「エシカル(あるいはサステナブル)」の3点について次のような傾向が見られるとした。
まず、「食の喜び」については拡大傾向が見られるという。これは「多彩な感覚体験」「新しい味覚体験」に結び付くもので、五感に訴えかけるものや海外の要素を含むものなどが製品から読み取れるという。次に「健康」、身体的なウェルビーイングは消費者にとって重要な購買動機になっているとし、製品におけるイノベーション数ではではコラーゲン配合が2倍以上、プレバイオティクス訴求の商品がほぼ3倍など顕著な増加傾向が見られるとした。
一方で、新型コロナウイルスによるパンデミックによって世界的に関心が高まった「エシカル」については、製品からは減少傾向にある他、消費者の意識としても依然17%の消費者がサステナブル製品にプレミアム価格を支払う意向を持つ一方で、この割合は複数の市場で減少傾向にあるとした。
盛り上がりを見せた「オルタナティブ(代替)食品」も含め、コロナ禍で拡大したエシカルの意識については「定着」といった状況とも取れるが、それ以上に、「食」に関する喜びを求める傾向の盛り上がりが見られる傾向は、コロナの影響が減少する中で、改めて食が元来持っていた「喜び」の部分に関心が高まっていることの表れといえそうだ。
それは今回のシアル・パリの「体験」重視の姿勢ともリンクする。同時にそれは、小売業の店舗の在り方、機能についても大きな示唆を与えるものだ。改めてリアル店舗における「体験」の価値に注目が集まっている現在の傾向と無関係ではないだろう。
シアル・パリ2026概要
会期/2026年10月17日(土)~21日(水) 10時~18時30分(最終日は17時まで、14時までに要入場)
主催/コメクスポジウム社(フランス)
会場/フランス パリ・ノール見本市会場
出展分野/食品加工、インスタント食品・ケータリング、冷凍食品、乳製品、海鮮類、飲料、オーガニック・ウェルネス、惣菜製品、肉、豆類・穀物・果物、代替食品、アレルギーフリー食品など(※出展者リストは公式ホームページにて公開)
シアル・パリ2026公式ホームページ(英語/仏語、リンクは英語版)/https://www.sialparis.com/en









