D2Cブランドのショールーミングストア「INSEL STORE」がキラリナ京王吉祥寺にオープン

2022.04.12

2021.07.01

京王電鉄がQoil(コイル)と共同で6月30日、キラリナ京王吉祥寺(東京都武蔵野市)の3階に、アパレル D2C(Direct-to-Consumer、自社で企画・製造した商品を自社サイトで直接販売する企業のこと)ブランド複数社による共同出店型のショールーミングストア「INSEL STORE(インゼルストア)」をオープンした。

INSEL STOREは、出店者であるD2Cブランドと、利用するお客が実際の商品を通じて実店舗での接点を創出すること目的に設置された。

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響に伴う外出自粛などによって購買活動を変化させているお客に向けて「ショールーミングによるショートタイムショッピング」や「直接試してから買えるEC(電子商取引)」として、新たな買物体験を提案する。京王電鉄では初めての導入となる体験型店舗だ。

最多で約20ブランドが出店。入口近く、エスカレーターを上がったすぐの場所で、人通りも多い。該当スペースの来店者数予測は1日当たり約2000人。出店側にとっては、商品を実際に展示できるという意味では大きなメリットがある
什器は汎用性の高い箱型の簡素なもので、さらに可動式になっている
什器にはカメラを設置。個人情報を除いた形で、人が立ち止まったり、商品を手に取ったりといったことを認識。分析に生かす。当初は、人流解析はしないが、データは取っていることから、将来的には人流による配置の改善などもしていきたいという
お客が商品を手に取り、購買したいと思ったら什器内で配布されているQRコードを読み込むことで各ECサイトに送客される

大きな特徴は、「店での販売をしないこと」。あくまで商品を体験することに特化し、商品を購入する場合はECに送客する。そのため、在庫は持たない。

店舗で購入できるようにすることは現状、考えておらず、「触ってもらって、ECで買ってもらう。海外ではかなり広がっているスタイルになっているが、果たしてこの動きが日本でどのくらい需要があるのかを見たい。われわれとしてはチャレンジして先駆者になっていきたい。ただ、この場で買えないことがブランドにとってデメリットになる可能性がある。それが大きければ、店舗での売上げを挙げるということで、INSEL STOREのECサイトを立ち上げてこの場で購入する動線は作る可能性はある」(末廣理史・コイル営業部部長兼第1アカウントGシニアマネージャー)

「昨年8月に日本での展開を開始したb8taに近いモデルで、「サービスとしての小売り(リテール・アズ・ア・サービス、RaaS)と呼ばれる店舗の一環といえる。

Qoilとしては、新型コロナウイルス感染症による外出や営業の自粛などによりリアル店舗の売上げが伸び悩み、商業施設をはじめとしたリアル店舗は「物を売る場」というだけでない新たなビジネスモデルの構築が求められていると考えている。

京王電鉄としても、「われわれデベロッパーの方も、施設の売上げを最大化するという考え方から少しずつ脱却し、新たな視野を持って、新たなビジネスモデルに挑戦するタイミング」(角田匡平・京王電鉄開発事業本部SC営業部キラリナ京王吉祥寺副支配人)と考えた。

一方、ECの売上げは好調で、大きな需要があると考えられる半面、特にアパレルブランドでは試着ができずにサイズ感が分かりづらいことなどが、成長、拡大上の大きな課題となっていると考えられることから今回のINSEL STOREの企画に至ったとしている。

INSEL STORE はD2Cブランドが複数ブランドで商業施設のスペースをシェアする形で出店、同時に店頭データを取得、分析、活用する。

従来のポップアップストアとの大きな違いは、「店舗はあくまでショールーミングの場」と位置づけてサンプル品のみ陳列し、購入はECに遷移してもらうモデルである点、スペースや運営に必要なリソースを共有することで効率化しつつ相互に集客し合える点、店頭の行動データを取得し、ECでのデータと併せて分析、活用ができる点にある。

「ブランドによってECが違い、それぞれのブランドの会員になるので、継続的なコミュニケーションが図ることができることも大きなメリット」(末廣部長)

運営は京王電鉄と Qoilが共同で行う。京王電鉄は主に出店スペース、什器、計測機器の準備を行い、Qoilは出店するD2C ブランドの窓口となる。また、京王電鉄、Qoil、クレストの3者でデータ分析を行い、出店ブランドに対するフィードバックを実施。

京王電鉄とQoilは、事業推進契約を締結。出店者は出店契約を京王電鉄ではなく、Qoilと結ぶ。また、京王電鉄はクレストとリテールアナリティクスサービス利用契約を結ぶ形となっている。

京王電鉄とクレストはINSEL STORE内に限らず、キラリナ京王吉祥寺の施設、出入口やエスカレーターなど主要動線上に計測機器を設置し、来館者数の状況把握、比較やイベントなどの施策分析に活用されるリテールアナリティクスデータを取得していく。

お客は、INSEL STOREにおいて、実店舗を持たずECサイトでしか購入できないD2Cブランドの商品を手に取り、素材を確かめることができる他、常駐する従業員から商品の説明を受けることも可能。試着室も用意しているため、試着することもできる。

商品が気に入った場合、配布されているカードに記載のQRコードなどから各ECサイトにアクセスし、購入することができる。

また、出店しているD2Cブランドは一定の周期で店舗の入れ替えを行うため、お客は来店するたびに、さまざまな新しい商品に出会う可能性が高まるという効果も見込める。

出店者としては、複数のD2Cブランドが商業施設のスペースに共同出店をするため、実店舗出店のハードルが下がることになり、お客との接点を実際に持つことができる。

また、商品展示のみのコンパクトなスペースであるため、展示店頭在庫が不要であることから出店費用が抑えられ、また、商品を案内する従業員やデータ取得に必要な機器準備なども全てパッケージ内に含まれている。販売に関する業務を必要としないため、従業員は常時2人ほどと少ない人員での運営が可能となっている。

出店者が出店に要するのは、初期費用の十数万円と、月額の出店費用十数万円。現状は出店者側の従業員の配置を想定していないため、出店者は人件費やオペレーションコストがかからない。

出店者の1社、PMCの代表取締役/ファッションディレクター・デザイナーの丹羽俊介氏は「服は人が着ることで初めて完成すると考えている。実際に服を着てもらって、良さを知ってもらって、ECでゆっくり買ってもらう。正直、そういう場所を探していた。ブランドを知ってもらうことがすごく大事で、あとは計測ができて、それを商品に反映させていくことが重要。売上げというよりは、今回はマーケットにどうやってブランドが入っていけるかを図ることが目的」と語る。

また、今回、クレストと共同してリテールネクストジャパンのAI(人工知能)センサーカメラおよびデータ分析サービスと、Ideinの提供する AI カメラ「ミルシル」を活用し、お客の個人情報は取らない形で性別や年代を推定し、定量データの取得を行う。

定量データに従業員が取得するお客の声などの定性データを加え、出店するD2C ブランドにフィードバックを実施、今後のプロモーション戦略の立案、ターゲットの拡大、変更をはじめ、商品開発や改善などに生かせるようにする。

Qoilとしては、世界の小売業界のトレンドは現在大きな変革期を迎えていると考えている。米国ではアパレル、ビューティ、ホームグッズ、ペット、フィットネスなどさまざまな分野の40以上のブランドがそろう「Neighborhood Goods」をはじめとして、幅広いジャンルのD2Cブランドを集めたリアル店舗が広がってきていることから、Qoilとしても今回の共同事業を基軸として、将来的には食品やインテリアなど衣食住にかかわるD2Cブランドへの展開を目指すとしている。

INSEL STORE概要

所在地/キラリナ京王吉祥寺3階(京王井の頭線改札階)

オープン日/2021年6月30日

面積/約59㎡

出店可能ブース/約20ブース

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