ヨークベニマル大髙耕一路社長が語る「鮮魚売場の強化」「デリカ事業の今後」「SMグループの方向性」
2024.11.25
2024.11.18
ヨークベニマルは、日本の中でも早いペースで人口減が進む東北を地盤としながらも、着実に出店をしながら堅調な業績を維持している。この秋には所属するセブン&アイ・ホールディングスの再編で、スーパーマーケット事業がヨーク・ホールディングスとして独立する中で、主要な一角を占める存在になった。苦戦が続くイトーヨーカ堂の改革に及ぼす影響も、今後さらに大きくなる。まさにセブン&アイグループのスーパーマーケット事業のキーマンの1人、ヨークベニマルの大髙耕一路社長が、福島県いわき市の泉玉露店オープンの際して、現在の取り組みと今後について語った。
目次
鮮魚売場の強化と鮮度向上策
「特に競合店と目の前で勝負している市名坂店(仙台市泉区)を皮切りに、かなり鮮魚の取り組みを強化した。特に丸魚の取り扱いを非常に強化していて、本当に丸魚の比率が高いところは、上からスモークを流す仕組みを付けるところも増えてきている。
丸魚の取り組みをすることによって、結局、午前中にお魚を見ていただいて、選んでいただいて、お昼過ぎには順次、切り身にしたり、お刺身の盛り合わせにしたりということをしている。
結果的にお刺身も夕方の「晩の市」と呼んでいる『第2の開店』時に、お客さまには鮮度の高いお刺身だったりとか、切り身だったりをご提供、ご提案できている状態にある。
そういう意味ではいま時間帯別の展開ということで、値付け機を通すごとに製造時間が出るので、午前10時くらいにまず1回ピークを作って、次に4時(16時)に向けてまたピークを作るという形で、人のシフトも含めていま取り組みをしている。
特に鮮魚、精肉辺りは、マネジャーたちについては、いままでは朝の開店に合わせて『早番』だったものを『中番』化している。(朝の)荷下ろしが大変だからとか、いろいろあったが、そこをメンバーさん、パートさんたちにお願いをして、マネジャーたちは9時、9時半などのスタートにした。
そうすると夕方5時(17時)、6時(18時)まで、あまり残業なく、負担なく、出勤いただける。この形にすることで、最後、値下げのタイミングなどまで、ちゃんとしかるべき人がいられる。それで最後、遅番のアルバイトの皆さんにコミュニケーションをして帰る。
これがどうしても6時、7時に出勤すると、(残業をしても)4時(16時)、5時(17時)くらいに帰らなければいけない状態になってしまう。
そこを開店品揃えはある程度パック数だけ指示を出す形にして、10時のピークに向けてマネジャーたちが来て、そこからお昼の様子を見て、夕方の『晩の市』、最後の値下げの指示と翌日の開店準備、閉店前の準備、翌朝の準備などまでアドバイスをする。
その意味では中番くらいがちょうどいいのかなと思っている。結果的に残業も抑えられる。朝からいると、どうしてもどこまででもいてしまうところがあるので、朝の開店時の負担をストア社員の皆さん、もしくはサブの方にお願いすることで、残業代と鮮度と、売り切りの食品ロスの部分、翌朝の準備などがうまく回るようになって、全店で取り組んでいる。
丸魚もいままでは翌日まで繰り越してしまう店も多かったが、いまは夕方に丸魚が売場に出ていたら、早くつぶし込むようにしている。店のサイズにもよるが、基本的に小型の魚については全部売り切って、翌日は新しく仕入れたものを並べるようにしている。鮮度も良くなった。
数年前までは翌日に繰り越してしまうこともあったが、どこかで1回断ち切らないということで、このコロナのタイミングで取り組んで、そこは変わってきた。
トレーナーが巡回しながら、それぞれの地域に合わせた近海魚などについても、メンバーさんたちに勉強していただいて、奇麗にさばいていただいている。尾頭付きのような商品を作って、例えば2パックぐらい置いておくだけでも、『お客さまの目の行きどころが違うんです』といったことをお店でも伺うので、みんなそこは上手に工夫しながらやっていただいているのかなと思う」
デリカの売上高構成比を15%まで高めることを目指す
「デリカは、(元惣菜子会社のライフフーズと2022年3月に)一体化して3年目、2年半が経った。最初の2年間はデリカ統合プロジェクトと、デリカ統合推進室を置いて、間に会話のクッション材として入ってもらっていたが、3年目に入ってそれをやめた。
組織としても、いままで営業本部の横にデリカ事業部が並列であったものを営業本部の中に入っていただいた。営業本部の中に商品とデリカと販売、さらに物流と開発も入っていただいたので、営業本部長は大変なのだが、営業本部長と話をすると、これらのこと全てが解決する形になった。
イトーヨーカ堂がデリカの(売上高)構成比で15%を目指すということを見て、ヨークベニマルも目指そうと思った。ここ数年、『with mom』(デリカ売場のブランド)化を進めてきたが、いま13%まで上がってきている。
『with mom』化することによって、島を増やしたり、いままで壁面を使っていたものをなるべく島を使って展開したりするようにしたので、商品を埋めるのは大変だが、お客さまからすると『選べる売場』になってきたのかなと感じている。これで15%まで乗せられないかと考えている。
ただ、これについて本部長合宿で話し合ったのだが、『そんなに簡単ではないんだ』ということが分かった。
ヨークベニマルの場合は、自社の工場から持ってくるか、もしくはお店で直接デリカとして、例えばマグロのコロだとか、豚カツの豚肉を仕入れることをしているので、他社のようにメーカーの商品が一切ない。
全部、自分たちの工場、もしくは自分たち(店)で作ったものしかない。天つゆだとかいろいろなスープなど、だしも含め全部自分たちで作っている。ハム、ソーセージなど一部の加工品など作れないものも一部、当然あるが、それ以外は全部自分で作っているので、その中で、どれだけ高められるか。
今度、第4工場が来年3月からテストスタートする。そうすると、いま工場間の転送もしているが、第4工場を起点にする形にしながら、いったん300店ぐらいまでの供給体制が整う。第1、第2工場がもう50年ぐらい経っているので、そこの再編も考えている。2030年ぐらいまでには第1、第2の再編も終わらせたいと思っている。
(セブン&アイ・)ホールディングス側にも投資計画をご理解いただいて、それがイトーヨーカ堂の再生につながるようなモデルケースになるように考えている。われわれの方としても、例えばベーカリーの冷凍生地など規模が必要なものも当然あるので、そういったものも供給させてくださいということも含めて、ベーカリーの設備を入れ替える話もしている。
そういうことも含めて、デリカはやっていけば15%に行くかなと思ったら、今度はお店で並べる人と最後に仕上げる方がいない。だから毎年、各お店に2人、3人ずつ増やしていくくらいのことをすると、2030年くらいまでには多分15%にまで行く態勢が整うだろうと。
だから、そのくらいの覚悟で採用も、売場のレイアウトも、工場の配置もすると『15%』。
いま、工場の炊飯の設備も拡張して11月からテストを始めている。工場でかなりの部分を仕上げ、お店の作業、最後スチームをかけるだけのご飯にするなど、とにかくお店の負担を減らしながらも、出来たて感と健康もアピールしていく。
ただやはり豚カツは、店内でパン粉付けした方が良いといったことも分かってきている。細かいメッシュのものは落ちないので、そんなに大きな差が出ないが、豚カツについては、うちのパン粉のメッシュだとどうしてもトラックで運ばれてくると落ちてしまう。お店で手間がたくさんかかる部分はあるので、どれだけ他の部門をうまく効率化しながら確保していくか。
いま青果は全部デジタルプライスに切り替えている。やはり産地表示だったりとか価格の変更だったりが一番多いので、いったん全店、デジタルプライスに切り替えを行っている。全部門にデジタルプライスを入れている店を設けて実験もしている。いまはだいぶバッテリーの持ちも良くなってきて、色味も奇麗に発色するようになっている。
いろんなものが出てきて、新しい技術も出てきたので、それで少しでも従業員の方の負担が減るのであれば。最後は包丁を握る方、店内で弁当を作る方、揚げ物をする方、パンを作る方など、インストアに人を集約していこうということで、まずは『デリカで15%』というのは、商品部も含めてみんなそこは理解をいただいた形になっている。販売も含めて、レイアウトも工夫しながら、『どうしたら15%に行くのか』ということをテーマとしてみんな問題意識を持ってやっていただいている。
15%に行くと、いまの営業利益率が4%弱くらいのところを4.5%くらいまで上げようと思うと、店を増やして営業利益率を上げていくのはなかなか簡単ではないので、売上げも大事ではあるが、やはり交差比率で考えるとデリカを強くしていくことにしっかり取り組んでいこうとなっている。
コストが上がっている中、見栄えが大事だということは分かるのだが、上げ底と言われないように、誤解を与えないように、いま特にデリカを中心に包材を1回、見直している。こんな時期だからこそ、見た目とか見栄えではなく、食べてみたらお腹いっぱいになったと思っていただけるような商品でないといけない。
企業理念であるヨークベニマル十二章の第四章に『食べ終わった時が販売の完了。まずかったらいつでも返金せよ。』とある。買っていただくところが販売の完了ではないので、そこを踏み間違えてはいけないのかなと。
価格については、『価値を上げたときの適正価格に直している』ということだと思う。結果的に価格が上がっているかもしれないが、例えばそこに季節の野菜を添えるとか、ちょっと一手間、二手間加えることで、適正な価値に価格が追い付いていくような形になることが良いのではないか。全く同じものを10円、20円上げたらそれは値上げだが、そうではなくて、やはり一手間加えることが大切だ。
ここで重要なことは、デリカの人はFL(Food Labor、食材、人件費)コストという感覚を持っていること。原料代を除いて、手間だけでも何円かかっているというコスト感覚を持っている。
FLコストが変わったのであれば価格も変えるべきで、それは値上げではなく価格価値に合わせた『価格改定』である。その考えは信念を持ってやっていこうとしている。そのまま同じものを値上げしていくことがないようにだけはしようと」
厳しい環境下でも地域シェアを上げていく
今年は新店2店舗が限界だったが、来年以降は何とか4、5店舗を出店していきたい。環境的にはどんどん苦しくなってきている時代なので、非常に厳しい中でも、われわれは、微増を続けようとしている。ただ、売上げだけでなく、いま営業利益の中身を入れ替えようとしているので、その中ではまだまだ地域のシェアを上げるチャンスは残っているのではないかと思っている。
財務的にはまだ実質無借金を続けている。ただ、それが素晴らしいかどうかについては、これから(インフレの時代の)考え方はあると思うので、瞬間的にはレバレッジを利かせてもいきたい。特に工場への投資があるので、その分くらいは別に借り入れても全然、問題ない。
銀行などから、いろんな(M&A〈合併・買収〉などの)お話もある。あまりあわてず、じっくり、それこそヨーク・ホールディングスの中で一番効果が上がるような形でのエリア拡大なり、出店をいっしょに考えていければと感じている。
ヨーク・ホールディングスについては、よく『コンビニから切り離される』という言い方をされるのだが、そうではなくて、『いままできょうだいだったコンビニが成長して大きくなって、自立して自分で家を構えた』と社内では説明している。『残されたわれわれだけでも1.6兆円くらいの売上げの規模があって、年間5億人以上のお客さまが来てくださる企業体として残るので、全くそこは心配ない』と。
旧ヨークとはずっといままでいっしょにやってきたし、イトーヨーカ堂もこれから食品スーパーとしてやっていく形になり、われわれと同じ業態に近づいてくる。食品スーパーとしてイトーヨーカ堂も含めてトータルで同じ方向に向かってやっていくということになる。そう考えると、われわれのフォーマットがどれだけ、イトーヨーカドーとヨークに『いいとこ取り』をしていただけるかというのはある。
システムも、旧ヨークはいっしょだし、イトーヨーカ堂にはGMS(総合スーパー)の館のシステムがあるが、そこもこれからヨークベニマルに寄せ、いっしょに見られるような形にしていくので、そうなるとだいぶすっきりしてくる。
(ヨーク・ホールディングスに)なぜ、専門店があるのかという声もある。ただ、われわれとしては、いま一番、お客さまの層として厳しいのが若い世代ということで、例えば、赤ちゃん本舗であれば、やはり子育て世代といった、われわれになかなかいない世代、どちらかと言えばディスカウントに行かれてしまいそうなお客さまについて、しっかり顧客IDも含めて持っている。ヨーク・ホールディングスとしてのこれからの顧客ID戦略ということについていま議論を始めているところだ。
また、ロフトについては、PB(プライベートブランド)も留め型もほとんどなく、NB(ナショナルブランド)の商品だけで、あれだけの売場の提案力と集客力がある。PBがない世界で、あれだけの催事だったり、イベント提案だったりができている。『何かないかな』ということで、新しい発見ができる品揃えはすごい。特にグロサリーやデイリー、もしくはお店全体の雰囲気作りについても、ロフトに学ぶべきところはものすごくあるのではないかなと思っている。
そういったことも含めて、単にテナントとしての関係ではなく、チャンスはあるのではないか。最近、頻繁にお話しさせていただく機会も増えてきている」