ヨークベニマル真船幸夫会長激白、ヨークベニマルの「経営論」とイトーヨーカ堂の「今後」
2025.02.19
2025.02.18

目次
ヨークベニマルも自前でのネットスーパーには取り組む計画はない
――直近の状況は。
真船 客数はまずまずだが、点数が伸びない。(一品)単価が伸びているので、売上げにつながっているというのが、各社共通の傾向ではないか。その客数の伸びが実客数なのか、来店頻度なのか。その辺のところがキーになってくると思う。
各社共通の傾向だと思うが、売上げは上がっているが、人件費の伸びと、粗利の伸びが一致していない。やはり粗利率が非常に取りにくい環境になってきている。特に主力の惣菜部門のインパクトが非常に大きい。
――そうなると、値上げを含めた売価設定が重要になる。
真船 順次、転嫁すべきところは転嫁していかないと、いつまでも吸収できるものではない。お客さまが許してくれる範囲の中でやっていこうと思う。ただ、一部値上げをしているが、やはり498円が598円になってしまうと厳しいこともある。「ワンコイン(500円)」(で買える価値)は大きいが、それを死守していくのはなかなか大変だ。特にわれわれのようにインストア製造にこだわっているところに関しては。
センター型で、昨日の夜に作った商品を並べれば、また違う部分があるだろうが、インストアで炊いて、詰めて、揚げて、になるとやはり手間暇がかかってしまう。その価値をどうやってお客さまに伝えるかが重要になってくる。
例えば、寿司でマグロの商品を一所懸命やってみようなど、いろいろなトライはしている。寿司はいま一番厳しく、寿司の商品開発は非常に難しい状況だが、それでもやはり「あそこのお寿司(でなければいけない)」という商品がないとだめ。(寿司部門では)ラインロビングをしておにぎりを進化させた提案もしている。

――デリカはもともと強みとしている工場製造の比率を上げていく方向か。
真船 今回、3月に第4工場が稼働を開始する。やはり工場比率を上げていかないとトータルの結果としての利益につながってこない。デリカ工場というのはわれわれの成長の鍵なので、そこを有効活用していくような商品価値、商品設計、商品開発。これらが一番だ。
納品メーカーとのお付き合いであれば、「新しいものを持ってきてほしい」とか、「あれを作ってほしい」などとできるが、なかなかそれでは商品開発のスピードが上がってこない。
そういう意味では、これからはどのように自社工場を活用してよい商品、つまりヒット商品を作れるかが重要になる。
あとはポテトサラダに象徴されるようなわれわれの定番の商品をどれだけ磨き込んで、「あそこでなければ(いけない)」という商品に仕立てていくことが大切だと思う。最終的にはやはり味で差別化していきたい。
いまベーカリーが全体的に好調だが、新しい商品が出てくるようになってきたことが大きい。例えば、サンドイッチの商品は工場商品が充実してきた。

第4工場は、(一部機能を)第1工場から移すが、基本的にミート(肉)系の工場となる。3月の中旬以降にスタートして、試験操業しながら本格稼働には少し時間をかけていくことになると思う。
――出店については。
真船 出店には慎重にならざるを得ないだろう。建築費は(以前の)倍になっている。
来期(2026年2月期)はスクラップ&ビルド3店を含め、5店出店する。純増は2店となる。改装を含めると20店ぐらいとなる。これで店舗年齢40年選手はだいぶ減ってきて、(改装の)めどが付いてくる。
――イトーヨーカ堂はネットスーパーから撤退したが、ヨークベニマルとしての考えは。
真船 (自前で)やる予定はない。「運ぶ」というのがどうしても割に合わない。だからスキーム的にやるとすれば、今回、(配送プラットフォームの)ONIGO(オニゴー)と組んだイトーヨーカ堂スタイルになるだろう。オニゴーが、地方でもインフラが整備できるのであれば可能性が出てくるとは思うが、やはり運ぶコストが(厳しい)。基本的には、ネットスーパーを自社でやることは、いまのところ選択肢としてはない。
――デジタルの取り組みについてはどうか。
真船 生産性を高める1つの対策としては、最終的にはデジタルは必要不可欠になってくるのだろうと思う。何はともあれ、どれだけ「考える」「決断する」「コミュニケーションする」か。そういった時間取りをするための有意義な手段がデジタルということになる。だから、デジタルに全て任せることが「デジタル化」ではないと思う。
やはり、人の持っている潜在的な力を発揮するために、デジタルを活用しながら有効な時間を生む。もっともっと付加価値の高い仕事や、攻めの商売や、もっともっと精度の高い販売計画や、地域情報の収集や、お客さまを知るための時間にデジタルを活用するというのが、ヨークベニマルが考えるデジタル戦略の目的、狙いだと思っている。
一部について郡山のある店で実験をしている。そこを軸にしながら、検証しながら、他の店に広げていこうということで、24年度から「フューチャーストア」づくりに取り掛かっている。まだ、ちょっと成果物をもたらすところには行っていないが、そういった態勢の中でスタートしている。例えば、販売計画などをデジタル化している。スマートカートは20店以上に入っていて、これから導入のスピードも上がってくると思う。

また、ヨーク・ホールディングスとして、お客さまを知るツールを一本化していかなければいけない。この辺のところが見えるようになると、ヨークベニマルだけではなく、グループとしてイトーヨーカ堂も含めながら取り組める。
イトーヨーカ堂が「商品本部」と「販売本部」を統合し、「営業本部」にする理由
――3月1日付でイトーヨーカ堂の代表取締役会長に就任する。役割をどう考える。
真船 今回、「営業本部管掌」という役割が付いている。山本(哲也)社長との2トップ体制にはなるわけだが、従来の「ウィル・チェンジ」の政策を含め、その進ちょくというところについては、やはり現経営体制の中の山本社長主体にやっていく。
私の役割はイトーヨーカ堂の組織の「営業本部長」になるわけだが(組織上は伊藤弘雅・取締役執行役員が営業本部長になる)、今回(3月1日付で)、いままで「商品本部」と「販売本部」の2つあったものを1つの「営業本部」という中での商品と販売という形とした。
どちらかというと、いままで商品と販売が、縦の組織で動いていた部分があるので、それを横にしながらスピード感を持ってやっていくことが、今回の組織の大きな役割や期待だと思う。ヨークベニマルでやってきたことを、どれだけ組織の中で浸透できるかが、役割、期待されているところだ。あとはやはり現場を勇気付けること。
イトーヨーカドーとヨークフーズの融合も1つの大きな部分。いままで会議体も別々にやっているところもあるので、会議体などもいっしょにしてやっていこうというのが今年からの方針になる。
どうしてもGMS(総合スーパー)であるイトーヨーカドーの商品政策と、われわれも含めたスーパーマーケット事業であるヨークフーズの商品政策は違うところがあって、別立てでの会議立てが多かった。その辺を融合させていかないとなかなか縦(の組織)が横につながらないし、両者の商品政策の違いが、一体感を阻害するようになっていることもある。
そこにチャレンジして、直していこうというのが今年であり、そこが少しずつでもスムーズになってくると歯車が回ってくるんじゃないかなと思う。
やるべきことはやっているのだが、歯車が回らないためにそれが結果につながらない。だから、負のスパイラルをどうやったら正のスパイラルに切り替えられていくかというところだと思う。一所懸命、みんな現場を持って努力している。モノと情報の流れをきちんと流してあげることが役割となる。
――イトーヨーカ堂はスーパーマーケットに近くなってきている。3月14日には旧イトーヨーカドー郡山店跡を再開発したヨークパークがグランドオープンする。2月28日には核店として直営部分のヨークベニマル西ノ内店がオープンするが。
真船 (イトーヨーカ堂は)食に特化していくと明言している。ただ、例えば、専門店テナントの問題、フード&ドラッグの問題など、やはりスーパーマーケットとは全然違って、いろいろな、大きな課題を有している。これらがどこのGMSでも大変だという大きな要因になっているんだと思う。
ただ、その意味では今回の郡山店(を再開発したヨークパーク)はグループの力を借りないとできなかったことも確かだ。赤ちゃん本舗、ロフトなど(グループ企業に)大箱に入ってもらいながら、なおかつ、ヨークベニマルの自主アパレルで約500坪を埋め、さらに(アダストリアが手がける)スタディオクリップを新たにヨークベニマルとして、フランチャイズで運営する。(西ノ内店は)社内的にも気合いが入っている。
――イトーヨーカ堂は自主企画アパレルから撤退し、運営に特化している。ヨークベニマルも直営衣料品売場は縮小を続けてきたが、衣料品の考え方は。
真船 (ヨークベニマルの衣料品取扱店は)二十数店舗ある。やはり、買う場所がなくなってきている。これらの店舗は基本的に(縮小せずに)やっていく。衣料のメンバーも成長の方向が見えないとモチベーションが上がらない。その意味では、今回の郡山店の成功はヨークベニマルの衣料にとってもチャレンジにつながる。
小売業で鍵を握るのはあくまで「人」、そして「現場」。会社はそのためにある
――いまディスカウント政策を採るフォーマットが好調だ。価格についてはどう考える。
真船 やはり価格コンシャス(意識)は、お客さまがスーパーマーケットを選ぶ大切な切り口だと思う。それをわれわれは避けては通れない。ただ、われわれが「安売りできる体質か」というと、決してそうではない。
そういったところを踏まえて、どうすればお客さまが求める価値を実現できていけるだろうか、というところを掘り下げていかなければいけない。それは一朝一夕にできる問題ではない。自社工場製造のおいしい商品が、リーズナブルで買えるような商品開発や、いまフューチャーストアで実験していくようなこと(が求められる)。
もちろん、生産性、作業効率を上げていくことは大切だが、やはりどれだけお客さまに近づける時間を取って、それを成果に結び付けられるような仕組みにつなげられるか。また、われわれが20年来やってきているカイゼン活動を通しながら、1店舗1店舗、1部門1部門のむだに気付いて、むだを取っていく。そうした愚直な活動を進めていきながら、味と品質と、インストアの調理技術(を磨いていく)。
あと、私が最大の決め手だと思うのは発注だ。発注が変わらないと、売上げも変わらないんだから。それ(の鍵を握るの)は人。現場のパート(タイマー)さんの意志だ。
売上げが上がらない原因は往々にして「定量発注」にある。(例えば、ある商品を)2、2、2、2、3、3、3、3(の定量で発注)。売場を見ると品切れになっている。それは現場の棚板でしか分からない。机の上では分からない。小売業は往々にしてそういうものだ。最終的には「現場」。「鮮度が良くない」「商品作りが良くない」「陳列技術が良くない」「値頃を外している」、それらが見られるのは「現場」だ。
商品と販売、デジタルもそうだが、最終的にはお客さま満足は「共同作業」。チームでの仕事。販売だけでもできないし、商品だけでもできないし、人事も必要だし、デジタルも必要だ。だからやはり会社全体が、マーケットのお客さまに目を向けていかないと会社というのはだめになってしまう。