カスミBLΛNDEの挑戦、こう見る! 酒類編 上質な酒売場を目指す意気込みは感じられる、ただし、発展途上?
2024.07.29
BLΛNDE(ブランデ)3号店となった三郷店の酒売場は、日常使いの商品を極力そぎ落とした、スーパーマーケット(SM)の枠を超えた野心的な品揃えになった。
その一方で、ギフトやインバウンド需要を意識したデパ地下などとは異なり、「自分で買って家で飲む」ための上質を狙う。日常に上質をブリッジするのは店内に設置されたバーカウンターの役割といえる。
ワインや日本酒やウイスキーをショットで提供し、気に入れば買って帰ることもできる。都心から25kmの新興エリアでのチャレンジの成否は、日本の酒類市場の成熟度を示すことにもなるだろう。
目次
洒脱なゴンドラ配置と見せるエンド
主通路の最終位置に置かれた酒売場は、一角がイートインコーナーと接する長方形で、広さはおよそ40坪といった規模。
売場の半分に「日本酒」「焼酎・梅酒」「ウイスキー」「スピリッツ&リキュール」が3尺の常温ゴンドラ3本を背中合わせ(「スピリッツ&リキュール」は2本背中合わせ)の島で置かれ、両サイドのエンド棚はアーチ状(日本酒は片方が冷蔵庫)になっている。
ゴンドラ高を1500mmほどに抑えているため、売場全体を容易に見渡すことができ、高い天井と相まって売場は大変に開放感がある。
さらに各酒類の島はイートインコーナーに向くように斜めに配置され、イートイン側から見るとアーチ型エンドがよく見える。これは一般的な四角の平面エンドよりも「饒舌」で、この島の「推し」はこれだと語りかけているようだ。
残る半分はワインの売場が占める。欧州主要産地(仏伊西)のワインを国別に配した島はゴンドラ17本で、この他に「新世界(3尺6本)」「日本ワイン&スパークリングワイン(3尺6本)」「ハーフ&ベビーサイズ(3尺4本)」が並ぶ。
この売場スペースの配分を見れば、チェーン専門店並みにワインを充実させていることが分かる。さらに次に見るように、SMでは売上げの7割を占めるビール類とレディトゥドリンク(RTD)に依存しない売場を目指していることも明らかだ。
ナショナルブランドビールはコンビニ並みの冷蔵ケース扉2枚
ビールとRTDの売場は、常温ゴンドラの島が点在する酒売場と通路を隔てて向かい合うように一直線で置かれている。酒売場としてかろうじてつながりを残しているものの、一体感は感じられない。それは冷蔵ケースに扉があり、冷凍食品売場のような印象を与えていることも手伝っていそうだ。
そして新ジャンル、発泡酒は見当たらない。20枚の扉は、日本酒とワインにそれぞれに2枚、クラフトビールに6枚、RTDに6枚、ノンアルコール酒類に2枚が配分され、ナショナルブランド(NB)のビールはわずか2枚である。
最も客数の多いNBのビール類をここまで減らしたのは、普段の家飲み需要は「他に任せた」酒類専門店として立つ決意表明であろう。
新しい提案がある日本酒と攻めあぐねる本格焼酎
次に酒類専門店の肝となる品揃えを見て行こう。
最初に和酒売場を検討する。日本酒と焼酎はエコノミークラスの紙パックや大容量ペットボトルの扱いを極力抑えている。その上で日本酒では進境著しい香り系の商品群をコーナー化したり、ワンコイン(500円)アルミカップの品揃えを厚くしたりするなど、日本酒の新しい需要を開拓しようとする意欲が見える。
もちろん多くのSMがしているように地元の埼玉県と隣接する茨城県の酒の棚を設け、「ローカル」の打ち出しも欠かさない。意欲的でそつのない棚をつくっている。
一方で本格焼酎、泡盛の売場は少々混乱が見られる。棚割りからサブカテゴリーが見えにくいのだ。樽熟成焼酎はくくり出されていたものの、原料別、産地別、香味タイプ別などの意図をすぐにつかめずガイドもない。
昨今の本格焼酎、泡盛市場はお客の求める専門性の軸が不明瞭で、サブカテゴリーをつくりにくいのは確かだが、もう少し棚割りを整理した方が良いと思った。また、ロングセラーとはいえ麦焼酎「吉四六」でエンドを埋めていたのは意図をつかみかねた。
日本酒も本格焼酎も和酒は専門性を求めるユーザーに「銘柄信仰」が強い。それに呼応するように人気銘柄を目指すメーカーは地酒専門店に流通を限定し、希少性を維持して銘柄人気を高く保とうとしてきた。
そうした銘柄を多く扱う専門店は限られ、自ずとそうした商品が一部の店に集まる構図ができてきた。この仕組みの問題点の1つは、外飲みでおいしいと思った酒を一般の人は買えないことだ。地酒専門店は料飲店への供給を優先し、一般の人は取扱店を訪ねても人気銘柄をほとんど入手できない。
SMなどは長くこの構図を打破できずにいたが、コロナ禍を機に流れは変わりつつある。料飲店が営業できなかったことで売上げの激減を経験し、外飲み市場に偏り過ぎたチャネル政策に危機感を募らせたメーカーは多い。
ブランデにはまだ希少な人気銘柄の正規取扱いはないようだが、この売場を成立させられれば取引は拡大するはずだ。日本酒や本格焼酎の人気銘柄も「自分で買って家で飲んでほしい」という気持ちがないはずがないのだから。
アイリッシュウイスキーにスポットライト、ワインの売り方には課題も
洋酒の品揃えでは進境著しいアイリッシュウイスキーにしっかりとフェースを取ったところは上手だ。
ウイスキー発祥の地でありながらスコッチウイスキーの後塵を拝し、一時は蒸留所が2社まで減ったアイリッシュだが、今は参入が相次ぎ、ルネサンスといわれるほどの勢いだ。「バスカー」「ティーリング」「カネマラ」など主要ブランドをまとめると登場感が増す。さらにアメリカンウイスキーを深掘りし、ライウイスキーを充実させると一層おもしろくなる。
スピリッツは人気のジンをはじめ、ウオッカ、ラム、テキーラなどの白物をバランスよくそろえた。ジンの元祖であるジュネヴァやパスティスも扱って一定のプロユースにも応えようとしている。
ただ、訪店時に見られたスピリッツ、リキュールの島では高級シードル(約2600円)のエンド展開は疑問だ。著名なパティシエが監修した商品とのことだが、やるならばワインゾーンであろう。ハードリカーが並ぶ島にシードルは合わない。
専門店並みの商品数を確保したワインの中心価格帯は2000円近い。1万円を超える商品も多数あり、10万円クラスはワインセラーに収めている。通常のSMでの売れ筋は1000円未満であり、思い切った品揃えだ。
問題は押しの弱さと基本情報の不足といえるかもしれない。和酒のような銘柄人気がない分、ワインは売場の「押し」が重要で、何を売りたいのかお客に明確に見せる必要がある。大きなアイキャッチャーを用意したり、特別陳列を展開したりするなどだ。それがやや足りないと感じた。めりはりも感じられず、「たくさんそろえました。お好きなものをお選びください」と言っているように感じるところがある。
基本情報の不足は例えばプライスカードに記載された商品情報が未整備なところである。例えば、5000円を超える商品の産地表記の場合、「ボルドー」ではなく、少なくとも「メドック」「グラーブ」とボルドー内の産地が欲しい。商品によってはさらに「マルゴー」や「サン・ジュリアン」など村名になろう。商品によってその表記にばらつきがあるのも気になった。
あるものには「ボルドー」とあり、隣りの商品が「サン・ジュリアン」となっていれば産地表示のレイヤーがそろっていないということになる。
日本のワイン市場は常飲ユーザー数が少ないうえに、50代と60代に偏っている。まだまだ裾野を広げる段階だということを見逃してはいけない。
帰宅途中のちょい飲みイートインをどのように位置づけるか
最後に有料試飲カウンターとイートインコーナーについてだが、やるならばもっとテーマ性を持たせるべきと感じた。現在は飲める商品がカウンターに並んでいるだけで、なぜこの商品の有料試飲をしているのか意図が分からなかった。
試飲にはテーマがあった方が良いと思う。バイヤー厳選の一押し商品や新規入荷商品などプロモーションとしてのテーマ設定と共に、知識を深めるスクール的なテーマ設定を進めるのである。
同じブドウ品種で産地の異なるもの、酛(もと)の異なる日本酒、麹の種類違う焼酎、コンテストの上位入賞酒、ウイスキーの垂直試飲(異なるエイジングの比較)などだ。酒に関心の高い人を満足させる、あるいは酒に関心を持つように仕向ける試飲テーマを常に意識したいところだ。
イートインコーナーでは店内で販売している惣菜を持ち込んで食べることができる。一般的にイートインコーナーは飲酒を禁じているケースが多いが、ここでは購入した酒を飲むこともできるし、カフェカウンターで酒を注文することもできる。
利用者は仕事帰りに買物をして、ちょっと一杯飲んで帰るというパターンが相当数あり、数名で飲み会をする強者もいるという。酒好きにとって、上質な酒をリーズナブルに楽しめる場は大歓迎だが、運営側はどこまで外食ウエートを高めるのかを明確にし、人件費まで含めて黒字運営するまでのロードマップは必要だと考える。