ザ・トップマネジメント「ヨーク 大竹正人社長」: コロナ時代の先進経営を語る
2022.04.12
2020.08.07
統合で低価格商品の開発も可能に、新MDと合わせ二極化消費に対応
――直近の状況は。
大竹 良い。ずっと(既存店売上高前年比)2桁増ぐらいで来ていて、6月もほぼ2桁増。7月もおそらく2桁増で行きそうだ。
われわれも、「密」を作らないということがあるので、販促政策でも日替わりを減らしたり、数量限定という打ち出しをやめている。ある程度期間が長い、EDLP(エブリデーロープライス、毎日低価格)まで行かなくても、「いつ行っても安い」環境は整えながらやっている。客数は増えないが、やはり1人当たりの買上点数、客単価が上がっている。
客数は前年を割っているが、都知事などもなるべく買物の回数を抑えてくださいというような話をしていたこともあって、やはりまとめ買いが多くなっている。保存性の高い冷凍食品なども数字が良くなっている。基本的には巣ごもり需要が非常に高い。
また、多分、この後景気は相当に落ち込む。リーマンショック以上といわれているから、それなりに「経済性」は必要だと思う。ただ、一方で外食に行かないので「ちょっとおいしいもの」というのも、間違いなく数字的に見ても支持が高まっている。やはり、「上と下」の二極化があるだろうと思っている。
――新型コロナウイルス前から取り組んでいた、ヨークマート時代の付加価値を付けた新しいマーチャンダイジング(MD)の取り組みは、新型コロナを経ても手応えを得ている。
大竹 新しい会社になったのだが、基本的には「日常の食卓をより豊かに便利に」「生鮮惣菜を中心にした」というコンセプトは変わらない。ヨークマート時代の経営理念、経営構図は新しい会社でも基本的に引き継いでいく。(イトーヨーカ堂の食品館とザ・プライス、グループ会社フォーキャストのコンフォートマーケットが統合され)業態がいろいろ増えたが、考え方としてはそこに置く。
「DSと標準」合体タイプが主力になる可能性も
――業態という意味では、ディスカウントストア(DS)のザ・プライスや小型店のコンフォートマーケットが入ってきた。
大竹 ヨークマートにはDSがなかったのだが、ザ・プライスについては担当のMD(マーチャンダイザー)も来ている。本来、1つの会社でいろいろなフォーマットを展開するのは難しい。ただ、新たにDSをやるわけではなく、やっていた人が来ているので、それを継承しながらやっていく。
また、どうもDSと標準タイプを合体させたタイプの数字が、非常に上がってきている。それほど粗利益率を落としているわけではないが、ザ・プライスで扱うような加工食品のバジェット(低価格)の商品や野菜で価格政策を持ったりといったことをやって、什器や媒体もザ・プライス寄りのものを付けてみた。
川崎野川店(川崎市宮前区)はもともと標準タイプでオープンして、新しいMDも全部入っているが、このタイプに変えていま、一番伸びている。去年の6月にオープンして、いま7月だが、全社で一番前年比の数字が良い。低価格の競合店がある非常に厳しいマーケットで、なかなか標準フォーマットでは厳しいということもあったが、いろいろ工夫したことで伸び始めた。
いままでだと、DSの商品を入れると、他の商品が埋もれてしまうようなことがあったが、どうもお客さまは使い分けをしていらっしゃるのかなという感じがしている。先ほど「上と下」という話をしたが、いま、新型コロナもあって状況によっては、これ(DSと標準タイプの合体)が次の主力のフォーマットになっていくのではないかとも考えている。いろいろフォーマットがあるが、結局会社として真ん中にどのフォーマットを置くかということが大事だと考えている。
――ザ・プライスを引き継いだヨークプライスには新MDを入れていくといったことは。
大竹 プライスには、とにかくプライスをやってもらう。また、新たにプライスをオープンする予定はない。逆に、もしかするとプライスから標準タイプにする店はあるかもしれない。
今回の統合でいろいろな意見があったが、うまく組み合わせをしてやっていくと、おもしろいモデルができそうではある。「首都圏」と一言で言うが、新宿富久店(東京・新宿)や中町(東京・世田谷)のような都心の住宅地のマーケット、ちはら台店(千葉県市原市)やもねの里店(千葉県四街道市)のような郊外型のマーケットと梅島店(東京・足立)や川崎野川店のような競合が激しいエリアがある。だから1つだけのやり方では難しい。いずれにしても、今回の統合で手応えを感じている。
コンフォートマーケットは日常の食卓に戻って再構築
――最近でも小型店の成功モデルとして中町店、フラッグシップとしての新宿富久店と、改装に手応えを得ている。今後の改装の方針は。
大竹 中町店を大きくしたのが、新宿富久店という感じだが、ただ、これらの店のように都心で割合所得が高く、住宅地である店はあまりない。イトーヨーカ堂から移管した店でいうと今後、中野店(東京・中野)、阿佐谷店(東京・杉並)などは、割とスペースも広く、新宿富久店のパターンで行ける気がするが、千住店(東京・足立)、三ノ輪店(東京・荒川)などは少しタイプが違う。また、難しいのは、駅直結型(高架下)の練馬高野台店(東京・練馬)のような店。これはまだ検討中だ。
ヨークマートの既存店については下期20店舗を改装していくつもりだが、商圏特性に合わせてどのパターンで行くかを決めていく。
――食品館やコンフォートマーケットには小型店で2層の店もあるが。
大竹 難しい。8月にコンフォートマーケットを同じ名前のまま再オープンさせるが、そこでどれだけのことができるか。前のコンフォートマーケットはあまりにも非日常だったと思う。われわれのコンセプトは日常の食卓だから、もう1回日常の食卓というところに戻って、品揃えを再構築する。デパ地下のような惣菜売場があればよいわけではなく、基本的には青果物がしっかりしていなければだめだろうし。日常使いができないと、ミニスーパーもうまくいかないと思う。
150坪程度で中町店より小さいため、中町店ほどは新しいMDは入れられないが、それなりにこだわった商品と、日常の生活ができる生鮮の品揃えをきっちりさせて、もう1回挑戦する。150坪ができれば、いろんなところがあると思う。ただ、やはり150坪の場合、500m商圏に400坪クラスの店があれば厳しい。
――新MDの代表的な商品の生鮮部門が手掛ける惣菜などは、イトーヨーカ堂やヨークベニマルなどとも違うヨークならではの特徴だ。店内加工主体で生産性には問題はないか。
大竹 やはり、(生鮮惣菜は)既存の惣菜部門ではできない。本当は鮮魚に入ってきたアジを惣菜に持って行って揚げるといったことができればよいのだが、できない。結局、鮮魚でどこまで加工して渡すとか、売上げがどこに立つのかという話になる。やはりいろんなものがつながっていて、結局、部門の縦割りで評価から何から全部されるから、社長が「こうしよう」と言ったからやれる問題でもない。
やはり朝、入ってきた原料を使って加工した惣菜は、既存の惣菜とはまた違う。既存の惣菜部門の商品も完成度が高いものができ上がっているが、どちらかというと鮮魚の惣菜は素材を重視した形でのおいしさで、やはりニーズとしてはある。生産性については、鮮魚が手掛ける魚惣菜で日販6万円ぐらいになると、収支トントンまで持っていけるといったところだ。
――青果部門の店内加工のサラダは業界的にもブームのような状況になっている。
大竹 やはり、これも「自分たちの素材で作っている」サラダ。「このサラダに入っているものは、店内で売っているもの」というコンセプトだ。キャベツも店内で切っている。最初は98円とか198円といった価格ラインばかりだったが、ここに来て、ローストビーフとアボカドを入れて398円といった価格ラインも売れている。
生鮮部門が店内加工で提供するサラダやデザート、惣菜はグループの中でもヨーク独自のMD。値頃で販売することで来店を促す戦略商品群だ(新宿富久店)
デジタル化は成果を見極めながら進めていく
――DX(デジタルトランスフォーメーション)については。
大竹 デジタルについては、当然、キャッシュレスの取り組みなどは進めていく。ただ、「デジタル化して、データを生かしていろんなことができる」とみんなが言うが、「いろいろなこと」が何であるかはよく分からないし、成果が出ているかは疑問だ。だから、優先順位を付けてどんどんデジタル化していくところを見極めながら取り組んでいく。
それからチラシの問題もある。いつまでも紙のチラシでもないかなと思う。新聞購読率が下がってきているから、全面的には切り替えられないまでも、どこかでデジタルに切り替えていくことを考えていかないといけない。ヨークのアプリや、一部店舗でLINEを活用している。
セルフレジも開発しながら導入を進める。「イートインが設けられるかは別にしても、惣菜とベーカリーの脇にはセルフレジが欲しい」(大竹社長)
――ネットスーパーは。
大竹 ヨークは基本的には、ネットスーパーはやらない。結局、同一エリアでイトーヨーカ堂が展開しているためで、現状パイが小さいのに2社で展開すればシナジーにならない。
――むしろ、リアル店舗の集客に集中できると。
大竹 (需要は)これから増えてくるかもしれないし、10年後どうなるかは分からないが、同一エリアで同じグループの企業が展開するのはどうかなとは思う。
――統合によってインフラ面ではグループの資産を生かすという話もあったが。
大竹 インフラについては、自前のインフラを持つべきだと思っているが、そうは言っても同一エリアでイトーヨーカ堂といっしょにやっているわけだから、あまり、それぞれの事業会社単位で持ってしまうと効率的にはどうなのかという話になる。また、150坪の小型店を手掛けるためには、セントラルキッチン、PC(プロセスセンター)がないとできない。それに物流センターどう絡めるかという問題もある。そこは石橋誠一郎氏(セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長 首都圏SM戦略準備室)が調整する。
――ヨークベニマルの惣菜子会社のライフフーズの商品も一部入っている。
大竹 特に冷惣菜、レンジアップデリカなどの評価が非常に高い。
――価格は今後強化していくか。
大竹 そうだ。価格の出し方も、日替わりでの安さではなく、EDLPで、いつ行っても安いということを実現していかなければならない。また、単純にナショナルブランド商品を安く売るということでは、われわれとしても(採算が)合わなくなってしまうので、グループでバジェットの商品の開発をヨークベニマルとか、いま広島のイズミもいっしょに入ってやっている。そういう類のものを増やしていかなければならない。
また、ザ・プライスが入ってきたので驚くような安さの商品の集荷もできるようになってきた。量の問題もあって全社ではできないとは思うが、そういう商品もうまく組み合わせられたらと思う。