ザ・トップマネジメント「カスミ 山本慎一郎社長」: コロナ時代の先進経営をかたる _後編
2022.04.12
2020.10.08
「単に決済の効率化をすることが目的ではない。常にお客さまと『つながる』ことこそが重要」
前編は、https://retailguide.tokubai.co.jp/interviews/2090/
——「Scan & Go(スキャン&ゴー)」をグループにも導入し始める。
山本 カスミは今期中に全店、マルエツ、マックスバリュ関東は今期の下期からになると思う。同時にセルフレジも広げていて、こちらはマルエツで下期からすでに実験が始まっているし、マックスバリュ関東は来期には始まる。
セルフレジは、大体われわれの店で見ていると、平均して普通のレジの半分の時間で済む。平均値で2対1。ただ、場所を取るので大きいものは置けないため、計量型のものをやめ、省スペース型のものを導入している。新しい店では、通常どおり釣り銭も全て人がやるレジとセルフレジで、最終的に半々ぐらいになるようにしようとしている。
——多くの企業が導入を進めているセミセルフレジは。
山本 セミセルフレジは新規の導入はしばらく様子を見る。セミセルフレジは、1時間当たりのレジ通過客数など効率面では確かに高い。ただし、それには前提条件があって「混んでいるとき」。スーパーマーケット(SM)が混んでいる時間、人が多く並ぶのは1日に2、3時間しかない。
レジを開けている間は、いずれにしてもそこに人がいなければいけない。忙しい時間はよいが、そうではない時間もある。たとえばセミセルフを3台開けると3人いなければいけないが、セルフレジは1人いれば済む。これが効率性からみた点。
もちろん、効率性はあくまでこちら側の事情だ。それよりも、お支払いだけ自分でやってもらうのは、人にやさしくないのではないかということがある。そうであれば、片方は金銭授受もいままでどおり人がやる普通のレジを置いて、時間がない人、あるいは抵抗がない人はセルフレジでという方が分かりやすいのではないか。セミセルフレジは2012年から導入してきたが、そういう意味では方向転換をしている。
しかも、今回新しく入れているセルフレジは、トランザクションの情報がリアルタイムにセンターサーバーまで上がる。ストアコントローラーで貯めてバッチで上げるというやり方ではなく、ダイレクトに上がる。
すでに昨年から改装店などに入っていて、今期は最終的に60店舗、来期には50店舗入れる予定だ。開発に当たっては、ソフトとハードとサービスを分離して、ソフトはソフトベンダーに仕様発注、ハードは別途海外から自分たちで調達してつくり、サービスはサービスベンダーを選んだ。ちなみに、欧米のスーパーはみんなそのようにしている。
——これがユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)の標準装備になるのか。
山本 そうしようと思っている。どちらかというとチェックアウトの部分のリアルタイム化が大きなテーマ。(既存設備の)償却があってすぐには変わらないが、リアルタイム性が高まらないとサービスレベルが上がらないので、われわれとしては重視している。
リアルタイム化でいえば、新しいパターンでは対面レジもスキャン&ゴーも同じくリアルタイムになっている。
スキャン&ゴーが「スマホ」のアプリである理由
——スキャン&ゴーの利用率は。
山本 まだまだ低い。導入している店で1、2%。まだテスト段階だ。これも自社で仕様決定して機能を追加している。いま大体、月に1回ずつぐらいのアプリの更新をかけているから、そのたびに少しずつ新しい機能が増えている。いろんなアプリケーションがそのように育ってきたが、それと同じパターンをわれわれも考えている。
だから、ある一定段階まで行ったときに、たとえば大きなプロモーションをかけようと思っている。
——スマホを持っていない人のために端末を貸し出すという考え方もあるが、スキャン&ゴーはお客のスマホを前提としている。
山本 単純なチェックアウトの利便性も重要だが、その先にあるもの、つまり、お客さまと常につながっているような状態、双方向でコミュニケーションができるのは、いまは(お客自身のスマホの)端末しかない。たとえば店内をご案内するとか、買物リストを作っておいてもらって、その商品をピックアップするための最適ルートを作るとか、考えていくとできることはいっぱいある。
それは、アプリのような、いまの技術で作った方がよいのであろうと。しかもそれはカスタマイズができる。過去の買物の情報は1人1人にひも付いているわけだ。
もちろん、先々貸出端末を作らないのかということになると、別にそれは否定しないが、まずはこれで行ってみようと。もちろん、スマホでの操作をいかに高齢者などにやさしくするかというテーマもある。
(他社の事例を)いろいろ見て回って、やはり、店の外で、家にいるときにもつながっていて、そこで何かがプッシュができて、反応してもらって来店してもらう、もしくはそこで注文してもらうのも自由というのがいいなと思った。
——確かに家にいるときも、いつもつながっていられるのは大きい。
山本 スマホとの接触時間は長い。いまはスキャン&ゴーは店に行かないと使えないからつまらないわけだが、ここにいろいろなものをどうやって集約していくのか、カスタマージャーニーの最初の部分をどうやって作るのかが、次のベースとなる。スキャンが目的ではない。スキャンの前の、アテンションの部分からどうするかがテーマだ。
家では商品検索をしたり、もちろん、その場でスキャンすればオンラインデリバリーもできる。つまり、いつもつながっているということだ。
デバイスを通じて個人と店がつながる小売業の未来
——アマゾンゴーなどのレジなしの「ジャストウオークアウト」の買物体験とも違う。
山本 アマゾンゴーも、あくまで店に行くことが前提になる。いつもつながっている状態をどう作るか。だから、そのためには、われわれもコンテンツマーケティングの魅力度を上げていかないとなかなかお客さまが付かない。
ただ、いろいろなことをやって魅力度を無理やり上げるという手はあるのかもしれないが、いまの段階は全店に広げるということをベースにして、「どこでも使える」状況を作った後で、次にそういったところが目標になると思う。マルエツ、マックスバリュ関東においても、同じようにやっていく。
販促もある程度はやるが、効果のないものはやめ、効果のあるものに集約していく。いまはクーポンを紙で配っているが、まだ、実装はしていないものの、スキャン&ゴーでやるとすればその回数だけ使えるようにすればよいだけで、配るのと比べてコストもかからない。
——スキャン&ゴーの具体的な流れは。
山本 自分で商品をスキャンしていき、支払いが終わると二次元バーコードが出る。これをチェックするとチェックアウトになる。チェックアウトしないと次に買物ができない。
チェックアウトでは年齢認証もやっている。酒を買うと初回の場合には、アテンダント(担当者)に年齢確認画面が飛んできて運転免許証などを見せてもらって確認する。一度年齢確認すると2回目以降はワーニング(警告)が飛んでくるだけになる。チェックアウトにあるのは、いまはコードリーダーだけだが、最終的にはゲートにするかもしれない。
——小売業の方向性として、スキャン&ゴーを通じて「常につながっている」イメージが伝わってくる。
山本 それに近づくのではないか。端末がスマホであるかどうかは分からない。スマートデバイスという意味では何らかのデバイスを通じて個人とつながるのではないか。
フォーマットの考え方にも変化、顧客体験型の機能も付加
——フォーマット戦略について。フードスクエア、フードマーケット、フードオフストッカーの今後の方向性は。
山本 フードオフストッカーは、どちらかというと老朽化した店舗の業態転換を、10年以上前やったものだが、この辺りに関してはもう1回見直す必要があると思っている。
また、これは特定業態ではなく全般的に言える話だが、MFC(マイクロフルフィルメントセンター、店内などに併設される小型センター)などを考えると、これまでの店舗面積、売場面積、売場の配分の意味づけが変わるかもしれないとは思っている。
たとえばドライグロサリーの売場がそこになくて裏の倉庫にあるとか、要するに横にMFCを造っておいて、スキャンしながら買って行って、出口に出てきたらパッキングして出てくるといった形も考えられるかもしれない。
いままでの常識で、とにかく広い店を造ってそこにたくさん商品を並べないとどうにもならないという時代は変わるのではないか。
——フォーマットの考え方が変わると。
山本 変わると思う。だからこれからのフォーマットに、もっと顧客体験型の機能を付けないといけないと思うのだが、それを片方で考えながら、これまで必要だったものでいらなくなるものを見据えて、トレードオフをきっちりやることだと思う。
まさに正解が見えていなくて、いろいろな可能性がある、そこに(新しい)技術がいっぱい出てくるという状態だ。たとえば3店舗でくくるとどうなるか、5店舗でくくるとどうなるか、その中でどのような機能を持てばよいのかといったことがある。
基本的にはオーバーストアであるため、これまでのようなわれわれの得意とする店舗、売場面積が600坪ぐらいあって、店舗面積が800~900坪あって駐車場が200台あってといった立地は結構限られてきている。その中で、やはり各社それぞれ違うところを攻めようとしている。
オフィスマと移動スーパーの組み合わせで買物困難者対策
——スキャン&ゴーを活用した無人店舗「オフィススマートショップ(オフィスマ)」の状況は。
山本 17店舗で実験中だ。最初はどちらかというとオフィスを視野に入れていたが、何パターンかいろんなことをやってきて、少し見えてきた。近所にSMがなく、いまは車で行っているが、今後、車で行けなくなるかもしれず、買物困難になってしまうかもしれない場所がある。
そこにオフィススマートショップと「移動スーパー」を組み合わせることで、買物困難者に対して、もっとアプローチできるのではないかと思っている。もう少しお客さまの方に近づいていこうということだ。
生鮮食品でないドライグロサリーや長期保存の可能なチルド食品は、オフィススマートショップに置いておけばいい。移動スーパーの車は搭載量も少ないので、鮮度が必要なものだけにできれば効率が良い。そのような形でできないかということで、いま実験している。社内的には買物困難者にアプローチする方向性で、オフィススマートショップを考えている。
移動スーパーでは週末の刺し身の盛り合わせや、オードブルなど特注が多い。ところが、なかなか応えられていない。今度、ドライバーに端末を持ってもらって発注してもらうといった取り組みも始める予定だ。
われわれの社会的な使命を考えれば、BOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)なども含めたいろんなアプローチをそこに集約して、買物困難者に向き合うことが重要ではないかと思う。大きな店は造れないが、確実にそこに困っている人がいて、何とかしなくてはいけない場所がある。しかも、そういう場所は今後、どんどん増えていく。
人員に余裕のないSMで鍵を握る自動化、ロボット活用
——BOPISの展開の見通しは。
山本 われわれのいまのSMは人員に余裕がないため、それを支えるような仕掛けをどう作っていくかが、われわれがそれを継続してやるための条件だと思っている。事業的な採算が合わないと継続できない。
——そうすると自動化がポイントになる。
山本 そう。自動化をどうするかが、今後の一番大きな課題だ。最近は、大きな固定的な設備での物流ということではなくて、割とフレキシブルで小さいサイズでうまく適用できるものもずいぶん出てきているので、そんなことを考える必要があるのかなとは思っている。
——自動化ということでは、ロボットの活用を進めている。
山本 ロボットはいま、POPの日付切れ、プライスチェックを実験していて、実装レベルになってきている。いまやっていて、ほぼパーフェクトにできるのは、POPの日付切れの検出、バーコードを読んで、POPに書いてあるプライスとPLUのプライスを比較するというようなプライスチェックもできる。
次の段階の、在庫、棚割り、品切れなどの把握についてはまだ精度が上がらなくて、ここはバーコードではなく、画像を使わないとだめかなといったことを考えている。
ロボットはフードスクエアオリナス錦糸町店(東京・墨田)で夜中に動いていて、夜11時に出動し、売場を40~50分巡回しながら写真を3000~4000枚撮って、エラーを解析している。
そこにアームを付けてピックアップできないかなどと、いろいろ考えている。アプリもそうだが、常に機能拡張をやっていかないとどうにもならない。できたら終わりというのは当面ないだろう。だんだん精度も上がってきている。今年はさらに実験店を増やす予定だ。
——特に日本のSMの場合、なかなかロボットの活用という発想にまでは至っていない。
山本 今日の延長線上に明日があればいいのだが、藤田(元宏・U.S.M.H社長)がよく言っているように、「残された時間があと2、3年」だとすれば、この2、3年で何ができるかということにしゃにむに取り組んでいくことが必要だろうと思う。
——いま、SMは業績がよくなっている。
山本 これは実力でも何でもない。なくなったらあっという間だ。去年辺りは数字が厳しかった。当然、それがイメージにあって、そのイメージの中で次に何をやろうかと昨年来いろいろ考えてきた。