ザ・トップマネジメント「ベルク 原島一誠社長」:商勢圏拡大時の戦略
2022.09.07
出店エリアが広がることで地域対応の必要性痛感、海に面した神奈川では魚を強化、惣菜の味付けも南北で変えている
——今回、フォルテ横浜川和町店の出店に際して。
原島 ベルクの社名の由来は、「Better Life with Community」の頭文字を取ってBELCとなっている。改めて地域社会と共に発展していく、より良くしていくという使命を帯びて出店した。「with」には「共に」という意味が込められている。川和町の皆さまと共により良い生活、発展をしていきたいと思っている。
「新鮮な食品」は当然のこととして、やはり「Better」というものを1つのキーワードとしている。品質をより良く、より新鮮に、よりお買い得に、より良いサービスを。
社名に「Better」が入っている。ここからがスタートだと思っている。「Better」をキーワードに皆さまに満足していただけるようなスーパーマーケット(SM)にしていきたい。
——横浜市内は2店体制となった。今後の方針は。
原島 夢としては全ての区に出たい。いまのところ鶴見区と今回の都筑区であるため、全然知名度がない。神奈川県は非常に激戦だが、(ベルクの地盤である)埼玉県の良さを打ち出す。
やはり、神奈川県のお客さまに聞くと、埼玉県は野菜など農産物のイメージが良いということがあるので、そのイメージをうまく使って、横浜の皆さまに愛されるSMになりたい。
——現状の計画は。
原島 いろいろ仕込んでいるが、やはり埼玉県と違って高低差があること、また、どうしても路線価を含め地価が高いので、採算が合う物件がなかなか見つからないというもの事実。
神奈川県には人口が約900万人いるが、その中でも競争がゆるやかであるかといえば、そんなことはなくて、むしろ埼玉県より厳しいのではないかということもある。投資回収を考えるとおいそれと出られるような場所ではない。
逆を言えば、改めて埼玉県は、立地としても高低差もなく平地で、路線価も地価もそこそこで、出店しやすかったなと。今回(横浜川和町店)のような大型の物件はなかなか出ないと改めて思う。
——横浜川和町店のようにショッピングセンターの「フォルテ」の出店を強化していくか。
原島 場所によりけりだ。郊外であれば、フォルテが出せるが、どうしても都市部になればなるほど、敷地は限られているし、坪当たりの単価も非常に高い。
いまは物件に関しては、どちらかというと同業他社よりは物流業者と競合することが多い。マンション業者も含め、同業と比べて1.5倍や2倍くらいの値段を出してくる。
その値段でベルクが取ったとしても、少なくとも採算が合わない。だからそうならないような場所を見つける必要がある。
——人口密集地に合わせたフォーマット、例えば小型店などを出店する計画はあるか。
原島 それはない。やはり、フォーマットに合わせた場所は探せばある。
神奈川では魚に注力、バイヤーも強化
——神奈川県の難しさは具体的にどの辺りにあるか。
原島 埼玉県から(神奈川県に)出店して思うのは、特に魚が違う。バイヤー含め自分たちも、食生活で生の魚を食べる習慣がないとバイヤーもどういう商品を仕入れたら良いのか分からないということがある。やはり、海に面しているところは、お客さまは普段から、小さなころから魚、特に生の魚を食されているので、特にこちらの感覚とずれが一番大きいのは鮮魚かなと思う。
他の店でもやっているが、この店でも小田原直送を頻繁にするなどして、(有名な漁港など)知名度をいかに活用させてもらうかということをやらないと、埼玉県から出てきた企業としては難しい。何がしか名物を作らないといけない。
基本的にSMはプライベートブランド(PB)を含め8、9割方同じ。だから、生鮮品、特に魚に関しては小田原直送を増やして、「魚がおいしい」というイメージを持っていただかないといけない。「口に合わない」ということが定着してしまうと払拭するのは難しい。この辺り、魚が支持を得られなかったことは最初に千葉や神奈川に出たときに失敗した点としては大きかった。
——現状、その辺りは改善してきているか。
原島 まだまだ。やはり、海に面したところ出身のバイヤーを増やさないと。どうしても埼玉、群馬の感性と違う。身もふたもないが、大人になってからでは難しい。やはり、(魚に)慣れているバイヤーを積極的に採用するようにはしている。
——惣菜の支持についてはどうか。
原島 これもエリアによりけり。基本的に弊社では味も標準化しているが、やはり、(出店エリアが)南北に距離が伸びてきているので、どうしても味付けが「濃い」「薄い」が出てきている。過渡期として若干味を変えて実験している。
南と北で全然違う。先ほど品揃えは8、9割は同じだといったが、その辺りの地域性のところは10~20%を変えていくのは、特にこの神奈川、横浜のところは必要になってくると思う。
(埼玉県の)大宮より南、大宮より北といったところで、だいぶ変わる。やはり、出身が北になるので、南のお客さまの味付け、感性の品揃えは本当に難しい。別途の商品部隊として積極的に採用するようにして、違った味付けにチャレンジしている。
——客単価の違いはあるか。
原島 神奈川は客単価は低い。横浜川和町店は駐車場を広く取れたが、基本的には駐車場が少ない店が多いので、お客さまの数は多いものの、客単価は低くなる傾向にある。やはり(埼玉県などに多く、駐車場も広い)郊外型の店の方が車の来店が多く、客単価は高くなる。
お客が敏感なところ、し好性の高いところは地域対応
——全社数値では継続的に客数が増えている。何が要因だと思うか。
原島 みんなの努力。あとは出店場所だろうか。やはり、(人口減少の)日本でも人口が増えているところに開発のご縁があって出店できていることが大きい。5年、10年考えて人口が伸びる地域、お客さまが来ていただけるところに出店していけているのが、お客さまが増えている要因なのかなと思う。
あとは若干、味付けを変えたり、商品に力を入れていたりするということもある。
——標準化をしているイメージが強いが、店づくりは変えているか。
原島 フォーマットの中身は標準化しているが、味付けや商品に関しては若干変えているところがある。横浜川名町店では少しスイーツを多くしたり、味付けも多少変えていたりする。
基本的にはほとんど同じだが、お客さまが敏感になるようなところやし好性の高いところはさらに力を入れたい。
——DX(デジタルトランスフォーメーション)については。
原島 DXについては、ベルクの場合、「個店」という概念はあまりなく、やるとしたら全店でやる。実験としてはいま我孫子店(千葉県我孫子市)でセーフィーのAI(人工知能)カメラの実験をしているが、いままで見られなかったような世界が見えるのはおもしろい。小売業はどうしても勘と経験という面があった。
——SMにおけるDXを加速させるために優れた技術を持つ異業種、異分野の企業団体と連携することでオープンイノベーションを目指す「Belc Digital Lab」を始動した。
原島 やはり、自分たちで開発できない部分は非常に多くて、小売業はデジタルという部分ではどうしてもいままで見えない部分が大きかった。
見える部分がほとんどだったが、「両手で早く補充する」といっても限界がある。自分たちがいままで取り組んでいけなかったような、生産性を含め、その先に行けるのがデジタルの扉なのかという気がする。
Belc Digital Labを開いた狙いについても、いままでできなかったことに手を突っ込めるようになったことは入口としては大きかった。まず、従業員の意識が変わりつつある。
ベルク
本社所在地/埼玉県鶴ヶ島市脚折1646
設立/1959年5月
資本金/39億1265万円
代表者/代表取締役社長 原島 一誠
営業収益/3002億6800万円(2022年2月期、連結)
営業利益/130億7200万円(同)
店舗数/128店(22年8月末現在)
子会社/ホームデリカ、ジョイテック
従業員数/社員2361人、パートタイマーなど6099人(8H換算)、計8460人、社員の平均年令33.0才(22年2月末現在、連結)