ザ・トップマネジメント「マルエツ 古瀬良多社長」:コロナ時代の先進経営を語る

2022.04.12

2020.08.07

買物の時間帯、頻度、量が変わる局面に合わせ、提案に磨きをかける

マルエツ古瀬良多社長

――直近の状況は。

古瀬 7月に入ってから雨が続いているが、やはり客数が伸びず、客単価が伸びているという傾向値は変わっていない。やはり、お客さまの「買物頻度を減らして、1回の買物でしっかりと買いたい」という傾向は変わっていない。

直近(7月17日段階)でも客数は90%台、客単価が110%台のイメージだ。5月は客数が80%台になったが、これはチラシなどを一切やめたため。価格は安くしていたが、競合企業にはネット(の販促)を続けていたところもあり、店によっては競合にさらされたという感はある。客数はそこを底に徐々に上がっているイメージだ。

――再度、新型コロナウイルスの感染者が増えているが。

古瀬 できることはやっている。アルコール消毒やレジでの対応、サッカー台を対面にならないように置くなどしているが、直近では飛沫感染だけでなく、空気感染の可能性も指摘されている。やはり、「同じ環境にいて空気を共有することで感染するのではないか」という怖さをお客さまがお持ちだと思う。その意味でいうと、「換気」の重要性がいままで以上に強くなってきている。

例えば店舗表示。「この店は換気をどのように行っているのか」ということが、これから付加情報として必要になってくると思う。職場のクラスターというリスクが大きくなっていることもあるので、従業員に対してもクラスターが発生しないように、リスクを最低限にするため強制換気のできるサーキュレーターを、例えば食堂などに置いていく。

いまは窓を開けて喚起しているが、実際、これから真夏になってきて、どの程度それが本当にできるのかということもあるので、少なくともサーキュレーターのような強制換気のできる設備を置いていくことを考えている。

「料理を楽しむ」視点での提案に可能性

――商品面ではどうか。

古瀬 商品については、これまでは残念ながら「パスタがない(欠品)」「小麦粉がない(欠品)」ということで、何とか商品を調達して、それを提供するというのがメインのテーマだったが、一方で「料理を楽しむ」という全く新しい視点が増えてきたこともある。

顕著な例は、いままで料理をしたことがない方たちが、料理をする生活に変わったと思われること。例えば都心の(マルエツ)プチの店などで、今回最初に品切れしたのはみそ、しょうゆ、砂糖といったものだった。いままで、砂糖が売場で品切れするなどということはなかった。都心のプチは陳列量が少ないこともあるが、(この動きをみると)いままで料理をしたことがない人が料理を始めたこと明らかだと思う。

この「料理を楽しむ」ということが、生活の一部として、比重が大きくなるということに対して、やはりスーパーマーケット(SM)が提案をしていかなければいけないことはたくさんあると思う。例えば、ケーキ材料が売れただとか、ホットケーキミックスが売れたということは、単に食欲を満たすということではなくて、作ることを楽しむということの表れ。

その意味では、いままではある程度、商品供給することに精いっぱいだったことがあるが、これからは次のステップとして、「どんな料理を」「どのように提案するのか」といったことにしっかり取り組んでいく。

「経済性」もあるだろし、「時短」もあるだろうし、「ある程度時間はかかるけれども料理自体が楽しい」といった、いろんな視点で提供することが必要だと思っている。

――まとめ買いが増える中で、住居関連の位置づけは。

古瀬 SMで住居関連は難しい。いまのところ、単純にマスクが売れたり、ステイホームで家庭用洗剤が売れたりといったことや、SMとして消毒液やハンドソープをそろえたりといったことがせいぜいだ。

ただ、例えば「料理を楽しむ」という視点でいくと、本格的に料理をすることが始まったときに、こだわった調理器具を提案することはSMにはできるだろう。あまり広範囲の住関連の提案は難しいが、「台所」という場所に対する家庭用品的な商品の提案は十分できると思う。

――巣ごもり需要もあって、業界全体で惣菜部門が苦戦している。

古瀬 厳しい。今回、一番大きく価値観が変わったのは、昼と夜の概念。正直言って、午前10時から午後3時ぐらいまでの売上げは130%ぐらいになっているが、午後8時以降の売上げは60%ぐらいになってしまった。それぐらい昼と夜の価値が逆転している。夜、ほとんどお客さまがいなくなってしまった。

24時間営業の店舗や深夜まで営業している店舗の、夜の時間のメインの商材が惣菜だ。この時間帯の売上げが厳しいことで、他社と比べても惣菜の売上げは悪くなってしまっている。

ただ、それはあくまで理由の1つで、まだまだ提案の仕方が足りないとは思う。まず、必要な時間帯に必要な商品をそろえるという意味では、昼間に130%の売上げがある中、「そこに惣菜の商材がしっかりと出ているのか」ということがある。

長時間営業していたこともあって、どうしても力が分散されてしまっていた。それをなるべく早く、午前中の昼の需要に対して、全部品揃えできるようなシフトに変えていく必要があると認識している。例えば、海外の中国は外食文化だが、新型コロナの問題が起こって一番伸びたのは惣菜だという。つまり、外食から中食に変わった。日本はもともと中食の文化だったが、それが内食に変わったため、惣菜に直接は反応しなかったということだろう。

これから落ち着いてくれば、間違いなく「時短」などニーズはある。それをお客さまが求める形の時間と場所で提供できるかということ。だから、さらに強化していく。

店に入った瞬間、メニューが想起できる売場

――新型コロナウイルスは、今後のSMの経営にどのような影響を及ぼすと考えているか。

古瀬 (新型)コロナが変えたものはたくさんあると思う。1つは価値観が変わった。例えば、マルエツでいえば駅前立地は素晴らしい立地だったのだが、状況面ではいま、7割程度にしか戻っていない状況で、駅前の店舗の数字は非常に悪い。

お客さまからしてみると、家庭にいる時間が長くなっている。お客さまがSMに何を望まれているかということになると、1つは安全衛生がしっかりしているか。これはもちろん、最低限の選択基準になると思う。

2つ目は、やはりあまり買物に行きたくないということ。だから、買物の頻度は減るが、いっぺんに全部まとめて買っていきたいという思いが強い。もう1つは、それをなるべく短い時間で済ませたいという思いがある。

いままでSMがやってきた、「ワンウエーコントロールでなるべく動線を長く歩いてもらって、全ての売場を見て帰っていただく」ということとはアンマッチが生じてしまっている。

そこで、私たちがやらなければならないことは、例えば、メニューを決めないで来られるお客さまが6割いるとすれば、店に入った瞬間、「何にしようかな」というメニューが想起できる売場の展開。想起したメニューを迷わず買える、分かりやすい売場。関連陳列だとか、集合陳列だとか、分かりやすい表示だとか、そういったものを徹底して、短時間に、しかもたくさん買物していただけるという提案をしていかなければいけない。

例えば、豆腐の売場にスンドゥブなどの調味料があれば、メニューをイメージしてこられないお客さまが、関連販売されていることによってメニューを想起できる。いま、料理そのものを表す「専用調味料」がたくさんあるので、そういう商品を素材の売場になるべく陳列するように意識することによって、それに関する食材と併せて買っていただく。これをメニュー想起ととらえている。

ありとあらゆる素材の売場で、いろんな種類の提案ができると思っている。いまは、加工食品の調味料を置くだけだが、そういう意味での関連販売、売場提案、集合売場を徹底していきたい。

メニューが想起できる売場づくりを目指す。豆腐売場上段で専用調味料を提案(横浜最戸店)

――キャッシュレスについての状況は。新型コロナの影響もあると思うが。

古瀬 キャッシュレス比率は5月段階で40数%。1年前と比べ12ポイントほど上がった。つまり、1カ月に1ポイント上がっているということだ。そのため、手数料は相当のコストアップにつながっていることが問題だ。

港南ワールドシティ(東京・港)でフルセルフレジの実験を始めたが、Tカードのポイントが付かないにもかかわらず、お客さまの利用率はピークのときで25%ぐらいある。非接触で、ショートタイムで買えることにメリットを感じられているようだ。

しかも、このフルセルフレジは、現金が使えないキャッシュレスだけのもの。釣り銭機がいらず、投資コストも低く、お客さまのニーズも十分満たせるということで、この方向は早く進めたい。

また、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスでは「スマートPOSアプリ」(自身のスマホのカメラを活用し、商品登録から決済までができるアプリ)の展開を始めていて、カスミに続いてマルエツでも秋から始めていく。これだと「レジレス」まで行けるので、この方向は急いでいかなければいけない。

キャッシュレス比率が上がることは、当然、手数料が上がるということだから、レジレスまで持って行くことによって、そのコストを劇的に下げることができるというのが、基本的な方向性だ。

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