ザ・トップマネジメント「サミット 服部哲也社長」: 2021年新春特別版インタビュー

2022.04.12

2021.01.04

新中計で目指すのは食事材料提供業を超えた「生きる糧を分かち合うお店」、SMとして事業範囲を「社会」にまで広げる

サミット服部哲也社長

——今期から新中期経営計画(中計)がスタートしている。

服部 前回の中計は2017年スタートで19年に終わる「創革2019」だったが、それを受けて、20年からスタートし、22年までの新中計が「GO GREEN 2022」。その中の大きなテーマが「我々は何者で、どこに向かうのか」を考えること。

これはそもそもコロナがこういう状況になる前に、19年からずっと考えて策定したものだが、結果としてコロナによって世の中がかなり変わることに対して、すごく合致する内容になっているという気はしている。

まず、全体の考え方を整理していく上で、特にこのコロナ禍の状況において再確認できたことは、もともと当社が重視していたこと、そもそもスーパーマーケット(SM)の機能は、やはり日常の食事の材料の提供であり、セルフサービス、ワンストップショッピング、ショートタイムショッピングというような機能的な価値の提供であって、これをきちんとやることがよいSMだということ。

これがコロナ禍で再確認できた。ここがきちんとできないところは、やはりお客さまに支持されない。いま、世の中でSMを営んでいる企業は、ここをきちんとやってきた結果、この騒動の中で数字が伸びているということだと思う。

それでは、この後どうなっていくのか。いま、多くの企業がリモートワークなるものをされた結果、家のある街がともすれば「寝に帰るだけの街」だったものが、「本当に暮らす街」に変わりつつあるのかなと思う。

結果として、自宅で仕事をされたり、買物をされたりしている人を見ていると、自分が暮らしている街に対する興味・関心が湧いてきて、愛着とか、その先には貢献といったことが生まれるなど、いろんなことが変わってくるだろうと思っている。

結果、いろんな意味でのゆとりが生まれてきて、食に対する考え方、「食事をどう取るのか」「どういう質のものを取るのか」ということも多分変わってくる。

実際問題、4~6月辺りにいわゆる高級食材が売れるという話もあったが、全般として、家できちんと料理を作ってみんなで食べて、しかもおいしいものを食べたいということが、この先もある程度の比率では続いていくのではないか。

お取引先さまのトップの方も、「完全に元の勤務態勢に戻すことはない」と皆さんおっしゃられている。ある一定の比率でリモートワークが続くとなると、こういうことは傾向としては続いていくのではないかと思う。

加えて、それだけリモートをやっていると、「やはり、リアルがいいよね」ということで、人とのつながりがすごく大切なのだということを再確認できたのではないか。これも重要なことだと思う。

世の中の価値観の変化を捉えて手を打たないと「茹でガエル」になる

——新中計の考え方は。

服部 結果として、いろんな価値観が大きく変わっていく。世の中のいろいろなところで言われているが、利益偏重みたいな考え方ではなく、「GG2022」にも盛り込まれているSDGs(持続可能な開発目標)であるとかESG(環境、社会、ガバナンスの英語の頭文字)の考え方がすごく重視されるなど、そのバランスが変わってくると思っている。

社内で言っているのは、SDGsはすごく大きな話だが、自分たちの仕事の中でどのような取り組みがSDGsに資するのかというようなところまで、細かくかみ砕いてやっていかないと多分だめであろうと思う。大きな話ではあるが、かみ砕いていけばわれわれができることは結構あると思っている。

当然、皆さん、今後の景気の見通しや競争環境の予測をする中で、価格競争激化など厳しい時代が来るという話をされているが、それだけしか考えず、本当に大きな世の中の価値観の変化を捉えて、どうしていくか考えておかないと、気が付いたら周りに取り残される業界になってしまうのではないかと思っている。

いま(業績の)数字がとても良いのだが、そういうことも考えて、いまのうちにいろんな手を打っておかないと「茹でガエル化」しかねないと、社内で話している。

人口減少の問題、高齢化の問題は、コロナと関係ないところでずっと進行している。そういう中で、われわれが大切にしないといけないことは、やはり「お店が起点」ということ。ネットスーパーだろうが、何だろうが、全てわれわれは実店舗が起点に考えていく。

ネットの世界に移っていこうとか、別の地域でネット販売をやろうといったことではなく、実店舗の魅力を上げるための、その機能を補完するためのネットスーパーだったり、DX(デジタルトランスフォーメーション)であるべきだというのが、一番軸の考え方。

「ハイタッチなお店づくり」をしようと目指している中で、「そういう企業がやるネットスーパーはどういうものか、DXはどういうものか」と考えながら打ち手を考えていくのがわれわれの基本的な考え方だ。

——DXの進ちょくについては。

服部 そもそもDXの大元の考えは、「早い者勝ち」か、「後出しじゃんけん」かの判断を間違えないようにしようというもの。早い者勝ちでやった方が良いものと、究極の後出しじゃんけんをした方が良いものがあると思っているし、そもそもDX自体は、それを使ってイノベーションとまではいかないまでも、大きな競争力とか違いを作り出せるようなものをやっていかない限り、ちょっとぐらいの改善のために機械化するという話ではないのではないかという気がしている。

従って、ネットスーパーは1回失敗した経験を持っているので、ここは究極の後出しじゃんけんをすることが一番の得策だろうと思っている。そのキーになるのが、「実店舗の魅力を上げるためのネットスーパーとは何か」ということ。これをとことん考え詰めてやることになると思う。やるに当たって環境整備的なことはしないといけないので、いま急いで取り掛かっているのは、ネットで対応できるような商品マスターの整備。ただ、ネットスーパーをいつやるか、どういう形で、どうやるかは全然、具体化していない。

DXの成果で言うと、キャッシュレス対応や電子棚札やセルフレジなどの機械的なものは結構あるが、本当の意味での違いを作り出すところについてはまだできていないかなと言う感じがしている。

あとは、店内で野菜を栽培して販売するというインファームの導入もDXの中には入っているが、やはり、やるからには武器になるようなものをやりたいと思っている。

目指すのは「生きる糧(かて)を分かち合うお店」

——新中計「GO GREEN 2022」の具体的な内容は。

服部 「GO GREEN 2022」(GG 2022)のサブテーマは、「社会に必要とされる新しいSMの創造」。われわれのコーポレートカラーは緑(Green)だし、緑には新芽とか平和、安全、エコなどのいろいろな意味合いがある。そこにGo(行く)を付けることで、当然、「そうだ、サミットに行こう」とか、「サミットがあって良かった」、そもそも「環境・社会の課題に向き合う」とか、「成長」とか「健康」といった意味合いも全部この中に盛り込まれている。店舗数、売上高、規模の拡大といった要素はほぼ入っていない。

もともと「成長ストーリー」なるものを掲げてきたが、その中ですごく大切なのが、会社全体でいろんなことを「共有」して、そこに「共感」が生まれて、さらに「リスペクト」が生まれること。

結果的に、われわれの中では「家族的価値」と言っているが、お店全体が家族のような感じになる、会社全体が大きな家族のような感じになる。そんなことにまでつなげられていけばよいと思っているし、何となくこの3、4年の中で、完成ではないが、徐々にこんな雰囲気になってきつつあるのかなと思っている。

もともと「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」という事業ビジョン実現の状態を表す3つの視点として、「社員の視点」「お取引先様の視点」「お客様の視点」を掲げていたが、その真ん中に「社会」を加えた。これが「GG 2022」の大きな要素、視点になると思っている。

そんなことを考えていくと、そもそもわれわれがSMとして日常の食事の提供業をやっていく中に、社会やSDGsなどの考えを盛り込んだときに、いままでの概念だけで考えていってよいのかという話になった。そもそもその先にあるものを考え、それを目指さないといけないとなった。

それは多分、価格のためにトレードオフをするという考え方ではなく、当然、地域の中でのある一定の価格競争力を持ちながらも、やはり付加価値志向、ハイタッチを突き詰めていくというのが、われわれの生きる道であるだろうなとなった。

それは具体的にどういう店、志、状態を表すのだろうということを、管理職全員で議論して出てきた答えが、「生きる糧(かて)を分かち合うお店」。

「糧」とは何か。物理的な食べ物だけではなく、生きていく上での心のよりどころであったり、お客さまに寄り添うといったもの。

なおかつ、「分かち合うお店」であるというのは、われわれが一方的に提供するだけではなく、できれば地域の生活者の方も含め、「家族のようなお店、会社」に参画してもらうような、われわれ社員が、お客さまから逆に生きる糧を分けてもらえるようなお店であること。「ありがとう」の一言でお店の社員はやる気が出たりするわけで、そういうことが増えていくような関係性のお店を目指していくことが、われわれがこの先やることであると定義した。

新中計は、前中計のチャレンジを受けて「コミットメント(約束)」の段階へ

——「社会」の要素が加わることで店の位置づけも変わってくる。

服部 従来、社内で定義していたのが、「食事の材料を提供するお店」だったが、今年度に入って、「生きる糧を分かち合うお店」を目指すために提供しなければいけないものは何かを考え、SM業として再定義をしていこうという作業を始めている。

結果として、それを突き詰めていくと「食」から、地域の皆さまの「生活」、さらにSDGsなども含めた「社会」にまで、われわれの生業としての対象の範疇が広がっていくことが、われわれの目指していくことだと考えた。これが、「GG 2022」の根幹の考え方だ。

「創革2019」のときは、3カ年全て「チャレンジ・トゥ」、チェンジ、クリエイト、ビー・ザ・ワンでやっていたが、「GG 2022」では実現を約束するということで「コミットメント・トゥ」で3カ年やっていこうと思っている。

20年度の重点政策統一テーマは「コミットメント・トゥ・チェンジ」。個添経営Ⓡ(Ⓡはリスペクトを表す)は、いわゆる個店経営とは違い、われわれの場合は個々の社員の個性を尊重する。それがリスペクトのⓇが付いている意味。それは現場への権限移譲といった話ではなく、それぞれがみんなで役割分担して得意なことを生かしながら、その個性の総和で目指すものを実現していこうという意味合いだ。

——新型コロナウイルスの影響を受け、密や接触を避けなければならなくなっている。その中での「ハイタッチなお店」はどのようなものになるか。

服部 (20年度のスタートに向けて)中計を作ったが、実際の進ちょくは、やはり(新型コロナウイルスによって)「それどころではない」という状態が続いた。結果として10月の終わりぐらいに本部の管理職全員で、まさにこの中計の内容を具現化するための話をした。ある程度、方向性や考え方、具体的な取り組み事項が出てきたので、それに沿って中計自体はやっと走り出した。

われわれのいう「ハイタッチな取り組み」ができなくなったが、「そういう中でもどうやったらハイタッチができるか」、非接触型ハイタッチみたいなことを各店が考えてくれていて、いろんな取り組み事例が出てきている。それはまさに想像していたものを相当超えるものだった。

ある副店長は、小学生が店に来る店舗見学会ができないことから小学校に行って講義をしてきた。例年のことで学校側も困っているということだったので、「そうであればチェックスタンドのチーフといっしょに説明しに行きますよ」となった。こうした取り組みは本部からやるようにと言っているものではない。

チェックスタンドは、マスクをしていても笑顔が伝わる工夫をしようとトレーニングしている。逆にコロナが落ち着いた後が楽しみだ。

「コロナでハイタッチな取り組みできなくなった」ということで止まるのが昔のサミットだったのかもしれないが、いまは工夫をして何とかお客さまに寄り添えないかとやってくれている。

来期の予算はコロナが収束する前提で組み立てる

——サミットは、さまざまな尖った企画のチラシを投入して話題となっていたが、一時期、業界としてもチラシが減るといった状態になった。

服部 相変わらずやっていて、喜ばれている。結果として、今回のコロナで紙のチラシがすごく重要なものだったということを再認識した。

新聞の購読率が下がっているので、紙のチラシをウェブにシフトしていこうという話はずっと前から出ていたが、「安い商品が載ったチラシが折り込まれるので、それを目がけてお店に行く」ということではなく、「チラシを持ってお店の中を買い回るのが楽しい」という方が結構いっぱいいた。「チラシがないと買物が楽しくない」という声が結構あった。

そうなると結果的に、面白チラシをずっとやっていることは「変わったことをやっている」という感じで注目してもらうだけでなく、チラシを見ながら店内を買い回っていただくことにもつながっていた。これはチラシをやっている側としても、効いていることが分かったし、さらにそういうことを突き詰めていかなければいけないと改めて感じた。多分スマホで見るのとチラシを持って買い回るのとでは違うと思う。

——販促についてはEDLP(エブリデーロープライス)が進んでいくと考えるか。

服部 少なくとも特定の日にちに極端に集客するという施策ができないと考えると当分は、方向性としては、そうなっていくのではないかなと思う。

——新型コロナウイルスの影響でまとめ買いが増え、客単価増、客数減の傾向が続いている。来期以降もこの傾向も続くとみているか。

服部 コロナ禍がもし続くとすると、多分、売上げは上振れ要因になると思っている。従って、いまのところ考えているのは、コロナが収束するだろうという前提で、数字の組み立てとか、いろいろな施策を考えておくこと。残念ながらワクチンとか特効薬が少し遅れて、なかなか収束が見えないのであれば、それはいまと同じような状況になると考えている。

今年度がまさにそう。予算を立てたが、そのとおりにいかないし、結果として全部上振れ傾向になった。だから、その上振れ傾向を読むというよりも、きちんと収束してある秩序を持った生活が取り戻されて、そうは言いながらも価値観や生活が変わることにどう対応するかを考えて、戦略を組み立てていく必要がある。そこをやっていきたいと思っている。

人口流出でも出店地域を広げることは「絶対にない」

——最近、リモートワークなどで都内から人が流出していて、こういう傾向が続いていきそうだという予測も出ている。中心部から外側へ人口の移動があったとき、いまの出店地域をさらに広域に考えた出店戦略は採るか。

服部 結論は逆だ。広げることは絶対にない。もっと真ん中を掘っていくことになる。確かに郊外に移住するといった話がメディアを中心に結構出ているが、実際問題、引っ越した人がどれだけいるのかは疑問だ。

勤務地には行かなくなるかもしれないが、多分住んでいるところは変わらない。なおかつ、もともとSMの出店戦略は勤務地に店を出すのではなく、住んでいるところにお店を出すというものが多い。そこがコンビニと全然違うところで、勤務地にお店をいっぱい持っているコンビニは厳しかった。

われわれのように住む街にお店があるSMは、もちろん、扱っている商品が多いということもあるが(売上げが上がった)。人が住んでいる地域に店を出していくのは間違いなくやっていかなければいけないことだが、例えば、小型店だとか、都心型の店についても、別に勤務地に出そうとは思っていない。

(7月オープンの)神田スクエア店(東京・千代田)も住んでいる方が結構いらっしゃるので、オフィス需要だけを当て込んで出しているわけではない。人が住んでいるところはまだまだ出せる余地は、しかも神田スクエア店のサイズ(100坪)であればいっぱいある。

——出店については。

服部 21年度は3店の出店を予定している。翌22年度は4店舗の予定。プラス年度、年度の数字の組み立ての中で案配を見ながら改装をしようと思っている。

出店については、大型のお店は仕込みに時間がかかるが、都心型小型店についてもいろいろ物件の情報収集をしているので、もしかしたらその辺の積み増しがあるかもしれない。

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