ザ・トップマネジメント 「アクシアル リテイリング 原 和彦社長」:コロナ時代の先進経営を語る

2022.04.12

2020.08.08

アクシアル リテイリング原 和彦社長

社会貢献の一環で外食とコラボ、「競合」から「相互補完」に関係が変わった

――まとめ買いで客単価が上がる傾向にあった。7 月に入ってからの状況は。

 客単価の水準は4~6月とあまり変わらず、昨年対比でほぼ2桁の伸び。ただ、客数が数%下がってきているので、売上昨年比で見ると、4~6月に比べるとやや下がってきている。ただ、まだ、もちろん客単価の方が上に出ているので売上昨対で見ると高い伸びではある。

――買物が変わった。買物の頻度を減らし、まとめ買いをする傾向になったといわれているが。

 頻度はある程度、減っているが、まとめ買いの傾向はちょっと落ち着いてきているのかなと思っている。必要な量のみ買われる。どちらかというとこれまでは、「あれもいるかな」「これもいるかな」という感じで、まだ、巣ごもり化が続いていたが、その辺りの状況が少し変わってきた。

家庭内備蓄もだいぶたまったのかなという感じで、7月に入ってからはやや「適正量」を買われるようになってきたなという感じを受けている。もちろん、外出をあまりせず、内食化が進んでいて、一定量はお買い求めになるのだけれど、一時のような、異常なまとめ買いは落ち着いてきている。

――今後、価格競争が激しくなるという声もある。今後の価格政策は。

 景況感は、やはり相当厳しくなるだろうと思っている。それに伴って、お客さまの生活防衛意識はより高まるのではないかと思っている。

ただ、一方で、激しい販促を打つ、いわゆる低価格訴求をして、「3密化」させるようなことは、この時代、現時点ではなかなか打ちづらい政策なので、やはりEDLP(毎日低価格)化を強化していく方向性になると思う。

実は、去年の10月の消費税増税に伴って、かなりEDLP化を推進した。それと共に期間限定ではあるものの、1カ月、2カ月単位という比較的長期間の「ロングランプライス」を新たに始めた。10月に新たに始めたものや、10月を契機に進めてきた政策をより深掘りする方向かなとは思っている。

――ネットスーパーの利用動向は。リアルとネットの使われ方が新型コロナによって変わったと感じるか。

 一時、3月、4月は(前年比)200%ぐらいまで行った。いまは130%ぐらいで、一定の伸びの状態になっている。200%のときはキャパシティを超えたが、いまは対応できている。ネットスーパーは「スタンダード」と「プロ」の2種類を展開していて、決済の仕方が違う。プロは業者さまが使われるので、一部掛け売りにも対応できるようにしている。

やはり、売上げが上がったのはスタンダードの方。当日お届けなど使い勝手が良いこともある。プロは業務筋の比率が高く、特に外食産業はお休みになられていて伸びにくかった。

もともと、ネットスーパーは黒字だった。配送料を頂戴していることが黒字化の一番の大きな要因だと思うが、今回も、「配送料を支払ってでも使いたい」という方が結構増えたし、「配送料を支払ってでも、使った方がお得」と感じていただいて、継続的にご利用いただいている方も相当数いらっしゃるのではないかなと思う。

「がんばろう!日本」が可能性を広げ、やりがいを生み出す

――観光地や飲食店などの商品を取り扱う「がんばろう!日本」の取り組みをした。

 新型コロナウイルスの感染拡大への対応方針を大きく3つ掲げた。1つ目は、お客さまはもとより、従業員の皆さんの安全安心を確保すること。2つ目はライフラインとしての役割を果たすこと。3つ目は、われわれだからできる社会貢献を、大変な状況だからこそ、しっかり積極的に取り組もうということ。

「がんばろう!日本」は、この3つ目の社会貢献の一環だ。今回は外食や観光業の皆さんがかなり影響を受けているというのが3月の段階から出ていて、食材が動かなくなって滞留して大変なことになっているということだった。そこで、それを私どもの店頭で扱わせていただいたらどうだろうかと思った。いままで取引がなかった200社ぐらいに声をかけたし、いまもいろんなところとお話をしている。150社ぐらいと実際に新規に取引が始まっている。

居酒屋さんなどは、いままで「胃袋を奪い合う」競合関係にあったが、居酒屋さんがお作りになった弁当などを私どもで販売させていただいて、「こういう形で補完関係になることができるんだ」とお互いに気づいた。先進的な居酒屋さんは、かなりセントラルキッチンなども進んでいらっしゃって、そのセントラルキッチンを活用した取り組みなども、今後いろいろ考えられる。

例えば、お盆にはオードブルが売れるが、われわれも製造拠点が足りなくて困っていた。それを、「居酒屋さんの方でできませんか」といった話もさせていただいたりしている。まさか、こんなコラボレーションができるとは、始めたばかりのころには思わなかったが、意外と広がってきておもしろい。メニュー開発など次の仕掛けにも取り組んでいる。おもしろい補完関係になれることに気づかせてもらえた。

みんなが困っているときに、われわれだからこそできることにチャレンジしようじゃないかということで、取り組んだ。困っている外食さんやお土産屋さんから「助かった」という声をいただいて、担当のバイヤーや店舗の皆さんも非常にやりがいを感じてくれた。

キャッシュレス・ポイント還元事業の影響はなかった

――昨年10月から今年6月までの期間、中小企業やフランチャイズチェーンを対象にしたキャッシュレス・ポイント還元事業があった。どう総括する。

 去年のいまごろは、これに対して戦々恐々としていた。おかげで相当、準備万端整えて、「われわれがどうやって対抗できるか」ということを真剣に考えて、いろいろな施策を打った。EDLP政策、ロングランプライスなどの他、商品もこれに向けて相当いろいろな商品を開発して導入した。また、われわれ自身もポイント還元はないものの、PayPayを導入するなどキャッシュレス化を推進した。

スーパーマーケットの本質を追求するということで改めて商品を強化。極醸塩銀鮭もその1つ

その結果、「影響はなかった」と判断している。唯一あったのが、値上げとポイント還元が重なった「たばこ」。いままではたばこは値上げがあると、販売点数は下がるが、その分単価が上がってほぼフラットになるものだった。ところが今回、単価は上がったが、買われる場所がポイント還元のコンビニや他社に流れて、1割弱の売上減が10月以降ずっと続いている。本当に理不尽な、ひどい施策だったと思う。

確かにキャシュレス化は進み、キャッシュレス比率はPayPayの分が増えたり、クレジットカードの利用も増え、この間6ポイントぐらい上がり、30%ぐらいになった。一方で、お客さまの1人当たりの決済時間は多少短くなったが、精算方法が多様化したので全体の手間はむしろ増えた。

この先、キャッシュレス化はより進行していくと考え、年度別にどのぐらい進むかを試算しているが、それに伴って手数料負担が億単位で年々増えていくとみている。本当に生産性がこのまま変わらないでいると、むしろキャッシュレス化が進めば進むほど、経営を圧迫してしまう。これは結構、深刻な問題になる可能性があると思って、手数料全体を抑えるためにどのような手段があるかを検討している。

キャッシュレス化を進めて生産性を上げたいのだが、生産性を上げる前にコストの増大が先に来てしまう。一過性のものであればよいのだが、ランニングコストが膨らんでしまうということで、やっかいな問題になってくると思っている。

――時限的に認められた本体価格表示が来年3月に終わり、総額表示が義務化される見通しだ。

 総額表示に戻すのは反対だ。このタイミングは最悪。間違いなくデフレを助長する。以前の総額表示のとき(04年)もそうだったが、どうしてもわれわれは売価を値頃に抑えたくなるので、そうすると数%、実質売価を切り下げることになる。

そうするとその分、われわれが自腹を切らなければいけなくなる。当然、その分、単価が下がり、デフレ化が進み、企業収益も下がってしまう。これは絶対やってはいけないことだと思う。業界団体挙げて、阻止すべき案件だと思う。

新型コロナ禍の中で、ただでさえ景気が冷え込んでいるにもかかわらず、また、デフレをより助長するような政策をすると、相当厳しくなるだろう。国民にとって何のプラスにもならないはずだ。

セッションのように、主体的に皆が楽しむ

――今年から長期ビジョンとして「Enjoy! Axial Session♪」を掲げている。

 10年前ほど前の2009年に前の長期ビジョンを掲げたが、ちょうど2020年という区切りの年であり、時代の背景がSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとして、いろいろ価値観が変わってきたり、企業に求められるものもずいぶん変わってきた。

また、前のビジョンを掲げたときは、まだ、ローカルのスーパーマーケットだったが、いまは6県にまたがるリージョナルチェーンになれたということもあって、そろそろこの辺りで見直しをしようとなった。さまざまな技術革新が日進月歩で進んできていて、その結果、お客さまのライフスタイルが変わってきているし、これからも大きな変化を来す。

もう少し言うと、人口減とか、それにまつわる健康志向とか、社会構造、お客さまのニーズも変わってきているので、それに合わせたビジョンにしなければいけないという背景がある。

もう1つは、われわれチェーンストアとして、リージョナルチェーンという一定の規模にはなったが、より以上にマスメリットを生み出して、お客さまにそれを還元していきたいと考えているが、そのマスメリットを生み出す活動も、もっとしっかりした、いままで以上の取り組みをしていかなければいけない。

一方で、そのためにも、個々人や各部署や各企業が主体的にそれに取り組んでもらわないと困る。あたかもそれはバンド活動、ギターを弾く人はギター、ドラムを叩く人はドラム、という具合に、それぞれの技量をアップしながら、ちゃんと息の合ったセッションを奏でられるようにしていかなければいけない、そんなイメージだ。

それを、悲壮感を持ってやるのではなく、みんなで楽しみながらやっていこうじゃないかということ。現実は競争も厳しいし、いろいろ問題もあるが、レベルアップを楽しめるように、という意味も含めて「Enjoy!」や「♪」を使った。従業員の皆さんもやりがいを持って、楽しみながらやってもらいたいと思っている。

――特に技術革新への対応について、どのような方向性を考えているか。

 店だけでなく、お客さまから見えない場所の分野も、ずいぶん変わってくると思う。技術革新はITの革新も多く含むが、それだけではなく、例えばゲノム編集や冷凍技術などの分野も変わってくると思う。こういうものにしっかり対応していけるようにしないといけないと思う。

――M&A(合併・買収)など企業規模、あるいは商勢圏拡大の方向性は。

 以前から、良い話があれば前向きに検討するスタンスは変わらない。あくまで一般論だが、この新型コロナで、皆さん売上げも利益も上がっていると思うが、ただ、いまはちょうど「この先を考える」タイミングになっているのではないか。

ここがある意味のピークで、必ず反動も来るし、いろいろな技術革新の分野にも、取り組まないといけないとみんな気づいている。実際、「自分たちで取り組めるのか」などいろいろ先々のことを検討している時期ではないかと思っている。たぶん、いろいろな話がこの後、水面下で動き始めるような気がしている。

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