ザ・トップマネジメント 2023年の視座と戦略 ヨークベニマル 大髙善興会長

2023.01.04

価格転嫁はある程度はやむを得ず、一方で生鮮、惣菜での価値を高める努力をするのがSMの役割、人の成長こそが企業の成長に

――2022年を振り返ると。

大髙 コロナもそうだが、物価高騰、エネルギー・コスト構造(の問題があった)。そうした中、10月、11月には値上げをしたけれども、買上点数は少し落ちたが、商品単価が103%ぐらいで、11月の売上げは昨年比で見ると全店は104%ぐらい、既存店は101%ぐらい。ほぼ計画どおりだった。

やはり価値のあるもの、新しいものはそれなりに売れている。あとは経済性、安さといった二極の購買なのかなと思う。その点では、新しい商品を出している部門、カテゴリーは良い結果が出ている。マーケットが全部駄目ということではない。

だから、われわれが物価高騰に対してどのような考え方かといえば、コモディティ(必需品)はできるだけ上げない努力はするが、これだけエネルギーだとかコストなどの高騰に対して価格転嫁しないというわけにはいかない。

ただ、できるだけ(価格転嫁を)抑えながら、魚、肉、野菜の生鮮食品、デリカテッセンの価値。新しい商品、品揃え、質を良くしていくなど価値を高める努力と、お店のマネジメントの部分では、特に生鮮食品は来店時間に合わせて味の良い、おいしい、出来たてのものが出せるようなマネジメントに努力をしていこうということだ。

10月、11月は粗利益、利益もほぼ計画どおり。ただ、まだまだ無駄、無理、むらはマネジメントもできていないので、きちっと対応していけばこの試練は乗り越えられるのではないかなという思いで仕事をしている。

生鮮、惣菜では質を高めた新しい価値を提案する商品を積極的に導入

――10月、11月は利益は計画どおり。電気代の高騰などで減益圧力があったが。

大髙 エネルギーは年間で、昨年比で見ると30億円上がり、また、9月は物価高騰と価格転嫁があったこともあって9月は厳しかったが、ほぼ計画どおりだった。

――価格転嫁に対するスタンスは。

大髙 ある程度、抑えるもの、どこで買っても同じものは(していないが)、しかし、上げるものはきちっと転嫁していかないといけない。特に牛肉や輸入品関係はもろに円安が響いている。ただ、価格転嫁はしながらも、ただ上げるのではなく、やはりその分、質を高めていく。曜日別、時間帯別にきちっと値下げロスや機会損失などをカバーしながらやっていこうとしている。まだ、課題はいっぱいあるが。

当初、ちょっと心配した。10月は6500品目を値上げしたから、どんな結果が出るのかなと。その点ではカテゴリーごとに、上げてもお客さまが納得してくださる、売上げが落ちない部分と、あとはやはり反動が出ている部分は幾つかある。ビールなどは上げると翌月は落ち込んでいる。

――セブンプレミアムなどプライベートブランド(PB)の売れ行きはどうか。

大髙 セブンプレミアムは大体110%ぐらいに伸びている。グループ全体でも23年1月ぐらいまでできるだけ(価格)据え置きの方針でやっていく。お客さまはやはり価値をちゃんと見ていて、お客さまに価値伝達、売場で提案ができている店は良く売れている。

――PBで伸びている分野は。

大髙 油、マヨネーズなど日常のベーシックな商品が120~130%に伸びている。分かりやすいところが特に伸びている。

――一方で、買上点数は少し落ちている。

大髙 買上点数は、10月は98%ぐらいだった。ビールなどの値上げの反動は多分にある。やはりお客さまが一定の所得の中で買物をするということで、選択購買になっている。従来の購買よりは無駄をしないという部分が多分にあるのだろう。

その分、商品単価が10月は104%ぐらい。それで既存店売上高101%ぐらいというバランス。買上点数は11月からは回復傾向だ。

来店頻度はあまり変わっていない。ただ、やはり、ヨークベニマルのメインのターゲットの部分の中でも「上質」を求めるお客さま、「中」、そして「バジェット」とある中で、感覚的だが、やはりバジェットゾーンはディスカウントストアやドラッグストアに流れている。

歩いて10分、車で5分のエリアのお客さまの売上げはそれほど落ちていないが、(より広域から低価格を求めて来店する)コモディティのディスカウント的なところは落ちているという感じがする。客数は落ちているからだ。東北にも大型ディスカウンターがいっぱい出てきているから大変だ。

会社のロイヤルティは客数。課題は基礎商圏の来店客数をどう増やしていくかが課題と思っている。

ただ、われわれのコンセプト、「限定商圏での毎日の食卓」(足元商圏から高頻度で来店)のお客さまは、もちろん、一所懸命努力していることもあるが、例えば(ディスカウントストアの競合も多い)郡山の店などでも前年比客数はほとんど落ちていない。

やはり、ディスカウントストアへの来店は週1回、月1回で、まとめて買うといったもの。だから商圏がものすごく広いではないだろうか。彼らは商圏拡大を狙っているし、私どもは商圏の中の密度をいかに充実させていくかということで努力をしている。

その点では接客サービスとか、生鮮を中心として、時間帯別にきちっと売場ができているか。あとは少量対応ができているか。最近では1人暮らし、2人暮らしの世帯が商圏によっては7割ぐらいを占めるようになっている。われわれのターゲットを大事にしながらやっていく。できているかというと、まだまだできていない。

無印良品との共同出店は若年層の集客に効果

――高齢化が進む。

大髙 われわれの課題は、Z世代(1990年代半ば~10年ごろ生まれ)、ミレニアル世代(80年代~90年代半ば生まれ)の、若い世代にどう顧客満足してもらうか。若い世代はやはりディスカウントストアやドラッグストアを上手に使い分けている。

――無印良品との共同出店は若い世代への集客にも期待がかる。シナジーは。

大髙 うちも5店いっしょにやっている。足利店(栃木県足利市)などは良い結果が出ている。シナジーで5%ぐらいの影響があった。やはり若い客層が増えている。

無印良品は来店頻度は月1回で20代、30代、40代の若い人が多い。スーパーマーケット(SM)は週2、3回来店の人が8割。そのシナジーを出していこうという考え方だ。

SMとの共同出店を増加させている無印良品。22年12月1日オープンの塩釜舟入店(宮城県塩竈市)では栃木県那須塩原市の富山西店に続いて2店目の同じ建物内での共同出店

――競争環境をどう考える。

大髙 いつも言うが、会社は大きくなってつぶれていく。

重要なことは顧客満足させるための技術とマネジメント。もう一方はパーパス経営、「何のために」という組織風土。この心と技術とマネジメントの総和が顧客満足につながり、それが企業としての成長性になる。

差別化と言えば何か。商品などもあるが、最終的にはそこで働く1人1人の技術とマネジメント。それらと企業の成長とのバランスが崩れたとき会社がおかしくなる。

経営というのは「駄目なもの良くすること」。

信念を持って、そこで働く人たちの持っている知恵、そして小売業は何と言ってもモチベーション。高い目標を持って、毎日地道にこつこつとやれるような組織と仕組みができていないから会社がおかしくなる。

いろいろ課題はあるけれど、それをどうやって、どういう手順で問題を解き明かしていくか。その仕組みが組織にきちっとできていなければいけない。

店数が増えるにつれて会社の力、レベルが落ちていってしまう企業は多い。だから、いかに1店舗1店舗が「中小企業」のように、「赤字になったらつぶれる」という危機感を持てるか。モデルはセブン-イレブン。自分の店は自分で守るということだ。

官僚化してサラリーマン化するのではなく、危機感を持って「何とかしよう」、リーダーが「この店をこんな店にしてみたい」という思いを持って、そこで働く従業員の持っている知恵を引き出す組織と仕組みができるか。

急に店数を増やすということではなく、常に現場での買物体験と、お店の技術とマネジメントレベルを良く見ながら成長を考えて行こうと。

小売業で大事なことはマインド。情熱、使命感、地域の暮らしを良くしていく、そういう思いを持っているリーダーがいるところは良くなっていく。苦労するから、試練を乗り越えるから人は成長していく。学歴や経歴ではない。「苦歴」だ。

SMの場合は、無人店舗というわけではなくレジをはじめ「感じの良い接客」、品揃えや鮮度、あるいは価格、常に新しさや売場技術での「商品の価値」を創造していくこと。自分たちのターゲットは誰か、自分たちのドメインはどこにあるのか。

その「日常の普段の暮らし」をどうやって実現するのか。それはやはり現場現物。お客さまの生活シーンの中でお客さまは何を望んでいるのかという潜在的なもの。価値を創造していくことが顧客を創造するんだということ。

それを考えるとき、私はいつも自分たちの強みや独自性は何かを考えるが、その点ではヨークベニマルでは「野越え山越え」の精神がある。これを徹底する。

感謝の心を持って、来店したお客さまに感じの良い接客、味の良いおいしいもの、常に新しい提案をし、良い買物体験がある。ヨークベニマルに行ったら、何となく雰囲気が良い、買物が楽しい、そんな店を目指していく。価格の満足度は高くないけれども、そんな店を目指して努力をしていきたい。

これからは信念が大事になると思う。軸をぶらさないでしっかりやること。この業界に65年いるが、「これで良い」と思ったことはない。試練を乗り越えるたび会社は成長する。歳を取ったせいか、神さまは成長するチャンスを与えてくれたとポジティブに考えるようになった。

建築費高騰受け、来期は既存店活性化に注力

――時代としては現金の取り扱いが減っていく。

大髙 現金を持ち歩く時代から変わってきている。時代の変化にも対応していかないと駄目。うちは70%キャッシュレスになっている。(スキャン機能付きの)カートも導入しているし、無人レジ(セルフレジ)も良く使われている。コロナの影響もあるだろうが、自分の買物をあまり知られたくないということもあるかもしれない。

――23年に向けては。

大髙 インフレがいつまで続くか。賃上げがどれだけ進むのか。(その負荷を)吸収できるのか。23年は22年以上に厳しいのではないかという中で、われわれSMも経営していかなければいけないと思っている。3月ぐらいで物価高騰は一段落するという見方もあるが、その後、どんな購買行動に変わっていくか。

値上げに伴って、品質、売り方、パッケージなど新たな価値を創造しながらやっていかないといけない。ただ上げただけではお客さまがいなくなってしまう。

ただ、売上げには外部的な要因があるが、内部でやれることはいっぱいあるだろうと思っている。無駄、無理、むらとばらつき。「ワースト」を「平均」まで上げるだけでも違ってくる。世の中、奇策はない。基本をしっかり守って顧客満足を実現すること。その徹底力の差が企業の差だと思う。

週3日ぐらい店を回っているからどのレベルにあるのか分かる。異常値もいっぱいある。その異常値について、どうやって問題を解き明かしていくか。個店ごとに、道具を、きちっと教育していく。

ヨークベニマルでは、現場のマネジメントのレベルが見えるようにしている。目標を達成させるために「見える化」しているわけだ。レベルが上がった分が業績。表面的な部分ではなく、その裏にある組織と仕組み。そのレベルが上がっている分が全部業績になる。最終的には人を育て、その人の成長が部門の成長であり、店の、会社の成長になる。

1店舗1店舗経営者をつくっていく。そこで働くマネジャーを中心に、10人~15人の単位で小さく考えて、実行し、見えるようにしている。私が店を回っているのは「気付かせて」「背中を押してやる」ため。

1つ1つを自立と自己責任で考える。赤字になったらつぶれる。危機感だけでなく、それぞれのリーダーが毎日の仕事の中で、高い目標を持ってやってみること。そうした組織風土が作れるかどうかが大事なのではないか。

組織と仕組みが定着できるか。それをしっかりやっていけば何とかなるのではないか。大きくなって、危機感がなくなって、ゆでガエルになって、「仕方がない」ではない。これは誰もが知っていることだ。

――来期の出店ペースは。

大髙 建築費が高騰しているため、どちらかというと出店ペースは従来よりは抑え、既存店の成長に重点をかけて行こうと考えている。新店の6店は確定している。あとはスクラップ(&ビルド)を何店舗行うかは今期の業績を見て決める。

今期は古い店の建て直しを4店舗実施した。その他に新店を7店出店している。(目先の)利益を出すために先送りせずに、つらいが、目先ではなく5年後、10年後のことを考えて活性化を進めている。活性化には2億円、3億円、高いところでは8億円をかけている。

だから、ヨークベニマルの店舗年齢は若い。活性化したら0歳と考えているが、いま平均4.7歳。教育を含め既存店にお金を投資して、一時的に利益を出すわけではなく、ちゃんと(将来に渡って継続的に)売上対比4%の利益を出す。

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