ザ・トップマネジメント ヨークベニマル 大髙耕一路社長

2024.06.12

ベニマルが「戻ってくる場所」であり続けるために組織を再設計、イトーヨーカ堂再生にも、デリカの製販一体モデルの移植で貢献する

――3月から社長に就任した。

大髙 この2月に社長になることが決まったときに、(従業員の)皆さんにお伝えしたのは、「まず、いの一番でやはり商品を大事にしましょう」ということ。

特に「鮮度」の部分。いま鮮魚であれば丸魚の売場を一気に拡大している。とにかく午前中は、やはり鮮度感の高い、お子さまたちが来たときに、「魚の名前を覚えたよ」と言ってもらえるような売場をつくりたいという名誉会長(大髙善興氏)の思いがそこに出ている。

写真はいわき平店(福島県いわき市)、以下同

精肉もL字の冷ケースを使って、やはり写真を見ただけで、「ヨークベニマルの精肉の売場だ」と、われわれもそうだし、お客さまが見て、「ベニマルのお肉の売場はいつも良いね」と言ってもらえるような売場を、かなりのお店で実現できるようになった。

ただ、その裏でやはり、魚を切る方、お肉を切る方がどうしてもお店に必要になるので、(それ以外に)インストアでやる作業は極力を減らさなければならない。できる限り、生鮮に人を割り振るために必要なことに聖域なく、取り組む。これが、いま堀越康弘・取締役常務執行役員営業本部長と2人で取り組まなければいけないこと。

人事が発表されてから毎週週末、営業本部長といっしょに1泊2日でお店を回っている。店長から声を聞いて、売場をいっしょに回って、お店の従業員の声も聞いて、ということで、(店と)同じ目線で話している。

いままで長年、営業本部長を社長が兼務していたので(大髙善興氏、真船幸夫氏が社長時代は営業本部長を兼務)、今回、営業本部長をあえて別にした。私には営業本部長の兼務はできない。私はどちらかというと(セブン&アイ・)ホールディングスの関係も含め、ガバナンスと、会社の中の経営の仕組みをもう1回作る。

私にはヨークベニマルでの実務経験が乏しいため、あえて4本部長に分けた。いままでは営業本部長兼務の社長に加え、営業サポート部長がいたが、実質、社長1人に権限や情報が集まる仕組みだったものを、「その前に1回、本部長のレベルで4つに分けましょう」と。かつ経営企画(企画室)が営業サポート部の下にあったものを、あえて社長直轄にして、その4つの本部をつなぐ経営企画室とした。

(大髙氏が長年勤務していた)伊藤忠商事に瀬島龍三氏が作成したと言われる(経営企画系の)「業務部の在り方」みたいな考え方があった。私は経営企画部員だったので、当時の食料カンパニーのプレジデントになり代わって経営企画部員が経営を見る、俯瞰するという教育を受けてきた。

その点、いままでのヨークベニマルの企画室は「社長の発表資料を作ります」とか、「取締役会の段取りを組みます」とか、事務的な仕事ばかりの「企画」だったので、経営企画とは「経営を企画するもの」という話をずっとしている。

伊藤忠商事のやり方がベストとは思わないが、それしか知らないので、そのための部署を作って、取締役会や経営会議に挙げてくるべき案件と、まだ挙げてきてはいけない案件も含めて、申請部署以上に経営企画には「何でこれを議題に挙げてきたのか?」というような緊張感を持たせたい。

もちろん申請部署である4つの本部の本部長も責任を持って自信のある案件しか挙げてきてはだめということにしている。

「ヨークベニマルへの入社を微塵も考えたことがなかった」から一転、入社へ

――社長就任までの経緯について。

大髙 もともと生まれる前から、「3代目は入(い)れない」ということが、親族、もしくは創業者の思いとして2代目には伝わっていた。だから、(3代目以降の)「大髙」と名の付く人たちは入っていない。

だから私も、そのつもりは一切なく、それが大学受験のモチベーションだった。「俺ら東京さ行ぐだ」と、高校時代にがんばって勉強したのは確か。就職も自分で探さなければいけないということで、1992年に伊藤忠商事に入れていただいた。

伊藤忠商事にはずっと最後(定年)までお世話になるつもりでいた。アメリカには3回(いずれもニューヨーク)に赴任させていただいて、最後の3回目の着任が2016年。その時はもうこのタイミングで駐在、それも現地法人の代表取締役副社長(シニアバイスプレジデント)北米食料部門長、北米全体の食料の責任者だった。日本へ戻ってくるときには、もう50代になってしまうので、なおさら(ヨークベニマル入社を)微塵も考えたことはなかった。

そうしたら、18年の頭ぐらいに国際電話がやたらかかってくる。(名誉会長から)「(入社については)どうだ」と言われ、いや「どうだ」と言われても、駐在員の人事はそんな簡単に変わるものでもない。しかも、当時は50歳間近の49歳だった。

それで5月ころ出張で帰ってきて、名誉会長と話をして、最終的には「考えなくはない」と話したら、井阪(隆一・セブン&アイ・ホールディングス社長)さんにあいさつに行くといった流れになり、その後、伊藤忠商事には9月くらいに(ヨークベニマル入社を)伝えた。

それで翌年の2月、当時の同僚にも転職を内緒でヨークベニマル社内の北米視察ツアーに参加し、そのバスの中で「4月1日からお世話になります」と。こんな流れで19年4月1日からお世話になっている。

(19年)4月1日からの初年度はお店での研修、2年目が堤下店(福島県郡山市)で店長を、3年目はチラシなどの販売促進と商品イベントに横串を刺すような部署をわざわざ真船(前)社長に作ってもらい商品企画、4年目が「競合対策を含めて勉強しなさい」ということで郡山ゾーンのゾーンマネジャー。

(5年目の)去年が営業副本部長。真船(前)社長が「カスタマーファースト」を掲げ、「本部から見たお客さまはやはりお店だ」「お店の困りごとを聞いてきなさい」と言われ、ちょうど(新型コロナウイルスが)5類になるタイミングだったので、営業副本部長として1年間、毎週1泊2日でお店を回って店長さんたちと会食も始めた。

名誉会長からも最初から5年をめどに見極めると言われており、今回の就任に至る。あくまでこれからだが、判断するのはやはり従業員の方であり、お客さまであり、「あの人になって良かったね」と言ってもらえるようにがんばらなければいけないと感じる。

やり方を工夫しながら、7連休が取れるようにしていく

――どういう会社を目指していくのか。変えるところと変えないところは。

大髙 お客さま目線で言えば、年末やイベントのときなど、たくさんお客さまに来てくださるとき、特に帰省したときに「ベニマルに行こうか」と自然と口に出るような、「戻ってくる場所」。もしくは、「お腹が空いたからベニマル行くか」でもいい(笑い)。

それで、ベニマルに来たら「何か新しいものがあった」「いつもの商品があった」「探していたものがあった」という世界観がベニマルの中で実現できたら本当にありがたいなと思っている。

従業員の方々の目線でいうと、親子兄弟姉妹で働いてくださっている方がすごくたくさんいらっしゃる。やはり、そういう方々を少しでも増やしたいと思っている。夫婦でベニマルという方もたくさんいらっしゃる。

この間、内定者といっしょにお昼を食べながら30分くらいお話しする機会があった。そのとき、「いま、7連休が取りやすい会社にするためにがんばっているから、ぜひ、就職しても7日間、どこに(遊びに)行くか考えておいてね」と言った。やはり、そう言った以上、その責任もある。

7連休の取り組みは去年から始めたが、いまお店を回っていて「7連休、取った?」と聞くと、「取りました」。「どこ行ったの?」と言うと、「ユニバーサル・スタジオに行きました」とか、「ディズニーランドに行けました」とか、「子どもたちを連れて北海道に行きました」といった話が出てくるようになった。

ただ、ある程度年齢の高いマネジャーたちは、「5連休も大変なのに、7連休なんかいらない」と言う。やはり1週間休むことに対するリスクもある。なかなかメンバー(パートタイマー)さんたちだけで発注や計画をするのには無理な部分があるということだ。

だから、例えば売価管理部門では「2週間分発注」ができるような情報などを本部にお願いして出してもらったりだとか、工夫は少しずつしている。

やはり(加食など)売価管理の方は比較的(休暇が)取りやすい。これを、生鮮の方も取れる仕組みを考えようということで、ゾーンマネジャーたちに聞いて、近隣店舗でグループ分けをしたらどうかとなった。それで、近隣の数店舗で協力して、スーパーバイザーたちが段取りしてバランスよくマネジャーや人員を振り分けて連携すれば、「やってみたら、いけますね」となっている。

――7連休の取得率は。

大髙 去年の途中から始まったゾーンもあるが、去年の下期はゾーンによっては、ほぼほぼ取らなかったマネジャーが数人くらいのところもあった。一方で、期中でゾーンマネジャーが異動したり、初年度のゾーンマネジャーのところなどは、まだ徹底力が弱かった。今年は2年目で、良い事例が幾つか、何ゾーンか出てきたので(期待したい)。

いま、幹部には7連休はほぼ強制で休んでもらっている。「(組織の)上が取っているから、下も休ませないといけないですよね」と。

「休みにはどこに行くの?」「実家帰ります」「実家はどこ?」といった話ができることで、お互い信頼関係も生まれてくるだろうし、結果的にエンゲージメントも上がるのかなと思う。エンゲージメントを無理やり上げようとすると逆効果かなと。

あとはやはり、休みたいときに休める形が取れるか。5連休でも、土日を入れるとか。いままで土日月曜に休むなんてことはご法度みたいな世界があった。

でも、それができるような会社の雰囲気に変えてあげたいし、「限られた時間の中でベストなパフォーマンスをする」ような態勢を目指したい。

――小売業は離職率が高いといわれているが。

大髙 いま入っていただいている方々をまず大切にすること。いまのメンバーさんたちをできる限り社員に登用できるように、さらに言えば「社員になりたい」と思っていただけるような仕組みを作らなければいけない。

近隣である程度、助け合いながら運営する仕組みができたら、例えば病気が出たときも、育休だとか、あるいは介護だったりとか、ご家庭の事情などがあるときに、「休めない」ではなく、仕組みとして対応できる。

また、近隣のお店の手伝い、例えば小さいお店のマネジャーが隣の大きい旗艦店舗に手伝いに行くと、「ここのマネジャーになりたい」と思うかもしれないし、大きいお店のマネジャーたちが小さいお店に行くと、「オペレーションが厳しいので、こうやった方がいいんじゃない」というようなアイデアも出てくるかもしれない。

(休みが取れるなど、余裕が生まれると)やはり、お店が明るくなるし、それで数値が良くなってくるとみんな、新しい挑戦するようにもなる。

今年のテーマは「新たな挑戦と価値創造」。「失敗を恐れないで」「失敗を責めないから」と。もちろん、創業精神だったり、基本4項目、法律、コンプライアンスだったりは絶対守る。一方で、それ以外のことに関してはどんどん新しく。

「お客さまが買物を楽しくできるようになるには」とか、「みんなが楽しく働くためには」どうしたらよいか。基準は「楽しく」。「何でも挑戦していいよ」というわけではなく、やはり楽しくなるために、「これ、本当に楽しくなるためにやったの?」という部分は大切にしたいというのはある。ばくっとした話であるかもしれないが、私はあまり細かい話はできないので。

真船前社長はずっと営業本部長も兼務だったので、社長の顔と営業本部長の顔を使い分けていた。私はそんなに器用ではないし、逆に社長業務だけで精一杯。社長としてやはり創業精神と、経営者としてのあるべき方向性だけはしっかり出さなければいけない。

重点エリアはやはり人口の多い「北関東」

――人口が減り、東北を含めて出店余地がどんどん少なくなっているが、成長戦略はどう描く。

大髙 やはり、ある程度、既存(出店地域)の5県の中で人の減らないところを中心に仙台だったり、宇都宮だったり、つくばだったりとか、そういう地域(都市部)が当然、重点エリアにはなる。

うちは本当に(シェア)30%を目指してがんばっているが、やはりシェアを上げていくこと。それが結果的に物流だったり、いろんな意味でメリットになるし、お客さまにもメリットになる部分も出てくる。

ただ、人が急激に減っていく過疎地にも出店しているし、そういうところの出店はやはりわれわれにとっては「社会的使命」であることは感じている。それを維持しながらも、やはり、既存のまだまだ余力、余地があるところ(を重点エリアとする)。

地域の中では、特に「北関東」が重点エリアになる。そういう意味で今回、営業本部長は茨城、販売事業部長は栃木から連れてきた。やはり、その(北関東の)マーケットに強い人たちが、これからの成長戦略を描いていくことが大切なのかなと。

東北の3県、いわば「守るべき地域」と、茨城と栃木の「戦っている地域」というのは、明らかに出店政策も、商品政策も、販促も含めて全く違う。そこはやはり、先陣を切ってやってくれた方々にお願いをして、今回本部にあえて戻ってきてもらった。そういう意味では北関東を重点的に攻めたいということはある。

――北関東は既存エリアにも出店余地があるのか。それとも、エリアとして広がっていくイメージか。

大髙 北関東といっても(ヨークベニマルが出店しているのは)茨城と栃木。ここで群馬に行くか。(群馬との県境に近い栃木県の)足利市までは出店しているので、ここからどれぐらい行けるのか。群馬(出店)を完全に否定しているわけではないが、やはり、(競争の)厳しい地域ではあるとは思っている。でも、人のいる方(都市部)には広げてはいきたいと思っている。

一方で、埼玉、千葉になると、ヨークとイトーヨーカドーもあるので、その中で、いまあえてうちが出店するタイミングではまだないのかなと思っている。いまデリカの工場も建てているので、資金的にも、人的部分においても限られてくる部分も出てきている。

ただ、今回、デリカの工場を建てることで、300店舗に向けた供給体制はできてくる。そういう意味では、いまのところ5県の中だが、(他県進出を)否定はしない。ただ、これ以上、北には行かない。

――西はどうか

大髙 先日も山形で、ゾーンマネジャーと「(山形県の日本海側、未出店地域である庄内地域との間にある)月山を越えるハードルは高いね」という話をしていた。やはり、物流の問題もあるので難しい。

ただ、いま(新潟県との県境に近い福島県)会津坂下町までは行っている。小さな町にスーパーが3店ある中、4店目で出店したが、海のない(内陸の)ど真ん中のエリアで鮮魚を強化したり、価格政策でも1000円パックのようなものを精力的に売り込んだりしたら、遠くから来るお客さまもいらっしゃってか、売場も数値も良い。

活性化を通じてドミナント内で競争を起こし、シェアを上げる

――これから300店舗体制を目指し、さらにシェア率も上げていくということだが、基本的には既存店の売上げが減っていく中で利益の残る仕組みにしないといけない。

大髙 稼ぐ部分では既存店の活性化。直近でも双葉台店(茨城県水戸市)、那珂湊店(茨城県ひたちなか市)、百合が丘店(茨城県水戸市)、谷田部店(茨城県つくば市)の4店を活性化した。(買収した)旧カドヤ、もしくは11年間ぐらい手付かずだったところから、いまのヨークベニマルのフォーマットに近い形に変えたが、ダブルコンコースに変えて、デリカの売場をしっかり確保して、冷凍食品をしっかり構成比の中で確保してなど、本当に標準のお店に替えるだけでも、やはり昨比110%、120%とがんばってくれている。

――今年は新店よりも活性化にかなり注力している。

大髙 今年は、上期は新店の予定はない。ただ、いまのところ活性化も上期のスケジュールしか決めていないので、いま下期どうするかを考えている。

ただ、やはり北陸の地震もあったこともあり、耐震性の部分も含めて、新体制になったことも含めて、特に安全性も見直すべきところはしっかり手を入れていかなければいけない。これは新しい経営陣のメッセージとして、そこははっきりと現場の方々にお伝えはしている。

もちろん、(店舗の売上げ)数値の部分を考えると(追加の投資は)厳しいのだが、だからこそ、手を付けてこなかった部分もある。手が入ってないお店が取り残されてしまうところはどうしてもあるので、今年はそういうところも耐震性も含めて手を入れていく。

名誉会長の考え方に、「試練は宝」というものがある。(旗艦店などが)ピークの状態だとなかなか活性化できないので、あえて近くにお店を出す。それで売上げが落ちたら活性化して、それで盛り返して、ということで競争させる。結果的にシェアも上がる。

常にマックスで走り続けていったら、いつまでもリニューアルできない。そこは名誉会長の考え方はすごく分かりやすいので、あえて大きな店の近くでも新店はためらわない。

――首都圏や都市部への出店も想定される中、300坪型の小型店も実験している。

大髙 われわれは大型店、600坪が中心なので、なかなか小型店は難しい。やはり、お客さまのヨークベニマルに対する品揃えのイメージがあるようで、われわれが思っている以上にヨークベニマルへの期待度がものすごく高いことが、小型店をやってみて本当によく分かった。「ここ(小型店)、ヨークベニマルじゃない」ということで、何か物足りないらしい。すごくありがたいことではある。

ただ、そのイメージで400坪などになると、(品揃えに)ないものがあるとがまんできない。人件費の部分でも(特に小型店は)なかなか難しいところもあって、なるべくそういうところから先にデジタルプライスを入れたりとか、いろいろテストをして、少しでも効率というか生産性を高めるような努力はしている。

ただ、どうしてもヨークベニマルといえば、インストア(加工)だったり、生鮮だったり、デリカだったり、手間のかかる部分が多いので、そこはやはり手を抜いてはいけないという思いがある。

そこに挑戦するのがヨークベニマル。ある意味、「日本でインストアにこだわる最後の1社になってでも戦うぞ」くらいの思いでこだわっていく。それが名誉会長であり、先代の思いなので、そこの部分は、私も「そうだな」と本当にお店を回っていても思う。

――小型店については、今後どう考えるか。

大髙 いまやっているところを磨き込む。そこで検証するのが先で、いまは、小型店の多店舗化はない。なかなかやはり難しい。まずそこ(既存店)をしっかり決算が出せるようにすること。小型店をドミナントの中に入れても、結局、みんなそこを「ここ、ヨークベニマルじゃない」ということで通り越して大きい店に行ってしまう。コンビニ的な使い方をなかなかしていただけない。

いきなり小型店を造るかというと、むしろ幾つか小型店にチャレンジしたところがあるので、そこをしっかり検証することが先かなと。

製販一体運営の肝は「相手の気持ちを分かってあげられるか」

――セブン&アイ・ホールディングスの決算発表の際、イトーヨーカ堂とヨークベニマルが属するSST(スーパーストア)事業としての上場を考えているとの発表があった。

大髙 そこの議論は戦略委員会とホールディングスの取締役会の中で議論されてきた。

私もいま、ホールディングスの役員(常務執行役員)でもあるため、他人事ではなくて、やはり自分事として、グループで新設したピースデリの本格稼働への支援や、セブンプレミアムも含めてグループで商品政策をやっていくことが、ヨークベニマルとしての役割だということを(ヨークベニマルの)全体朝礼でもお話しさせていただいた。

ヨークベニマルの従業員の方々が、これからも末永く、安心して働いていただけるような会社になるように、そのためにもSST全体が成功しないといけないという緊張感はみんなで持つ。

――SSTとしては、どのぐらいの利益が目標となるか。

大髙 これからだ。SST事業のストラクチャーの方向性が出されたものの、それこそ、中間持ち株会社ができるのか、できないのかも含めて、まずは「構想」をこれから議論していくことになると思う。

――デリカの製販一体の運営は、イトーヨーカ堂としてもモデルとされている。課題は。

大髙 人手の部分は、海外の研修生を積極的に受け入れているが、そういう意味では人手の確保は一番の課題ではある。

あとは、「工場を建てたら儲かる」という話ではないので、やはり、販売と製造のバランス、絆が大事。そういう意味では、もともと(別会社の惣菜事業会社のライフフーズとして)テナントで入っていて、統合したという段取りは良かったのではないかなと思う。

いまは、デリカは12.5%ぐらいの売上高構成比だが、これをどこまで上げられるのか。営業利益構成比でいうとその倍ぐらいになる。それをどこまで高められるのか。

いまはイトーヨーカ堂も売上高構成比を15%まで上げると一所懸命がんばっていらっしゃるので、ヨークベニマルもそのレベルまで持っていけるものなら持っていきたい。

生鮮で調達している原料の中で良いものがあれば、それもできれば惣菜で使ってもらうようなことも考えていきたいが、一方で、なかなかお弁当用の原料と、お店で市販用で売るべきもの(の捉え方)は、口で言うほど簡単ではない。

だから、ヨークベニマルでは店長たちが(デリカの担当者に)「これ(生鮮の商品)を焼いて惣菜にして」ということはない。やはりそこを間違えてはいけない。利益率(の考え方)が違うので、「どんどん安いお弁当を売って」「隣りがコロッケを特売しているので、今日、特売して」みたいなことがヨークベニマルでは一切ない。売価はデリカで決める。店長が決めているケースはほとんどない。

ただ、販売側のリクエストや意見は挙げてもらう。例えば「398円の弁当はないのか」とか、ゾーンマネジャーなどからデリカにも当然、意見は言ってもらう。そういう情報交換の場、議論の場は設けている。

ヨークベニマルでは寿司はデリカ部門のみで展開。原料も含め、デリカ部門が独自に調達している

特に惣菜のインストア商品に関しては、基本的に当日、全部売り切りがメイン。(ライフフーズと)統合して2年経って、今年から営業本部の中にデリカも一緒に入ってもらったが、この2年間だけでも、やはり(ヨークベニマル側も)デリカの工場をすごく意識するようになった。

いままでミールキットなどはインストアで(生鮮部門の担当者が)作っていたが、人手もいない中、かつバックルームを小さくしなければと言っている中で大変だったが、いま(デリカの)工場に全部移した。

生鮮部門が店内製造していたミールキットを、デリカの工場生産に切り替えた

もちろん、実験店舗として、お客さまに売れるのかどうかを実験するという意味では、この数年間(店内加工で)やってきたことは決して間違ってなかったし、やはり売れる店、売れない店が見えてきたからこそ、工場に移せた部分はある。

――イトーヨーカ堂も子会社のピースデリを通じてプロセスセンターやセントラルキッチンを稼働させている。

大髙 「まずは新規稼働したピースデリの工場の総稼働を上げていくことを最優先に考えましょう」ということ。お店が自分の必要な分だけ頼んでいてはだめ。どうしても販売はロスが出ると怒られてしまう(ため、ロスを減らすように発注を控える)。

結局、ロスを気にし出すと発注が縮小均衡になってしまう。特に自社工場の場合はそう。食品製造小売業として物流も含めて、やはりそこの持ちつ持たれつの関係ができているかどうか。

ライフフーズ時代から、自社工場で製造している核商品のポテサラ

お互い相手の気持ちを分かってあげられるかどうかというところが、惣菜工場だったり、留め型だったり、PB(プライベートブランド)だったりということの原点、出発点なのではないかと思う。

お役立ち資料データ

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