リテールテックとは?市場規模や先進企業の事例を交えて解説
2022.10.25
2021.03.30
小売業にとって人手不足は重要な課題だ。インターネットが普及した現代において、消費者の購買活動も変化しつつある。キャッシュレス決済を提供するなど、顧客のニーズに対応したサービスを提供しなければならない。
そこで注目されているのが、効率的な店舗業務を実現させる手法として小売業にAI(人工知能)やIoTI1(モノのインターネット)などの最新デジタル技術を導入したリテールテックだ。どんな変革が生まれるのだろうか?
リテールテックとは?小売業のさまざまな課題解決が期待される
リテールテックとは、「リテール(小売)」と「テック(技術)」を組み合わせた用語だが、簡単に言えば小売事業にITなどのテクノロジーを導入すること、また、それによって生み出される技術やサービスを指す。近年のAIやIoTをはじめとしたITの発展と共に徐々に広まってきた概念だ。
リテールテックの歴史は浅く、はまだまだ発展途上の領域ではあるが、人手不足の解消、顧客体験の向上、物流センターの効率化など多くの効果が期待されている。
例えば、米Amazon(アマゾン)が、2018年1月にシアトルオープンしたレジレス店舗の「Amazon Go(アマゾンゴー)」は、リテールテックの代表的な事例の一つだ。アマゾンゴーでは、店内に搭載されたセンサーカメラなどとスマートフォンアプリを連携することで、従来のレジにおけるスキャンや決済の手間を省いている。
これにより、レジを担当する人員の削減が可能になり、また、レジ待ちもなくなることで顧客体験の向上が期待できる。さらに、センサーカメラなどによって顧客行動データの収集分析ができるので、動線やマーケティング施策の改善にも役立てることができる。
新型コロナウイルスの蔓延で非接触が求められる昨今の状況は、店舗内における省人化や非対面接客の導入を後押しする形となっており、小売事業におけるリテールテック 導入をより加速させる要因となっている。
また、店舗内だけではなく、物流倉庫のピッキング作業や工場内の工程間搬送なども、人間ではなくロボットで代替する動きが加速している。ホームファッションのニトリの西日本通販発送センターでは、シンガポールに本社を置く「GreyOrange(グレイオレンジ)」社の自動搬送ロボット「Butler(バトラー)」を導入し、人がピッキング作業を行っていたのに比べ、4.2倍の効率を実現しているという。
このように、リテールテックの導入によって、店舗内における顧客体験向上や省人化から、物流倉庫の作業の効率化など、さまざまな領域で改革が進んでいる。
リテールテックの将来展望
リテールテックは小売りに大きな変革を与えるが、将来的にはどうなっていくのだろうか?
リテールテックの市場規模は拡大予測
富士経済は「リテールテック関連機器・システム市場の将来展望 2019」の調査において、リテールテックの国内市場が拡大傾向にあると発表した。19年にはおよそ5627億円、30年には8737億円まで成長すると予測している。
成長理由として挙げられるのが、非接触で読み書き可能なRFIDタグ市場の拡大だ。RFIDタグは電波を用いて複数の商品を一括スキャンできるシステムで、レジ業務の時間短縮が可能だ。
商品情報を瞬時に取り込めるため、商品の日付や在庫管理の効率化にもつながる。25年に向けてRFIDタグの実証実験が行われているが、30年には本格的な運用が始まることが期待され、18年比8.1倍の540億円まで成長すると予測されている。鍵となるのはRFIDタグの価格と取り付けの手間の問題といえるが、この辺りがどう解決されていくのかは大きな注目点だ。
また、完全自動セルフレジの導入も注目されている市場の一つだ。RFIDタグなどの自動一括スキャンが可能なレジによって、レジ業務の省人化が実現できる。RFIDタグの普及に伴い、25年以降に完全自動セルフレジの導入が拡大していく見込みで、30年の予測は18年比12.5倍の250億円だといわれている。
リテールテック導入企業の事例
実際にリテールテックを導入している企業では、どんな戦略や概念を持って活用しているのだろうか?
アマゾン
アマゾンは、1995年からECをリードしてきた。01年にはモバイル版のECサイトを立ち上げるなど、リテールテックの発展に貢献してきた企業といえる。その「ECの巨人」は、リアル店舗への関与を徐々に高めていたが、中でもリテールテックの塊ともいうべき店舗が、18年に一般向けにオープンした先述のアマゾンゴーだ。
アマゾンゴーを利用するにはあらかじめ専用アプリでクレジットカードなど個人の情報を登録しておく必要がある。入店の際にはアプリを起動し、掲示されるコードをかざすとゲートが開く。その後は買いたい商品を手に取るだけなのだが、その動きをカメラやセンサーが検出して、退店時に自動的に電子決済される仕組みとなっている。
アマゾンゴーはアメリカ各地で店舗数を増やしているが、一方で、20年にはスキャン機能の付いたカートである「アマゾンダッシュカート」を活用することで、こちらもレジなしで生鮮食品を購入できる店をロサンゼルスにオープンした。
これはアマゾンが提供する生鮮食品を含んだ宅配であるアマゾンフレッシュのリアル店舗の位置づけだが、売場面積が大きいためかアマゾンゴーのように天井にカメラを張り巡らすなどした「ジャスト・ウオーク・アウト(ただ店を出るだけ)」の店を採用するのではなく、スキャン機能の付いたカートを用いている点が興味深い。
アマゾンがリテールテックを活用する目的は、レジ業務をなくすためではない。ファンクションごとに配置されたデータサイエンティストの分析によって、品揃え尾や仕入れなどを改善することで顧客の消費体験向上に還元することにあるといわれている。
ウォルマート
アメリカの大手小売業であるウォルマートが19年に公開したのが「Intelligent Retail Lab(インテリジェント・リテール・ラボ)」だ。略して「IRL」と呼ばれている。ニューヨーク州レビットタウンのウォルマートネイバーフッドマーケットがその舞台となっている。
約4600㎡ほどある店内には3万以上のアイテムが陳列され、天井にはAIを搭載した多数のカメラやセンサーを設置している。大規模なデータセンターも備えており、収集された店内の情報は、AIによって分析される仕組みだ。
商品の在庫がリアルタイムに分かるため、補充のタイミングを正確に把握できる。従業員が店内を見回らなくても、内部アプリで在庫切れ情報が通知されるので効率的だ。IRLで収集した情報と店舗運営の知識を組み合わせることで、顧客と従業員双方の生活向上を目指している。
アリババ
中国のアリババが企業戦略に掲げているのが、「ニューリテール(新小売り)」だ。ネットとデータ技術によるデジタル変革を実現させた。オンラインとオフラインが融合した「OMO(Online Merges with Offline)」の消費体験を提供する企業の代表的存在といえる。
同社のOMOの典型事例がスーパーマーケット、イートイン、ネットショップ、配送の4つのサービスを融合した「フーマー(盒馬鮮生)」だ。
実店舗では、購入した食材を料理人が調理するレストランまで展開し、顧客はイートインやテイクアウトで食事ができる消費体験を楽しめる。また店舗で商品購入を迷った商品は、アプリでオンラインのカートに入れておき、あとから宅配してもらうことも可能だ。オンラインで購入した商品は店舗から3km以内には30分以内で届く配送網が構築されている。
また、オンラインと実店舗でのアリペイ決済データやアプリの検索データなどを収集することで、店舗ごとに入荷商品のコントロールが可能だ。倉庫を持たずに当日入荷・当日販売を実現しているという。
b8ta(ベータ)
次世代の小売として注目されている「b8ta(ベータ)」は、15年に創業した米国サンフランシスコの企業だ。これまでの小売店とは異なるビジネスモデルを展開しており、自社店舗を「最新ガジェットに出会う場」として提供することで、新しい顧客体験を生み出している。
出店する企業は、サブスクリプションサービスとして6カ月契約を結ぶ。b8taは出店料によって収益を得る仕組みだ。
出店企業には、店内の高機能なカメラなどから収集した顧客データの分析などを提供する。これらは「RaaS(Retail as a Service)」と呼ばれる、企業の顧客情報やノウハウとテクノロジー企業の技術を融合させたビジネスモデルだ。
b8taは20年に日本での事業を開始。「新宿マルイ本館1階」と「有楽町電気ビル1階」をオープンし、顧客に最新ガジェットの体験を提供している。
リテールテックは今後も拡大していく
上述の通り、富士経済の「リテールテック関連機器・システム市場の将来展望 2019」において、リテールテック 関連の市場は30年には8737億円まで成長すると予測されている。
日本は内需の縮小、労働人口の減少など経済的に大きな課題を抱えており、その影響は今後ますます大きくなることが予想される。また、昨今の新型コロナウィルスのまん延によって、非接触・省人化がより推奨されるようになった。
こういった外部環境の変化を受けて、リテールテックの需要は今後も高まっていくことは間違いないだろう。ITの発展は目覚しく、サーバーコストやデバイスコストの低下、ソフトウエアの標準化などが進めば、リテールテックの導入はより容易になっていく。
リテールテックが一部の企業の先進的な取り組みではなく、小売業にとって当たり前の存在になりつつあることを認識すべきときが来ている。