いま、リテール業界が抱えるチラシ販促の課題と、データ活用の有用性

2022.04.21

2020.08.07

オフィス・フジイ 藤井俊雄

チラシ経費は売上げの3~5%となり、利益の少ないSM企業には大きな負担

スーパーマーケット(SM)が台頭したころ販促は超目玉商品を掲載し、売場にはチラシ商品とお勧めしたい商品を比較陳列して販売することが基本でした。またチラシ期間は以前は週3、4日でしたが、現在ではチラシのない日がない企業が増えています。チラシは今も新聞折り込みが主流ですが、新聞を取らない消費者が増えていることもあって、いまのままで良いのかを考えることが必要ではないかと思います。

新聞折り込みのチラシ1枚の経費は30~50円かかり、店舗ごとに配布するエリアの戸数×1枚の単価が店舗負担となっています。チラシ経費は売上げの3~5%となり、利益の少ないSM企業には大きな負担となっています。さらにチラシの価格戦争も激化していて、店舗ベースでの利益率はどんどん低下しているのが現状です。

チラシのみでなく、現在ではポイント制度なども導入する企業が多く、こちらもチラシ経費と同じような経費がかかり、店舗の利益を圧迫しています。

チラシ商品ばかり売れては企業の利益が圧迫される

チラシは直接お客さまに届けるものですが、ITが大きく進歩したことで紙での情報が大幅に低減し、新聞を取らない世帯が増えてきました。今では交通の移動中に新聞を読む人は激減し、スマホなど通信機器から情報を取得するのが主流です。

それでも、「チラシをやめたらどのように変わるのか」を検証する企業は少なく、相変わらず週に2、3回チラシを入れる企業が多数です。かつては新聞折込チラシの効果測定を定期的に実施し、結果から配布エリアの変更をしていましたが、いまでは変更する企業は少ないのではないでしょうか。

新聞でのチラシ配布は明らかに効果が薄れているため直ちに改革をすべきなのですが、「チラシ神話」の好きな人たちがいるためできていないというのが実情です。

一方で、いわゆるポイント制度による販促が導入され30年ほど過ぎました。以前にポイント制度を導入した企業の責任者がデータを分析したところチラシ掲載商品のみを購入する顧客比率が20~30%いることが判明しました。売上高は20~30%上がったのですが、その多くがチラシ掲載品による販売実績であると考えられました。実際にはチラシ掲載商品は企業の利益を圧迫しているはずですから、この結果では経営として厳しいものがあります。

このような理由からこの企業では、チラシを廃止してポイント制度のみとしました。チラシを廃止する代わりに販促商品は当日店頭に看板を設置し、部門ごとに部門責任者が当日の魅力ある商品を掲載しました。結果、売上げも好調に推移しました。

結果、部門の利益率の低下も少なく、新聞チラシ分の経費は他の販促費などに回すことができるなど多くのメリットがありました。

紙自体の経費の重さと避けられない時間差問題

販促はSMの集客手段として重要ですが、時代と共に変革が必要です。現在はアマゾンなど店舗を持たない流通が主流になりつつありますが、商品によっては現物の商品価値を見て購入するお客さまも少なくありません。インターネットの環境が整備され、店舗へ行かなくても、新聞を取らなくても情報を基に買物ができるようになったことで、普段の購買行動は大きく変わってきました。

やはり、新聞折込チラシとは異なる手段でお客さまに情報を提供するために、ネットを活用した媒体の定着が必要なことは確かでしょう。確かに、チラシを楽しみにしている高齢者もいると思われますが、デジタル環境の整備に伴って次第にネットにシフトしていくことは間違いないと思われます。

新聞折込チラシのネットへのシフトは、企業に大きなメリットをもたらします。具体的には新聞折り込みチラシ経費に比べ、確実に売上高対比で2、3%の経費が削減されます。

さらに大きいのが時間差です。紙のチラシの場合、作成と配布には1週間程度期間が必要となっていますが、インターネットになれは1日程度で作成できます。品目、価格の決定期間が短縮できればタイムリーに魅力ある販促が打てます。

特に青果の場合、チラシのために1週間前の相場状況で価格を決めているため、販売当日の原価と価格に齟齬が出ることが多くなっています。場合によっては利益を大幅に低下させたり、当日になって商品の入荷がなくなることでお客さまに迷惑がかかるなど、対応が必要になるケースもあります。

こうしたことを踏まえると、ネットなどへのデジタル化が定着することは、もともと利益の少ないSMにとって朗報であると確信できるのです。

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