特別寄稿 秋以降の原料高騰、コスト高対策 精肉編 原料高騰は産地変更で対応、付加価値への転換を
2022.08.10
新型コロナウイルスに始まった工場や港湾労働者などの人手不足、輸送コンテナ不足など物流の乱れ。ロシアによるウクライナ侵攻での穀物相場高騰、エネルギー価格の上昇、急激な円安など、外部環境が著しく変化している。
特に、今年に入ってからのロシアによるウクライナ侵攻は、家畜の穀物や燃料費に直接影響しており、秋以降さらに食肉の相場が上昇するのは、すでに肌に少しずつ感じていると思う。
さらに、輸入肉などは他国の方が高く購入するため、日本が買い負けをしている現実も見逃せない状況である。豪州産のショートプレートなどについて、韓国に買い負ける話は以前から耳にしていると思うが、最近では、豚肉がフィリピンに買い負けるなど、事態は深刻になってきている。
日本の給料が上昇していないことも原因であるが、世界的に各国が、タンパク源を確保し始めてきている状況に、日本が乗り遅れていると言わざるを得ない。
今後も原料は高騰することは自然な流れと捉え、対応していかなければならない。
牛肉
輸入牛肉は、米国産からの安定供給ができなくなってきてから、カナダ産やウルグアイ産など、産地を変更して対応を進めている企業は少なくなく、現状を打破するには最適な案と考えられる。
米国や豪州の牛肉価格が高騰しており、特にグレードの高い商品であるプライムやロングフェッドの牛肉に関しては、国産牛肉の価格帯に近くなってきていることから、国産牛の比率を上げて展開を始めている企業もある。

和牛については、5等級の出現比率が和牛の7割近くになっていることから、和牛の相場高は継続される。
ロインなどの高級部位の販売は、高価格になるため、スーパーマーケットでの販売は難しくなってきている。代わりにウデ、モモはサシが入り比較的柔らかく安価に展開することができる。和牛は、ウデ、モモ部位を広く活用することで、乗り切っていきたい。
円安で、海外への和牛を中心としたロイン系の輸出は今後拡大していくと思われる。ロインが多く輸出されることでロインの価格が高値になり、和牛などの相場が高値のまま継続されることが容易に予測される。
そこで、海外では使用しにくいセカンダリーに関して、国内で消費するスタイルを想定し、対応する。
豚肉
輸入豚肉は、米国産の仕入れが安定せず、また価格が高くなってきており、カナダ産、メキシコ産の豚肉に切り替える企業が増えている。海外では人手不足で、工場の閉鎖なども発生し始めるなど、外部環境が大きく変化している。
状況はメーカーから最新情報を仕入れるようにした方が良い。チルド以外でフローズンをヨーロッパから仕入れている企業も増えており、仕入れの幅を広げることで、対応力を強化している。
ヨーロッパも、各国が取り合いになっており、最近はブラジルからの豚肉輸入も増えている。ただ、ヨーロッパもアフリカ豚熱(ASF)の影響が出ていて、イタリア産豚肉も仕入れることができなくなってしまった。
国産豚肉も輸入豚肉が高騰していることや、穀物飼料高騰から価格が安いわけではないが、牛肉同様、輸入豚肉と国産豚肉の価格が接近してきていることから、国産豚肉へ仕入れを切り替える企業も少なくない。
特にSDGs(持続可能な開発目標)の浸透で、地域社会との共存や持続可能な社会を実現するため、地域の生産農家と連携して地産地消に再び取り組み始める企業もある。ただ、生産数量が多くない他、飼料にこだわっていたりすることから、価格が安いわけではない。
それでも同じ地域で育った豚肉には愛着が湧くものだろう。価格的にやや高くても購入される傾向もあるので、「地産地消」を打ち出す考え方も一案だろう。
鶏肉
輸入鶏肉は、すでにクリスマスの骨付きモモのメーカーとの開発や商談でも分かる通り、タイやブラジルから入ってこないこともあって厳しい状況にある。
そのため、国産鶏肉に需要は偏る。生産者の確保をいま一度確認しておく必要がある。
国産鶏肉は鶏舎が限られているので、秋冬に向けて増羽できるわけではない。そのため、国産鶏肉での安売りは、あまり強化する必要はないと思われる。定番で販売する量が足りなくなってしまう恐れすらあるからだ。
今年の日本の夏はラニーニャ現象が続くことが予想され、例年より暑い。気温が高いと鶏の事故率(死亡率)が上昇するため、夏場から冬季の需要に向けて骨付きモモや手羽元を冷凍する余力すら出ないと予想できる。いずれにしても価格は高い状態を維持し、物量も多くないと予想できる。
羊肉
牛豚鶏以外で期待のできる羊肉であるが、残念ながら羊肉も物量がそろわず価格は高騰する。輸入が主力なので、海外での買い負け、円安で相場高が続く。状況は牛豚鶏と同様に良くない。
国産に勝機と持続可能な時代への先駆け
牛豚鶏羊のいずれも価格は高く、輸入肉に関しては調達が安定しない可能性が高いといえる。そのため、国産肉への期待は高まる。
特に「地産地消」に取り組んでみることも1つの方法であると考えられる。
いままでの販売方法は、広告などで価格を安くして販売することで売上げを作ってきた側面も多分にある。
しかし、日本の人口も減少し、世界情勢も鑑みても外部環境は著しく変化しているため、販売スタイルを、安売りから価値型へ変化するタイミングになっていると考える。
無理な育て方をしていないエシカル消費を求める世代が社会に出始めた。商売のスタイルにも変革が必要である。