スーパー10社のアプリを総チェック、ユーザーにとっての使いやすさと、さらなる進化の道筋とは?
2024.07.09

有力スーパーマーケット(SM)、総合スーパーの自社アプリを、「ユーザーから見た使い勝手」というテーマで比較してみた。項目は3つ。
特売や商品情報など来店動機を作り出すような①情報性。ポイント管理や決済機能、セルフスキャン機能など、買物をする際の②有用性。最後に、購入履歴やメモ機能など、ユーザー自身がどれだけ自分の情報を使えるかを③活用性とし、それぞれについて5つ星で取り組み具合を示してみた。
目次
- 1 ネット専業のAmazonを評価基準とし、リアルにないものを探す
- 2 イオンリテール スマホで買物が完結。ただ、3アプリを使い回す必要が
- 3 イトーヨーカ堂 セルフスキャン機能の実装でレジ待ち回避
- 4 オーケー 購入履歴の確認機能を搭載。メモで再購入につなげる
- 5 サミット 買物の準備に使えるメモ機能
- 6 西友 ネットスーパーとの使い分けアプリ
- 7 ベルク 店舗での買物に役立つ機能が充実
- 8 ヤオコー 自社Payへ銀行チャージ。完全キャッシュレス可能に
- 9 USMH アプリ1つで買物プロセス全カバー、購入履歴も提供
- 10 ライフコーポレーション 購入履歴に基づく限定クーポンを配信
- 11 ロピア レシピ投稿などSNS的な機能が充実
- 12 スーパーマーケットのアプリは「情報プッシュ型」、「ユーザーが引き出せる情報は限定的」の現状
ネット専業のAmazonを評価基準とし、リアルにないものを探す
評価はもとより独断にはなるが、尺度は明確に示したい。3項目それぞれで、Amazonアプリを星5つの基準とする。リアル店舗を評価基準にしないのはおかしいと思われるかもしれないが、この記事はアプリを表彰するものでもコンペでもなく、小売アプリのさらなる進化を期待する読み物ということで容認いただきたい。
「リアル店舗のアプリがさらに良くなるには何が必要か?」。それを考えるために、最も巨大なネット専業企業のアプリと比べることとする。
「小売アプリの目的は何か」を考えると、最終的には お客がアプリを見て、商品に関心を持ち、来店、もしくはネット注文し、購入してくれることだろう。「その頻度が高く、購入金額が高いほど良い」と割り切れば、やはりAmazonは優れている。
私はYahoo!ニュースよりも頻繁にAmazonをチェックし、食品以外の買物は基本的にAmazonからスタートし、半分はそこで完結する。
そういうわけで、Amazonのアプリの機能を満点基準に、独断で各社のアプリに星を付けてみる。ここでは関東を中心とする有力SM10社をピックアップ。各社アプリの機能は24年5月末時点とする。
掲載は社名の50音順として、各社、星数評価とアプリの特徴についてコメントし、最後にAmazonと比較して小売アプリの現在地と進化の可能性を考えたい。
イオンリテール スマホで買物が完結。ただ、3アプリを使い回す必要が

情報性:⭐️⭐️
「お買物アプリ」のクーポンは数量豊富。それ以外のセールやフェア情報は基本チラシ画像。
有用性:⭐️⭐️⭐️⭐️
WAONポイント、電子マネーWAON、AEON Payと、グループのポイントや決済機能が充実。セルフスキャンの「レジゴー」アプリを併用すれば、買物工程の全てがスマホ1つ取り出せば済む。
活用性:⭐️⭐️
決済金額の履歴を確認できるものの、何を購入したかの詳細は記録されない。また、メモ機能がない。
コメント:
グループ企業間で共有するアプリ「iAEON」、クーポンアプリ「お買物アプリ」、セルフスキャンの「レジゴー」と、アプリ3つを使い合わせればスマホ1つで買物が完結する。
ただ、レジ処理の際にアプリ3つを切り替える作業はやや目まぐるしい。さらに、トップバリュ商品の情報提供アプリは、また別にある。チラシ情報が画像で、買物メモ機能もないため、せっかくのセール情報もアプリを閉じた途端に忘れてしまいそう。
イトーヨーカ堂 セルフスキャン機能の実装でレジ待ち回避

情報性:⭐️⭐️⭐️
セール情報は「おすすめクーポン」のみ。「トピックス」内のレシピ情報は、見栄えが洗練されている。
有用性:⭐️⭐️⭐️
7iDとひも付け、グループのセブンマイルを管理できるものの、決済機能は搭載していない。一方で、セルフスキャンの機能「IYマイレジ ピピットスマホ」を搭載していて、これはレジ待ち回避になる。
活用性:⭐️⭐️
セブンマイルの管理はできるが、買物メモなど他社アプリで一般的な機能が見当たらない。
コメント:
アプリ内にキャッシュレス決済の機能はないのに、セルフスキャン機能は搭載している珍しい例。クッキングサポート発のレシピやプライベートブランドを使ったレシピ情報が充実しているが、メモとして保存する機能がなく惜しい。
オーケー 購入履歴の確認機能を搭載。メモで再購入につなげる

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
週1の「商品情報紙」画像とは別に「おすすめ商品」としてセール品やオリジナル商品などの情報を提供。
有用性:⭐️⭐️
買物時の用途としては現金割引きの特典がメインであり、決済機能はなく、自社ポイントはそもそも存在しない。
活用性:⭐️⭐️⭐️⭐️
購入履歴を確認できる。履歴としてリスト化された商品は、「いいね!」や「お買い物メモ」に登録できる。
コメント:
現金払いで3%相当額が割引きになる「オーケークラブ会員カード」のアプリ版。3%割引きのメリットは大きいとしても、現金で払うなら財布を取り出すはずで、それならカードを出す方が作業的にスムーズのようにも思える。
購入履歴の確認機能を搭載し、再購入の動線も用意。ただ、商品個々の購入金額は示されず、履歴も3カ月に限られる。
サミット 買物の準備に使えるメモ機能

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
「おトク&チラシ」にまとめられたセール品、ボーナスポイント商品は、部門別に編集されていて見やすい。
有用性:⭐️⭐️⭐️
電子マネー搭載。ただしチャージは現金のみ。ポイントは1ポイント単位で使える。1万ポイントで現金1万円と交換はユニーク。
活用性:⭐️⭐️
メモ機能が常に表示され、買物リストを作りやすい。家族などとシェアする際の使い勝手も良い。ただ、購入履歴や口コミなど買物後に使える機能はない。
コメント:
セール情報や「ニュース」に掲載された各種お知らせ、レシピなどが見やすい。さらに、それらに使用されるイラストは店舗イメージとの統一感がある。メモ機能のアイコンが常に画面右下に表示されており、買物を考える際のツールとして使い勝手が良い。
西友 ネットスーパーとの使い分けアプリ

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
各種セールやクーポン情報を分類して見やすく提供。レシピ提案はRakutenレシピ内に公式サイトを運営。
有用性:⭐️⭐️⭐️
楽天ポイント、楽天ペイが利用可能。
活用性:⭐️⭐️⭐️
買物メモを搭載。レシピへのいいね!付与でユーザーの反応を見られる。
コメント:
店舗とネットスーパーを1つのアプリに集約している。ただ、店舗に限ると他社と基本的な機能は変わらない。ネットスーパーの方で商品を検索し詳細情報を得るなど、ユーザーが双方を使い分ければ3項目とも5つ星を付けられるほど機能性は充実しているといえる。
特売情報や商品紹介は店舗だけでも豊富。ただ、ネットが個々の成分表示まで確認できるのに比べると、情報量も品目数も少ない。「お気に入り」登録は店舗とネットで別。ポイントや決済、レシピ提供で楽天グループの機能を活用している。
ベルク 店舗での買物に役立つ機能が充実

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
「広告の品」などセール商品をタイプ別、カテゴリー別に見やすくリスト化。
有用性:⭐️⭐️⭐️
決済ツールとしては自社Payの他、多くのスマホPayと連携し選択肢を提供。ただ、自社Payへのチャージは現金に限られる。また、自社ポイントの利用は500円単位で、「お買い物券」の発券による。
活用性:⭐️⭐️⭐️⭐️
セール品やレシピの原材料をメモ機能に保存できる。メモはフォルダ管理も可能で、メッセージなどで家族との共有もしやすい。自社Payの購入履歴を提供。
コメント:
複数のスマホ決済から選択できてユーザーに親切。レシピの原材料のうち、プライベートブランドは商品名を記載してメモに保存できるなど、販売へつなげることに意欲的と感じられる。
ヤオコー 自社Payへ銀行チャージ。完全キャッシュレス可能に

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
「今日のオトク情報」でセール概要を把握できる。独自レシピは質量共に豊か。「ニュース」内のコラムや商品紹介にも力が入っている。
有用性:⭐️⭐️⭐️
独自決済に銀行口座からのチャージを実装、完全キャッシュレスの選択肢を提供している。ホーム画面からネットスーパーやギフトのサイトへワンタップで遷移。ポイント利用は500円単位で、紙の発券による。購入履歴に基づくクーポンもレジで紙による発券。
活用性:⭐️⭐️⭐️
「お買物メモ」はあるものの、セールなどの情報を直には保存できない。商品レビューやレシピを投稿する「井戸端会議」を設置している点はおもしろい。
コメント:
独自決済へのチャージをキャッシュレス化してアプリの利便性が向上した。試み自体は業界の先端を行く「井戸端会議」の商品レビューだが、コメントが商品軸ではなくユーザー軸になっているため、ランダムな感想の羅列にとどまっている点が気になった。
USMH アプリ1つで買物プロセス全カバー、購入履歴も提供

情報性:⭐️⭐️⭐️
チラシ画像以外はクーポン主体。マルエツとマックスバリュ関東は別アプリでのクーポン提供。マルエツはレシピ情報が充実。
有用性:⭐️⭐️⭐️⭐️
Scan & Go Ignicaアプリは、実店舗ではセルフスキャン、決済、ポイント管理と1つのアプリで買物を完結できる。さらにはネットスーパーやオンラインショッピング、カスミ一部店舗のモバイルオーダーまで、多くの販売機能を備える。
活用性:⭐️⭐️⭐️⭐️
単品の購入金額まで追える「ご利用履歴」を搭載。購入商品の栄養バランスをチャート評価する機能もユニークといえる。
コメント:
アプリ1つで買物が完結する使い勝手と、購入履歴の確認機能はIgnicaアプリの先進性といえる。ただし事業会社は主要ポイントや販促が異なり、マルエツとマックスバリュ関東の情報提供は別アプリになってしまうという側面もある。
ライフコーポレーション 購入履歴に基づく限定クーポンを配信

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
「あなたにおすすめのクーポン」として「お客様限定」の割引クーポンを提供。プライベートブランドを使ったレシピ動画も充実。
有用性:⭐️⭐️⭐️
自社クレジットカードがアプリにひも付けできず、決済は電子マネー支払い、さらに現金チャージのみ。ポイント利用については1ポイント単位で使い勝手がいい。
活用性:⭐️⭐️
セール商品をワンタップで買物メモに記録できるが、レシピの材料リストからはメモを作れない。購入履歴としてたどれるのは電子マネーの使用歴。
コメント:
購入履歴に基づく「あなたにおすすめのクーポン」は、リアル店舗のアプリとしては先駆的な取り組みといえる。
ロピア レシピ投稿などSNS的な機能が充実

情報性:⭐️⭐️⭐️⭐️
「お買い得情報」として日替わりのセール情報を配信。それをメモに登録可能。
有用性:該当なし
企業の方針として支払いは現金のみ、ポイントなし。そのため、スマホアプリには店舗の買物時に使える機能も付けていない。あくまでアプリは来店を促すもの、もしくは店舗外でのつながりの手段として活用し、店舗では買物に集中してもらうという方針の表れといえる。
活用性:⭐️⭐️⭐️
アプリ利用者がレシピを投稿する独自ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を構築。お気に入り評価の他コメント、投稿者のフォローもできる。アプリ内に登録店舗のインスタグラムも連動させている。
コメント:
店舗情報の配信にインスタグラムを活用、レシピ投稿のSNS的な取り組みなど双方向的な機能性が特徴。ポイントも決済機能もないため、店内におけるアプリの有用性は評価対象外になった。買物メモをチェックする以外、アプリの使用シーンは店外になる。
スーパーマーケットのアプリは「情報プッシュ型」、「ユーザーが引き出せる情報は限定的」の現状
10社のアプリをチェックしたわけだが、星5つの項目が1つも存在しないのは、Amazonと照らし合わせたからだ。
①情報性については、購入履歴に基づくターゲティングされた商品推奨の有無で星を1つ減らした。10社のうちこれを実践しているのはライフコーポレーションのみだが、Amazonの徹底したレコメンドに比べると、まだ初歩の段階という印象を受けた。
②有用性では、商品検索の有無で星が左右された。ネットスーパーでは商品検索できるのに、店舗の品揃えは検索できない状態が当たり前になっている。買物は自分の欲している商品を探すことから始まるのがほとんどだが、スーパーマーケットのアプリはセール商品については確認できる一方で、なかなか商品を探すことができない。
店頭に行くまで商品の有無も値段も分からない状態はOMO(オンラインとオフラインの融合)といえるだろうか? 仮に検索して「あり」となっていた商品が、店に行ったところなかったら、お客は不満を持つだろう。しかしそれはあり得ることだし、ネットスーパーでも注文後の欠品は日常的に発生している。品揃えがあるかないか分からない状態よりは良いと考えるのだが。
③活用性では、購入履歴を確認できるかどうかで星を変えた。食品の場合、同じ商品を再購入する頻度は高い。企業側は購入履歴を分析するのだから、購入者にも自身の履歴を活用できるようにした方が親切だ。
スーパーのアプリに共通しているのは、「情報のプッシュは多いが、ユーザーが引き出せる情報は限定的」という点だ。情報発信ツールとしてチラシ代替を意図しているからだろうか。
しかし、チラシに掲載された商品の場合も、1人が購入するのは数%といわれている。このことからもお客は特売よりも自分の欲している商品に関心があると思うのだが、そういった情報は店舗まで足を運ばないと分からないことが多い。「在庫情報をリアルタイムに把握する」ことは確かに困難ではあるが、近似の状態であっても実現する方向に持っていく企業の登場を期待したい。
購入履歴に関しても、お客は「自分が何を幾らで買ったか」に関心があるはずなのに、その情報を引き出せるアプリは少数派となっている。情報をプッシュするばかりでなく、ユーザーが情報をプルできるようにすることで、アプリの利用頻度は上がるのではないか。少なくとも私がAmazonを頻繁に利用するのは、各種商品や自分の買物行動を情報として引き出せるからだ。
リアル店舗のアプリに、ターゲティングされた推奨、商品検索、購入履歴がAmazonレベルで備われば、そのアプリは日々の食品購入の起点となるベースアプリになり得ると考える。