メンタルをサポートする世界の食品トレンド、Nootropics(ヌートロピクス)が表す世界の潮流

2022.11.09

2020.08.20

ここ数年メンタルの健康をサポートする食品が、世界的に急増している。ストレス軽減、リラックス、睡眠促進、集中力・記憶力の向上など、いわゆる「Brain Health」のカテゴリーだ。さらには、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)に起因する社会や生活様式の大きな変化が、このトレンドに拍車をかけている。

身体的な健康だけでなく、メンタルや感情面での健康をもケアすることが、いまの食品に求められているのだ。この注目すべき世界の動向について、食品トレンド分析のリーディングカンパニーであるInnova Market Insightsが解説する。

身体と同様、心が健康であることの重要性

現代人は忙しい。健康的なライフスタイル維持に努める一方で、キャリア、家庭、社会生活にも対応しなければならない。このように多忙で複雑な社会において、メンタル面での不調を訴える人が増えている。

逆に言えば、精神面での悩みや課題が、もはやタブーでなくなり、たとえば職場での「燃え尽き症候群」に社会の関心が集まるなど、いままで個人が抱えていた問題が、表に出てきやすくなったと言えよう。

2018年にInnova Market Insightsが実施したグローバル調査では、世界の消費者の約8割が、メンタルは身体の健康と同様に大切であると回答している。バランスが大事なのだ。また19年の調査では、イギリス人の32%が、アメリカ人の39%が、少なくとも一日に一回はストレスを感じると答えている。

このような社会や消費者動向に呼応して、世界では商品開発が盛んだ。例を挙げよう。以下のアメリカのエナジードリンクに見て欲しい。身体と頭の健康イメージが、パッケージ表面のイラストに描かれている。身体と心はつながっているため、両面からのアプローチが本当のパフォーマンス向上につながる、そんなコンセプトの商品だ。

Uptime Blueberry Pomegranate Flavored Sugar Free Energy Drink(United States, Apr 2020)。メンタル・フィジカルのエナジードリンク。「一日を通して、頭と体をシャープに保つ。」

また天然の植物性原料にも注目が集まっている。たとえば14~18年の5年間で、イチョウ葉を使った食品は21%、ヘンプ(麻)を使った食品は16%伸長した。日本でもイチョウ葉抽出物を使った「記憶力維持」の機能性表示食品が販売されている。

以下の事例は、最近ドイツで発売された睡眠サポートのサプリメントドリンクだ。パッションフラワー(トケイソウ)やバレリアン(西洋カノコソウ)など、ボタニカル・ハーブ原料の使用をPRしている。「Snooze」という商品名や、「Sweet Dreams Happy Days」というパッケージ訴求、またボタニカルイメージのデザインなど、消費者から見て非常にコンセプトが分かりやすい。

Snooze Natural Sleep Drink Strong(Germany, June 2020)。睡眠促進のハーブドリンク。就寝30分前に飲むと良いとのこと

Nootropics(ヌートロピクス)とは何か?

最近気になる言葉がある。弊社のトレンドレポート集でも、目にする機会が増えた。「Nootropics」――まだ日本では聞きなれない用語だが、これは集中力、学習能力、創造力、モチベーション向上、ストレス耐性など、脳の働きを高める物質のことをいう。Nootropicsを謳った食品点数が、過去5年で年平均70%というペースで伸びているから驚きだ。

「Smart Drug」とも表現されるため、ちょっと過激なものではないか? と思う人もいるようだが、原材料は多岐に及び、前述のようなハーブやスパイスも含まれる。広義では、コーヒーのカフェインや伝統的な漢方原料などもNootropicsの1つだ。

近年特に注目されていのが「CBD」。カンナビジオールという大麻の一成分だ。大麻といっても幻覚作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)ではなく、リラックス効果があるとされる部位。食品原料として使用できる国や地域はまだ限られているが、メンタルの健康トレンドと相まって、CBDを使用した食品はグローバルで右肩上がりである。各国での許認可が進めば、近い将来一大産業となる可能性を秘めている。

以下のカカオココナッツバーのパッケージを見て欲しい。

Nooro Cacao Plus Coconut CBD Bar。United Kingdom, Jul 2019

・Align your mind(心を整える)

・Natural Nootropics(天然のNootropics

・CBD 25MG(カンナビジオール25㎎配合)

これは典型的なNootropicsの訴求メッセージと言える。天然原料であるCBDを配合し、「心を整え集中力を高め、パフォーマンスを維持する」ことを目的とした商品だ。

Nootropicsのメインターゲットは、学業に勤しむ若い世代であると言われている。勉強するための集中力向上に効果的というわけだ。またe-Sportsの選手に対しても大きなニーズと可能性が見て取れる。e-Sportsとは、コンピュータゲーム(ビデオゲーム)をスポーツとして捉えた競技であり、ひと際高い集中力と素早い反応が求められるからだ。

ポジティブな感情につながるパッケージデザイン

上記で紹介したのは、主に原材料の機能面に注目した食品事例だが、ちょっと角度を変えておもしろいトレンドを紹介したい。それはパッケージデザインの傾向。具体的には、パッケージに「Happy」または「Joy」と書かれた食品の点数が、過去5年間で2倍近くに増えているという事実だ。幸福感や高揚感など感情的ムードを高めてくれる食品を、消費者が求めている。

このようにメンタルの健康とは、ストレスのようなネガティブな状態の改善だけを意味するわけではない。集中力を高めて前向きに積極的に活動したい人にとっても欠かせない要素である。メンタルサポート――それは食品業界にとって新しい時代の到来なのだ。

※画像、グラフはすべてInnova Databaseより引用

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