ザ・トップマネジメント 令和4年新春特別編 ヤオコー 川野澄人社長

2022.04.12

2022.01.06

「原材料高、コスト高、マーケット縮小の厳しい環境下、ゼロサムゲーム抜け出して新しい価値提供目指す」

ヤオコー川野澄人社長

——2021年度はどのような年だったか。

川野 一番は、新型コロナウイルスの影響が強く出たというのが、前期に続いて今期であったと。7月、8月、9月と、夏場に感染拡大があり、それに伴う巣ごもり需要が大きかったと思う。

ただ、巣ごもり需要に加えて、前期から取り組んでいる価格政策については、一定の効果が出てきたと思っている。客数を増やすことに効果を発揮してきた。なかなか数字上、分析しにくいが、手応えは感じている。

20年と大きく違うところは、デリカの3部門(惣菜、寿司、ベーカリー)が大きく伸びたこと。やはり家庭内での手作りへの「料理疲れ」もあったと思う。4月にテレビ放映があったことも追い風になって、われわれのお惣菜が改めてお客さまから注目をされ、ご評価をいただいたのかなという実感がある。

今期、新店をすでに8店舗出店しているが、おかげさまで、ほとんどの新店が非常に好調に推移している。4月にオープンした三浦初声店(神奈川県三浦市)も当初の想定を超えて好調だし、10月に旗艦店としてオープンした和光丸山台店(埼玉県和光市)も、ヤングファミリー層をターゲットに、冷凍食品の売場等を拡大したが、お客さまから非常に高い支持をいただいているという状況だ。

反省材料としては、ネットスーパーとIT対応について、システムのトラブル等もあって少し遅れてしまったことが1つ。

それから、当社は「チェーンとしての個店経営」ということで1店舗1店舗、それぞれのお店で働く人材が成長しながら、そのお店のお客さまに合った商品、サービスを提供していくことが強みだが、研修等の機会も限られていたこともあって、なかなか学びの機会が設けられず、社員の成長のきっかけづくりがなかなかできなかったのかなという反省はある。

——和光丸山台店の冷凍食品売場拡大の効果は。他店への展開の見込みは。

川野 確実にその分の売上げは上がっている。和光丸山台店の立地の特性もあるが、冷凍のマカロンなどスイーツ系の動きが良いと聞いている。それも比較的高単価の500~1000円ぐらいの商品群も良く動いているということだ。

われわれが単価を気にして品揃えを削ってしまっていたところもあるが、特に外食に行く機会が減る、あるいは百貨店に足を伸ばす機会も減っている中で、ちょっと良いもの、楽しいものへのニーズは確実にあると感じている。

価格対応は引き続き続けながらも、単価を気にせずに価値のある商品については、もっともっとお客さまにお伝えをしていく必要があると思っている。

他店への展開については、冷凍食品はどうしても売場スペースの制約があるので、改装を通じて冷凍食品の売場を広げることを順次、進めているところ。売場が広がったところには和光丸山台店で当たった商品等品揃えを付加していく。

和光丸山台店で拡大した冷凍食品売場ではスイーツ系の売れ行きが良いという

22年度は非常に厳しい環境、価格対応しつつも、商品力、提案力で支持拡大目指す

——22年度の見とおしは。

川野 まだ、新型コロナウイルスの状況が読み切れないところがある。感染者が増えてきている印象があるので、動きについては注意をしなければいけないと思う。ただ、ワクチンの接種、薬の開発が進んでいるという報道もあるので、4月以降はそれほど大きなコロナの影響はなくなってくるのではないかなと思っている。

逆に言うと、21年は巣ごもり需要で外食、外出がなかなかできない中で、内食、家庭内での食事に回帰されていたが、22年、特に4月以降は外食、外出に消費が戻っていくと思う。当然、われわれのスーパーマーケット(SM)業界は、状況が厳しいと認識している。

また、外的な与件では、やはりいろんな原材料価格の上昇がある。為替も円安に動いてきているので、電気代等も大幅にアップすることが想定される。原材料高、コスト高の中での商売になると認識している。

長期のトレンドでは、やはり高齢化が進んでいく。それに伴う食品のマーケットの縮小はすでに始まってきている。その意味では限られたパイの取り合いは避けて通れないと思うし、同時に、パイを取り合うゼロサムゲームから抜け出して、新しい価値をいかに提供できるかということが、われわれの役割としても大事になるかなと思っている。

さらに環境問題等も待ったなしの状況になっているので、SDGs(持続可能な開発目標)への対応も本格化させていきたい。

環境としては、非常に厳しいと想定をしている。その中でわれわれに何ができるのか、何をしていくのかということだが、当たり前のことだが、やはり、お客さまをちゃんと見ながら、お客さまの満足度が上がるという取り組みを地道に続けていくしかないと思う。

「商品の鮮度が良い」「おいしい」ということは当然のことながら、「お客さまの好みに合った品揃えがちゃんと選べる」「接客が良い」といった基本を磨いていくのが、引き続き第一だと思っている。

それに加えて、先ほどの「価値を生み出していく」ということでは、当社はずっと「豊かで楽しい食生活提案型スーパーマーケット」としてお客さまにライフスタイルを提案していくことを続けてきている。

これも改めて、どんなライフスタイルを提案するのかということで、提案をしっかり行って、そこでお客さまに価値を感じていただく、あるいは新しい需要を創り出していくことにつなげられればと思っている。

例えば今期、「豊洲祭り」という企画を設けた。その日は豊洲(市場)からいろんな魚種を集めて、店で提案することをやっている。魚の需要が落ちていく中で、企画をきっかけに魚を楽しんでもらおうということで、食べ方を提案する、それに合わせた和のメニューを提案するといったことをやっている。

豊洲祭りについては一定の手応えが出てきているので、そういった企画を含めて、お客さまのご家庭での食事がより楽しくなるようにしていきたい。

当然、価格対応はいままでのように続けていくわけだが、価格以外の、楽しさだったり、心の豊かさを感じていただけるような提案を続けていきたいと思う。

また、やはりキーワードとしては、「健康」は外せなくなってくると思う。高齢化が進む中で、医療費がどんどんと増えている。一方で労働人口は減少していく中で、いかにみんなが健康に人生を楽しめるか、あるいは働き続けられるかということは、社会的な大きな課題だと思っている。

その社会課題に対して当社としても、お客さまが健康に毎日の生活を楽しめるということも提案に含めながら、企画を練っていきたいと思っている。

——22年度も価格強化に継続して対応するとしている。原材料高、コスト高など厳しい環境下にあるが、どのようなストーリーで実現させるか。

川野 奇策はないと思っている。1つはハイ&ローというよりは、むしろEDLP(エブリデーロープライス)でしっかりと、価格についてはお客さまに「安さ」の印象を持ってもらう。同時にオペレーションの改善を図っていく。EDLPで需要のぶれをできるだけ減らして、補充の頻度を減らすこと等を進めていく。

あとは何と言ってもやはり商品。他と同じ商品を売っていれば価格だけの比較になるので、他とは違う商品、お客さまに支持される商品をどう作るか。その意味ではデリカ・生鮮センターの活用も非常に大きな武器になるし、直輸入商品等を含めて他にはない商品でお客さまに支持をいただけることが必要だと思う。

そしてもう1つはわれわれの強みとしては提案力。販売力と言っても良いかもしれないが、通常、5個しか売れない商品も、お客さまにきちっとお勧めすることで100個売れる商品にもなり得ると思う。

独自商品と販売力はセットだと思っている。つまり、他にない商品は、売場の展開1つとってもそうだが、ちゃんとお客さまにお伝えする必要がある。パートナーさんに食べてもらって、「おいしいね」と思ってもらって、「もっと一所懸命売ろう」「知り合いに伝えよう」となっていくことがわれわれの販売力につながっていると思う。

EDLPと改善、商品力、販売力の4つをセットにしていきながら、最終的な利益につなげていきたい。

——「個店経営」で現場の力をどのようにさらに引き出していくか。

川野 ここ数年は、どちらかというと「標準化」の方向に業務改善を進めてきた経緯がある。いまは「チェーンとしての個店経営」をしていこうということで、チェーンとしてのメリットを享受しながら個店の強さを磨いていこうということを会社として掲げているが、以前はどちらかと言えば「チェーン」がなくて「個店」だけあった。

だから伸びる店長は自分で考えて、非常に伸びていった一方で、なかなか伸び悩んでしまうお店もあった。加えて人手不足の影響もあり、ぐっと「標準化」をしてチェーンとして統一するところをここ数年かけて増やしてきた。

ただ、一方で、その弊害で、お店の自由度が減ってしまったということがある。そのため、今度は逆に、全店ということではないが旗艦店を中心に、店長たちの自由度をもう少し増やし、その中で、それぞれの考えに基づいて売場づくりをしてもらおうと思っている。実際、自由に考えられる能力、基本のレベルがしっかりと備わっていて、新しいことに挑戦できる店長が増えている。

現に、一部のお店ではそういった取り組みをしている。例えば、東大和店(東京都東大和市)の店長は販売部長もやっていた非常に力のある店長だが、お客さま目線で商品をお伝えをしていくということで、それぞれの部門のパートナーさんの中から1名、その分野に精通しているパートナーさんを募り、勉強していただき、提案業務を担ってもらうことをやっている。

お店で考えて、人事とも掛け合いながらそういう制度を作って取り組みをしているわけだが、そういうものがどんどん増えてきて、その中で横展開できるものは横展開していくといった形で取り組んでいる。

もちろん、失敗もあるが、失敗も許容しながら、新しいことにトライをしていくお店を増やしていきたい。

ネットスーパーはいかに単価を上げるか、ロングテール商品も視野に

——DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みの優先順位、課題感は。

川野 優先順位としては、システムの基盤をしっかり作るということが最優先。いろんな仕組みを継ぎはぎで増やしてきたこともあって、新しいことをやる上で、システム面での連携、あるいはコストを含めて新しいことをやりやすい状態になっていない。いま、まさにいわゆるDXを本格的に進める上で、システム基盤の整備を進めている。

同時に、待ったなしで進めなければいけないことがある。大きく言えば生産性改善の領域と、顧客満足度上昇、いわゆるCX(顧客体験)を向上させる領域だ。

生産性の向上で言えば、いま日配とドライグロッサリーにAI(人工知能)の自動発注の実験をしている。比較的うまく動いてきているので、22年度には全店に導入できるのではないかなと思う。人が発注するよりも精度が高く、チャンスロスが減って在庫も減らせるという取り組みにつなげていきたいと思っている。

CXについては言えば、いまネットスーパーを拡大しているが、使いやすさをさらに向上させるのが優先事項だと思う。現状、やはりネットスーパーをご利用される方は着実に増えてきている。大幅に、劇的に伸びるということではないが、使っていただいた方はリピートしていただける。

ネットでも注文できることが当たり前の世界になってきていると感じているので、お客さまのオプション(選択肢)を増やしていくことについては力を入れて進めていきたいと思っている。

——ネットスーパーの見とおしは。

川野 売上規模については明確に目標値を出しているわけではない。ただ、現状では1店舗に対して5%ぐらいはニーズがあるといわれているし、現にネットスーパーをスタートしているお店についてはそれぐらいの売上げになってきている。

将来的には10%ぐらいにまで行くのではないかと思っている。そこに向けて、いまエリアをつなぐ形で、1店舗1店舗お店を増やしてきている状況。

ネットスーパー用のセンターについてだが、確かにわれわれがネットスーパーを広げていく上でも、やはり物理的な制約は大きい。お店も敷地に対してめいっぱい建てているところがほとんどで、ネットスーパーをやりたいと思ってもなかなかスペースが取り切れないことも現状としてある。

そのため、併設型のフルフィルメントセンターというよりは、ある程度需要ができたエリアにいわゆるダークストアを設置し、そこから配送することはあり得るかなと思う。

ただ、生鮮食品を在庫型でやると大きなロスが出ることは、いままでの実例からも見えているので、その辺りをどうクリアするかの課題は残る。

収益性も大きな課題であると思っている。ご家庭に配送する分のコストは当然、乗ってくる。

都心においては宅配コストをあえて払ってでも時間を節約されたいという方が多いと思うが、われわれが出店している郊外型においては異なる。やはりお店で選ぶ、そしてご自身でお持ち帰りになるという方が、お客さまにとっても時間的にも、コスト的にもご負担が、結果として少ないのではないかなと考えている。

物流コストについては、人手がどうしてもかかるのは避けられないので、いかに配送当たりの単価を上げられるかが勝負だと思う。そう考えたときには、われわれのお店の品揃えに加えて、それ以外の商品を載せていくことも考えていかないと、ネットスーパー単体での収支はなかなかプラスになってこないのかなと考えている。

そこについてはまだ、具体的にサービスにはなっていないが、ロングテールを拾って、例えばお店の品揃えにないような(高単価の)ワインをお客さまに買っていただけるようなことだ。(高単価のワインには)数店舗の大型店で品揃えしているケースもあり、センターには在庫があるので、そういったことも1つの方法かなと思う。

地元で支持される企業とは、グループとして成長、シェア向上も選択肢

——8月にディスカウントタイプの新フォーマットとなる「フーコット」飯能店(埼玉県飯能市)をオープンしたが、状況は。

川野 おかげさまで非常に順調に業績が推移をしている状況。ディスカウントの集客の力を私自身改めて感じているところだ。

見込みと若干違ったのは、当初は思ったよりも買上点数が伸びず、逆に客数が思ったよりも多くのお客さまに来ていただいた。価格の政策等工夫しながら、かつオペレーションも安定してきて欠品等も減ってきたこともあって、広域からお客さまにご来店いただける状況が作れてきたと思う。

現状、まだチラシを打っていないので認知度が低い状況だが、その中でも売上げが伸びてきているので、さらにこれからお客さまの認知度が上がってくれば、そして、「エイビイ」スタイルのまとめ買いの買物行動が、より増えてくればまだまだチャンスがあるかな、売上げが伸びてくるかなと感じている。

子会社のエイヴイ(本部・神奈川県横須賀市)が展開するディスカウントフォーマット「エイビイ」のモデルを埼玉県で展開開始した。子会社のフーコットを設立してのオープン。22年3月に2号店の昭島店(東京都昭島市)をオープンする予定の他、22年度にも1店の出店が予定されている

——9月にせんどう(本部・千葉県市原市)との資本・業務提携を発表した。M&A(合併・買収)に対するスタンスは。

川野 従来どおり、当社の基本は自社でお店を1店舗1店舗増やしていき、地域に根差した商売をしていくということで、そこはいままでと変わっていない。

ただ、ここ数年、少し考え方を修正してきた。やはり、人口の減少がこれから進んでくる。そういう中でわれわれグループとしてシェアを伸ばしていく、その中で成長を考えていこうと考えている。

例えばせんどうは、内房、外房のわれわれの出店のエリアと補完的な位置にお店を構えていらっしゃる。生鮮に当社にない強みを持ち、一番は地元においてお客さまの支持が非常に高いということがある。

今回、せんどうと資本・業務提携ということだが、スケールメリット等というよりは、グループとしてお互いが良くなることが一番のポイントではないかと思う。当然、われわれがせんどうに学ぶこともたくさんあるし、逆にせんどうに足りないところをわれわれがご提供することも、今後はあるかと思う。

手を組む相手として求めることは、その地域でお客さまから支持を得ているチェーンがあって、一定の規模を有しているということであること。

もちろん、選択肢としては、われわれがそこに乗り込んでいって1店舗1店舗、店をそこに造っていくということもあるわけだが、マーケットが縮む中でそういうプロセスを1つ1つ踏んでいくよりも、地元に支持される素晴らしいチェーンがあれば、グループとして共にレベルの向上を図っていく方が良いのではないかということだ。

お役立ち資料データ

  • 2023年 下半期 注目店スタディ

    2023年下半期注目のスーパーマーケット7店舗を独自の視点でピックアップし、企業戦略を踏まえた上で、出店の狙い、経緯、個別の商品政策(マーチャンダイジング)まで注目点を網羅。豊富な写真と共に詳しく解説しています。 注目企業における最新のマーチャンダイジングの取り組みや、厳しい経営環境と向き合うスーパーマーケットのトレンドを知ることができ、企業研究、店舗研究、商品研究などにご活用いただけるほか、店舗を訪問するときの参考資料としてもお勧めです。 <掲載店舗一覧> ・オーケー/銀座店 ・ヨークベニマル/仙台上杉店 ・ベイシア/Foods Park 津田沼ビート店 ・ヤオコー/松戸上本郷店 ・カスミ/…

  • 2023年 上半期 注目店スタディ

    2023年上半期注目のスーパーマーケット5店舗を独自の視点でピックアップし、企業戦略を踏まえた上で、出店の狙い、経緯、個別の商品政策(マーチャンダイジング)まで注目点を網羅。豊富な写真と共に詳しく解説しています。 注目企業における最新のマーチャンダイジングの取り組みや、厳しい経営環境と向き合うスーパーマーケットのトレンドを知ることができ、企業研究、店舗研究、商品研究などにご活用いただけるほか、店舗を訪問するときの参考資料としてもお勧めです。 <掲載店舗一覧> ・ ヤオコー/トナリエ宇都宮店 ・ サミットストア/川口青木店 ・ 原信/紫竹山店 ・ ライフセントラルスクエア/ららぽーと門真店 ・ …

  • 有力チェーントップ10人が語る「ニューノーマル時代のスーパーマーケット経営論」

    有力スーパーマーケットチェーンの経営者10人にリテール総合研究所所長の竹下がインタビューを実施し、そのエッセンスをまとめています。 インタビューを通じ、日本を代表する有力トップマネジメントのリアルな考えを知ることができ、現在の経営課題の主要テーマを網羅する内容となっています。 変化する経営環境において、各トップマネジメントによる現状整理と方向性を改めて振り返ることは、これからの新しいスーパーマーケットの在り方形を模索する上でも業界にとって大変有用と考えます。 ぜひ、今後のスーパーマーケット業界を考える材料としてご活用ください。 ■掲載インタビュー一覧 ライフコーポレーション 岩崎高治社長 ヨー…