ザ・トップマネジメント 2023年の視座と戦略 ライフコーポレーション 岩崎高治社長
2023.01.06
2023.01.01
付加価値や生産性向上による収益改善、賃金上昇の流れを作り、小売業を魅力ある産業へ
——2022年はセントラルスクエア恵比寿ガーデンプレイス店(東京・渋谷)、カメイドクロック店(東京・江東)、西荻窪店(東京・杉並)、ビエラ蒔田店(横浜市南区)など、旗艦店クラスの出店が続いた。これらの新店の売上げなどの進ちょく、計画と異なる良い部分、悪い部分はあるか。
特に西荻窪店は店舗がなかった杉並区への出店、ビエラ蒔田店は知名度が低く、横浜市内でも空白地帯だった横浜市南部への出店となった。これらの空白地帯について、今後ドミナント形成を急ぐか、それとも既存のドミナントエリアの形成強化を優先するか。
岩崎 今年度の新店は、店舗ごとに凸凹はあるものの、総じて計画通りに推移している。
特にセントラルスクエア恵比寿ガーデンプレイス店は、多くのメディアにも取り上げられ、4月のオープン以降 計画を上回る数値で推移し、11月の全館開業以降はさらに好調な実績となっている。
「空白地帯」のドミナント、「既存エリア」のドミナントで、出店の優先順位はない。引続き重点エリアである東京23区、川崎、横浜を中心に、優良な物件の開発を続けていく。
――恵比寿ガーデンプレイス店は家賃もかなり高いと予想されるが、ドミナントを埋める目的での出店の意味もある。同店の出店にはどのような意義があるか。年商のハードルも高いが。
岩崎 恵比寿ガーデンプレイス店は当社の既存店7店舗に囲まれた重要なエリアにあり、オーナーであるサッポロさまにとっても恵比寿ビール発祥の地としてとても大切な場所である。また、都心の集客力のある商業施設への出店となるため、われわれの一番強いフォーマットである「セントラルスクエア」業態で出店し、商品・サービス力とブランド力の強化を目指した。
――21年9月オープンの本郷三丁目駅前店(東京・文京)は、精肉はプロセスセンター(PC)からの供給だが、弁当、惣菜はインストア加工とサテライトキッチン(東京・品川)、惣菜PC(千葉県船橋市)を組み合わせて品揃えの幅を広げた。
また、グロサリーはアイランド型の売場を随所に取り入れることで品数を減らさず、訴求力のある売場を展開し、狭いながらも品揃えを削らず、ローコストオペレーションも取り入れた都市型小型店モデルの1つを構築した。
今後の都心への出店では、さらに生産性を高めていく必要があるが、どのように高めていく計画か。また、売場面積100坪への挑戦を含めた今後の都心への出店計画は。
岩崎 AI(人工知能)発注の対象部門、品群の拡大や電子棚札の導入などを積極的に行っていく。また、店舗の労働時間の20%以上を占めるレジの生産性向上に向けて、カートPOSとスマホPOSの実験をしている。コロナ禍の中でなかなか進められなかった生産性への取組みを、来年度から始まる「第7次中期計画」で進めていきたい。
本郷三丁目駅前店は小型店ながら、当社のPCやサテライトキッチンなどのインフラを最大限活用することで「ライフらしさ」を表現することができた。今後「100坪」にこだわらず、当社の強みが発揮できる都心の優良物件に引続きチャレンジしていく。
――22年12月には東京都新宿区に小型店の市谷薬王寺店をオープンした。どのような位置付けの店舗となるか。
岩崎 300坪・997㎡ながらライフの最新コーナーを全て投入した、コンパクトながら「ライフらしさ」あふれる店舗だ。マンション開発などが進み、人口が増加する都心の買物不便地域のお客さまに、生鮮各部門の幅広い品揃えやおいしい惣菜、ベーカリー、食品、生活関連のライフオリジナル商品など提供していく。
――22年に天保山PC(大阪市港区)にバイオガス発電を導入した。今後、関東を含め、他のPCへのバイオガス発電の導入も検討しているか。
また、店舗、PC15拠点で太陽光発電を行っているが、他の店舗、PCへも導入も検討しているか。また、23年のサステナビリティへの投資・取り組み計画について。
岩崎 天保山のバイオガス発電は、22年3月の本稼働から10カ月経過したが、食品残さの処理量や発電量など、ほぼ当初計画通りの実績、効果が出ている。他地区への導入も検討しているが、スケジュールなどは未定だ。
太陽光発電は、23年度に東西5店舗への導入を計画している。通常電力価格が上昇していることから、以前より投資基準が変わってきており、新店だけでなくこれまで導入できなかった既存の事業所を含め導入を検討していく。23年度の投資計画は現在作成中だ。
ビオラルと本体の惣菜の開発を別組織に、ブランドコンセプトに沿った商品開発へ
――改装店では「BIO-RAL(ビオラル)」「うを鮨」「お店で作った新鮮サラダ」「チーズハウス」「大型冷凍食品」「ベビーフード」「ライフペット」「ブリーズガーデン」などのコーナーを立地や需要に合わせて選択して導入している。それらの各コーナーの効果はどうか。
岩崎 改装店で導入している各マーチャンダイジング(MD)コーナーは、それぞれ120~200%の売上昨比で推移しており、店舗内、外装の刷新だけでなく、「ライフらしい」(おいしい・ワクワク・ハッピー)商品の品揃え拡充につながっている。
コロナ禍による内食拡大から家計消費の中の食品支出が高まったことにより、商圏シェアは目標には達していないものの、14~21年まで8期連続で当社既存店の売上昨比は100%超過し続けていることから、これら改装、MDの効果はしっかり出ていると考える。
――最近「四つ葉軒」という低価格のプライベートブランド(PB)のカップ麺が発売された。どのような位置づけになるか。高質PBの「ビオラル」「ライフプレミアム」を強化することを表明しているが、ヤオコーと共同開発する低価格PBの「スターセレクト」は今後どのようになっていくか。
岩崎 低価格の新しいPB開発を行うわけではない。われわれが持つ4つのPBのうち「スマイルライフ」は価格優位性がある。現在の物価高が続く場面では、この「スマイルライフ」に対するお客さまの支持は高まっており、「ライフプレミアム」「ビオラル」の高質・健康系PBと共に開発を強化いていく。
また、ヤオコーさまと共同開発している「スターセレクト」も価格優位性が高く、今後も2社が力を合わせることでメリットが出せる商品の開発を続けていく。
――原料、資材、人件費高騰、燃料費、水道光熱費の高騰、そして一時ほどではないが円安傾向にもある。企業努力でできることはあまり残されていないようにも感じる。水道光熱費への対策は、現実的にまだできることは残されていると考えているか。
岩崎 現在の節電の取り組みに加え、既存の冷蔵ケースに冷気の流出を防ぐカーテンや遮蔽板を取り付けて電力消費を抑える取組みなどを実験している。しかしながら、社会インフラとして営業を継続しながら抜本的な電力使用量の削減は難しく、残されている対策はほとんどないと考える。
政府による「総合経済対策」の中で電気料金への補助が盛り込まれたが、確実な政策の実施と補助の強化を期待したい。
――容器などを含めた各メーカーからの値上げ要請が続く。「妥当な要請であれば受け入れる」という趣旨の発言をしているが、現状のスーパーマーケット(SM)各社の値上げの状況をどのように捉えているか。また、SMにおける価格転嫁はどうあるべきだと考えているか。
岩崎 価格政策は各企業の業態やコンセプトによって異なり、当社が他社の価格転嫁の状況についてコメントすることはできない。
あくまで当社の基本的な考え方は、値上げの妥当性を判断し、必要な要請は受け入れる。ただ価格転嫁するのではなく、商品ごとに価格を変えるもの、変えないもの、加工度を上げたり提供方法を変えたりして付加価値を付けるなどの工夫をしていく。
日本はバブル以来20年以上に渡りデフレが続き、今後はさらに少子高齢化が進み国内マーケットがシュリンクする中、現在のこの物価高の局面で、適正な価格転嫁、付加価値や生産性の向上による企業収益の改善、それに伴う賃金上昇の流れを作り、経済の好循環を作ることが重要だと考える。
――惣菜部門の商品開発が進んでいる印象だ。ビオラル惣菜商品の開発を含めると、さらにその力は強くなっていると考えられる。具体的にどのようなことを強化しているか。
また、船橋の惣菜PCでの炊飯ラインはすでにキャパシティいっぱいとのことだが、今後の新しい惣菜PCの計画やサテライトキッチン店舗の追加などの計画はあるか。
岩崎 ビオラルの開発部隊を本体の惣菜メニュー開発と別組織とし、ブランドコンセプトに沿った商品開発を徹底している。また、船橋PCにおいて、和、洋、中、パティシエの各専門分野の人材を採用し、メニュー開発を強化している。
コロナ禍で惣菜部門の売上げが苦戦する中、部門責任者が、今後何が変わり、何にチャンスがあり、何を変え、どう連携するかを徹底的に考えたことが現在の各施策になっている。
惣菜PCは、今後の店舗拡大に対応するため、物流センターや他PCとのフォーメンションと合わせ総合的に考えていく。
――生鮮部門の惣菜も順調に伸長しているようだが、どのような点がお客に支持されていると考えるか。また、農産、水産、畜産各部門に占める生鮮惣菜(サラダ、カットフルーツなど、魚惣菜、肉惣菜)の売上高構成比はどれくらいか。
岩崎 生鮮惣菜は、即食性だけでなく、生鮮部門の商品ならではの原料、産地、鮮度などの高付加価値がお客さまから高い支持をいただいており、「ライフらしさ」を表現する商品となっている。
導入している部門における生鮮惣菜の売上高構成比は、店舗ごとに異なるが、おおむね約5%~10%となっている。
カートPOS、スマホPOSの利用率は客数の20%以上、購買点数が通常比約140%
――10万人を超える人に対してアンケートを実施しているが、このアンケートはどのようなものか。質問内容やその回答結果、そこから分かったことなどは。
岩崎 毎年、ウェブ、店頭合わせて10万人以上の方にアンケートを実施しており、本年度は約12万人から回答を得た。質問内容は「もっとも利用する店舗」「その店舗の印象」「来店動機」「部門評価」などで、ライフだけなく他企業についても聞いている。それぞれの回答から、全社・店舗ごとにライフが目指したい評価とのギャップや、他企業との差を年次で見ながら、部門方針や店舗方針に反映している。
――今期の通期決算は「減益」見通し、営業利益率は2%台に落ち込むが、コロナ禍中はあくまで上振れと考え、都市部でSMを経営する企業の水準として、これが妥当だと考えるか。それとも、より利益率を高めるべきだと考えているか。
岩崎 当社はコロナ前より3~4%の経常利益率を目指している。小売業は消費者と向き合う労働集約型産業ではあるが、日本の小売業の生産性は世界的に見ても低く、さらなる機械化や標準化、効率化など進める必要がある。
収益性を上げ、店舗、商品、サービスへの投資を拡大し、従業員の処遇を改善することで、小売業を魅力ある産業としていきたい。
――ネットスーパーは自社とアマゾンの2チャネル戦略となっている。30年度目標売上げ1000億円への進ちょくと、それぞれのチャネルが占める割合の想定、その時点での店舗売上げの何%くらいになると考えているか。
岩崎 自社ネットスーパーとアマゾンの構成比は非公開だ。導入店舗の売上高構成比は店舗規模やエリアによって異なるが、30年時の全社売上げ(リアル+ネット合計)の約10%を自社ネットスーパーとアマゾンで確保したい。
――スキャン機能付きカートを実験的に導入しているが、その現状をどのように評価するか。また、今後拡大していく計画はあるか。未来のレジの形はどのようになると考える。
岩崎 カートPOS、スマホPOSは、22年12月現在 東西4店舗へ導入している。導入店舗での利用率は全体客数の20%以上、購買点数が通常レジのお客さまに比べ約140%と高く、若年層だけでなく幅広い年齢層のお客さまにご利用いただいている。レジ対応時間の削減にもつながっており、今後も店舗立地や特性に合わせ効果が見込まれる店舗へ導入を検討していく。
今後のレジについては、非接触技術などの革新よりさまざまな可能性があるが、広く情報を取り、当社に合ったシステムを検討していきたい。