米国リテールトレンド最前線 後編 ~NRF・Shoptalkから見るリテール最新動向~
2024.05.29
2024年4月18日、19日、リテール総合研究所は『スーパーマーケットイノベーション研究会 マーケティング・DX分科研究会』を開催した。
スーパーマーケットイノベーション研究会は、リテールの中でもスーパーマーケット(SM)業態に限定し、持続的成長に向けたイノベーションの在り方を議論し実践する場である。
19日は外部講師として、ヤプリ兼db-labの伴 大二郎氏、マイクロソフトコーポレーションの藤井創一氏、アドインテの稲森 学氏を招き、「NRF・Shoptalkから見るリテール最新動向」について議論した。
目次
米国を代表するカンファレンス「NRF」と「Shoptalk」
NRF、Shoptalkともに米国小売業を対象とした代表的なリテールカンファレンスである。イベントには、世界の有名なスピーカー、パネラー、研究者などが登壇し、リテール業界に関する技術トレンドやトピックについてディスカッションやセッションを実施する。
NRFおよびShoptalkにて話されたリテールトレンドとして、図表①の「AI/Gen AI・D2C/DNVB、Loyalty、CX&EX」が注目されていると伴氏は説明した。
図表① NRFおよびShoptalkでの注目テーマ
藤井氏は、AI(人工知能)関連のトピックで特に注目されているのが生成AI(Gen AI)であり、図表②のとおり小売業に与えるインパクトも大きいと説明した。生産性、EC(電子商取引)コンバージョン、AI投資によるROIといった具体的な数値効果も確認できており、生成AIソリューションへの支出規模は2027年時点で1430億ドルまで成長する見立てとなっている。
図表② 小売業に与えるAIのインパクト
デジタル技術の見本市であるCES2024の場で、ウォルマートはドローン配送、盗難防止、店舗電力発電とEV(電気自動車)ステーション、従業員サポートなど、複数のテクノロジーテーマを発表した。特に興味深かったのが図表③の生成AIによる商品検索機能の強化である。
図表③ ウォルマートのGen AI検索
このサービスは顧客の検索体験を向上させるだけでなく、小売りが持つファーストパーティデータの価値も高めると伴氏は説明する。これまでの商品検索は、モノやレシピなど、顕在化している顧客ニーズの検索をサポートするものであった。
生成AI検索が進めば、図表④のように「顧客が求めるより抽象的な体験(ジョブ型)」に沿って商品検索やレコメンドが可能になる。
図表④ AI/Gen AIによるデータ取得の変化
伴氏は、小売業のAI/Gen AIの活用ステップを図表⑤のように示した。システムベンダーが提供するAIサービスを活用するだけでも、業務効率化までは進められる。
一方、ここで止まらずに顧客接点を強化し、取得できるファーストパーティデータを増やしながらビジネスを強化することによって、他社との差別化につなげることができる。その先端事例として、Tractor SupplyやPetcoの事業モデルに着目していると伴氏は説明した。
図表⑤ AIの影響整理
D2C、DNVCは小売業との結び付きが必須に
D2C(Direct-to-Consumer)は企業が中間業者を介さずに消費者に直接商品を販売するビジネスモデル、DNVB(Digitally Native Vertical Brands)は、オンラインでの販売を前提に設立されたブランドであり製品開発から販売までを一貫して自社で行うビジネスモデルである。
双方オンラインを主軸とした販売モデルではあるが、アメリカでは小売業とのパートナーシップがより進んでいると伴氏は話す。
図表⑥はドラッグストアのセフォラ、ディスカウントストアのターゲットにおけるD2Cブランドの棚陳列である。日本ではSKU単位で並ぶことも多いが、両社は売り込み商品のフェースを広く取り、お客から視認されるように陳列している。このようにして店頭における新しい「気づき」や「発見」といった顧客体験を充実させることがポイントとなっている。
図表⑥ セフォラおよびターゲット社におけるD2Cブランド陳列
図表⑦は、米国各社の計画(棒グラフ下部の緑色、黄色の部分)・非計画購買(同上部の赤色の部分)の割合を示したものだ。セフォラ(左から2番目)やターゲット(左端)は店頭での顧客体験強化により非計画購買の比率が高く、さらに黄色の部分である「計画していたが、ブランドスイッチした」比率も特にセフォラにおいて顕著に高くなっている。
リアル店舗での体験を重視しているトレーダージョーズ(左から3番目)が顕著であるが、セフォラとターゲットについては、先述のD2Cを通じた店頭商品や陳列の磨き込みが顧客の買物体験を豊かにする要素として機能していることが読み取れる。
図表⑦:各米国小売における計画購買と非計画購買の構成比

Loyaltyの動向
図表⑧はホームセンターのLOWE’Sのロイヤリティプログラムの考え方である。LOWE’Sはより価値を磨くべきDRIVE VALUEとして、顧客視点では「利便性・学び・節約」の3つを掲げる。
特に重要なのは「学び」である。知識がある人とそうでない人では、1つのカテゴリに投下する金額が異なる。お客により自社のファンになってもらうためにも、利便性や節約情報の提供だけでなく、顧客にとっての新しい学びや気付きを提供することも重要である。
特に、コモディティ商品が多くを占める業態とは異なり、商品の専門性が高い米国のホームセンターのような業態では、この「学び」が購買に及ぼす影響は大きなものがあると思われる。専門性のある業態にとっては極めて重要な要素といえる。
図表⑧:LOWE’Sのロイヤリティプログラムの考え方

図表⑨はLOWE’Sのロイヤリティプログラムの概要だ。従来は、中心のゾーンである「全てのお客を対象に、多く買ってくれた人に報いるプログラム」が中心であった。今後は、メンバーオファーやギフトといったリワード要素も取り入れながら、プログラムをより充実させていく方向性にあるという。
図表⑨:LOWE’Sのロイヤリティプログラム概要
また、注目事例として図表⑩のスーパーマーケットのMARKS&SPENCERが従来のポイント型のメンバーシッププログラムを廃止した事例も報告された。
具体的には「ポイント」、つまり「値引き」という考え方はやめ、毎週各店1人無料、ギフトといった顧客体験を提供するプログラムに変更した。この結果、MARKS&SPENCERのロイヤリティプログラム会員数は大きく伸長したと伴氏は説明した。
図表⑩ MARKS&SPENCERのメンバーシッププログラム刷新
CXとEX
CX(顧客体験)を高める上では、それを提供する側のEX(従業員体験)を高めることも重要であるという考え方がある。従業員の業務サポートや効率化するためのテクノロジー活用事例について、図表⑪のペットショップのPetSmart等の事例を基に議論を行った。
図表⑪ PetSmartにおけるCX・EXの取組事例
新たな収益源「リテールメディア」に注目
今回のNRFでは「リテールメディア」が大きなテーマとして強調された。会期中にNRF初のリテールメディアのみのセッションが開催されるなど、小売業にとっては新たな収益源としての期待が伺える。
米国におけるリテールメディアは、ECサイトやアプリ広告のイメージが強い。しかし現在は、図表⑫のような店舗とアプリを連動したオムニチャネル型の取り組みとしてなど、多様な形で進化してきていると稲森氏は説明した。
図表⑫ 米国小売店舗におけるリテールメディアの取組イメージ
ファーストパーティデータの重要性に気付け!
図表⑬は、伴氏が考える小売業の「顧客データドリブンビジネスフロー」である。小売業においてテクノロジー活用が進めば、顧客データの流れはより活発化していくことになる。
そのとき、小売りが持つファーストパーティデータの資産としての価値が非常に重要になる。これは「販売」という現場を持つ小売業だけが持つ資産であり、ここに大きなチャンスがあるということができる。このデータを事業やサービスの革新につなげられるかが、小売業の差別化においてよりより重要になっていくだろう。
図表⑬ 顧客データドリブンビジネスフロー
7月にマーケティング・プロモーション分科研究会を開催
リテール総合研究所は「スーパーマーケット業態のイノベーション」をテーマにした研究会を定期開催しています。
次回は7月25日・26日に「マーケティング・プロモーション分科研究会」を開催します。
小売業態の皆さまは無料でご参加いただけますので、ご興味ある方はぜひご参加ください。サプライヤー・パートナーの皆さまには運営費の共同負担を目的に、年会費を頂戴しております。
詳しくは次のご案内ページをご覧ください。皆さまのご参加をお待ちしております。
<分科研究会の詳細はこちら>