トライアルの西友完全子会社化を考察、店舗ブランドを維持する方針は「SM的?」

2025.03.19

2025.03.18

傘下の事業会社を通じて九州を地盤に全国的にディスカウントストア、ディスカウントスーパーマーケットなどを展開するトライアルホールディングスが、投資会社であるKKRとウォルマートから西友の株式を取得し、完全子会社化すると発表した。

3月5日開催のトライアルホールディングスの取締役会で決議された。今年7月1日の実行を予定している。取締役会当日の夕方には東京で両社の幹部が「トライアル・西友共同記者会見」を開いた。

「トライアル・西友共同記者会見」に臨んだ両社幹部。亀田晃一・トライアルホールディングス社長(左から2人目)、永田洋幸・Retail AI代表取締役CEO(中央)、石橋亮太・トライアルカンパニー社長(左)、野村 優・西友最高財務責任者執行役員(右から2人目)、武田正樹・西友執行役員経営企画本部長(右)

トライアルグループは小売業として店舗展開をしているが、同時にIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)といったデジタル技術を生かした形で「流通小売業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組むリテールAI事業を展開している。それを主体的に推進するのは記者会見に臨んだ創業家出身の永田洋幸氏がCEOを務めるRetail AIだ。

「両社におけるシナジーは、流通にしろ、テクノロジーにしろ多岐に渡ってあると考えている。そこをさらに効率化することでプラスアルファにしていきたいと考えている」(永田氏)

もともと早期からITを始めとしたデジタル技術に大きな投資をしてきた米国のウォルマートを1つのモデルとし、デジタルへの積極的な投資やスーパーセンターといった業態展開に取り組んできた。創業は1974年の古物商、リサイクルショップのあさひ屋開業にまでさかのぼるが、87年からPOSを中心としたシステム受託を開始するなど、IT分野には早期から注力。

その後、さまざまな仕組みを自社開発するなどノウハウを蓄積し、2018年にはそれを外部を含めた形で拡大することも視野にRetail AIを設立するに至っている。

トライアルが2月28日時点で全343店中、202店展開する主力フォーマットのスーパーセンター。標準面積は約4000㎡で衣食住を幅広く、約6万~7万アイテム取り扱う郊外型の店となる(写真は千葉市稲毛区の長沼店)

ウォルマートを参考に独自の解釈も交え、プライベートブランド(PB)商品の開発、ローコストオペレーションの強化を図っているが、一方で生鮮、惣菜など、日本の食品販売においては非常に重要になる点についてはウォルマート流とは一線を画し、分業を前提としたチェーンストアではしばしば否定される「職人」を採用した商品力、販売力の強化も図っている。

KKRの西友株式売却においてはトライアル以外にもドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)、ロピアなどを展開するOIC グループ、イオンなども名乗りを上げていたが、約3800億円の値を付けたトライアルが優先交渉権を得、買収に進む形となった。

株式の取得に当たっては株式の概算3800億円にアドバイザリー費用などの概算26億円を合わせた3826億円が想定される。大きな額だが、トライアル側としては「健全な財務体質」を生かし、手元資金に加えて取引銀行から新たに概算で3700億円の借入をしてこれに充てるとしている。

上場したこともあって手元資金は1000億円弱ある一方、借入は200億円弱と少なく、トライアルホーディングスの亀田晃一社長は、「上場したにもかかわらず、財務レバレッジが働いていなかった」と語った。加えて、両社の利益水準などから返済力は十分ある他、シナジー効果なども見込めるため、3700億円の借入をしても財務の健全性を維持できるとする。

そのため、トライアルとしては増資などの新株発行を伴う資金調達(エクイティファイナンス)を実施する予定はないという。今回の借入による資金調達が今後、どのように影響していくかは1つの注目点ではある。

SMとして見れば、売上げは日本ナンバーワンに

一方で規模の面で見ると、今回の買収は日本の小売業に大きなインパクトをもたらすことが分かる。両社の直近の年商を単純合計すると1兆2014億円、店舗数は2月28日段階でトライアル343店、西友242店で585店の陣容となる。衣食住総合品揃えの総合スーパー(GMS)グループとして見れば、イオンのGMS事業の約3.4兆円、PPIHの約2.1兆円、セブン&アイグループのスーパーストア事業の約1.5兆円に次ぐ規模となる。

注目すべきは本業の儲けである営業利益で、今回、明らかになった西友の業績を見ると24年12月期の売上高4835億円に対し、営業利益は235億円。営業利益率は実に4.9%に達する。これをトライアルの24年6月期の営業利益191億円と単純合算すると426億円になる。

PPIHの24年6月期営業利益の1401億円には及ばないものの、イオンやセブン&アイの24年2月期のセグメント営業利益がそれぞれイオン283億円、セブン&アイ135億円。この2グループよりは高い水準にある。

また、トライアルは売上高構成比で74%、西友に至ってはスーパーマーケット(SM)化を進めたこともあって実に88%が食品になっている。このことから両者をSMと捉え直すとグループではイオンのSM事業が24年2月期で約2.8兆円の規模で存在するものの、売上高規模ではそれに次ぐ存在になり、かつ営業利益はイオンのSM事業の営業利益約420億円を上回る。

イオンは連合体であるが、もう少しまとまった企業体としてみれば、売上高について、いなげやが加わることで年商1兆円近くに達する見込みのイオンの首都圏SM連合であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスをも上回り、トップに位置づけられることになる。

営業利益も、業界トップ水準のオーケーやヤオコーでも300億円台ということで、こちらは断トツになるだろう。GMSと捉えるにしても、SMと捉えるにしても、極めて大きなインパクトであることは間違いない。

さらに注目したいのは、店舗網の補完関係である。西友はもともと北海道から、提携していたリウボウを含めれば沖縄まで店舗展開するナショナルチェーンだったが、リウボウとは03年に提携解消、そして昨年には北海道と九州の店舗を譲渡するなど、展開エリアの絞り込みを進めてきていた。現在では関東、中部、関西、東北に店舗を展開するリージョナルチェーンだが、店舗網は関東が圧倒的に多く、しかも、駅に近接した好立地の店が多い。

対するトライアルは九州が地盤ながらも北海道まで進出し、ナショナルチェーン化しているが、東京都には店舗がないなど関東の中心部、ちょうど西友が出店しているようなエリアにはなかなか進出できていなかった。

トライアルとしては、今回の西友の完全子会社化によって人口集積地でもある関東エリア、中部エリア、関西エリアでの事業基盤確立を迅速、かつ効率的に実現することが可能となるとしている。実際、商圏のカニバリゼーションによる退店などは現在のところ想定していないとのこと。また、補完関係は店舗だけでなく、セントラルキッチンやプロセスセンター、物流センターなどのインフラ面も同様だ。

スキップカート導入、サテライト店・トライアルゴーの出店は想定しやすい

同時に、実際に想定しやすく、共同記者会見でも具体的に示されたシナジーも幾つかある。まずはトライアルが連綿と構築してきたリテールAI事業を含むリテールテックの導入。象徴的なものが商品読み取り機能の他、さまざまな情報発信も可能な端末の付いたカートである「Skip Cart(スキップカート)」の西友への導入である。また、データ面での連携や店舗展開エリアの拡大に伴うリテールメディアの強化といったことが考えられる。

さまざまな機能を持つ端末が付いたスキップカートは、トライアルのリテールテックを象徴するものの1つ。グループ外への導入も進む

また、とりわけ強調されたのが既存店の周辺にサテライト店として出店される小型店の「TRAIL GO(トライアルゴー)」の西友展開エリア内への出店だ。西友はすでに首都圏を中心に多数の店舗網を持つことから、その既存店を母店としてトライアルゴーの出店を一気に加速できる可能性も出てくる。

また、ネットスーパーについては、西友は日本で初めてネットスーパーを手がけた企業とされ、5月には展開25周年を迎える老舗企業。以前は楽天と組み、倉庫から出荷する倉庫型のネットスーパーも手がけていたが、23年12月に西友として撤退するなど紆余曲折はあったものの、現在は店舗出荷型に特化した展開で、ノウハウも蓄積されている。

一方のトライアルは取り組みを始めてから日も浅く、取り組みも限定的ではあることから、トライアルとして、このネットスーパーを含むEC(電子商取引)面でのシナジーも期待しているという。

商品面では、西友は加工食品の「みなさまのお墨付き」、生鮮食品と一部加工食品の「食の幸」をはじめとしたプライベートブランド(PB)商品などオリジナル商品を持つ。また、惣菜についてはかつて子会社の若菜が専門的に手がけていたこともあって、工場などインフラ面も含め蓄積がある。

西友の売場での存在感も大きいPB商品の「みなさまのお墨付き」
かつて西友の惣菜は子会社の若菜が担っていたが18年に合併。そうした過程を経ながらも、惣菜は継続的に強化してきた。生鮮食品のPB商品の「食の幸」を使った惣菜も登場している

トライアルもPB商品を持つ他、惣菜に関してはグループ会社で、外食も手がける明治屋がさまざまなジャンルの職人による商品開発を通じて、食材、調理工程にこだわりながらも値頃感ある商品の展開を実現している。記者会見では、製造、物流インフラを含め、これらを相互活用することで商品力強化が見込まれる点も強調された。

トライアルの惣菜は注力分野としてグループ会社の明治屋が、外食を含めた独自の戦略で取り組む。職人による商品開発が特徴(長沼店オープンの2020年当時の売場)

今後のシナジー追求における注目ポイント

ただし、商品面についてはそれぞれの展開店、あるいは展開地域で親しまれていることもある他、帳合などの違いもあり、すぐに相互活用ということにはならない。

また、今回の買収に当たっては、西友の店舗ブランド、フォーマットは維持されることも強調された。その上で、トライアルのノウハウを導入していくとする。両社の店舗では実際のところ、決済の方法に加え、例えば西友では楽天ポイントを導入しているなど、異なる点が多いが、当面は現状のものが維持される見込み。

リテールテックなどの導入は、両社の経営陣を中心に話し合いを進めながら、できるところから順次行われていくことになる。また、西友の経営陣の維持される他、最終的に合併する予定もいまのところないという。

両社がモデルとしていたウォルマートも含め、日本の小売業者が長らくモデルとしてきたアメリカの状況を見ると、ウォルマートが主力とする衣食住フルラインのスーパーセンターやディスカウントストアを始め、ホームセンターやドラッグストアなど比較的非食品が主力となる業態に関しては店舗ブランドを含めたナショナルチェーンが成立しているように見える。

一方で、食品主力のSMに関しては、クローガーやアルバートソンズなど、企業体としてナショナルチェーンであっても店舗ブランドは買収した企業のものを残しているケースが多い。また、フロリダ州のパブリクスやテキサス州のH-E-Bなど、地域シェアが高く、強いローカルチェーンが存在している。

こうした状況を見ると、今回、店舗バナーを存続させ、さらに商品、その他施策についても、まだ、「何も決まっていない」側面はあるものの、当面、従前のものを踏襲するという方針は、極めて「SM的」であると判断できる。実際、前述のとおり、両社とも食品の売上高構成比が8割前後に達する。

その意味では、今後、両社の店舗、特に西友の店舗がどのように変わっていくかは大きな注目点であると同時に、店舗ブランドの変化、グループ経営体制についても関心が寄せられるところである。

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