イオンリテール古澤康之新社長が語る「新しい総合」が意味するもの

2025.03.25

2025.03.24

イオンリテールの社長にイオン執行役ベトナム担当兼イオンベトナム取締役社長を務めていた古澤康之氏が3月1日付で就任した。イオン執行役GMS担当も兼務する。直近のイオンベトナムの他、11年ほど前の2014年5月から北京イオン社長も務めるなど国際派であると同時に、18年からまいばすけっと社長を務めるなど、まさに大、小さまざまな店舗を展開する組織を率いた経験を持つ。今回、そよら入曽駅前のグランドオープンに際し、記者会見に臨み、イオンリテールやGMS(総合スーパー)に対する考えなども含め報道陣の質問に答えた。

古澤康之・イオンリテール社長

①若くて、高成長のベトナムから高齢化、低成長の日本へ

先月まで(社長として)イオンベトナムにいたが、3月1日、イオンリテールの社長に就任した。平均年齢が33歳、経済成長も6%、7%成長しているベトナムから戻ってきたわけで、そういう意味では、マーケットの違いは正直、感じる部分はある。

ただ、当然、日本の方が店舗も多く、競争環境が激しいというところはあるが、ベトナムでもやはり、「節約志向」といったものは、実は日本と同じようにある。教育のコストや通信のコスト、電気代など、いろいろ上がっていて消費生活に影響が出てきているからだ。

その中で何に注目してきたかというと、「いま、必要とされているもの」「いまのトレンド」などを先んじて作り、実際、お客さまに提供していくこと。こういったことにものすごく力を割いてきた。

これは日本でも同じなんだろうと思っている。当然、市場は違うが、(日本のお客が)「こういうものがいいな」「こういうものがもっと身近に欲しいな」と思うものが必ずあるはず。これを見つけていくマーケティングの力をしっかり持ちながら、それを実際に具現化していく力が重要になる。

もちろん、海外の良いところはたくさんあって、われわれももっと勉強できるのではないかと感じるところもある。そこは真摯にいろいろなものを、とにかく新しく、しっかり提供していく。それぞれは小さい提案であるかもしれないが、それが数多くあれば大きな魅力になってくる。大きなものをマスにご提案することももちろん大切だが、一方では小さなニーズに対して、小さな成功をしっかり積み上げていくことをしていかないといけない。

お客さまに代わって、お客さまが求めることを確実に提供する、「消費者代位機能」の姿勢は、間違いなく変えてはいけないし、そこの中で私たちが先駆者でなければいけない。ただ、そのアイデアはいろんな人たち、約7万人いる従業員の声やお客さまの声から始まっていくことも確かだ。

実際、私1人では何もできない。結果的にはお客さまに一番近い従業員に力を発揮していただくのが全てだと思っている。まずは1つは、従業員との会話を増やしたい。「何を考えているのか」「どういう風にお客さまから言われているのか」など、いろんなことを聞いて、経営などに生かしていくことをやっていきたいと思っているし、そういう会話ができてくると、自然といろんな挑戦みたいなものが出てくるのではないか。7万人がみんなこちらを向いたら、ものすごい力になると思う。

そういう雰囲気というか、仕組みというか、態勢というか、こういったものを会社として、しっかり作っていきたいし、そういう風に全体的に持っていけたらと思う。いまはやはり、いろいろなことにマイクロに(細かく)対処しないとできない世の中。まさに従業員みんながやってくれないと勝てない。

本部でしっかりまとめて方針を決めるところは決める、一方で自由と裁量でしっかりと現場で判断しながら店長などを軸にしてやっていく、経営としてはこういうところを分かりやすくしていきたいと思う。

②そよらなど小商圏型の出店が続く中、大型のGMSに対するスタンス

新規出店はそよらなど、少し小さいタイプのお店が増えているのが現実かもしれないが、私たちにはいろいろなスタイルがある。最近、増えているのがS&B(スクラップ&ビルド)、あるいは改装における既存資産のリニューアルになっている。

もともとマイカル、ダイエーなどいろいろな仲間が増えてきて、私たちにはいろんな資産があるわけだが、ここをしっかり最大活用していくことは大きな使命であると思っている。

もちろん、新規出店をやめるわけではないし、積極的に続けていくし、チャンスがあればどんどん取り組んでいく姿勢は全く変わっていないのだが、もう1軸の柱として既存資産の中身を変えていって、資産を有効活用していくことがある。

3層だったり、4層だったり、古い建物だったり、千差万別、いろんなものがあるので、(今回のそよら入曽駅前のような)新しい店で作った新しいフォーマット、コンテンツをしっかり組み込んでいきながら、いまの(イオンのGMS事業全体の)約1000店舗を大きく活性化していく。そのように2軸で動いているということだ。

資産価値を上げていく観点からすれば、テナントさまとしっかり協力していかなければいけないと思っているし、私たちができるところ、テナントさまが得意なところを組み合わせながら、要は「館としての価値を最大化していく」ということに関して、いままで以上に力を入れていく。

(テナントからの収入があるが、)そうはいっても、本業(小売業)でしっかり利益が出る体質にしていかなければならないというのが基本的なスタンス。確かに(テナント収入で)補うということもあろうと思うが、基本は小売業でしっかりやっていくということを進めている。

(GMSとして課題である)衣料、住居余暇については、試行錯誤がこの数年、繰り返されてきた。取り組みをいろいろ改善してきたと思うし、ベトナムとは状況も違うんだろうなと思う。1個取り組んで、改善点が見つかり、次の改装でまた変えて、というところをとにかく繰り返してやっているので、その意味では、その成果が出てきているのではないかなと感じている。

衣料については、商品の中身は非常に素晴らしくて、いろいろなテーマがあるが、やはり、もう少しお客さまに対して、その商品の良さであったり、ショップのブランディングであったり、いろいろなものをお客さまにもうちょっとしっかり伝わるようにしなければいけない。これから改善をして、とにかくたくさんのお客さまに試していただきたいと思う。

住居余暇については、いままさに新しいホームファッション、雑貨の売場をつくっている。これもトライ&エラー。ここは私たちにとっても新しい挑戦ではある。こういう新しい挑戦がどんどんできる風土になっていて、そこに対して「もっと突き詰めよう」「考えよう」というスタッフがそろってきて、そして実際にその売場が変わってきているという現実は大事にしたいと思っている。もっといろいろ話しながら改善していきたいと思う。

数字面では、食品の比率が上がってきていることは事実だが、一方で、食品を中心とした店舗が増えていることも事実。衣料と住居余暇のところを決して落とすつもりもなく、しっかり取っていきたい。

一方で、最近、上がってきているのはH&BC(ヘルス&ビューティケア)。若い人たちに向けたコスメから、一方では必需品となるお薬まで、しっかり大きくカバーしながらコンテンツごとにかなり改革を進めている。

H&BCは若年層の取り込みにおいても重要な分野となる

ベトナムではお取引先さまの数も限られていたし、なかなか現地で作れる商品も限界があって、厳しいところはたくさんあった。そういう意味では日本はいろいろなお取引先さまとコラボレーションするなど、すごく可能性がある、もっとできるという印象を持っている。

(食品に関して、)トップバリュについても構成比を上げていく。最近、だいぶ種類も増えていることもあるが、味も非常に評価をいただいている。お客さまにも分かっていただけて、だいぶ浸透してきたんじゃないかなと思う。

これも、お客さまにしっかり伝えて、ご理解いただいて、1回試していただいて、ということによって自動的に上がっていくところがあると思うし、私たちも積極的にアピールしていきたいし、売り込んでいきたいと思う。

③そよらのフォーマットとしての可能性と「新しい総合」

そよらのような、「コミュニティ」として集まれるようなフォーマットは、海外にもあまりなく、日本にもこれまであまりなかったと認識している。「通う」「集う」、そして「つながる場」をコンセプトとして、人口が集まる都市の生活圏に寄り添う存在として、これからますますそのニーズが高まるフォーマットであると認識している。

都市圏、住宅街でも高齢化が進んでいる日本の現状を見ると、そよらに非常に大きな可能性を感じている。やはり、ワンストップで、本当に日常に必要な商品がしっかり買えるということがまず1つ。また、通路を広く取っているが、こういった買物の環境、とにかくゆっくり買える、こういったところは非常に重要だと思っている。

また、そよらの1つの特徴として時間消費、コト消費といったところも挙げられると思うが、この組み合わせが重要になる。時間をゆったり過ごしていただきながら、場合によってはレストランで食事をしていただきながら、なおかつ便利に買える、このセットだ。

もちろん、1人で買うもよし、ご家族、ご友人といっしょに来られて、話しながら楽しんでいただくもよし。こういう便利なワンストップの空間はまだまだ、チャンスがあると思っている。こういう業態は今後、間違いなく増えていくと思うし、可能性があるのではないかと思っている。

私たちは「新しい総合」を目指しているが、こういう(今回のそよらのような取り組みの)中で、(店舗ごとに要素を組み合わせることで)商圏の皆さまのニーズにお応えするというところを1つ1つ、確実に進めていきたいと思う。

衣料、住居余暇の強化策は続けつつ、そよらのような形で商圏のニーズに応える要素を組み合わせることも「新しい総合」の1つの形であるとする

基本的に前任の井出(武美)前社長がしっかり改革を進められてきて、大きく成果を出していただいているものと思っている。進められてきた「新しい総合」という考え方については、私もその通りだと思っているし、基本的には考え方をそのまましっかり進めていこうと思っている。

一方で、やはり、これから大事なことは新しいお客さまを取っていくこと。つまり、団塊の世代のお客さま、「マス」と呼ばれる世代にはしっかり力を入れてしっかりやってきたが、これからは、その次に来る若いお客さまもしっかり取りにいかなければならない。そのニーズはいままでのものとは大きく違っていく。

こういったところに対して、しっかりニーズを捉えてやっていく必要がある。そのために、従来どおり続けるべきもの、やめるべきもの、変えるべきものといったことを含めて、しっかりカテゴリーごとに見分けながら、整理をしていく必要があると思っている。

若い人に向けたH&BCの商品もあるし、住居余暇でも新しい取り組みもある。若いお客さまがイオンで、「いままでと全然違うな。いいな」と思っていただけるように、食品だけでなく、衣食住、H&BCの、私たちが扱える商品全てにおいて、新しい組み合わせ、新しい品揃えによってニーズに応えていく。こういったところをしっかりやっていきたいと思う。

いろんな形での実験が今後、ひょっとしたら出てくるかもしれない。トライ&エラーをしながらになるかもしれないが、いろいろと挑戦していきたいと思っている。

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