デジタルツインとは? 概要や活用が広がる理由、メリットなどを事例を交えて解説

2022.10.28

2022.02.24

IT技術の進歩によって、現実を仮想空間で実現できる「デジタルツイン」の技術が誕生した。デジタルツインはシミュレーションによる予測をはじめ多くの活用方法があり、日本の製造業の将来を担う技術と言っても過言ではないだろう。

この記事では、デジタルツインの概要やメリット、日本国内における具体的な活用事例を解説する。

デジタルツインの概要や重要性、活用される技術を解説

デジタルツインの概要やデジタルツインが注目される背景にある重要性、デジタルツインの活用段階や用いられている技術について解説する。

デジタルツインとは

デジタルツイン(digital twin)とは、物質空間(リアル空間)にある情報をデータとして収集し、仮想空間(ヴァーチャル空間)で収集したデータを元に物質空間を再現する技術を指す。現実の世界をヴァーチャルの世界にコピーする、鏡映しにするという感覚から「デジタルの双子」と名付けられた。

仮想空間において物質空間を再現することで、物質空間ではリスクを伴うシミュレーションも可能となった。製品開発から将来における故障や不具合の予測までできるため、デジタルツインは特に製造業において注目されている技術だ。

デジタルツインの重要性

デジタルツインが注目されるようになった背景にあるのが、IT技術の発展とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進だ。

IT技術の中でも、IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)が発展したことで、物質空間における多大なデータの収集を容易に行えるようになった。

物質空間の情報収集と入力は人の手でもある程度は可能だが、現実的に考えてすべてのデータを仮想空間へ手作業で置き換えるのは難しい。IoTとAIはデータの収集を容易にし、さらに未来へのシミュレーションも可能とした。

製造業において、DXが推進されている。DXとは、デジタル技術を活用して業務の効率化、さらに企業風土や制度、社会の改新を目的とした取り組みを指す。世界市場で生き残るために、各国でDXが推進されている。

企業がDXを成功させるには、収集したデータの効果的な活用が必須となる。デジタルツインは、収集したデータの活用方法としての適性があるため、DX実現の点でも重要視されている技術だ。

デジタルツインの活用段階

製造業におけるデジタルツインの活用段階は、以下の3段階があるとされている。

1.設計

2.製造

3.サービス

部品や製品の設計段階におけるデジタルツインの活用は、すでに始まっている。たとえばCAD(コンピュータによる設計)やCAE(コンピュータによる製品設計・製造)によって仮想空間に設計を行い、3Dデータを元に仮想空間でモックアップモデルの作成やモデルの確認を行うなどの事例がある。

製造段階におけるデジタルツインの活用は、ごく一部の先進的な製造業の企業が導入している。物質空間にある工場や製造ラインなどをすべてデータ化し、仮想空間に再現することで、製造プロセスの改善や設備や機器の保全などに役立てている

最終段階のサービスにおいてのデジタルツインは、製造業がただ製品を製造するだけでなく、顧客が製品を手にすることで得られる顧客体験を最大化するために活用される。

今後は顧客体験の価値を高めるためのサービス提供や、複数企業同士で新しい付加価値のイノベーションを生むためにもデジタルツインが活用されるだろう。

デジタルツインで活用される技術

デジタルツインが技術として確立した背景には、他のIT技術の推進がある。今後デジタルツインの導入を検討するなら、覚えておくべきデジタルツインを支える技術は以下の通りだ。

IoT

AI

5G

AR、VR

IoT(Internet of Things)とは、あらゆるものをインターネットに接続する技術を指す。デジタルツインにおいて仮想空間で実現する物質空間のデータを収集するにはIoTが不可欠となる。

AIはIoTによって収集した膨大なデータを効率的、かつ高精度で分析できる技術だ。仮想空間で再現した膨大な物質空間のデータを正確に分析することで、より正確な未来予測が可能となる。

5Gは大容量のデータを超高速、超低遅延で送受信できる通信技術だ。日本では2020年春より商用化がスタートしている。5Gをデジタルツインに取り入れると、リアルタイムで物質空間から仮想空間への再現が可能になる。

ARやVRは、仮想空間でデータを視覚化するために必要な技術だ。特に製造業においてデジタルツインは仮想空間での製品設計やリスク予測を行うため、よりリアルな状況の再現が求められる。ARやVRの技術が発展すればするほど、より正確かつリアルに近い事象の再現も可能となるだろう。

デジタルツインのメリット

デジタルツインを導入することで、さまざまな面で多くの効果が期待できる。デジタルツインがもたらすメリットを解説する。

リアルタイムでの設備保全

製造業において設備や機器の故障や不具合が生じると、重大な産業事故や損失につながる可能性がある。デジタルツインを活用することで、設備保全へリアルタイムに対応し、スピーディな改善や解決につなげられると期待されている

たとえば製造ラインで何らかのエラーが発生した場合、デジタルツインと連動していればエラーに対してリアルタイムに分析が行われ、原因の特定やエラーへの対処がスピーディに行われる。

エラーが発生すると原因の特定だけでも多くの時間がかかるが、デジタルツインによって対処への時間を大幅にカットできる。損害を防いだり最小限に抑えたりすることも可能だ。

試作の繰り返しによる品質改善

製造業では、実際に製品を手にした顧客の声やアンケートなどを参考に製品の改善が行われることがある。製品の品質改善においてデジタルツインを活用すれば、商品の試作や試験を仮想空間で繰り返し行えるのもメリットだ。

低リスクでの製品開発

品質改善の他、新製品の開発における試作でもデジタルツインは活用できる。仮想空間で製品の試作を繰り返しできることに加えて、新製品の製造で稼働させる製造ラインの予測もデジタルツインでは可能だ。

新製品開発では、プロトタイプまで試作が進んでも製造ライン上で問題が発生して材料や工数を無駄にしてしまうことがある。デジタルツインでは、試作だけでなく製造段階での再現もできるため、新製品開発のリスク低下にも役立つだろう

業務効率化による工期短縮

デジタルツインは、製品開発や改善の他にも、調達、製造ラインや工程の改善にも活用できる。デジタルツインによって仮想空間に工場を再現することで、調達段階は製造ラインや工程での改善点も洗い出しができる。業務効率化や改善によって、製品の工期を短縮することにもつながるだろう。

資材や人材の最適化

製造業において、資材や人材が不足すると製造がストップしてしまう。逆に資材や人材が過多になると管理業務が煩雑になる、コストがかかるなどのリスクが発生する。デジタルツインによって仮想空間に製造ラインを再現すると、最適な資材や人材の配置も把握可能だ。資材や人材を最適化することで、業務効率化やコストカットなど多くの面でメリットが得られるだろう。

価値のある顧客体験の提供

製造業での設計と製造、さらにサービスの段階までデジタルツインの活用が見込まれている。デジタルツインによって、製品を実際に手にした顧客の体験予測も可能だ。

たとえば製品の部品消耗の予測期間をデジタルツインによって予測し、該当する時期になると部品を無償で交換するなどのアフターサービスの提供に活用可能だ。製造業において、ただ製品を製造するだけでなく、その先の可能性もデジタルツインによって実現できると期待されている。

デジタルツインの活用事例

デジタルツインは製造業をはじめ、いろいろなシーンで活用されている。デジタルツインの活用事例を紹介。

富士通テレコムネットワークス「インテリジェントダッシュボード」

富士通では、デジタルツインによって仮想空間に可視化した工場の俯瞰や、電力消費量、コンディションデータの監視が可能な「インテリジェントダッシュボード」の技術を開発した。インテリジェントダッシュボードは、同社の小山工場に採用している。

約150項目の製造データを一元的に可視化し、生産や品質の情報、エネルギーの監視を行っている。製造工程で異常が発生した場合も詳細まで情報を掘り下げて対応可能だ。デジタルツインを第二段階の「製造」レベルで取り入れている国内の製造業の事例と言える。

なお富士通は中国のカラー・フィルターメーカーである「上海儀電」のパートナーとして、同社のスマート製造プロジェクトも支援。上海儀電のすべての工場や建屋、機器のデジタルツインでの仮想空間での再現を実現している。

富士通・オムロンソーシアルソリューションズ「未来の駅」

富士通とオムロンソーシアルソリューションズの共創プロジェクト「未来の駅」では、仮想空間に再現した未来の駅と、物質世界の駅構内管理システムと遠隔管理制御システムを接続する構想を出している。

仮想空間で駅構内や設備を監視し、物質空間で異常が発生した場合には故障個所や原因をリアルタイムで、スピーディに把握できる仕組みだ。

原因を特定するだけでなく、過去のメンテナンス頻度、エラーの発生回数、センサーの感度なども可視化し、さらに詳細を把握できる「スマートメンテナンス」の導入も見込まれている。

ロボコム・アンド・エフエイコム「デジタルファクトリー」

大型精密部品加工やロボットパッケージ製造販売、3Dプリンタによる受注造形サービスなどを手掛けるロボコム・アンド・エフエイコムでは、福島県南相馬市に24時間稼働する「デジタルファクトリー」を設置。

工場の自動加工ラインと、デジタルツインによる仮想生産ラインを連動させている。仮想生産ラインでシミュレーションを行い、自動加工ラインにシミュレーション結果を反映させることで、工場全体の最適化を実現させた。

少人数、省エネルギーの実現により、工場は24時間稼働が可能だ。今後は南相馬市復興工業団地内の各工場と連携し、「スマート工場団地」として南相馬市を日本の技術発展の一大拠点とすることを目指している。

鹿島建設「BIMによるデジタルツイン」

鹿島建設では、企画、設計から竣工後の維持管理、運営まで建物情報を一貫してデジタル化するために、BIMの活用を積極的に推進している。

BIMによるデジタルツインでは、新築工事における企画・設計、施工、維持管理の各フェーズでBIMデータを活用し、モジュールや工事プロセス、建物情報を可視化。仮想空間でシミュレーションを行い評価、改善、進捗管理を行っている。BIMデータを建物管理システムのプラットフォームと連携することで、維持管理フェーズでもデジタルツインを活用している。

コマツ「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」

コマツでは、IoTとアプリケーションで施工全工程をデジタルでつなぎ、実際の現場とデジタルツインで再現したデジタルの現場を同期させ、施工の最適化を行う「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」を行っている。

デジタルの現場による「デジタル施工」は、リアルタイムでの施工状況の確認や未来予測、事故リスク予測などが可能。将来的には複数の施工現場を遠隔でつなぎ、リアルタイムで管理することを目指している。

東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」

東京都では、2030年までに東京都のデジタルツイン化を目指している。デジタルツインを実現することで、リアルタイムデータの収集と分析、物質空間へのフィードバックを行うことで、少子高齢化、災害、人流や物流の変化などのさまざまな課題の解決と都民のQOL向上に役立てる。

なお、同プロジェクト公式サイトにて東京都デジタルツイン3Dデータのβ版がすでに公開されている。

デジタルツインは多くの分野で活用が期待される技術

デジタルツインの概要やメリット、活用事例を紹介した。近年のIT技術の発展とDXの推進により、特にデジタルツインは製造業での導入が多く見込まれる技術だ。ただし製造業だけでなく建設業、行政にもデジタルツインの活用事例はある。

デジタルツインの活用用途も、未来予測によるシミュレーションなどの設計や製造段階だけでなく、顧客体験の提供によるサービス分野への発展も見込まれている。今後は小売業や流通業など、多様な業種や分野へのデジタルツイン活用が期待されるだろう。

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