イトーヨーカ堂が惣菜を「YORK DELI(ヨーク・デリ)」としてブランディング統一、コンセプトは『「毎日食べたい」おいしさ。』
2024.05.29
イトーヨーカ堂が惣菜にブランドを付け、統一したコンセプトの下での訴求力向上に取り組む。今回、『「毎日食べたい」おいしさ。』をコンセプトとする新たな惣菜ブランドとして「YORK DELI(ヨーク・デリ)」を立ち上げ、同社イトーヨーカドー、旧ヨークの店での展開を開始した。

セブン&アイグループの戦略と連動する形で、同社も「食」にフォーカスした成長戦略を推進する中、店舗網の首都圏集中を図ると共に2023年9月にはヨークと合併し、首都圏でのシナジー追求を強化する他、衣料品事業からの撤退を表明するなど、昨今、ドラスティックな改革を実施してきた。
一方で特に注力する惣菜強化の一環として、グループ企業のPeace Deliを通じて2023年3月にプロセスセンター(PC)の「Peace Deli流山キッチン」(千葉県流山市)、24年2月にはPCとセントラルキッチン(CK)の機能を持つ「Peace Deli千葉キッチン」(千葉市緑区)の稼働を開始するなど、インフラ整備と併せ機能の強化を図ってきた。


今回のヨーク・デリの立ち上げは、それに続く具体的なアクションとなる。もともと従来の惣菜売場は複数のブランド展開であったこともあり、同社としても販促物や容器などが統一されていないこともから商品の価値が十分に伝わっていない点を課題と捉えていた。
そこで、セブン&アイグループのプライベートブランド(PB)のブランディングを手掛けるクリエイティブディレクター佐藤可士和氏に監修を依頼し、ロゴ、容器、販促物などを統一し、商品の価値が伝わりやすい売場への刷新を目指した。

目次
「ヨーク・デリ」として「オリジナル比率100%」で他社と差別化を図る
5月22日の説明会でイトーヨーカ堂の山本哲也社長は、改めて昨年の3月9日に発表された首都圏のスーパーストア事業の変革に向けた抜本的施策の5つの柱を挙げながら、そのうちの3つの柱が今回の惣菜強化に関連しているとした。
1つ目は「アパレル事業完全撤退」に伴う「食」へのフォーカス。グループのコア事業が「食」であることを明確にした上で、そこに対する経営資源の集中がその内容になる。
次いで、3つ目の「首都圏事業の統合再編」ということで、ヨークとの合併も含むスーパーストア事業の統合再編。
そして、4つ目の「戦略投資インフラの活用」ということで、PC、CKを自前の事業とするためのPeace Deliの立ち上げ。PC、CKを稼働させることによって、その戦略に拍車をかけていく。
抜本的変革のロードマップのための具体的なKPI(重要業績評価指標)として、デリカ事業については、食品内での売上高構成比を現在の13%から25年度には15%まで上げていく方針を明確にしている。背景には、「食の中でも惣菜には特にチャンスがある」(山本社長)との認識がある。
Peace Deliのインフラ整備も、いわばそのためのもので、すでに従来の店内製造にアウトパックを組み合わせて強化ができる態勢が工場の稼働によって一定程度、できつつある状況にある。
その上で、イトーヨーカ堂としての提供価値を「価格と品質の両バランスに対する消費者視点の評価」として、縦軸に「コストパフォーマンス」、横軸に「品質/品揃え」を置いたマトリクス図の中で明確化していく。
現在自己評価にある両方とも評価が低い「左下」のポジションから、高評価の「右上」のポジションに持っていくのが25年度以降の目指す姿になる。
もちろん、全てのカテゴリーを右上に持っていくわけではなく、カテゴリーごとにポジショニングを定めて進めていくことになる。惣菜については、特に横軸を重視、品質/品揃えを充実させると同時に、25年度にオリジナル比率100%を目標としながら圧倒的な差別化をしていく意向。
23年の外部調査では「惣菜でお店を選ぶ」というお客が40%に上ったこともあり、イトーヨーカ堂としても「選ばれる店」になることを目指すという。具体的には、品質と品揃えによる①商品力の強化、グループで整備を進めてきた②共通インフラの活用、そして、食品カテゴリー内、あるいは店舗全体の改装を通じた売場面積の拡大による③ゾーニングの拡大の3つに注力していく。今後、62店の改装を計画しているという。
一方で、「大切なのは、それをお客さまにどう認知していただくか」(山本社長)ということで、今回、複数ブランドが乱立している状態から一本化し、「ヨーク・デリ」のブランドの下、「イトーヨーカ堂の惣菜」を認知してもらう目的でブランディングが図られることになった。
「もちろん、ポイントになるのは、他社がまねできない絶対的な味を追求していくこと。これをわれわれとしての大きな差別化にしていく」(山本社長)
「オリジナル比率100%」は、Peace Deliのみで実現するわけではなく、他の取引先による仕様を指定しての商品調達も活用する。Peace Deliからの納品比率は25年度、惣菜の売上げの20%を目標とし、当面は30%を目指すとしている。
ヨーク・デリのアイテム数はスタート当初は250アイテム超となっている。うちPeace Deliの商品は35アイテム。これを近々にヨーク・デリ商品300アイテム、Peace Deliの商品については50アイテム超にしていきたいとしている。Peace Deliについては25年度計画で、70アイテムを製造予定となっている。
原点に立ち返る「ハトのマーク」、実現するのは「食べ飽きない味」
ヨーク・デリのブランドコンセプトは『「毎日食べたい」おいしさ。』と定めた。山本社長は、この『「毎日食べたい」おいしさ。』を「いわゆる食べ飽きない味」と言い替えた上で、それを実現するためにだし、素材、工法にこだわるとした。
「毎日」「飽きない」という要素は、 決して「ハレ」ではない、「ケ」の日常の食として多くの人に、頻度高く食べてもらうためには必須の要素といえ、チェーンストア経営においても狙うべき「マス」の部分になる。
その意味でいえば、今回、同社が「毎日食べたい」という表現をコンセプトに入れたことは方向性としては妥当性が高いといえる。
ロゴにはイトーヨーカ堂、またそのグループ企業が伝統的に用いてきた「鳩(ハト)」のマークを生かした。もともとこのマークには「お客様に幸せを運び、未来に羽ばたく純白の鳩」「平和への思い」があり、それを踏襲している。

また、ロゴ自体が白抜きの形となっていることから、商品に貼付したときに色とりどりの商品自体が背景として生きる仕様になっていることも特徴。同社としては、この「白」が持つ意味として「誠実」「潔癖・純粋・正直・素直」「真面目であり続ける」という点を挙げる。ヨーク・デリが商品展開において、こうした要素を重視していくという意志の表れといえるだろう。

「お客さまに対してこのロゴを使うということは、お客さまを裏切ることができないことを意味する。それだけの思いと覚悟を持って、このブランドを育て上げたい」(山本社長)

また、ヨーク・デリの「ヨーク(YORK)」については、まず、イトーヨーカ堂が初めて衣料品のPBを発売した際のブランド名が「YORK」だったこと、また、もちろん、イトーヨーカドー、ヨークマート、ヨークフーズといった店名を連想するということもある。
伊藤弘雅・取締役執行役員商品本部長は、「この創業の原点にいまこそ立ち返って、良い商品、お客さまに支持される商品をつくっていきたいという思いを込めている」と語る。「デリ(DELI)」については、惣菜を意味する「デリカテッセン」はもちろん、デリシャス、デリバリーの意味も込められている。
また、関連してブランドコンセプトを説明するブランドステートメントは、次のようなものになる。「『YORK DELI(ヨーク・デリ)』のコンセプトは『「毎日食べたい」おいしさ。』新鮮で良質な素材を活かした季節のメニューや定番の逸品で、心にも体にもやさしい『「毎日食べたい」おいしさ。』を、まごごろこめてお届けします。」
伊藤本部長は、このブランドステートメントを「お客さまとのお約束」とし、その意味するところを説明する。
『「毎日食べたい」おいしさ。』ということで、メニューとしては奇をてらったものではなく、毎日食卓に上るような定番のメニュー、また、季節や旬を取り入れた季節のメニューを想定。加えて、「心にも体にもやさしい」については、「心」の部分では単に「おいしい」だけではない「楽しさ」、また、「体」の部分では添加物を極力減らすことを目指す。
また、最後の一行「まごころこめてお届けします。」の「まごころこめて」は、店内加工を強みとする中で、「毎日、お店のメンバーが本当に気持ちを込めて作っている」(伊藤本部長)ことを表しているとした。

「弁当」に焦点を当て、弁当用のご飯の品質を追求
もちろん、ブランドだけではなく、商品のさらなる品質向上を図るため、さまざまな策を打つ。弁当の「米」や寿司の「酢」など素材の変更にも踏み切り、味付けのこだわりの強化も図った。
米に関してはあえて「弁当用」に焦点を当て、「八代目儀兵衛」の監修による甘みと粒感にこだわったブレンド米を採用。セブン-イレブン・ジャパンのおにぎりと同じ、「八代目儀兵衛」の監修を仰ぎ、精米、ブレンド、炊飯にこだわることで甘味と粒感を追求。独自の「お弁当米」に仕上げたとしている。
ふわっとした口当たりと、もっちりとした甘さが噛むたびに感じられるという。また、作り置きが前提となる弁当用として、冷めてもしっかりと甘さが残るように仕上げた。「お弁当の中心は、おかずのようで、実はご飯だと思っている」(伊藤本部長)
米を厳選した上で甘さを引き出しつつ、弁当に合うようにブレンドし、精米では米に負担をかけずに甘さを引き出すために低温精米を実施。さらに炊飯は店内で行うこととした上で、粒感が感じられる炊き上がりになるように調整した。
八代目儀兵衛は、23年3月からセブン-イレブン・ジャパンのおにぎりのご飯を監修しているが、5月下旬からはセブン-イレブン一部店舗での弁当のご飯の監修も実施している。
米のブレンドは、品種と産地の異なる米を3つ程度ブレンド。また、精米過程では熱がかかることで品質が落ちるため、低温精米とすることでダメージを減らすようにしている。「これを大量にやるのは実はすごく大変」(伊藤本部長)
そして、それを「炊く」工程を担う店では専用の機械を用い、水の温度、量、浸漬させる時間などにこだわり、冷めても米の甘味が出るような設定としている。さらに、このこだわりをきちんとお客に伝えることが大事であると考え、弁当に貼るシール、あるいは売場でのPOPを通じてしっかりと伝えていく。


また、寿司についてもご飯、つまり寿司飯を重視し、「酢」にこだわった。たねのおいしさを引き立てるために甘味を抑え、風味と酸味を効かせたオリジナルの配合の酢を商品ごとに使用していくという。

現在、イトーヨーカドーでは5種の原酢から酸味とうま味のバランスを追求した酢、旧ヨークの店では赤酢と昆布だしで素材の味を引き出すようにした酢をオリジナルで作るなど、それぞれ異なった酢を採用しているが、これを進化させるための取り組みが進行中だという。
「ふわっと感」にこだわった卵焼きは、専用機を導入
また、唐揚げや豚カツなど主力商品を抱える温惣菜については店内料理にこだわった上で商品ごと、素材はもちろん、設備、調理方法にもこだわる。「設備はやはり、お店の生産性を上げる部分、おいしさを均質に作っていく部分、これらの意味で最適な設備を今回のために入れた」(伊藤本部長)。
例えば、鉄板で1つずつ丁寧に焼き上げることで、ふんわりとしたやわらかい食感にこだわり、イトーヨーカドー、ヨークの約100店で販売する「だし巻き玉子」。
イトーヨーカ堂として産地と契約をして長らく販売しているオリジナルの卵を用いつつ、あくまで店内で作ることにこだわっている。「お店で作るのと工場で作るので何が違うかというと、前日に作って工場で冷やし込んでしまうと卵焼きのふわっと感がなくなってしまう。いわゆる締まってしまって固くなってしまう。店内で作ると、ふわっとした卵焼きができる。これが大事だと思っている」(伊藤本部長)
さらに今回、卵焼きを主力商品と捉え、設備投資にも踏み込んだ。これまでは鉄板を使って製造していたが、それだと1本当たり製造に3分かかる。これを今回、機械メーカーと組むことでより速く、均質に、大量に作れる卵焼き専用機を導入することで、2本同時に製造でき、かつ2分30秒で作れるようにした。つまり、生産性を2倍以上に高めた。


卵焼きについては単品で販売するだけでなく、弁当にも使うことで活用度を高めていく。現在でも卵焼きは定番アイテムとして、他の商品に比べても40代、50代の子育てファミリー層のお客から大きな支持を得ているといい、今回の設備投資を通じてさらなる支持の拡大に努めていきたいとしている。こうした改善のための設備については随時、現場に投入していく意向だ。






また、メニューでは店と一緒に「地域の味」の掘り起こしながらメニュー開発をしていく。地元のお客はもちろん、パートタイマーなどの従業員と共に地域の味、地域のメニューを惣菜に生かしていく取り組みを実施。
例えば、大森店(東京・大田)では店舗がある東京都大田区の学校給食で人気を博している、たこ焼きをアレンジして約30年前に開発された独自メニューの「たこぺったん」を商品化。こうしたメニューを発掘し、その地域で展開し、さらに他地域にも広げていく取り組みをしていくとしている。


一方、冷蔵ケースで販売されるサラダや煮物を中心とした冷惣菜ではPeace Deli千葉キッチンからの供給を中心的に生かす。
コロッケ、ポテトサラダ、肉ジャガなどベーシックアイテムに使われるなど大量に使用するジャガ芋については産地契約しつつ、その時季においしい品種、産地を選ぶなど素材へのこだわりはもちろん、基礎調味料などについても大事にし、添加物をできるだけ使わないことを目指す。
ポテトサラダについてはPeace Deliからの調達にすることで、結果としてグループ内での製販一体が実現し、原材料の調達含め荒利益はこれまでと比べても格段に上がるという。




だしについては毎日朝5時から釜で炊いて取り、それを活用した商品の製造に展開していくが、このPeace Deli千葉キッチン内で、自前で取るだしが非常に好評だという。このだしを使った冷惣菜などは直近110~120%増の売上推移となっているなど、手応えを得ている模様だ。


イトーヨーカ堂ではPeace Deliの活用に際し、工場から売場まで、惣菜の製販一体を築いているヨークベニマルからレシピや生産ラインの組み方なども含め、相当程度アドバイスを受けている。一方で、運営については、実際には製販一体の運営体制を築くのは、数値の追い方など、かなりの困難を伴うという。
例えば工場、売場、それぞれが利益を追求し、部分最適に陥ってしまうといった問題が起こり得る。しかも、イトーヨーカ堂の場合、Peace Deliが別会社ということもあって、そうした組織縦割りの問題が起こり得る環境にあるともいえる。
もちろん、同社としてもそうした問題を意識し、「ヨークベニマルからも、そこをしっかりやらないと工場の稼働が上っていかないと教えていただいている。会社が分かれてしまっているが、中の態勢は製販一体でできるような組織と仕組み、基本的にはヨークベニマルと同じような態勢でできるようにしている」(伊藤本部長)
そのための一番のポイントは「数字の見え方」(伊藤本部長)、つまり、工場と売場が同じKPIを共有し、追求することにあるという。
そもそも、同じ会社であっても、製販一体の運営は困難が伴う。工場、売場、それぞれが利益を追求すると、場合によっては利益相反を起こすこともあり得るからだ。伊藤本部長が指摘する数値面はもちろんだが、さらにお互いの「信頼」といった細かな、繊細な問題なども非常に大きな要素となり得る。
また、もともと工場から売場まで一気通貫の運営をしていたヨークベニマルと異なり、イトーヨーカ堂の場合は、あくまで「取引先の1社」としてPeace Deliが位置付けられている。当面の目標はPeace Deli経由を30%にまで高めるということだが、それでも、これが100%のヨークベニマルとは大きな違いがある。
もっとも、多くの取引先を1つのコンセプトの下にまとめ上げる運営は、セブン-イレブン・ジャパンがチームマーチャンダイジング(MD)として得意とするところでもある。その意味では、Peace Deliと製販一体の運営を実現させながら、こうしたチームMD的な運営も駆使するという、いわばハイブリッドの態勢を追求することが、イトーヨーカ堂には求められている。
その上で、統一コンセプトとして「ヨーク・デリ」を磨き上げていくことができるか否かが問われる。「食」にフォーカスしたセブン&アイグループにとっても、イトーヨーカ堂の惣菜の重要性は高い。むしろ、コンビニの惣菜として完成度の高いセブン-イレブンにも波及するような、惣菜での新たなイノベーションを起こすことを期待したいところだ。