市場を広く俯瞰しつつ、専門店の在り方を追求する イオンリカー 吉澤研二社長
2026.03.10

衣食住の商品をフルライン、しかも低価格で販売することでその利便性を背景に高い売上を挙げ、瞬く間に小売業の覇者となった総合スーパー(GMS)。しかしながら時代の変遷と共に次第にその「総合」のうちの衣住に関してシェアを落とし、かつてGMSを主力としてきた企業は軒並み食品主力の企業の色彩を濃くしていった。
理由はさまざまであろうが、1つに取り扱う商品分野を絞り込んだ専門店の台頭を挙げる向きは多い。GMSを主力事業とするイオンリテールとしても、そうした背景を受けてGMSの売場の一部を専門店として育成することで競争力を高めると同時に、それら競争力の高い専門店を組み合わせることで「新たな総合」を構築することに取り組んでいる。
「酒」は食品の一部ではあるが、早い段階から専門店としての売場、さらに専門店フォーマットが追求され、その後、別会社として独立する道を歩んできた。それが現在のイオンリカーである。吉澤研二(よしざわ・けんじ)社長に「専門店としての」小売経営戦略、成長戦略を聞いた。
東京・目黒の碑文谷店で「強い」専門店フォーマットを追求
イオンリカーの源流は、もともとイオンリテールのGMSの酒売場がスピンオフしたことにさかのぼる。まずは売場が専門店化し、その後、リカー事業を引き継ぐ形で分社化することで独立性を高めてきた。
「イオンリカーの設立は2013年、大きく2つの目的があります。『日本の酒類市場にイノベーションを創出し、豊かな食文化をご提案することで社会に貢献する』ことを事業ビジョンとして、1つは『製造直販体制による収益、流通構造改革』。もう1つは「リカー売場の専門店化」です。その取り組みを通じて、イオンのリカー事業のさらなる成長を実現していくことを目標として、その実現のためにイオンリカーをリカー事業の中核企業として設立し、グループ各社への商品供給も行っていくということが成り立ち、歴史です。
イオングループには2006年にやまやとイオンが共同出資して設立したコルドンヴェールがありますが、同社は商品を直輸入する機能会社です。われわれはそのコルドンヴェールが直輸入した商品について、イオングループのスケールメリットを集めることで、イオンの利益に還元する仕組みを持っています。直輸入とスケールメリットを合わせることがわれわれの強みです」
屋号としての「イオンリカー」にはイオンリカーが運営する専門店としての路面店の他に、イオンリテールなど各GMS事業会社の売場内の酒売場がある。これらは、どのような運営体制になっているのか。
「事業会社は各社、リカーショップを運営しています。その中で、われわれは発足時からまず重点的にイオンリテールのリカーショップについて、とにかくリカーカテゴリーキラーとして専門店化をするというのがミッションになっています。
(GMS内の売場の)運営自体はイオンリテールなどがしているのですが、それに対して商品供給だけでなく、例えば接客の指導などを含めて、運営サポートをわれわれがやっています。ただ、中にはわれわれが直接運営しているお店もあります。昨年3月に碑文谷にオープンしたリカーショップ(東京・目黒、イオンスタイル碑文谷内のイオンリカー碑文谷店)がありますが、これはわれわれが直営店として運営しています。
碑文谷店以外は各事業会社が運営している状態です。大体、グループ各社全部合わせると120店舗ぐらいあります。これらは食品売場内の酒売場とは別に設けられている専門店としての売場ですが、食品売場内の酒売場についてもイオンリカーが卸もしますし、棚割りを作ったり、改廃などの支援もしたりしています」
事業会社が運営する店舗に対するサポートは、具体的にはどのようなものになるのか。
「例えば売場面積やアイテム数などはわれわれの方が決めていて、その展開のサポートをしています。もちろん、事業会社とはコミュニケーションを取りながらやっていまして、活性化計画などの場合、白図があってどこにどういう売場をつくるかというやり取りの中で、『この場所にこれぐらい』『ここはもう少しこういう売場にした方が良いのでは』といったやり取りをしています」
イオンリテールが展開するコーヒー豆と輸入食品専門店の「カフェランテ」と連動しているケースも多い。カフェランテは分社化はしていないが、どのような関係にあるのか。
「カフェランテについては、イオンリテールの中にカフェランテ事業部がありまして、そこが同社の営業部門とやり取りをしながら展開しています。イオンリカーとはもちろん、商品部間の調整はありますが、それは特別なものではなく、グロッサリーなど(イオンリテールの)他の部門といっしょです。カフェランテとイオンリカーで特別に連動を図っているわけではありません。専門店としてお互い切磋琢磨しながらやっているということです。
私はもともと(旧組織の)カフェランテ商品部長をやっていまして、そのときからイオンリカーともいろいろ取り組んでいましたが、やはりカフェランテは輸入食品を中心としたビジネス、イオンリカーはあくまでお酒を中心としたビジネスということで、それぞれが成長していかないといけないと思っています」
一方で、完全に専門店として独立している自営の路面店についてはどのような状態なのだろうか。
「まだまだ課題があります。いろいろなトライ&エラーしてきましたが、本当に『強い』専門店としてのフォーマットをちゃんとつくり上げて、そのつくり上げたものを今度はイオンリテールなどGMSに水平展開していく。ここのところが正直、課題だと思っています。
それをやるために、実は碑文谷店では改めてイオンの強みは何かということを考え、それで『やはりワインだろう』ということで、ワインを中心にマーチャンダイジングを組み立て、それに洋酒や日本酒を加える形で、大体2500SKU、70坪ぐらいのお店をつくりました。これをまず完成させて、次に水平展開していく。現在はそれに取り組んでいます」
その意味では碑文谷店は路面店を含む今後のイオンリカーのフォーマットを模索するプロトタイプともいえる。現状の路面店と比べると、どこが変わっているのか。
「SKU数は一般的な路面店よりやや多いです。路面店は45坪ぐらいのお店もあれば、大きいところは90坪ぐらいまでとまちまちです。基本的には路面店は首都圏に集中して展開していきますが、いままでいろいろなトライ&エラーをして、なかなか定まってきていない歴史はあります。出退店をして、いま路面店は13店舗です。
一方で、路面店についても視野に入れた取り組みとして、碑文谷店での取り組みをベースにこの春に津田沼(千葉県習志野市)でイオンの新しいショッピングセンター(3月18日グランドオープンのイオンモール津田沼South)に出店します(イオンリカー津田沼South)。
碑文谷店は都内の立地ですが、津田沼となるとやはり(都心部とは)少し商圏が違うということもあって、碑文谷店をベースとしながらも津田沼のお客さまに支持される品揃えだったり、サービスだったりを考えて、挑戦していきます。
そうすると、(碑文谷店の成果を踏まえ)都心部のエリアもできるし、津田沼のようなエリアでの展開もできるということで、GMSのリカーショップを変えていくときの選択肢ができます。基本は碑文谷店ですが、その改善、応用が広がっていくということです。
津田沼のお店は、いままでで最高の形にしたいですね。碑文谷店では手応えを得ていますので、ベースは碑文谷店としながら、それをさらに津田沼の商圏に合わせようということで品揃えの拡縮をしています。
碑文谷店は、ワインをお買物されるお客さまが非常に多いので、実際、われわれが専門店を出店したことで、店トータルのリカーの売上は前年比で10%以上伸びました。粗利高については20%以上伸びています。なぜかと言うと、(粗利の高い)ワインが売れたからです。都心部はワインをお買物になるお客さまが多いですね。
実際、碑文谷店では中・高価格帯のワインがいままでより売れるようになりました。それで、碑文谷店で売れているワインを他の路面店に入れたらどうなるのかという実験も順次やっていまして、実際に売上が伸びている既存店もあります」
この流れを聞いていると、碑文谷店はイオンリカーの次の成長を担うかなり重要な位置づけを持っていることが分かる。
「そうです。プロジェクトを立ち上げ、専門店を調べてベンチマークしながら取り組みましたが、われわれは専門店ほど敷居が高くない、ワインの初心者の方でも気軽に立ち寄って買えるようなお店を目指しました。
例えば、ワインを選びやすくするために、味わいを30種類に分類した『ワインチャート』を作りました。自分の好きなタイプを覚えておくと、そのタイプの他のワインをお店で探すことができます。あるいは有料ですがテイスティングバーも設置してありますので、試すこともできます。

ワインは800SKUそろえていまして、主力商品ですね。ワインは市場自体はそれほど伸びていないと思いますが、やはりわれわれは(グループに)コルドンヴェールがあって、長年ワインの直輸入を展開しているので、それが強みです。コストパフォーマンスなどで、われわれは他社よりも優位に立てていると思っています」
コルドンヴェールはイオンリカーにとって、どのような存在か。
「われわれにとってコルドンヴェールは、重要な戦略パートナーです。他の卸などからの仕入れもありますが、同社との連携により、グループのスケールメリットを生かした価格競争力を実現できます。現場レベルでも日常的に連携しており、そこが強みです」

食品の品揃えを見直し、「角打ち」も展開
「イオンのリカーショップ」という意味では、グループの店舗内、また、路面店など立地はまさにさまざま。立地による売上の傾向の違いはあるのか。
「路面店は都市部のみで、(イオングループの)GMSは各エリアでやっていますが、エリアによって本当にばらばらですね。1つはやはり可処分所得。もう1つはやはり競争環境ですね。この2つの要素で、エリアによってだいぶ違いがあります。総じていうと都市部が良いですね」
商品分野ごとのトレンドはどのようになっているのか。
「近年、すごく伸びているのはやはり洋酒で、特にハイボールの支持が高まっていることがあります。この洋酒に関しても、コルドンヴェールとは来年度は直輸入をもっと拡大しようと話しています。同社の持つ機能を使って、ワインだけでなく洋酒も拡大していく。
碑文谷店ではワインを軸にしつつも、洋酒も日本酒も品揃えを強化していますが、日本酒もある程度、反応があります。そこで、津田沼でも日本酒の限定流通の商品や生酒などを拡大していきます」
スーパーマーケット(SM)の酒売場では、値頃の酎ハイなどのレディトゥドリンク(RTD)、ビール系飲料など、値頃で、日常的に親しむ商品の販売量が多い。こうした量販商品に対するイオンリカーのスタンスは。
「議論はしていますが、結局、GMSの食品売場のレジインの酒売場がある中で、われわれの専門店がどこまで品揃えをするのかというのは、まさにいま碑文谷店の事例なども踏まえて、いろいろ計画しているところです」
GMSの食品売場と隣接しているわけではない路面店での量販商品の取り扱いについてはどうか。
「基軸になるのはやはりワインになりますが、これから事例を基に収れんさせていきます。一方で、路面店の品揃えについて1つ分かっていることがあります。これはカフェランテともかかわってくるのですが、以前はイオンリカーとして『食品』を結構なボリュームで取り扱い、売場面積も取っていましたが、実は結構作業がかかるし、売価変更など(の負担)もあるので、碑文谷店ではかなり絞りました。食品についてはある程度、絞り込みができるのではないかと考えています。
むしろ、もっとお酒に合う食品は何なのだろうということをいまバイヤーがいろいろ考えています。それで例えば、(路面店の)大森山王店(東京・大田)、大崎ブライトコア店(東京・品川)を活性化したのですが、ここの食品にはいままでにない食品を結構入れています。要は『お酒に合う食品』を強化しました。
そうしたら、売場面積はぐっと縮まったのですが、売上は昨対を超えて、数字上、すごく伸びています。これはいままでやってきたトライ&エラーの中で1つの成功事例になっています。商品部に対しては、『われわれは酒屋なので、お酒に合う食品は何なのかをとにかく考えよう』と言っていました」
新たな考え方に基づく食品の品揃えに対する考え方はどのようなものになるのか。
「基本的にはおつまみで、いまの段階ではおつまみが広がっていますが、一方でおつまみだけあってもしょうがないので、それ以外にも、例えば飲んだ後に買って帰って食べたい商品など、さらに多様な切り口で深掘りができると考えています」
専門店としての品揃えを考える上で、示唆を含む事例である。
「食品の議論の中で出てきたことで、もう1つ大きいのは、これは碑文谷店での大きな気付きでもあるのですが、『モノを売っているだけではだめだな』ということです。
碑文谷店ではイベントをたくさんやっていますが、イベントに来たお客さまがファンになっていろいろ買っていってくれます。例えば、ワインのセミナーでワインのことを知ると、『いままでは1000円台のワインを買っていたけれど、ちょっと3000円台のワインを買ってみようか』となってきます。こういうものをわれわれからどんどん作っていかなければいけない。いわゆる、モノだけではなくてコト、トキ消費を組み合わせることが大事だということです。
これをもう一段階引き上げられないかという話をしている中で、『角打ち(酒販で購入した酒、つまみを店内のスペースで飲食する取り組み)』をやろうとなりました。角打ちにはいろいろなイメージがありますが、『おしゃれな角打ち』ということを定義し、大森山王店、大崎ブライトコア店で実験的に展開しています。それもフックに、『角打ちをする中で、どういった食品がいいのか考えよう』ということで付近にずらっと並べましたが、結構売れますね。
また、改めて角打ちをやると、やはり想定以上にワインが売れますね」
イオン以外が手がけるショッピングセンターやGMSに専門店として出店することは想定しているのか。
「ないですね。とにかくいまのわれわれのミッションは、モデルとなる店をつくり、それをGMSのリカーショップへ水平展開して、しっかりとした専門店にしていくこと。そして、グループ会社への商品供給を通じて利益貢献を果たすことです。この2つを確実にやらなければならないと思っています」
それでは、次の路面店の計画は。
「まずは、とにかくモデルをしっかりつくることだと思っています。実は昨年、1店舗、出店計画があったのですが、私が止めました。まずはしっかりモデルをつくる。つくって水平展開していくということです」
モデルとなる標準的な品揃えはどのように考えているのか。
「いまのところ、まずは碑文谷店でそれ(標準的な品揃えの模索)をやろうと思っていますが、SKU数は2500、売場坪数で70坪ぐらいです。それでワインがそのうち、800SKUといったものです。今後は例えば、直輸入の洋酒などをコルドンヴェールと協力して強化したり、日本酒も限定流通や生酒などを強化したりして、品揃えの幅を広げていきます。
それと、やはりもう1つ大事なのは、先ほど言ったように『モノだけの時代ではもうない』ということです。やはり、『コト』『トキ』消費の組み合わせです。イベントなどを専任担当者をつけて、しっかりと、それこそ52週のイベントマーチャンダイジングをやっていきたいと思っています。
碑文谷店では、カウンターを設け、ほぼ毎週イベントを開催しています。ワインのセミナーは2週間に1回、高級なワインがテイスティングできる機会は月1回、さらに銘柄を伏せて行うブラインドテイスティングも月1回実施しており、大変好評です。
そのため、津田沼でも同様のスペースを設けています」
酒類だけで9000億円売り上げる米国の専門店企業
酒は他の食品とはやや異なり、必需品ではなく、し好品の類である。やはり固定客が多いのだろうか。
「特に路面店は固定客が多いです。津田沼に向けたプロジェクトの中では『コミュニティ』を作るところまで発展させようと取り組んでいます。(イオングループの公式アプリの)iAEONと連携した自社アプリがあり、購入したワインの記録を残していただけます。その記録を基にお勧めを行い、イベントに来ていただき、そこでまたコミュニケーションを図る、という取組みです」
お勧めなど、売場でのコミュニケーションを強化するとなると、やはり店舗の人材の重要性はさらに高まる。
「大事ですね。特に店長とソムリエです。この2者の教育を強化するため、私の着任後、社内の人事制度を見直しています。教育プログラムや評価制度についても、より専門店らしい仕組みにできないか検討し、見直しを進めています。
次の段階として、社内で整備した仕組みをGMSにも展開していきます。特にソムリエが重要な役割を担うため、努力しているソムリエを適切に評価する制度も併せて整備していきます。正当な評価によってモチベーションが高まる仕組みを作り、ソムリエ同士の交流も促進していきたい。商品だけではなく、こうした人材面まで含めた仕組みづくりが必要だと思います」
多くのお客が訪れるGMSは別にして、路面店は固定客が多いということで、新規顧客の獲得も課題になる。
「最も力を入れていくのは、SNSでの情報発信とアプリの活用ですね。アプリでは購入したワインの記録をノートとして残すことができます」
2020年に新型コロナウイルスが広がっていたときには飲食店の営業規制などが行われ、家飲みへのシフトが見られた。酒専門店としてイオンリカーにはどのような影響があったのだろうか。
「路面店はかなり売上が伸びました。利益も過去最高となりました」
コロナの影響はほとんどなくなっているが、家飲みなどの状況はどうか。
「家飲みはまだ維持されているとは思いますが、コロナのときと比べると当然ながら、飲食店が回復しているので、そこに流れているお客さまがいらっしゃると思います」
家飲みも落ち着く中、今後のビジネス拡大の方向性をどう考えるのか。
「基本的には、今後もグループシナジーを最大限に生かし、グループ会社への商品供給を通じて利益貢献をしていくことを拡大していきます。もう一つは、リカー売場の専門店化ですが、こちらは課題でもあります。ただし、同時に大きな伸びしろがある領域でもあるため、着実にやり切っていきます。
スケールメリットはすでにありますので、重要なのはそれを十分に生かし切ることです。課題は生産性向上の仕組みづくりとデジタルとの融合、そしてそれら全てに関わる従業員満足の向上です。従業員満足を高めながら、仕組みづくりとデジタル融合を進めることで、事業は成長していくと考えています」
吉澤社長は、イオンリカーの将来を考える上で、アメリカのTotal Wine & More(トータルワインアンドモア)をベンチマークしているとする。
「私が2025年5月に社長に着任して、8月に当社の目指す姿を発表しました。その際、今後の方向性を整理するに当たって、日本国内だけを見ていてもだめだなと。それで、ちょうどアメリカに行く機会があったので、このトータルワインアンドモアを調べて、実際に視察してきました。売上は約9000億円で、全米最大の酒販専門店です。他にもウォルマートやH-E-Bなど『強い』小売業を見て回り、次第に自分なりの整理ができました。
専門店は、まずは品揃えとお値打ち価格が大前提にあって、そのうえで販売力があることが重要です。この販売力は、お客さまと従業員との絆であると。さらに、『モノ』だけではなく、『コト』と『トキ』の提案力も必要だと。
トータルワインアンドモアからは、多くを学びました。最も印象的だったのは、従業員が明るく接客していたことです。プライスカードには顔写真が添えられ、『お勧め』などが書いてある。買物の最後、レジでチェックアウトする際にも、担当者が声をかけてきます。『良いものを買ったね』『これはお勧めだよ』『今度は、これも買ってみて』と笑顔で伝えてくれる。その姿がすごく楽しそうで、『これだな』と思いました」
人手不足と生産性重視の流れの中、小売業界では世界的にレジのセルフ化が進んでいる。それとは真逆の方向性だが、レジはお客との最後の接点として重視する企業もある。特にワインなどの酒類は、適切な情報提供が購買に大きな影響を及ぼす。専門店にとっては、接客が非常に重要であることは確かだろう。チェックアウト時もその1つのきっかけになることから、これをチャンスと捉え、あえて人の関与を残すことも戦略になり得る。
トータルワインアンドモアの酒だけで約9000億円という年商に驚くが、その巨大な売上高を作り出すワイン8000種類、蒸留酒3000種類、ビール2500種類といった各カテゴリー4桁にも及ぶ品揃えも圧巻だ。イオンリカーは、専門店としてこの境地を狙うのだろうか。
「アメリカと日本の違いがありますから、その点はわれわれの中でベストな形を考えていきます。ただし、抑えるべき要素はこれかなと。このポイントを押さえて専門店づくりや『強い』小売業づくりをしていこうと(社内の)みんなに話しています」

「酒類市場」だけで捉えない
一方で日本が人口減少局面に突入し、小売業にとっては直接的な市場が縮小する時代、長期的な視野に立てば業態や展開地域について新たな検討が必要になってくる。専門店としての長期的なビジョンをどう描くのか。
「結局、酒類市場は縮小すると言われ続けてきましたが、実際に縮小しており、現在は約3.5兆円です。一方で、飲料市場は伸長していて、約5.5兆円あります。ただし、この2つは一部が重なっています。例えばノンアルコールや低アルコール商品が伸びているなど、両市場の境界線は非常にあいまいになっていたり、崩れたりしています。
酒類市場だけで見ると、縮小していく3.5兆円の中で考えることになります。しかし、飲料市場と合わせれば9兆円になります。さらに、粉末コーヒーやティーバッグなどのし好品市場まで含めると、約10兆円規模になります。
『飲み物』という広い市場と捉えるのか、酒類市場だけで捉えるのかでは、見え方が大きく異なります。まずは市場を俯瞰し、そこで変化するお客さまの動向、二極化や多様化、『コト』『トキ』消費といった流れを踏まえ、10兆円市場の中でどのようにお客さまに価値を提供できるのかを考える。本当はすごくワクワクする可能性のあるテーマだと思うんですよ。まずは俯瞰して、自ら考えて、ワクワクして、自ら挑戦する。そうした人材をたくさん育てていきたいですね。
これらは国内の話ですが、海外についても視野に入れています。われわれは2024年から香港とカンボジアのイオングループ各社に日本酒や梅酒を中心に輸出しています。販売は好調です。グループ会社に日本の商品を提供すると、グループ会社にとっては差別化につながり、日本の生産者にとっては、われわれを通じて新しい販路が広がることになります」
専門店ということで、どうしても限定した市場の枠内で考えてしまいがちになる。あえて視野を広げ、柔軟に考えることで、さまざまな可能性を模索する逆転の発想といえる。また、その枠組みを国内に限定せず、海外にも視野を広げればその可能性はさらに広がっていく。その点、イオンリカーにはイオングループという大きなプラットフォームを活用できるアドバンテージがある。
インタビューの最後に、し好品を取り扱う専門店の社長として、吉澤社長自身は酒とはどのようなかかわりを持ってきたのかについて聞いてみた。
「旧イオンスーパーセンター(本社:岩手県盛岡市、2025年3月にイオン東北に吸収合併)の設立にかかわるなど、盛岡でスーパーセンターの業態開発に携わっていたころ、蔵元や酒造りに関わる方々との交流を通じ日本酒の美味しさ、奥深さを知りました。上司の指示できき酒大会に出場したら優勝しまして、さらに全国大会では準優勝しました。そうしたら岩手県でもすごく盛り上がり、テレビの生番組にも出たりもしました(笑い)。いまワインも勉強中です。日本酒もワインもそうですが、お酒はおもしろいですね。食べ物と合わせたときとの違いなど、すごくおもしろいです」
必需品ではないし好品であるからこそ、この「おもしろさ」という要素は極めて大きな要素である。「酒」をベースとした商品を「モノ」「コト」「トキ」消費と組み合わせながら、どのように生活を豊かに、楽しく、そしておもしろくするフォーマットをつくり上げるか。イオンリカーの新たな挑戦に期待したい。









