オープンから8カ月の「パレッテ」、イオンが仕掛ける新たなディスカウントストアは日々、進化中
2022.04.12
2021.08.20
昨年12月に1号店をオープンしたイオンの新たなディスカウントストア「パレッテ」が日々、進化を遂げている。1号店の高座渋谷店(神奈川県大和市)に続き、下末吉店(横浜市鶴見区下)、大和鶴間店(神奈川県大和市鶴間)をオープンし、現在3店体制となった。
ホームページを見るとストアコンセプトは「Quality!(高品質の商品を低価格で)」「Story!(物語の宿る、商品開発力)」「Surprise!(驚き、感動のある価値提供)」となっている。
パレッテの店を見ていると、ドイツで誕生し、ヨーロッパやアメリカなど進出国でその低価格を武器に成長を遂げているハードディスカウンター、あるいはリミテッドアソートメントストアなどと呼ばれるアルディ、リドルの2社をモデルにしていることが分かる。
売場は比較的小型で、アイテムが絞り込まれたスーパーマーケット(SM)的な品揃えの業態で、大きな特徴は、ローコストオペレーションに基づく低価格にある。
イオングループには、すでに同様のフォーマットとしてビッグ・エー、アコレ、また、まいばすけっとが存在する。それぞれフォーマットとしての特徴を持つが、今回のパレッテはこれら既存フォーマットと比べやや大型といえる。
高座渋谷店の売場は350坪ほどとみられ、中型SM程度の広さがある。下末吉店、大和鶴間店はやや小型となっているが、これら3店で幾つかのパターンで実験をしているようだ。
さらに、ビッグ・エーなどとの最大の違いは、特に加工食品の島陳列、あるいはゴンドラの最下段において陳列がパレット単位になっている点だ。これは、パレット単位での陳列作業を志向していることを示していて、実際、アルディ、リドルではこの方式が多用されている。パレッテの補充作業を見ていると、バックヤードからパレットを載せたハンドパレットトラックを手で引いてパレットを運んでいる。
パレット、あるいは棚の上では、ほとんどの商品をケース単位で陳列する「シェルフレディパッケージング(SRP)」と呼ばれる方式で陳列している。
段ボールを決まった形にカットできるようにしておき、段ボールのまま陳列することで、個別に並べる必要がなくなり、陳列作業の負担が低減するように設計されたものだ。これはビッグ・エーでも以前から取り組まれているが、パレッテでも独自に取り組んでいる。
売場を見るとオリジナルのSRPも制作しているようだ。これによる納品が行われているかは不明だが、これをメーカーに支給し、そこに商品を入れて納品してもらえば、さらなる統一感ある売場が実現するといえる。
また、生鮮の青果や日配商品などでは黒色の通い箱での陳列が多用されている。これもSRPと同様に陳列作業の負担軽減を狙ったものだ。
いずれにしても、こうした陳列上の特徴は、オペレーションコストを下げながら、高い品質の商品を低価格で提供するための取り組みといえ、これによって通常にSMの販売管理費よりは相当に低い水準での運用を見込んでいるといえる。
惣菜強化で、近隣のオリジン東秀の弁当を常温販売
オープンから約8カ月を経た高座渋谷店を訪店すると幾つかの試行錯誤の跡がみられる。品揃えは通常のSMと比べてかなり絞り込まれながらも、生鮮食品、惣菜、加工食品、非食品まで売れ筋商品を中心に一通りそろえられている。
全体のアイテム数は約2000ほどといわれているが、それなりにアイテム数は増えているようだ。高座渋谷店の約350坪、約2000アイテムというバランスはアルディ、リドルを強く意識したものと考えられる。
ローコストを志向するため、生鮮食品や惣菜の店内加工はしないが、唯一、インストアベーカリーのみ、焼成器を設置して店内でパンやピザを製造している。これはアルディ、リドルと同様。アルディ、リドルはローコストを徹底しながらも、ベーシック商品のパンについては店内で焼成して提供する方針を貫いている。
精肉や鮮魚については、自社のプロセスセンター(PC)はいまのところ設置しておらず、産地パックやメーカーのPCの商品を展開。特に鮮魚は冷凍を強化している。刺身も冷凍で展開。
また、アルディやリドルでは、売場の中央で季節商品を含む非食品を展開しているが、パレッテでは、それも再現している。高座渋谷店では売場中央でこそないものの、売場の少し出っ張った部分に購買頻度のそれほど高くない非食品を販売。非定番のシーズナルや季節商品のシーズナブル商品も多く、お客は掘り出し物を探すような形で、買物を楽しむことができる。頻度高く来店を促す仕掛けにもなっている。
店内はワンウエーコントロールで進む形になっているが、この辺りもアルディやリドルとの共通性を感じる。高座渋谷店では入口から入るとまず、パレットに並んだ加工食品のSRPによる陳列が目に飛び込んでくる。
両側にそうした商品を並べた通路を過ぎるとかなり広い主通路上に配置された生鮮食品売場となる。中央の平台と壁面側の冷蔵ケースには青果、反対側の冷蔵ケースには精肉があり、青果と精肉に続いて平ケースの冷凍鮮魚やリーチインケース展開の冷凍の生鮮素材が続く。
続く壁面には冷蔵の惣菜売場。弁当や寿司など米飯も含むが、全てアウトパックによる冷惣菜の展開となる。
そして通路の突き当たりには唯一の店内加工のインストアベーカリー売場が広がる。
惣菜売場では、オープン後の変化が2つほどある。まず、壁面の冷惣菜だけでなく、通路側で島陳列によるオリジン東秀の常温販売の弁当が展開されるようになったこと。近隣のオリジン東秀で製造した商品を午前中に仕入れているとみられる。
また、同様に通路側には冷凍ケースを設置し、冷凍デザートの販売も始まっている。さらに冷蔵のデザート売場もこの場所に設置することで、この一帯が惣菜、インストアベーカリー、デザートの「即食売場」の性質を強めている。
インストアベーカリーと商品開発で差別化
インストアベーカリーは、パレッテを特徴付ける売場といえる。ビッグ・エーでもインストアベーカリーの展開が始まっているが、パレッテはかなり広大でクロワッサンやピザを核商品にしている。
ここでポイントなるのは、アルディ、リドルが展開する欧米におけるベーカリーの位置づけと、日本におけるベーカリーの位置づけが異なるのではないかという点だ。その意味では、菓子パン系の商品が増えているのが気になるところだ。
人時がかかることからSMでも多くが赤字体質といわれるインストアベーカリーを、あえてディスカウントストアで展開する意味が今後問われてくるとみられる。
インストアベーカリーを過ぎると壁面側の冷蔵ケースに日配、内側にグロサリー売場が広がる。なお、日配の一部常温販売可能商品やペットボトル飲料などは基本的に冷蔵では販売せず、常温で販売するなど、ローコストへのこだわりを見せる。
第3主通路の壁面側にはリーチインケースの冷凍食品売場が広がる。こちらも黒色の通い箱によるケース陳列を徹底している。
インストアベーカリーと並んで、パレットを特徴付ける要素として、特にグロサリーにおける商品開発が挙げられる。ストアコンセプトでも、あえて「Quality!(高品質の商品を低価格で)」「Story!(物語の宿る、商品開発力)」と挙げられているとおり、留め型や直輸入の形でオリジナル商品を多数開発している。
現状では、プライベートブランドのようにブランドを打ち出していないことから、売場ではどれが開発商品なのかが分かりにくいこともあり、POPでそれを打ち出す他、最近ではゴンドラエンドにオリジナル商品をコーナー化して展開している。
仕様にも独自に付加価値を付けた商品も多く、今後、パレッテの競争力を大きく作用する要素となり得る。
また、オリジナル商品だけでなく、ナショナルブランド商品についても直接取引によって低価格を実現している商品もあるようだ。
さらに、ディスカウントストアだからこそ、積極的にデジタルテクノロジーを導入している。
まず、電子棚札の活用。売場を見ると、加工食品を中心に広範に電子棚札を採用している。これによる売価の管理の簡素化はローコストオペレーションにも寄与するものとみられる。
また、ゴンドラエンドの脇では、デジタルサイネージが設置され、情報提供も始まっている。限られた人員による運営の中での情報提供に資するはずだ。
また、レジでの生産性に直結するものとして、バーコードの拡大や商品コードの多様化の取り組みがある。一部商品のバーコードがかなり大きくなっていたり、パッケージ全体に商品コードが付けられているが、これによってレジでのスキャンのスピードアップが見込める。
レジについてはもう1つ、お客が自身でバーコードをスキャンして精算までアプリ上で行える「Scan&Go」を導入していることも大きい。売場での利用を見ていると、その利用率もかなり高いように見受けられる。ディスカウントストアとの親和性が高いといえるかもしれない。
インストアベーカリーは展開しているものの、陳列作業のシンプルさを中心に、数々のローコストオペレーションの取り組みを勘案すると、販売管理費はかなり低く抑えられているものとみられる。
「売れ筋商品を低価格でそろえることで、日々の定番の買物に頻度高く使用してもらいたい」。パレッテが目指す店は、このようなものになるのではないか。
パレッテがアルディ、リドルのような存在感を持つようになれば、既存ディスカウントストアあるいはSMにとっては脅威となるだろう。特にSMは、すみ分けを意識した戦略を探る必要が出てくるはずだ。