ザ・トップマネジメント 2023年の視座と戦略 ヤオコー 川野澄人社長

2023.01.02

価格コンシャス効果もあって下期から既存店客数も前年クリア、値上げ局面はハイ&ローで安さ演出+ミールソリューション強化の両にらみ

――2022年を振り返ると。

川野 22年は、原料高に伴う値上げが大きく進んだ1年だったと思う。われわれにとってみれば、仕入れ価格が上がると同時に非常に光熱費が上がった。それが損益に大きなインパクトを与えた年になった。

売上げについては、値上げに伴って節約志向が非常に強まると懸念していたが、特に下期に入ってからは、当社では客数も前年より若干増えている状況(既存店客数前年比4月~9月が98.9%に対し、10月101.2%、11月101.5%)。

単価のアップに対して買上点数の落ち幅も限定的に抑えられていると考えている(既存店買上点数前年比4月~9月が98.4%、10月97.6%、11月99.0%)。

いろんな要因があると思うが、外的な要因で言えば同じく外食においても値上がりが起こっているため、コロナの影響のときと同じような形で、外食から中食、内食に需要が移ってきているかなと思っている。特にわれわれが直接競合している回転寿司の業界でも、1皿100円の商品がなくなってきている。少し、われわれの惣菜の方にもシフトが起こっていると感じている。

もう1つは、当社が続けてきた49歳以下でお子さんがいらっしゃる「ヤングファミリー」に対する価格対応。ひき肉はじめ肉の価格対応、あるいは日配品のアイスの価格対応等、コロナの直後から一段強化をしてきたが、それが少しずつお客さまに浸透してきて、このタイミングで改めてご評価いただいているのかなという手応えはある。

23年、あるいは23年度は、値上げの基調は引き続き変わらないと思う。年明けに値上げを控えているものもあるし、その後、小麦等ももう一段上がる可能性があるということなので、来期も原料高が続いていく、そういう環境の中での商売になると認識している。

その中で、われわれの取り組みは大きく変わらない。1つは、前より価格に敏感なお客さまが増える中で価格対応をどう進めて行くのか。特にヤングファミリーをどう取り込んでいくのか。

もう1つは、当社の強みである「ちょっといいもの」、われわれがセミアップと呼んでいるもの。ベーシックからちょっと値段は高いけれどもおいしい、生活を豊かにしてくれる、楽しくしてくれるようなアイテムの品揃えや提案。

ここがポイントになってくると思っているので、引き続き、ヤオコーの強みある豊かさ、楽しさ、健康を感じていただけるような品揃え、提案を強めていくことが、値上がりの中でもしっかりとお客さまに支持をされるポイントになってくるかなと考えている。

――下期に入って既存店売上高前年比が10月103.8%、11月105.8%と上がっているが、どう評価しているか。要因をどう分析している。

川野 正直、下期は当初想定していたよりも好調に推移している。われわれもその中身をどう解釈すべきかを分析しているところ。21年との対比でみると、21年は10月、11月とコロナの感染者が減少して、20年と比べると非常に業績が低迷した。その比較でいえばそもそものハードルがそれほど高くないということがある。ただ、それに対しても売上げが伸びている。

もっと節約志向が強まって、買上点数等に影響してくるのではないかと見ていたが、その点については思った以上にお客さまにご来店いただいている。要因については、やはり外食との比較の中で、価値がある、値頃であるということで選ばれているというポイントもあると思う。

価格面においては、われわれはハイ&ローでチラシ等も使いながらお客さまに安さをご提示しているが、この価格が大きく上がっている局面においては、EDLP(エブリデーロープライス、毎日低価格)よりはハイ&ローの方がむしろ、お客さまに分かりやすく響いているのかなという印象を持っている。実際、データでも特売比率が上がっている。

もう1つは、上期からの基調だが、デリカ事業部、惣菜、寿司、ベーカリー3部門の好調が続いている。少しライフスタイルの変化で、ご家庭でお料理されるところから、惣菜を買われるというスタイルに少しずつ変わってきているかなという感じもある。また、一部は外食からの代替需要もあろうかと思う。

コロナ禍で一時期売上げが落ち込んだデリカは好調。外食の代替需要もあると見ている

――価格政策では冷凍食品のようなEDLPを採用しているカテゴリーについてもハイ&ローに切り替えていくといった考えはあるか。

川野 価格政策については、ハイ&ローとEDLPとをカテゴリーごとに組み合わせながら価格政策を取っていきたいと思っている。基本的にはバラエティの多い、冷凍食品やアイスクリームのような、いろいろな種類の中からお客さまがご自身のし好でお選びになるカテゴリーについてはEDLPでいろんな商品が常時低価格になっている方が好ましいと思っている。

逆に上位商品に集中しているようなカテゴリーについては、ハイ&ローをうまく組み合わせながら安さを出していくことが必要かなと思っている。また、ヤングの支持が高いカテゴリーなのか、どちらかというとシニア寄りなのかということに応じても、やはり若いお客さまの方が、いろんなお店を選んで買われるので、マーケットプライスについて敏感なお客さまが多い。そういったところも踏まえて価格設定していこうと考えている。

店からの成功事例も増加&中身充実、研修も復活で個店経営さらに強化へ

――22年度は第10次中期経営計画の折り返しの2年目だ。

川野 率直に申し上げて、環境が当初想定していた環境と非常に異なっていて、進ちょくが測りにくいところではあるが、認識としては順調に来ているかなと思っている。

2割強い店づくりをこの中計の期間でやろうとしているが、その2割をつくるのに価格コンシャスの軸とミールソリューションの軸を強めていこうとしている。価格コンシャスで10%アップ、ミールソリューションで10%アップ、そうすると121%の増加になるということを概念的に考えながら進めていた。

価格コンシャスの軸でいうと、先ほど触れたように特にヤングファミリー向けの価格対応を進めてきた成果が少しずつ出てきたかなと。それがわれわれの客数のベースを広げているのかなという手応えがある。

もう1つは個店経営。ミールソリューション、お客さまに対する提案だったりをどう提供できるかということだが、ここについてはまさに個店の力、人材育成とセットになるので、そんなに急に進むものではないと認識している。そうした中でも、お店からの成功事例が増えて、中身も充実してきている。

コロナで研修等もなかなかできていなかったが、改めて事例の発表会も2年半ぶりに復活して、お店のパートナーさん中心にチームで取り組むことについても改めてスタートできたので、来期はより力を入れていく。

ヤオコーが強みとするのは個店経営をベースにした提案力だ

――いわゆる物流業界の「2024年問題」を踏まえ、物流センターの整備をしている。

川野 1つは、やはりわれわれの物流拠点から、お店までの配送距離の加重平均を短くするということで、トラックが走るトータルの距離を短くしていく。そのことで、トラックの稼働を挙げていくことを狙う。そのために草加市に新しい物流センターを整えている。

そのセンターの中身では、いわゆる機械化として通常のソーターだけでなく、GTP(グッド・トゥ・パーソン)シャトルということで、人のところに商品が来てピッキングできるといった仕組みを入れて省人化、より少ない人数で運営ができるように投資をしている。

これから間違いなく人手不足と人件費の上昇が起こってくる中で、そういったところも先手を打って対応していく。

――今後、人手不足が深刻化する。

川野 長い目で見れば労働人口が減ってくる。いまは一時的に外食や観光業が苦戦する中で、小売業は(コロナ前の)19年時点よりは採用しやすい状況にあるが、これからどんどん採用しにくい環境になってくるのは間違いないので、対応していく。

1つはオペレーション面では今期はAI(人工知能)の自動発注を日配とドライに導入し、これによって発注時間を削減すると共に発注精度を上げることを進めている。

発注時間の削減は明確な効果として出ている。課題としては発注精度のむらがあるが、これは正しいデータを読み込ませることで1カ月、2カ月とたつうちに安定してくることが見えているので、解決していくものと思っている。発注精度が上がることで余計な在庫、値引きが減ることにつながってくると思っている。

レジについては、他社に劣後しているところはあるが、順次セミセルフレジを導入している他、下期にはフルセルフレジも2店舗に導入した。想定以上にフルセルフレジをご利用になるお客さまが多いという状況で、そういったところも人手不足対応の1つの手立てになるのかなと考えている。

――ナショナルブランド(NB)のメーカーが続々値上げを発表している。店頭への反映の対応は。

川野 NB商品の値上げについては、もちろん、「タイミング」はあるが、こういった状況下、「やむなし」ということで順次反映させている。今後も為替の状況、原料高等を考えると進めざるを得ないことと認識している。

お客さまの家計への負担感が増える中で、ハイ&ローで一部チラシに掲載する、あるいは月間奉仕品等の形で、価格の上がり方をなだらかにするという手は打っていくが、基本的には原価についてはメーカーさんの値上げ要請を受けていく。

――消費の二極化が指摘される。

川野 特に低価格のところは、ターゲットとしてはヤングファミリーの若いお客さまの好むカテゴリー、よく買われるカテゴリーで価格に敏感なところを狙って対応している。

セグメントでいうと素材を買って手作りされる「テリョーリ」のセグメントに対してひき肉の価格を抑えたり、小さいお子さんがいらっしゃるセグメントに対してアイスの価格を抑えたりといったことをしている。そういったヤングの好むカテゴリーについては、1つ1つ価格対応を進めて行きたいと思っている。

もう片方のちょっといいものでは、グロサリーのプライベートブランド(PB)のセミアップ商品もあるが、例えばいま力を入れていることに、魚を量販する企画の「豊洲祭り」がある。

その中では、単価の少し高いアワビなども企画に入れてお客さまにお勧めしているが、絶対単価は高くても価値があればご評価いただけるということが見えているので、そういった企画については続けていきたい。

また、今期から離島フェアということで、「五島列島フェア」を始めているが、そういったご当地商品も、絶対単価としては決して安くはないが、お客さまからご支持いただいている。「珍しい」「新しい」「おいしそう」ということで、単価が多少張ってもご購入いただいている。

そういう意味では低価格一辺倒ではなく、「新しさ」「楽しさ」「おいしさ」というところで、まだまだ差別化できると思っている。もう1つは「健康」という切り口で、機能性の高いものについては多少単価が高くても、お選びになるお客さまが確実に増えていると思うので、そういうところの品揃えもしっかり押さえていくということもポイントになってくると思う。

2月オープン予定のトナリエ宇都宮店は強い核売場を散りばめる注力店に

――23年2月に栃木県宇都宮市に店舗面積700坪クラスのトナリエ宇都宮店を出店予定だ。いままでの出店エリアからすると飛び地になる。

川野 確かにわれわれにとっては少し飛び地への出店になるが、いままでも群馬県中之条町や神奈川県の三浦市、小田原市にお店を出したりしている。(埼玉県川越市の)サポートセンター(本部)からの距離でいうと、決して飛び抜けて遠いということではない。

当然、社内ではわれわれの商圏に含めるのかどうかの議論はあったが、当社は一都六県を中心にマーケットシェアを上げて行こうということを大方針としているので、特に栃木県、群馬県、茨城県等についても、人口の多いところをきちっと狙いながら出店をしていければと考えている。

宇都宮は1店舗少し離れる形になるので、既存のお店とつなぐような(ドミナント)出店を考えていきたい。

駅前の立地で、いままでヤオコーがないエリアの出店になるので、やはり、遠くからもご来店いただけるような、強い核の売場を散りばめていく計画を立てている。非常に所得層も高いエリアと認識しているし、当然のことながら、当社の強みとしてディスカウントというよりはしっかりと商品の魅力でお客さまにご来店いただけるようなお店にしたいと思っている。

(商圏内には)ヨークベニマルさんがいらっしゃるわけだが、われわれも思い切って出してみようということで決めた。力を入れて取り組みたいと思っている。

――来期はヤオコー単体としては5店の出店計画となっている。建築コストの上昇など逆風が吹くが、店舗開発の状況は。

川野 建築費が非常に上がっていて、投資採算が厳しくなってくることは間違いなくある。一方で建築費の上昇はどの業界も一緒なので、いままでわれわれと用地の確保で競合していたマンション業者、あるいは物流業者との競争については、これから少しゆるやかになるのかなと思っている。

特に物流業者は非常に高い価格で用地を押さえることをされていたが、いままでの床面積の増加等を考えても少しペースが落ちてくるのかなと思う。そういう意味では用地の確保の余地は多少出てくると思っている。

また、居抜きの物件等も積極的に検討していきたいと思っている。われわれは出店が成長の原動力なので、出店のペースをできるだけ落とさずに行きたい。

――M&A(合併・買収)に対する考え方は。

川野 従来と変わっていない。エイヴイ、あるいはせんどうのようにしっかりと独自の強みがある会社、エリア的にも補完的な会社については、M&Aを含めた協業はあり得ると思っている。

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