EDLPと高質商品を両立できることが強み いちやまマート 三科雅嗣社長
2025.05.27

EDLPの導入、強化で客数増と生産性向上
山梨県と長野県に15店のスーパーマーケット(SM)を展開するいちやまマート。地盤である山梨県にはそのうち13店を出店する山梨県をドミナントとするローカルチェーンだ。一方で、「健康」をコンセプトとし、一部異なるエリアの企業にも取り扱いを拡大するプライベートブランド(PB)の「美味安心」の開発を進めるなど、その売場づくり、商品づくりは特徴的で、ある種、店数以上の存在感を示している。創業家出身であり、かつては一般的なSMだった同社を現在の方向性に転換した三科雅嗣(みしな・まさし)社長の経営論に迫る。
「2024年の11月からEDLP(エブリデーロープライス、毎日低価格)を始めたところ、売上が上がってきました。(世の賃上げで)給料が上がって良い物が売れると期待していたのですが、給料が上がっても、それ以上に電気代やガソリン代、物価高の方に押されているようです。
一番分かりやすい例では、牛肉の売上が落ちて鶏肉や豚肉が伸びています。景気が良くなると逆に牛肉が伸びるものですが、いまはそういう(牛肉から鶏肉、豚肉にシフト)現象です。ここ1、2年はその傾向が続いています。新型コロナウイルスの(まん延した)ころは牛肉が良かったですね」
関東を始め東日本は豚肉の構成比が高いといわれるが、その中でいちやまマートは「国産いちやま霜降り和牛」のランプとイチボを使用した「五つ星ステーキ」を展開したり、国産では交雑種ではあるものの「和牛に匹敵する美味しさ」を打ち出す「三沢牛」、輸入ではニュージーランド産の「健味牛」を売り込んだりするなど「牛肉」の品揃えにこだわっている。
「この地域(山梨県)では私どもの牛肉の品揃えが、たぶんナンバーワンだと思っています。だからいまは厳しいです。その分、豚肉と鶏肉でカバーはしています。肉全般で見ると、2、3年前は肉が(全体の売上の伸びを)引っ張っていましたが、いまは肉が足を引っ張っています(笑い)。
もちろん、牛肉だけでなく、豚肉も鶏肉も全部こだわっています。豚肉で最初にこだわったのはもち豚(「和豚もち豚」)です。もち豚などのブランド豚は昔、スーパーでは売られていませんでした。料理屋さん、百貨店でしか売っていなかったのですが、日本のスーパーで最初に売り始めたのがいちやまマートです。
現在は、売上的にいえば、どこの会社もそうですが、まずは米です(売上が伸びている)。2番目は(相場が高値で推移する)野菜。米と野菜の「農作物」は売上がかなり良く、全体の売上を引っ張っています。やはり、相場が上がっても米と野菜は売れます。なければ困るというわけです。肉の場合は相場が上がると牛肉が豚肉に、豚肉が鶏肉に、あるいは魚に、逆に魚が高くなると肉に来るといったシフトがあります。野菜はシフトするものがない。
果物も消費が厳しくなると売上が減るもので、正直言ってあまり良くなかったのですが、ここのところちょっと良くなってきました。これはMD(マーチャンダイジング、商品政策)をEDLPに変えた影響です」
いちやまマートが地盤とする山梨県、あるいは長野県は「フルーツ王国」と呼ばれる代表的な存在である。その点、SMとして果物の売上はどのような状況にあるのか。
「いま(春)は売れます。ただ、(多くの果物が旬を迎える)真夏になると売れません。 甲府はいわゆる街中なので、その傾向はあまりないですね。在(周辺部)の方は、(果物を)作っているので、出荷するものから弾かれるものをご近所に配ったりしています。
だから、真夏以外は、果物は売れます。果物は基本的に年配の方が買って、若い人はあまり買わない。どちらかというと若い人はお菓子を買います。ただ、年を取ると果物を食べるようになるようです。やはり、自然の甘みが良くなるんですね」
売上回復に寄与したEDLPは具体的にどのように実践したのか。
「一言で言うと地域最安値を調べて、それに対応しました。調べたらグロサリー、日配の地域最安値は圧倒的にコスモス薬品さんでした。(商勢圏内には)ザ・ビッグさん、ベイシアさん、ロピアさんなどディスカウントスーパーもいろいろありますし、(ドラッグストアの)クスリのアオキさんもありますが、調べてみたら一番安いのはコスモス薬品さんでした。だから、コスモス薬品さんに価格を合わせています。もちろん、主力の商品だけです。全部は合わせ切れないですし、合わせる必要もありません。
その結果、売上が増えました。特にいちやまマートのように、いままでディスカウントをやっていないスーパーがやると余計効果が出ます。ただ、目的はあくまで客数に増やすことです。24年11月から始めて25年3月から生鮮も含めて、アイテムを倍増しました。
ポイント販促についても7倍セールをやめるなど減らしてきていて最低限にしていく予定で、トータルでEDLPを強化してきています。もともと月~水曜日の特売と木~日曜日の特売の週2本の特売をやっていましたが、月~水曜日の特売はやめ、木~日曜日だけにしています。
ただ、イベントも大事だと思っていて、木~日曜日の特売をやめるところまでは考えていません。みんな働いていますから平日は大体、行く店が決まっていて、そこにしか行かないようなスタイルになっていると思いますが、土日は若い人も休みだからいろいろな店に行く。
野菜の価格も地域で一番安く売ろうということで、こだわっています。やはり、お客様は野菜の価格に一番敏感ですね。ただ、相場があるので、野菜はEDLPには入れていません。
結局、一番重要なことは、いま女性がほとんど働くようになったということですね。そうするとどういう現象が起きるかというと、まず、いままでみたいに特売チラシを見て飛び歩かない。いま、飛び歩いているのは70歳以上などの高齢者が多いと思います。働いている(若い)人はそんなに飛び歩きません。
それから、2つ目はやはり簡便化です。簡単においしく食べられるものをいかに展開していくかが重要になっています。簡単においしければ多少高くても、そんなに飛び歩かないものです。(安いものを求めて買い回るのは)むしろ手間がかかるということになってしまう」
EDLPには店舗運営側としての生産性を向上させる狙いもあった。
「いま経営上で注力しているのは生産性のアップ。各職場の作業分析をして、むだな時間を削っていく。EDLPをやったのもその一環です。(特売のために)陳列したものを戻す作業だとか、(特売で)売上が変化するようなことをせずに、できるだけ安定させるといったものです。
レジもそうです。レジは全店にセルフレジを導入しています。対面のセミセルフレジを2割ぐらい残して、残りはセルフレジになっています。
4年間で生産性が20%上がっています。給料も20%以上、上げていますので、生産性を上げないといけません」
一方で、価格強化をすると粗利率は下がる。
「もちろん、(粗利)率は落ちます。(粗利)額的にも(前年比)100%には行きませんが、長い目で見れば、絶対に客数を増やした方が良いと考えています。
間違いなく、(購買が)安いものの方にシフトしています。ここ数年でこんなに安いものにシフトしている時期はなかったですね。エンゲル係数も上がっていると言われていますし、米や野菜の高騰もありますが、やはり、電気代やガソリン代(の高騰)。特に地方はガソリン代が効くんですよ」
全ての商品にこだわりがる「美味安心」は400品目
いちやまマートは「健康」をコンセプトとし、品質にこだわったPBの「美味安心」を打ち出すことで個性を発揮している。同社の創業は80年前の1945年に開業した菓子・果実店にさかのぼる。その後、58年株式会社塩山館を設立、64年株式会社いちやまマートを設立(後に塩山館と合併)し、現在に至っている。
現在のコンセプトに至った理由はどこにあるのだろうか。
「きっけかは、私の父と兄が若くして亡くなったことです。父は56歳で亡くなりました。兄は46歳で亡くなりました。これが一番の理由です。いろいろ考えたのですが、やはり、食品を扱っている一方で、いままであまり健康などについて気にもしなかったと気づきました。
それで、『健康に生きてこそ』という方向に思いがシフトしていきました。まずは、食品添加物をどうやって減らそうかと考えました。当時、西岡 一(故人、元同志社大学教授)さんが添加物に関する本を出されていたので、その本を読んで、相談に行きました。そうしたら、『食品添加物をいきなりゼロにはできないから、一番やりやすい合成着色料からやめたら良いのでは』と言われたのですが、これが意外と大変で。
最後まで残ったのは実は子どものお菓子。みんな合成着色料を使っているんですよ。本当は一番食べさせたくないはずの幼児のお菓子とか、色を鮮やかにするために、みんな合成着色料を使っていました。
それを(品揃えから)外していったら売るものがなくなってしまうような状態でしたが、合成着色料を使わない商品を製造している会社を探していきました。
最終的には合成着色料に関しては全部やめることができました。当時、地元の新聞に全面広告を出してそれを宣言しました。なぜ、これをやったのかといえば、社員を本気にさせるためです。宣言すると社員もやらざるを得なくなります。
その後、順次、他の添加物をなくしていき、最終的に完全無添加(化学調味料、合成保存料、合成着色料、合成香料)の商品としてPBの『美味安心』として誕生させました。多少の入れ替えや味のブラッシュアップなどを行っていますが、いま400品目ぐらいです。
商品は積極的に増やそうというより、メーカーさんと話をしながら少しずつ増やしていく感じです。というのは、400品目あるとある程度、ベースができていますから。
全部の商品に(無添加だけでなく)こだわりがあります。例えばドリップコーヒーの『焙煎したてのうまいコーヒー』は特にこだわったということで、金のパッケージにして目立つようにしました。この商品の一番の売りは焙煎日の日付が入っていることです。
街の喫茶店は別にして、ナショナルブランド(NB)で焙煎日の日付を入れているところはありません。もちろん、賞味期限は入れていますが、焙煎日を入れているところはない。仮に入れたとしても、NBだと店頭に並ぶまでに1カ月ぐらい経ってしまう。美味安心のこの商品の場合、直接納品だから焙煎の次の日に店に届きます。だから、香りが全然違う。
また、『生切り餅』(800g、本体価格880円)は契約農場で作ってもらっているのですが、岩手県産の「ひめのもち」という単品種を使用しています。米では単品種の商品がありますが、餅には意外に単品種の商品がなく、NBはブレンド米を使用しています。だから、美味安心の切り餅は香りが違います。NBより100円ほど高いのですが、良く売れています。
だし系の商品にはアゴだしを入れています。アゴだしを入れるとうま味がすごく増すからです。さらに『あご入り天然だしパック』のパッケージには、『袋を破いて使うこと』をお勧めする案内を入れています。これはあるとき、『破いた方がもっと濃いだしが出る』ということを聞き、そちらの方が良いと考え、パッケージを変えたのです。
カツオ節は、美味安心は価格が高い『本枯節』の方が売れています。やはり、香りが全然違います。しかも、すごく安く販売していることもあります。なぜかというと、他のカツオ節メーカーは本枯れを仕入れていることが多いですが、美味安心の製造委託先は本枯れのための自社工場を持っていて、自社製造しているから安くできるのです」

三科社長は美味安心について語り出すと止まらない。個別商品の細かなこだわりについて次々に具体的な事例が出てくる。いかにこの美味安心が社長の肝いりの商品であるかが分かる。
品質などがある種、明快なNBやそれをトレードオフ(必要性の少ない機能を省き、安くする)した低価格PBとは異なり、特に独自のこだわりに基づいて開発したPBは、そのこだわりを持てば持つほど、それについて伝えることが求められる。
「この美味安心を他社にも広めようということで年に2回、美味安心の展示会を開いています。現在、全国の60社ぐらいが取り扱いをしてくれています。展示会にはお客様にも、有料で参加してもらっています。応募していただいて、いまは1回当たり150人近くのお客様に来ていただいています。
展示会では、まず私が40~50分お話をし、その後、試食会。そして手土産をお渡ししています。手土産はかなりお得になっていまして、1週間で大体枠が埋まってしまいます。また、『販売している側も知らないといけない』ということで、メイト社員(パートタイマー)さんにも積極的に参加していただいています」
さまざまなこだわりの下に開発された美味安心だが、品質に対して値打ち感のある売価設定はしているものの、やはりNBと比べると高売価に写る。
「もちろん高いですが、これ以上安くはできません。それなりに利益も取らないといけないこともありますが、まず、(NBや大手企業のPBとは)作る量が違います。あと、うま味調味料を入れません。うま味調味料を使えば、原材料費を落とせます。入れないとその分、だしをしっかり効かせないといけないなど、コストがかかります。
確かにNBと比べると高いですが、いわゆる専門店などと比べると安い。ある企業に美味安心を扱ってもらおうとお話をしに行ったのですが、そのとき、先方の商品本部長に衝撃的なことを言われました。『美味安心は良い商品ですね。だけど入れません』。『どうしてですか』と聞くと、『安過ぎる』と。つまり、美味安心ばかり売れて、他の商品が売れなくなってしまうというわけです」
ディスカウントの敵はディスカウント
食品のPBの歴史を振り返れば、いわゆるNBのトレードオフ型のベーシックなPB以外に、そのときの消費の傾向も受ける形で付加価値型の高グレードのPBが登場したり、逆に価格をさらに強化した低価格PBの開発が進んだりといった動きが繰り返されている。
特に高グレードのPBについては、その需要があることは確かだろうが、実際には姿を消していったものも少なくない。それは、好不況の波がある時代の流れからして、やむを得ない部分もあると考えられなくもない。その点でも07年の登場から長年に渡って継続、拡大している美味安心は異色の存在だ。
「高価格帯(のPB)を継続することは難しいと思います。美味安心が続いているのは、私(三科社長)がずっとやっているからなんです。特に大きな会社になると、社長が代わるたびに方針が変わる。大きな会社になればなるほど、(新社長は)前者否定から始まってしまうものです。だから、オーナー企業でないとできないと思います」
消費の二極化、あるいはメリハリを付けた消費になっているなどと指摘されているが、その意味では、いちやまマートでは美味安心とEDLPを同時に強化することで、それに応えているといえる。
「だから、いちやまマートでは美味安心とEDLPの両方をやっています。ただ、美味安心のような(高付加価値の)商品をやっている企業はあまりない。開発したとしても、なかなか売れないからです。そもそも、それ(高付加価値の商品)を買うお客さまが来ていないと売れないわけです。
価格に反応するお客さましか来ていなければ、幾ら置いても結局、(売れずに品揃えから)なくなってしまう」
美味安心のような高付加価値の商品が売れる土壌を築いているからこそ、高付加価値とEDLPの両方の商品を売り込むことができているというわけだ。
「逆(低価格の商品を売る店に高付加価値の商品を導入すること)は難しい。そもそも高付加価値の商品を求めるお客さまが来ていないわけです。
売ったとしても、試しにちょっとだけ置いてみようということでは、売れるわけがない。根性を出して、多少ロスが出ても良いから、3年はがまんする、ということであれば売れてくるでしょう。その代わり(商品レベルをそろえて)生鮮でも良い物を置かないといけません。それが難しいんです。いちやまマート自身も結構苦労していますから」
苦労しても、それをやり遂げることが必要と考えている。それこそが、ローカルチェーンの生き残りの条件と考えるからだ。
「これからはディスカウント(店)同士の戦いになるでしょう。昨年末に店を回っていたら、ディスカウントでもすごく人が入っている店とそうではない店の差がびっくりするぐらいありました。それで改めて『やはり、ディスカウント同士の戦いになってきたな』と思いました。やはり、ディスカウントの敵はディスカウントなんですよ。
だからわれわれは違うやり方をしないといけないということです。逆に言うと『チャンスがある』ということでもあります。
実は、私がEDLPを始めた理由があります。当時、足元のお客さまが来られていなかったのです。安い店に行っているようでしたので、『足元のお客さまに来てもらわないとまずいな』と思って始めました。それで一番安いところを調べたらコスモス薬品でしたので、それでは価格を合わせようということです。
特に田舎では高付加価値の商品だけで成立させるのは難しい。だからといって安い物だけやっていれば血みどろの戦いになってしまう。だから(美味安心は)差別化になりますよ」

長野出店で分かった、きめ細かなMDの必要性
日本は人口減少局面に突入している。首都圏など大都市圏は人口が集中することもあって比較的人口が維持される見通しだが、その分、地方は急速に減少していくことが予想される。
日常の食を支えるSMは人口減少や高齢化の影響を強く受けるため、今後はまさに生き残りを懸けた競争といった様相を呈していくことになる。一方で、建築コストの高騰や人手不足の深刻化が表面化する中にあっても、大手企業を中心に出店攻勢は続いている。
地盤の山梨県から長野県への商勢圏の拡大も見られるいちやまマートとして出店をどのように考えているのか。
「現在15店ですが、いま店数を増やすことはできません。建築費が高過ぎます。いま新店を建てるところは、私からすれば大変だと思います。間違いなく損益分岐点が上がるわけで、それが何十年も続くわけですから。
改装は、今年7店舗くらいする予定です。私はむしろいまの時代は既存店の売上を2割伸ばした方が良いと思っています。そうして従業員の給料を上げていかなければいけない。それをしないと人が雇えない。ということは、新しい出店をするよりは、いまの既存店をリメイクしながら、MDももっと磨いて、客数を増やして、売上を10%、20%増やしていく方が結果的には良いと思います。
既存店を伸ばすといっても決して『守り』ではなく、『攻め』です。いまの約250億円の年商を既存店の売上を増やすことで300億円にすることを目指しています。改装で売上を伸ばせると思っています。
店は大体550坪から、一番大きい店で700坪くらいと大型店です。昔、300坪の店で50億円売ったことがあります。それに比べればまだまだ売り足りていません」

ローカルチェーンとして、既存店を磨き込むことで売上を高め、結果として商圏内のシェアを高める戦略といえる。今後のSM経営の方向性をどう考えるのか。
「大手は別にして、やはり中小企業は自分のところの個性を出さないと生きていけないと思います。特徴がないといけない。大手のまねをしていても、大手にはかないません。
いちやまマートの場合は、美味安心を中心とした味と健康への配慮、EDLPによる価格対応ということでその両軸、加えて地域MD。地方だからこそ、というものは結構あります。例えば近くのラーメン店のラーメンが売れるとか。
山梨と長野でも全然、違います。例えば米では、長野では山梨の米は売れないし、逆に山梨で長野の米は売れない。酒に至っては、同じ長野県の諏訪店(諏訪市)と岡谷店(岡谷市)でも違います。例えば諏訪店では「真澄」が売れ、岡谷店では「髙天」が売れるといったことです。山梨では当然、「七賢」「谷櫻」など山梨の酒が売れます。こういうことを細かくできるのが、ローカルスーパーの強みです。
実は失敗の経験も多いのです。例えば、うなぎを安く売ったとき、山梨はすごくたくさん売れるのですが、長野ではあまり売れない。「おかしいな」と思っていろいろ調べた結果、長野ではたれがたっぷり付いていないと売れないと分かりました。それでたれを2倍にしたら売れるようになりました。
なぜ、それに気付いたかといえば、長野で一番おいしいとされるうなぎ屋さんに食べに行ったら、たれがたっぷりだったのです。これはどれが「正しい」というわけではなないのです。地元でおいしいとされるものであることが重要です。それを否定してはだめです。どこまで合わせられるかは別にして、よりきめ細かいMDを組めるのがローカルスーパーの強みです。
正月のカズノコでも、山梨では塩カズノコは売れません。味付けカズノコでないと売れないのです。カズノコなどは本当に(違いが)よく分かる事例ですね」
「日常の食」という、地域性があり、かつ保守的とも考えられる商材の消費の最前線を担うSMが、地域のきめ細かな需要をすくい上げることがいかに重要であるかを物語る事例といえる。さらにその重要性は、商圏内のシェアを上げようとすればするほど増していく。
「日常の食」と一口に言っても、シェアの観点で見ればSMのビジネスはどこまでも奥が深い。そしてそれは、大手企業になればなるほど、追い切れなくなってしまうものだ。ローカルチェーンとして、ローカルチェーンだからこそ、いちやまマートはまさにそこに踏み込もうとしている。