「近所で生活費が節約できるお店」を磨き込む Genky DrugStores 藤永賢一社長
2025.06.03

目次
粗利率20%程度、坪当たり経費20万円で営業利益率4~5%
ゲンキーは、福井県を地盤に岐阜県、石川県、愛知県、滋賀県に470店以上のドラッグストアを展開。今期、2025年6月期の年商で2000億円超えが想定されるリージョナルチェーンである。同社が特徴的なのは、商品構成グラフの左側、つまり低価格帯の強化を目指すコモディティ商品のディスカウントフォーマットを志向すると同時に、店舗の標準化を徹底しながらチェーンストアとして急速に多店化を図っていることだ。
小商圏で高シェアを狙うフォーマットは、生鮮、惣菜を含む食品がメイン商材となり、非食品も高価格帯の商品を取り扱わず、さらに医薬品についても薬剤師が販売する第1類を取り扱わないなど、もはやドラッグストアというよりは小型の総合ディスカウントフォーマットの性質が色濃い独自のものになっている。
1988年にドラッグストアから始まった同社。この間、進化を遂げながら現在に至ったフォーマットについて、創業者で持ち株会社Genky DrugStoresの社長を務める藤永賢一(ふじなが・けんいち)氏の発言を通じてひも解く。
スーパーマーケット、ドラッグストアなどコモディティ商品をメインに取り扱う小売業では、値上げによる1品単価、さらに客単価が上がる一方で、客数が減っている企業が目立つ。その点、ゲンキーは「客数」を重視する姿勢を明確にしている。
「客数は、うるう年や土日などの影響をならすと、ずっと(既存店で前年を)超え、かつ売上も前年を超えています。客単価、1品単価に頼らないということをテーマにしています。客数が大事だということです。
トータル格闘技(総合的な戦い)の結果としての客数なので、例えば『この手で客数が伸びている』というのは、もう一言では全く言えないと思いますね」
客数を重視する中、客単価を「上げない」ことを意識しているのか。
「そういうことですね。ただ、値上げはしています」
値上げをすると1品単価、客単価が上がり、一方で客数が減る方向に向かうものだが、一体どういうことか。
「ナショナルブランド(NB)という発想だと、当然、値上げすると客数は減ります。しかしながら、それによってプライベートブランド(PB)との価格差が開くことで、(PBが売れ)平均1品単価を上げないようにしているのです。
それで(売上に占める)PB比率が上がり、粗利構造も良くなるので、NBの価格を下げる余地が生まれてくるわけです。つまり、『値上げ』の波を味方に付けているわけです」
半面、PBの値上げには慎重になっているということか。
「基本的には、為替などの影響でせざるを得ないこともありますが、NBの方が、値上げが激しいので、価格差は広がっていますね」
価格差が強調されることによって、相対的にPBに注目が集まるようになる。目標となるPB比率はどの程度のものになるのか。
「PB比率は上げていきたい。数量で40%、売上で30%の構成比を目指していますが、いまは数量で30%、売上で23%、24%くらいです」
長らく続いたデフレ基調とは異なり、インフレ基調に転じたいま、原材料費、コスト双方が高騰している。同じ品質でも売価の維持が難しくなる中、PBなど開発商品については、売価と品質に関して、それぞれのバランスをどう取るかという難しい判断が迫られる。
「PBについては、3000超ありますが、SKUを増やさなくても、ブラッシュアップして、磨き直ししていくことによって数字が上がっていきますね。いま3000超のSKUの半分が食品です。
価格を上げないだけでなく、品質も上げることを同時にやろうと取り組んでいます。ただ、用途は絞ります。例えば「香り付きの清掃用品」であれば、香りを抜くといったことです。一方で、(本来の用途である)清掃のレベルは落としてはだめです。界面活性剤のパーセンテージ、あるいは生地の厚みなどは絶対落とさない。
発注先を変えたり、仕様を変えたりしながら品質を落とさずに価格に柔軟性を持たせることができます。先ほどの生地でいえば、少し厚みがあるような仕様にするためにエンボスを入れるとか、こうしたことで意外とクリアできます。
価格は基本的には維持する方向ですが、値上げするケースもあります。例えば、為替の影響などはしょうがないですね」
NBとPBの価格差が広がっているというが、追求する価格差の目安はあるのか。
「カテゴリーによって違いますが、(価格差が広がるとはいえ)3割差を付けるのは本当に大変ですよね。1割5分とか2割はいいんですが、3割ぐらいになると『品質を落とさずに』というところで止まってしまう。ぎりぎりですが、3割安を実現できると必ず売れます」
ゲンキーの場合、PBの展開を単一ブランドとせず、カテゴリーごとにさまざまなブランドを設けた上で展開している。この理由はどこになるのか。
「(ゲンキーでは)新しい用途を加えるとか、プレミアムブランドとかいった(NBとは異なる付加価値を加えたPB)がありません。PBはNBの横で売るのが鉄則ですが、NBの真横で売るためには、NBとある程度デザインが近い方が良い。だから統一デザイン、統一ブランド名をやらない。こういう考えですね」
PBであるにもかかわらず、カテゴリーごとにさまざまなブランドを設けているのは、ドイツ発祥で、その低価格によって欧米の小売業界で存在感を増し続けているアルディなどを彷彿させる。アルディはベンチマークしているのか。
「そうですね。マーチャンダイジングは参考になります。あの品質で、あの価格でウルマートに対抗できるっていうのは素晴らしいですよね」
値上げ基調の中で、PBに追い風が吹いている状況が表れている。PBはNBに比べ粗利率が高い傾向にあるが、それでも原材料費などの原価、人件費、水光熱費などの経費が高騰していることは利益圧迫要因となる。
その点、ゲンキーは本業の儲けである営業利益率について、4%~5%を確保できている。
「営業利益率は順調に推移していけると思います。もともと粗利に占める割合で考えていますので(人件費の労働分配率、地代の不動産分配率、営業利益の利潤分配率などの分配率管理)、例えば粗利率20%で(利潤分配率の目安とされる)2割を取ると営業利益率は4%。これは下限だと思っています。
それで粗利率25%で2割の利潤分配率にすると5%となりますが、これが上限だと思っています。これ以上、取れないなと。だから営業利益率は4%~5%の間と考えています。
コストについては、例えば人件費のコストを下げるとなったとき、調整しやすいということで、世の会社はパート・アルバイトの人時を減らすんですね。それで正社員の人件費の増加分を賄おうとするんですけど、賄い切れないと思います。
だから正社員4人で運営しているお店を3人のフォーメーションに変えるといった形で、正社員の人数を減らす方法を考えないと、実際はPL(損益計算書)にインパクトは出ないです。正社員の数を変えずに、パート・アルバイトを減らしていっても、実際は(コスト吸収の)原資にはならないので、スーパーなども結局、コストアップ要因になっていってしまうということですね」
そうなると原価も上がる中、PBを活用しながら粗利率で20%程度を目安としつつ、営業利益のねん出を目指すことになる。その鍵となる経費については、坪当たりで「20万円」を維持することを目標としている。
「20万円はなかなか厳しくなりましたね。月次で見ていると21万円の月も出てきたので、じわじわ効いているなと。厳しいですが、がんばります」
そうなってくると坪当たり売上高を高める方向しかない。
「ベースはやはり、坪当たり売上ですね。それが保持できればいけます」
25年6月期第3四半期の坪当たり売上は130万5000円。23年6月期までは110万円台であったが、前期、24年6月期に127万5000円となり、その後もじわじわ上昇傾向にある。全般的なコスト構造の上昇を考えれば、この水準は少しずつ上げていく必要があるとみられる。
商圏人口が3000人でも成立するフォーマットに挑戦
企業によっては生鮮食品を含む食品を強化し、総合フォーマット化した「スーパードラッグストア」と呼ばれる業態を郊外に出店する企業は複数存在するが、ゲンキーもその1社といえる。競合と差別化し、来店動機を作り出すために品揃えの充実を図り、スーパーストア化(大型化)することで「600坪型」といった大型店を展開する企業もあり、実際、ゲンキーもメインの「300坪型」に加え、「600坪型」も出店している。
しかしながら、藤永社長は依然として「300坪型」がメインであるとする。
「入口の入り方は左右の違いがありますが、それ以外は入口からの動線も棚割りも、全て標準化した300坪型がレギュラー店(R店)で、売上の7割を占めます。
600坪はやはり大き過ぎます。(各社の出店競争と人口減少で小商圏化が進み)1店当たり(商圏人口が)6000人を割ってきたので、600坪は6000人で1店舗(成立させること)はちょっと難しい。600坪は(商圏人口が)8000~1万人は必要なので、もう300坪じゃないと成り立たないだろうと思っています。
建築単価コストの問題も大きいです。600坪だと4億円ぐらいかかります。昔であれば1000坪ぐらいの建物が建てられる額です。こうなると、もうちょっと600坪はきついですね」
ゲンキーでは商圏人口7000人で成立するフォーマットの構築を志向してきた。それが6000人を割るなど、確実に小商圏化が進んでいることが分かる。
一方で、300坪型でも建設コストは大きな負荷になるとみられるが。
「きついですが、圧縮して品揃えをして、何とか坪当たり売上(の向上)で建築費をカバーできる限界が300坪かなと思います」
一方で建築コスト高騰は出店の抑制にはつながらないのか。ここ数年コンスタントに30~50店を出店している。25年6月期はこれまでで最多となる54店の出店が計画されている。
「皆さん、(出店を抑制することは)ないみたいですね。だから、そう(出店抑制とは)言っていられない。しかも、ゲンキーでは居抜き出店はしません。柱の位置などが違うのは困るからです。300坪では1回も居抜き出店をしたことはありません」
レイアウト、棚割りやそれに基づくオペレーションなどを徹底的に標準化しているからこそ、建物を建てるところから手がける必要がある。その分、建築コストはかなり大きな影響がありそうだが。
「そうですね。1つは建築条件付きのデベロッパーを通さないで、自前事案にしていくことですね」

商圏人口が6000人を割るような状況というが、小商圏化はさらに進むとみられる。
「例えば能登半島地震の後などは、(現地は)すごく人口が減っています。もはやわれわれとしては低酸素運動の練習、高地での練習のような感覚です。いまは(商圏人口が)3000人ぐらいでも店を出しています。
結果的に能登では3000人ぐらいになっている店もあります。住民票としては残っていますが、実際は携帯電話の位置情報で見ると『いないだろう』という状態です。4割ダウンぐらいの人口になっているなど、そういったところでも黒字、昨対(売上)超えといったところに挑戦していくということですね。
ただ、4割ダウンとなると、成り立たないということで結構(競合)店が閉まるんですね。そこ(競合店がなくなることで、結果的に残存者利益を得ること)も実験の1つです」
3000人となるとコンビニの商圏人口並である。継続的に出店するためには、そういった商圏にも出店していくことなる。
「そうですね。いまは品揃え上、(ゴンドラ)エンドで単品大量陳列をしていませんが、これは小商圏(でワンストップショッピングができるようにする)のためのワイドアソート(品種を増やす)という意味も確かにあります。単品大量はディスカウンターに任せます」
磨き込んできた300坪型だが、トレンドなどを受けての変化はあるのだろうか。
「いま取扱商品数は1万2000SKUですが、食品の売上が7割を超え、HB(ヘルス&ビューティ)の(高粗利を生かし、食品を低価格で販売する)マージンミックスがだんだん効かなくなっています。食品の売上が増え過ぎているということです。
だから、食品の中でPBも含めてマージンミックスをしないと立ち行かない。これで(店全体で)20%の粗利でやろうとして、食品の粗利が(以前のように)14%だと計算が成り立たない。18%ぐらいはいるよねということです。現状の食品の粗利は17%ぐらいまで上がってきています」
食品、特に生鮮食品は非食品に比べて圧倒的に店内作業が多くなる傾向にある。ドライグロサリーは比較的非食品に近いものの、販売量が非常に多く、しかも重量もあり、消費期限、賞味期限も短い日配、さらに場合によっては加工、売り切りなどの作業が必要な生鮮食品などは販売の難易度がより高くなる。ノウハウの習得も含め、どこまで手がけるかはまさに経営判断ともいえる重大なテーマといえる。
ドラッグストア企業のスタンスはさまざまだが、ゲンキーの場合、生鮮食品、惣菜までを自前で手がけることに特徴がある。一方で、これらについては、品揃えはベーシックに特化、全てアウトパックで店内加工なし、発注は本部が行い、店は陳列するだけという非常に割り切った運営とすることで、ローコスト化に努めている。
「ただ、スーパーの良さというものもすごく大事だと思っています。最近では、作業に重荷にならない『スーパーの良さ』については取り入れています。
例えば、売り切りを定番(売場)でやらないといったことです。売り切りシールを散在させないわけです。鮮度イメージを悪化させない目的があると思いますが、スーパーでは売り切りコーナーをどこかの平台の端などに設けて売り切っています。
ドラッグストアは、そのまま(定番売場の中で)シールを貼ってしまうんですね。そうすると、『やはり、ドラッグストアだから日付が古いよね』と思われてしまう。だから、ゲンキーは1年ほど前から冷蔵ケース内に集約して売り切りコーナーを設けるようにしました。
『これは作業がそんなに増えないからやろう』とか、こういう手立てです。当然、出店スピードがスーパーとは違うので、『(加工などは)センターで全部やってしまって、店は単純作業だけ』というところについては、スーパーとは比較にならないぐらい簡単になっています。店内作業としては、日付が入っていないため野菜の目利きだけありますが、あとはもう大丈夫ですね。グロサリーと同じ扱いです」

上がる食品比率、下がる医薬品比率で進む「脱ドラッグストア化」
ゲンキーの場合、生鮮、惣菜については設立した子会社のゲンキー食品を通じて自前で手がけていることに特徴がある。全てアウトパックではあるが、小商圏化が進み、商圏内のシェアを高める上では重要な商材となる。
「そうですね。(直営で手がける青果の他に)惣菜、精肉、一部塩干についても自前(ゲンキー食品)でやっています。いま2カ所にプロセスセンター(PC)がありますが、3カ所目を計画しています。いまカット野菜やサラダに使う野菜については手がけておらず、全部仕入れていますが、これを何とかやりたいと思っています。弁当に入れるサラダもいまは仕入れで対応していますが、これを自社化するというわけです」
精肉については、仕入れを活用する企業も含め、ドラッグストアが手がけるケースは多いが、ゲンキーの品揃えの考え方は。
「牛肉はあまりやりません。豚、鶏メインで、あとはミンチ。牛をやると(ゲンキーがターゲットとする)日常から離れてしまうということです。非日常はスーパーに行って、日常はゲンキーに来てください、と考えました。『今日は牛肉で焼肉だ』ということでしたらスーパーにどうぞ、ということです」
精肉はスーパーマーケットでは利益貢献度の高い商品となっている。ゲンキーの場合は、利益という面ではどうか。
「厳しいです。売価を落としているので、特に鶏のムネやモモなどはやはり厳しいですね。あとはとにかく鮮度が重要だということです。ドリップが出たり、色が変わっていたりするような商品は買われないでしょうから、温度管理を徹底し、ドリップシートもより高品質なものに変えています。
精肉はD3(消費期限が製造日から4日目)、ミンチはD2(同3日目)ですが、物流から店内、庫内温度も含めて2℃ぐらい下げて、この1年でDを1日延ばしました。これでロスは減ります。
社内に品質管理部があって菌数検査もできます。その辺を整備しないとプロセスセンターは作れませんから。そこで基準を設けて日付を延ばすといったことを決めています」
仕様の変更などを柔軟にできるのは、自前で手がけているメリットといえるかもしれない。
簡便需要で、市場が伸びている惣菜についてはどうか。
「例えば、お昼休みの時間になると駐車場に車が増えてきて、車の中で(惣菜を)食べている人が増えます。こうした状況を見ていると、コンビニから少しシェアを奪っているんだなと思ったりしますね。
例えば、おにぎりは10円ずつ2、3回値上げをしましたが、100円を何とか切って(本体価格)99円。だたし、具材、米、のり、塩などはどんどんレベルを上げていっています。原価率は上がっていきますが、力を入れています。ドラッグストアのおにぎりとしては、絶対他社に負けないと思っています」
需要が増える中、惣菜のアイテムは増えていくのか。
「売場が狭いですからね。差し替えていくということになります」
一方で、各社強化している生鮮食品の冷凍の商品を含む、冷凍の商材についてはどのようなスタンスか。
「まだ、なかなかそこまで行っていない。例えば塩干の魚でも、サバぐらいであれば売れると思いますが、冷凍技術の問題もあって品揃えを増やすことはしていません」
ただ、いずれにしても食品の売上高構成比はさらに上がっていきそうだ。
「上がっています。毎年3%(ポイント)ぐらいずつ上がっています。特に上限は設けていないですが、仮に(売上高構成比で)9割になったら粗利率を19%ぐらいにしないといけない。これ(食品で粗利を確保する対策)は必須ですね」
日常消費を深掘りする中で惣菜も強化することで、結果的にコンビニからもシェアを奪うようになっているが、そもそもゲンキーが目指すフォーマットの姿はどのような表現で表すことができるのか。
「考え方としては『近所で生活費が節約できるお店』です」
まさにコモディティ商品に特化した、そしてあくまで「リアル店」であるということが端的に表現された言葉といえる。コモディティ商品に特化し商品構成の考え方はどのようなものになるのか。
「ずっと(商品構成グラフの)左寄せ(低価格化)でやってきているので、もうお客さまも分かっていますし、高くて良いものは求めてきません。お互いに分かっています。
例えば、サポーター売場の商品にコルセットがあります。他のドラッグストアに行くと1万円の商品が売られていたりする。その点、ゲンキーは、(単価が高い)腰痛コルセットは取り扱いません。お客さまに『なぜ、サポーター売場にないのですか』と言われますが、そこは切っています。
『用途が欠落する』ことになりますが、切ります。一定の売価を超えたら用途も何もないということです。他のドラッグストアに行ってくださいということですね。カテゴリーごとに違いますが、化粧品など売価の上限を決めています」
その用途のためにはそれしかないものであっても、5桁売価の商品は置かないということだ。
「食品だとカテゴリーによっては500円未満といったカテゴリーも結構ありますね。例えば菓子は500円以上の商品は置きません」
何かの需要に応じた品揃えではなく、あくまで「日常の買物をする際に節約ができる、便利な店」であることを徹底する。ドラッグストアではあるが、いわゆる「ドラッグストアらしさ」にはこだわっていないことが伝わってくる。ドラッグストアの核商品である医薬品の売上はどのような状況だろうか。
「下がってきます。それでいいと思っています」
門前薬局が処方せんを受け付ける「点分業」から、ドラッグストアなどに併設された調剤薬局が複数の医療機関の処方せんを受け付ける「面分業」への移行が進む中、調剤機能に注目するドラッグストアも少なくないが。調剤については。
「やりません。(登録販売者の制度が始まったことによる自然減で)薬剤師ゼロ名ですから。採用もしません。登録販売者は採用しますが、薬剤師の免許を持つ人が応募してきたら(手当を払うことがないので)逆に採用しないようにしています」
あくまでも第2類、第3類に特化する方針が明確だ。なぜ、そうするのか。
「粗利率の違うものを社内に持ち込むのは良くないと思っています。例えば、店の粗利率が32%あって、調剤で35%あるといった形であればよいのかもしれませんが、店の粗利率20%でやっている会社が35%のカテゴリーを入れてよいのかという話です。(薬剤師と他の従業員では)給料も違う。2つの文化を持ち込むということで問題が起きると思いますね。
『調剤を待っている間に買物をしてくれる』という考え方もありますが、本当に節約したいと思っている人は、調剤を出している間に別の店で買って、別の店の袋を持って戻ってきます(笑い)。競争が激しくなるというのはそういうことです。
本当に価値のある買物をしたいと思えばそうなります。『時間がないから(高くても)ここで買う』とはそう簡単にはいかないよと」
あくまでリアル店にこだわるが、普及してきたネット販売についてはどうか。
「以前やっていましたが、やめました。もうやりません」
販促施策についてはどうか。
「ポイントはやっていますが、やめたい。けれどやめられない(笑い)。他、ワントゥワンマーケティングも、アプリも、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)販促もやりません」
それでは、紙のチラシについては。
「基本は年4枚しか入れません。季節変わりに1回入れるだけです。新エリア、その市町村に初めて出るときは認知度向上のため、月1枚入れています。ただ、(商品の)お知らせだけですので、売変(売価変更)作業はありません。(チラシの日の集客は、他の日と)変わらないですね。やめられるかもしれない」
他方、レジについてはフルセルフレジ化を進める。
「そうですね。ただ、必要に応じてスタッフがセルフの向き、つまり、お客さまの横に並んで立って(お客の代わりに)レジの作業をするようにしています。ご年配のお客さまにはセルフレジに抵抗がある方もいらっしゃるので、『レジ打ちますよ』と声をかけて、『お願いします』と言われたら、いっしょに(セルフレジで)打つようにしています。
だから、そのためのセルフレジが1台あって、残りは全部セルフレジで、5台ぐらい設置します。そのため、全てセルフレジになる時間もあるということですね。
これによって3人分ぐらい省人化できます。24カ月以内に設備投資の元は取れます。それで5年償却とすればコストダウンにつながります」
個別の価格対応はしない、価格対応が必要な場所には出店しない
ゲンキーの場合、価格は全て本部がコントロールしている。一方で、競合の状況によっては個別に強化が必要な局面もあると考えられる。個店での価格対応はどうしているのか。
「基本しません。そもそも出店する際に、その場所が価格対応をせざるを得なくなりそうだったら出店しません。例えば、ディスカウンターが3店もある場所に出れば、初めから競合対策売価を出さないといけないと分かります。だから、そんな場所には出店しなければいいわけです。そこにいる人はみんな便利なんだから、もう店はいらないと」
逆に言えば、競合企業が出店しないような立地に出店できる、小商圏でも成立するフォーマットを造らなければならないということでもある。
「後から競合店が出てきた時は『しょうがない』と考え、個別の売価の対策はしません。そこで特別売価にして全体の粗利コントロールに影響が出ると困るからです。仮に特別売価にすることで競合状況をクリアしたとしても、それは全体に競争力を持たせることにつながらないと思っています。
ゲリラ戦対策に本部が動き出すと全体の力が弱くなるという考えを持っていますので、あくまで全体で戦う(全社で売価を下げる努力をする)ということですね」
EDLP(エブリデーロープライス、毎日低価格)を採用している企業でも、競合状況によって局地的に価格を強化する企業は多い。
「EDLPの考えが浸透すると、『全体で戦う』という発想になりますね。ハイ&ローの文化が残っているとゲリラ戦対策を行うということだと思います。A店とB店間でハイ&ローですから、EDLPではないということです。
EDLPは、じわじわ客数にも効いてくるものではないでしょうか」
EDLPを支える上では、インフラ面の整備は不可欠だが、物流、製造の拠点の考え方はどのようなものか。
「ゲンキーの物流拠点(RPDC、リージョナルプロセスディストリビューションセンター)は必ず、PBの在庫を置くDC(ディストリビューションセンター)、スルー(通過)型のドライTC(トランスファーセンター)とチルドTC、そこにPCを加えた4つの機能を1つの建物に集約しています。そうすると横持ちも発生しないし、その場で全部物流を一括でやろうという考えです。
いまは富山県小矢部市と岐阜県安八町の2カ所ですが、次は2028年に愛知県に3カ所目を造る予定です」
これから名古屋市をはじめとした愛知県を攻める意欲が伝わってくる。
「そうですね。まだ約150店と少ないので。ただ、街中はちょっと地代が厳しい。家賃の基準について、名古屋市の開発の条件を少し上げているのですが、家賃のウエートが上がると全体的なコストアップにつながるので、名古屋市だけはちょっと慎重に進めています」
名古屋市を抱える愛知県は東京圏、大阪圏に続く三大都市圏の一角を占める名古屋圏の中心。マーケットの厚さは出店戦略上も魅力的だ。
「名古屋市内はよく売れますね。密度が高いのと、(価格競争が郊外よりゆるいため)価格的にやはり有利になるのかなと思いますね。特に名古屋市内では全然、チラシを入れなくても客数が増えていきますので。(車ではなく)自転車だらけですね(笑い)」

今後の成長戦略としては出店の他にM&A(企業の合併・買収)の選択肢はないのか。
「そうですね。もし、スーパーなどで(M&Aを)検討するとすれば、立地、土地が使える場合は(更地にして建物を建て直しする形では)あるかもしれません」
あくまで標準化された店舗にするために建物を建てるところにこだわるということだ。
「店ごとにレイアウトが違っていたら、物流センターからの通路別納品ができないじゃないですか。ゲンキーは台車に組み付ける段階で、全て同一商品が同一通路になっている納品体制ですので、棚割りが標準化されていても、レイアウトが違っていたらだめでしょう」
調達や製造段階に踏み込む垂直のM&Aについてはどうか。
「垂直については、サラダを作っているメーカーさんなどはあり得ると思います。自社で設立するよりも、買収をした方が良いという考えもありますね。ただ、(買収先が)他社に販売しているものを残すつもりはない。自社専用にはします。
一方で、(製造については)コンサルタントのレベルが上がっていることもあって、1年間ぐらい指導してもらうとできてしまうこともあります。マテハンが進化していることもあって、ノウハウと機械を入れた上でトレーニングをすると自前でできてしまう。だから、どうしても買収しなければいけないわけではないです。むしろ、買収したとしても古い機械で、古いやり方でやっていたりすると、それはノウハウとも言えず、考え物ですね」
フォーマットとしての小商圏化を進めつつ、標準化した店の出店を重ねるゲンキー。藤永社長は日本の将来の姿をどう見ているのか。
「日本のこれからの状況を考えると、本当に暮らしにくくなっていくと思うんですよ。格差が広がったり、人口が減ったり、国際競争力が落ちていったりする中で、残された1億人がどうやって生きていくかということですね。
今後人口は8000万人になって、さらに5000万人になるかもしれませんが、日本人の暮らしは厳しくなっていくと思います。特に、入社したばかりの人にしてみると、この先40年後のことは本当に分からない。混沌としていると思うんですね。ただ、そういった中でも店は絶対必要で、それを誰かがやらないといけない。それをわれわれが担えるようにするということです。
いきなり人口が増えたり、政府の借金がなくなったりといったことはないので、悪くなることを前提とした戦略を組み、そこに生き残りをかけていく。そこにチェーンストアとしての社会的な使命を果たしていくということに、若い社員が迷わずに進んでいける、お客さまに『一軒、残っていてよかった』と言ってもらえる、そういった会社にしていく必要があると思います」
一方で、人口減の日本での展開に限界を感じ、新たなマーケットを求めて海外進出をする企業もあるが、ゲンキーは。
「海外での展開は考えていません」
あくまで日本国内を舞台に、どこまでの小商圏化を果たせるか。どれだけ少ない人口、売上でフォーマットを成立させることができるかの挑戦を続ける。
「低損益分岐点で運営できるかが求められます」
まさにどこまで耐えられるかの世界である。マーケットの厚い愛知県の出店を進めつつも、どれだけ商圏人口が少ない立地に出店できるかの小商圏化の戦い、最後の1人になるための総力戦は続く。