マーチャンダイジングとは?|5つの適正や種類、実践方法について解説

2023.06.08

2022.02.02

小売業や流通業において売上や集客力を上げるポイントの1つに、店舗づくりがある。店舗づくりと深くかかわってくる施策が「マーチャンダイジング」だ。売上げを最大化し、集客力を上げる店舗づくりには、マーチャンダイジングが重要な役割を担っている。英語を略して「MD」と表現されることが多い。

この記事では、マーチャンダイジングの概要と目的、マーチャンダイジングの種類、実践方法、企業のマーチャンダイジング実例について解説する。店舗での施策のヒントとしてぜひ参考にしてほしい。

マーチャンダイジングの概要と目的

マーチャンダイジングの概要と目的を解説する。

マーチャンダイジングとは

マーチャンダイジング(Merchandising)とは、「商品計画」「商品化計画」「商品戦略」を指す。顧客へ適切に商品を届けるため、または商品を手に取ってもらうための戦略的な活動全般がマーチャンダイジングと呼ばれている。

マーチャンダイジングは小売業や流通業に大きくかかわる重要な用語である。

マーチャンダイジングの5つの適正

マーチャンダイジングは品揃え、価格設定、企画開発と商品に関する計画からレイアウトなど店舗に関する計画や戦略まで多岐にわたる。設定したターゲット(顧客)へ商品を届けるための戦略全般を指すため、マーチャンダイジングの具体的な手法や戦略は明示されていない。

マーチャンダイジングを実践する上で重要となるのが、「マーチャンダイジングの5つの適正」だ。アメリカマーケティング協会が定義した適正で、以下の5つの適正を踏まえることでマーチャンダイジングの実践につなげられる。

・適正な商品…ターゲットや市場のニーズに合った商品を取り扱っているか

・適正な時期…時期にふさわしい商品を仕入れているか

・適正な場所…顧客が手に取れる場所にあるか

・適正な数量…ターゲットや時期を考慮した販売数量となっているか

・適正な価格…商品に見合う適正価格が提示されているか

マーチャンダイジングの目的

マーチャンダイジングの目的とは、小売業における店舗にて、商品の訴求力と価格競争力を向上させることだ。マーチャンダイジングで提示されている5つの適正を実践することで、売上げや集客力のある「売れる店舗」づくりにもつなげられる。

「マーチャンダイジングで提示されている5つの適正はすでに自店舗で実践済み」と考える売場や店舗担当者もいるだろう。

その場合でも、マーチャンダイジングの5つの適正に沿ってポイントを1つずつ見直すことで、見落としている店舗の問題点や売上アップのための改善点が見つかることもあるだろう。

マーチャンダイジングとマーケティングの違い

マーチャンダイジングと混合されやすい言葉に、「マーケティング」がある。マーケティングとは、商品やサービスを売るためのシステム作りや手法のことだ。

マーケティングはシステムや手法を構築することが重視されているのに対して、マーチャンダイジングは、「商品や店舗が適正であるか」というポイントが重視されていることが異なるポイントとなる。

小売業や流通業では、マーチャンダイジングによって商品や店舗が適正な状態でないと、売上げや集客アップにはつなげられない。

たとえば、広告を出すなどの販促活動を行って店舗への集客が望めても、「欲しい商品がない」「商品が見つからない」「価格が高い」など商品や店舗の状態が適正でないと、販売機会の損失につながるだろう。

商品や店舗といった「塊」を適正な状態とすることが、マーチャンダイジングの重要な役割であることから、小売業や流通業においてマーチャンダイジングが特に重要視されていることが分かるだろう。

マーチャンダイジングの種類

マーチャンダイジングを手法ごとに分けると、大きく3つに分けられる。代表的な3種類のマーチャンダイジングについて解説する。

ビジュアルマーチャンダイジング

ビジュアルマーチャンダイジング(Visual Marchandising)とは、ターゲットの視覚に訴えかけるマーチャンダイジングの手法のことだ。VMDとも呼ばれている。ターゲットが商品を手に取りやすい状態であるか、または購買意欲をかき立てるディスプレーやレイアウトまで含めた商品開発上の総合的な手法を指す。

ビジュアルマーチャンダイジングを構成する具体例には以下の手法がある。

・商品をコーディネートしたマネキンをディスプレーする

・ターゲットの目線や動線に合わせた位置に商品を陳列する

・クリスマス、お正月など季節やイベントに合わせた飾り付けをする

・店舗のインテリアコーディネートをする

・店舗のカラーリングを考える

・ターゲットの目を惹くPOP広告を置く など

クロスマーチャンダイジング

クロスマーチャンダイジング(Cross Marchandising)とは、相乗効果による購入を促す手法を指す。クロスMDとも呼ばれている。異なるカテゴリー同士の商品でも、陳列を工夫したり、会計時にお勧めしたりすることで組み合わせ購買を促し、「ついで買い」してもらうことを狙う。

クロスマーチャンダイジングの具体例として、以下の組み合わせがある。

・精肉+焼肉のたれやステーキソース、スパイス

・酒+つまみ

・電池式製品+電池

・靴+シューズクリーナーや防水スプレー など

ライフスタイルマーチャンダイジング

ライフスタイルマーチャンダイジング(Lifestyle Marchandising)とは、ターゲットのライフスタイルに着目したマーチャンダイジングの手法を指す。1つのコンセプトを決めて、ターゲットに対して複合的な商品販売やサービスの提案が可能となる。複数の分野の商品を取り扱うことで、顧客の客単価アップが期待できるだろう。

ライフスタイルマーチャンダイジングの具体例として、以下の組み合わせがある。

・美をコンセプトにする→美容院+エステ+ネイルサロン+化粧品を組み合わせたトータルビューティーサロン

・育児をコンセプトにする→子ども服、おもちゃ、学用品、妊娠出産グッズ、ベビー用品などを組み合わせた育児用品店 など

3種類あるマーチャンダイジングの手法は、複数を組み合わせて実践することも可能だ。

マーチャンダイジングの実践方法

マーチャンダイジングを実践するには、前述の「マーチャンダイジングの5つの適正」に沿った商品の企画や在庫管理、陳列、レイアウトなどが必要になる。

5つの適正ごとにポイントを絞って実践すれば、効率良くマーチャンダイジングが実践可能だ。5つの適正に沿ったマーチャンダイジングの実践方法を解説する。

ニーズを把握した上で品揃えをする

マーチャンダイジングにおける基本でもあり、最も重要なポイントが「適正な商品」だ。ターゲットや市場のニーズに合致した商品をそろえなければ、販売機会にはつなげられない。適正な品揃えにするには、ターゲットや圏内市場の持つニーズを把握し、商品の企画や仕入れ、商品計画に生かさなければいけない。

ターゲットや市場のニーズを把握した上で、店舗で取り扱う商品やアイテムを決定していこう。

在庫リスクを回避する仕入数量

当たり前のことだが、商品の仕入数は、市場調査をもとに適正な数量を設定することが重要だ。店舗で多くの在庫を抱えるのは在庫管理業務を煩雑にするだけでなく、倉庫を圧迫するなど多くのリスクがある。

商品の展開時期に合わせて仕入時期を決める

商品の仕入時期は、「適正な時期」を踏まえた上で決定する。商品を展開するベストな時期を決定してから、合わせて仕入時期を決めることが重要だ。商品を展開するベストな時期は、夏や冬などの季節の他、月初めや月終わり、曜日なども踏まえて決定する。

ターゲットと合致する場所選び

取り扱う商品や仕入数はターゲットや市場のニーズに合ったものとするのは重要だが、店舗の場所もターゲットに合ったものにしなければいけない。

たとえば、主力商品やコンセプトがファミリー層や主婦向けのものにもかかわらず、出店場所がオフィス街では集客は見込めないだろう。出店場所や仕入れ場所もターゲットや商品を踏まえて選定しよう。

ゴールデンゾーン、動線やクロスMDを踏まえて陳列をする

顧客が商品を手にする、見つけやすくすることで販売機会の増加につながる。一般的に人に対して75〜135cmの高さは「ゴールデンゾーン」と呼ばれ、顧客の目にとまりやすく、手に取りやすい位置となる。

ゴールデンゾーンの設定は「ターゲットの身長のマイナス15~60cm」が目安となるため男性、女性、高齢者、子どもなどターゲット層によって異なる。ターゲット層に合わせたゴールデンゾーンを設定して陳列しよう。

ゴールデンゾーンに置く商品も、自社製品を置く以外にも、ナショナルブランドメーカーの商品を置く、季節限定商品など時期に合ったものを配置するなどの選択肢がある。どの商品を置くかによってゴールデンゾーンの活用方法は異なってくるだろう。

顧客が店舗に滞在し、商品を決めるまでの時間は長くない。取り扱っている商品の数や種類が多い店舗でも、顧客はすべての棚を見て回るわけではない。顧客が店舗に滞在しているときの回遊動線を把握した上で商品の陳列をするのも重要だ。

ついで買いを狙ってクロスマーチャンダイジングを取り入れた陳列をするのも有効だ。単体では売れ行きが良くない商品同士を、クロスマーチャンダイジングによって組み合わせることでついで買いや購買意欲につながる可能性もある。

商品を魅力的に演出する

ビジュアルマーチャンダイジングにおいて重要なポイントは、商品の魅力を発揮できる演出だ。ただ商品を陳列するだけでなくレイアウトや照明、カラーなどにも着目して商品が魅力的に映る演出をしよう。

アパレルショップの場合はマネキンにコーディネートした商品を着せる、家具店の場合は他の家具と配置して1つのインテリアとして完成させるなど、商品の具体的な活用を踏まえた演出をすると、より商品を魅力的に見せられる。

店内外両方でプロモーションを行う

販売促進活動であるプロモーションは、店外で行うもの、店内で行うものがある。店外でのプロモーションは来店を促す、店内でのプロモーションは購買を促す目的で行われる。店内外のプロモーションを使い分けることで、より多くの販売機会を得られるだろう。

主な店外プロモーションは以下のとおり。

・看板

・チラシ

・店舗のホームページ

・SNS(ソーシャルネットワーキングサービス) など

主な店外プロモーションは以下のとおり。

・商品POP

・プライスカードやショーカード

・実演販売

・店員からの提案やお勧め など

戦略的な値付け

商品ごとに適正な値付けを行うのも重要だ。

売れ筋商品や季節商品、主力商品など商品ごとの特徴を踏まえて値段を設定しよう。季節商品、旧モデルなど販売機会が失われた商品に対してもただ値下げをするだけでなく、他の商品と合わせた提案にする、福袋にするなどの戦略によって必要以上の値下げをしなくても良くなる可能性もある。

マーチャンダイジングの事例

マーチャンダイジングを実践している企業や店舗の事例を紹介する。

スーパーマーケットの店頭に献立表を掲示

ある店では店舗の入り口に、近隣の小中学校の献立表を掲示する取り組みを行っている。顧客は給食と夕食のメニューが重複してしまうのを防げるための他、家庭での献立決めにも活用できる。

メニューに使われている食材も記載されているため、家庭でも栄養バランスの取れたメニューを取り入れたいという家庭のニーズも充足できる。

同じ取り組みを取り入れるスーパーマーケットも少なくない。献立メニューに使用されている食材をまとめて陳列するなど、クロスマーチャンダイジングと組み合わせての施策も可能だ。

ドン・キホーテの「圧縮陳列」

迷路のような店内、天井に届くまでの「圧縮陳列」、手書きによるPOPなどインパクトのある売場づくりに成功しているのが「ドン・キホーテ」だ。顧客が商品を選ぶ、探す楽しみを体験できるマーチャンダイジングの事例といえるだろう。

IKEAのシーン提案

「寛ぎのリビング」「子ども部屋」「一人暮らしのワンルーム」などコンセプトごとにインテリアシーンを実現しているのが「IKEA」。家具の事例を提示したビジュアルマーチャンダイジングと同時に、複数の家具やアイテムを組みわせることでクロスマーチャンダイジングを実現している。

売上げを最大化するマーチャンダイジングを実現しよう

マーチャンダイジングの概要と目的、マーチャンダイジングの種類、実践方法、企業のマーチャンダイジング実例を紹介した。

集客や売上げが伸び悩んでいるときは、取り扱う商品やレイアウト、価格設定などに問題がある可能性がある。

マーチャンダイジングの5つの適正に沿って商品や売場、レイアウトを見直すことで、改善のヒントが見つかる可能性も高い。売場の活性化や売上げの最大化を実現するためにも、改めて日々のマーチャンダイジングについて見直してみるのも良いだろう。

編集長竹下より

マーチャンダイジングは、小売業の基本ともいえるような重要な言葉である。一般的に、小売業は店舗、あるいはオンラインチャネルの場合はウェブ上のプラットフォームで商品を販売する機能を担っている。

その商品に関するもの一切をマーチャンダイジングの1語に集約することができる。小売業にとっての商品はメーカーにとってのそれと異なり、「組み合わせ」であり、さらに実際に「販売するまで」を担うことになることからその内容は多岐に渡る複雑なものとなる。

企業として直接マーチャンダイジングを担当するバイヤー、あるいはマーチャンダイザーは調達から販売までどのように設計するか、その技術が問われることになる。また、一般的にはメーカーはマーケティングを磨き、小売業はマーチャンダイジングを磨く、といった区分けで考えると良いだろう。

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