コンビニ3社「今期の戦略」 第2回ファミリーマート
2025.04.07
ここ数年、発信の勢いという観点で、「ファミリーマートはコンビニで随一」と感じる人は多いのではないか。実際、同社ではそれを意図的に仕掛けている。「数多くの施策を打ち、それをあらゆるメディアで伝える」、販促の総合化とでも呼べる作戦である。今期もその方針は変わらない上、さらに進化させるとしている。
ファミリーマートのマーケティングの方針は5つのキーワードを掲げ、それに基づいたキャンペーン、コミュニケーションを実施しながら、店舗への来店を促すというもの。21年度から4年間に渡って実施してきた。
統括するのはP&Gやコンサルティングファーム、日本マクドナルドなどで実績を残してきた足立 光氏だ。足立氏は現在、ファミリーマートでエグゼクティブ・ディレクターCMO(兼)マーケティング本部長CCRO(兼)デジタル事業本部長だ。CMOはチーフ・マーケティング・オフィサー(マーケティング担当)、CCROはチーフ・クリエイティブ・オフィサー(新規事業担当)の略である。

マーケティング方針を「5つのキーワード」に集約
5つのキーワードとは、「1 もっと美味しく」「2 たのしいおトク」「3 「あなた」のうれしい」「4 食の安全・安心、地球にもやさしい」「5 わくわく働けるお店」の5つ。
足立氏は、「この5つの特徴に沿ったキャンペーンなどを矢継ぎ早に行うことで、ファミリーマートに『わざわざ行く理由』をたくさん作って、それらのキャンペーンなどについて話題になる、尖ったコミュニケーションを制作し、全てのメディア、すなわちオウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアをフルに使って話題化して、お客さまに認知していただいて、ご来店いただく」と、その中身を説明する。
メディアは、それぞれオウンド(自社)メディアはアプリ、ホームページ、店内放送、レジ液晶、レシート、サイネージなど、アーンド(稼ぐ)メディアはPR、パブリシティ、「X」その他のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)など、ペイド(広告)メディアはテレビ、デジタル、新聞、ニュースサイト、他社アプリなどとなる。
多くの施策を打ち出し、それを多くのメディアで広げるといった形が見えてくる。また、最終的な目的を商品の買い上げなどではなく、店舗への「来店」に置いていることは大きなポイントといえる。店舗を1つの製品のような塊と見なし、そこに対する支持の拡大を目指すことがマーケティング活動の目的となっている。
足立氏は、「マーケティングだけでなく、商品や営業の変革も含めて」と強調するが、実際、業績は好調に推移。「『再成長を実現する3年間』を掲げた中期経営計画が24年度で締まった。コロナ禍からインフレへと世界中が激しく変遷する3年間ではあったが、既存店日商は期間中の36カ月、期間前から数えると42カ月連続で前年を超えて推移した」(細見研介社長)
新たな期を迎え、細見社長は「チャレンジする方のコンビニ」という姿勢は新年度を迎えても変わらないと強調した。「ますますパワーアップして、『あなたとコンビニファミリーマート』を追求していきたい」(同)する。
キーワードは変えず、それぞれを進化させる
マーケティング施策についてもこれまでの方針を大きくは変えないが、さらに進化させるとする。
まずは、1つ目のキーワードの「もっと美味しく」に関して、「おいしさで『本格感』を打ち出していく」(足立氏)。
第1弾として「おむすび」(ファミリーマートではおにぎりではなくおむすびに統一)で新作として人気専門店の「ぼんご」監修の商品を展開する他、名作として定番手巻きおむすびの1.5倍をうたう「大きなおむすび」を展開する。
今期第1弾のキャンペーンは、大谷翔平選手をおむすびアンバサダーに起用した「おむすび二刀流、解禁。」。「訴求していきたい本格感という意味で、世界のトップオブトップの大谷選手以上の方はいないんじゃないか。日本中の皆さまと共に大谷選手を応戦して、大谷選手が活躍したらファミリーマートに行こうという流れを作っていければと思っている」(足立氏)

また、25年度も引き続き「スイーツのファミマ」を訴求していく。昨年展開したカテゴリー横断企画を、今期は毎月実施し、「常に話題がある状態」を作る。
また、他のカテゴリーのパン、チキン、調理麺でも「本格感」でのおいしさにこだわったリニューアルや新商品を用意しているという。
2つ目のキーワードの「たのしいおトク」については、特別感を進化させる。業界の増量企画の先駆けとなった「40%増量」や「1個買うと、1個もらえる」などで「ファミマはちょっとお得ということを訴求してきた。今年は来店回数とお買い上げ金額によってどんどんお得になるファミマメンバーズプログラムの特典を拡充することで、ファミリーマートでお買物をすればするほどお得になる仕組みを、特にファミペイのユーザーに対して『特別』と感じていただけるように強化していく」(足立氏)。
自社のコード決済であるファミペイユーザーはファミリマートにとってはロイヤルカスタマーといえる。だからこそ、一般とは異なるメリットを提供することが重要になる。3月25日からは、新規取り組みとして「ふるさと納税」を開始したが、これもファミペイユーザー限定となる。
3つ目の「「あなた」のうれしい」については、「コラボ・エンタメ」の両面で進化させる。コラボレーションは昨年までも実施してきたが、例えば3月からスタートしたブラックサンダーとのコラボは昨年も実施したが、商品ラインアップをかなり増やしたり、今後は驚きの新ブランドとのコラボも予定されているということで、質量共に大幅な進化が期待できそうだ。
ファミリーマートの独自性を最もよく示す事例といえる「コンビニエンスウェア」についても、コラボを重視。昨年はポケモンスリープ、フジロックフェスティバル、雑誌と衣料品を手がけるカウラムなど幅広いブランドとのコラボを実施し、話題となった。今年は市場規模の大きいレディスのアイテムを強化すると共に複数のカテゴリー横断のコラボも用意した。
「キャラクターコラボはファミリーマートの特徴の1つになってきた」(足立氏)
「押し活」のプラットフォームとしての「店舗の聖地化」
また、大きなトレンドになっている「推し活」に対し、エンタメ路瀬の強化の一環として、まずはファミマプリントとしてサポートしていく。押し活の対象としては全国的なキャラクターやコンテンツだけではなく、地域で人気のグループやコンテンツ、スポーツチーム、さらに個人にまで拡大していく。
今回の大きな特徴は、個人が自分の作品を全国ファミリーマートのファミマプリントを通じて販売できること。「押し活の新しいプラットフォームに進化していく」(足立氏)ことになるという。
さらに、押し活強化の一環として、「店舗の聖地化」を促進していく。コンテンツやラッピングなどを店ごとに多様化し、「わざわざそこのファミマに行く理由」を提供する。公共料金や税金などの支払いに、宝塚歌劇やプリンスアイスワールドのチケットが当たるキャンペーンを付け、大変好評だったことから今年もこの路線を継続強化。「払い込みのお支払いでも、ファミマをわざわざ選んで行く理由を作っていく。税金を払うのもエンタメにしてしまおうということ」(足立氏)
また昨年、ファミリーマートとして初めて25年の福袋をネットで販売したところ数時間で売り切れるほど好評だったこともあって、ネット販売を「ファミマオンライン」としてリニューアルし、強化していく。
ただし、「世の中にはたくさんのEC(電子商取引)がある。だから普通のことはしないし、普通のものは売らない。ファミリーマートだからできる『とっておきの商品』、また、『わくわくする楽しい商品』などを中心に販売していく。つまり、「あなた」のうれしいというコンセプトをエンタメ路線で展開し、店舗の外でも売上げを挙げていこうということ」(足立氏)。

4桁を超えるチェーンストアとして来店動機に徹底的にこだわりつつ、さらに店の外であるオンラインにも踏み込むなど、じわじわ拡大する状況は小売りのマーケティング事例として非常に注目すべきといえる。