イトーヨーカ堂がONIGOと資本業務提携し新たなネットスーパーを開始、撤退を決めた既存ネットスーパーを代替へ
2024.12.11
2024.12.10
ネットスーパー事業からの撤退を表明していたイトーヨーカ堂が、外部のプラットフォーマーのONIGOと組む形で実質的にネットスーパーを継続することになった。12月5日、2025年2月から新デリバリーサービスを開始すると発表した。
ONIGOは店舗の商品を近隣に届けるクイックコマース事業を展開している。イトーヨーカ堂はこれまでも同社と協業していたが、今回は資本業務提携に踏み込む他、サービスの内容も一般的なネットスーパーに近づける形で大幅に強化される。
もともとイトーヨーカ堂がネットスーパーに参入したのは01年。葛西店(東京・江戸川)で店舗出荷型のサービスとして開始した。
その後、「順調に店舗数を拡大し、売上げも伸びてきた」(伊藤弘雅・イトーヨーカ堂取締役執行役員商品本部長)が、ニーズが大きくなるにつれ、さまざまな課題が浮かび上がってきた。
増加する注文数に対して、配送キャパシティが不十分になってしまっていること。また、店とネット注文のニーズの差による専用商品の要望。さらにオペレーションの増加による店舗の負担の増加などである。
そうした過程で、ネットスーパー専用センターを設けた「センター型を目指すべきだろうという構想が持ち上がり、センター型の方向に舵を切っていった」(伊藤本部長)。
そのセンター型ネットスーパーの拠点として、23年、約30km圏内を配送エリアとし、店舗数では36店分の配送能力を持つ大型拠点の「新横浜センター」(横浜市都筑区)を立ち上げた。それに伴って新横浜センターからスポークと呼ぶ近隣の店に配送し、そこからエリア内に効率的に配送する運営を築いた。
しかし、その中で店舗出荷型とは別の課題が浮かび上がってきた。センター型になったことで配送のキャパシティが増えた一方で、惣菜や寿司の取扱可能商品が減ってしまった他、決済手段の多様性を含むアプリの使い勝手にも改善要望が上がってきていた。
また、そもそも、センターの設置には大きな投資を必要とすることから減価償却を考えると短期的に事業として黒字化するのは困難なビジネスであることも横たわっていた。
そうした中、イトーヨーカ堂全体として業績がなかなか向上しないことも相まって今上半期、同社はネットスーパー事業からの撤退を決定。「センター型のネットスーパーをやめるという、本当に苦渋の決断をわれわれとしてはした」(伊藤本部長)。
特別損失を458億円計上し、店舗出荷型も含めた形で25年2月までにネットスーパー事業から撤退することになった。
ONIGOのスピードと事業開発力に感心
セブン&アイグループの再編など大きな動きが続く中、「ネットスーパーからの撤退」は大きなインパクトとして報道でもかなり話題になった。そうしたこともあってか、その後、お客から継続を求める多数の声が届いたという。
「われわれはお客さまの声に対して、お客さまのお困りごとに対して応えられる、そしてビジネスとして継続的にやっていける方法がないのかということについてわれわれ役員、そして現場のメンバー一同でもう一回考えた」(伊藤本部長)
その結果が今回のONIGOとの取り組みにつながった。既存のネットスーパーについては25年2月に向けて拠点ごとに順次サービスを終了していくが、それを補うような形でONIGOのサービスを強化する。
もともとONIGOとは、統合前のヨークで22年3月に西馬込店(東京・大田)で約1.5km圏を想定した2080品目での実験を始めて以来、協業を続けてきている。「これまでも2年以上、いっしょにパートナーとしてサービスを提供してきたが、一歩踏み込んだ形で新しいサービスを2社で作っていくということになる」(伊藤本部長)
23年10月には、イトーヨーカ堂とヨークの合併に伴ってイトーヨーカ堂での展開も開始。ヨークはスーパーマーケットだが、イトーヨーカ堂については木場店(東京・江東)、大森店(東京・大田)という大型店での実験ということで、取扱品目の拡大も目指した。
「最初は限られた在庫の中でやっていくことが効率的であろうということでスタートしたが、やはりお客さまの買物ニーズに応えるには、ある程度商品の幅がある方が良いという結論になった」(伊藤本部長)
つまり、同社としては既存のネットスーパーを展開しながら、クイックコマースとして普段の買物をサポートする「ネットスーパーのような」サービスを模索してきたことになる。その際、「事業性の部分で、われわれ1社では解決できないことでも、ONIGOといっしょであれば解決できることがたくさんあると気づかされた」(伊藤本部長)という。
イトーヨーカ堂は商品供給に特化し、ピッキング、配送、またシステム面をONIGOが担う形で強みを掛け合わせることがメリットであると認識されたわけだ。
伊藤本部長としては特にONGO側のスピードと事業開発力に感心したようだ。「この2年半の間、かなりいろいろな実験をしてきたが、単に最初に決めたことをやるだけではなく、うまくいかなかったときにそれをピボットしながら(やり方を変えながら)変えていく。そしてどうしたら事業性が保てるのか、お客さまに満足してもらえるのかということで、本当に柔軟に、そしてスピーディに変えられることが、これほどいいことなのかと思ったし、いっしょに変えてきたと私は思っている」(伊藤本部長)
24年4月段階では取扱品目数は生鮮などの食品の他に日用品、文具、肌着を含む最大約8000品目にまで拡大した。そして今回の新サービスへの強化につながる。
取扱品目を9000にまで拡大、主要2000品目は価格改定
今回、新サービスでは取扱商品数は日用品に加え、乳幼児・ペット用品も含む9000品目まで大幅に拡充される他、生鮮食品を中心に主要2000品目について大幅な価格改定を12月7日から実施。
クイックコマースはピッキングや配送の作業がある分、基本的には店頭価格と比べ高めの価格設定がされているのが一般的だが、今回、同社が「スーパーマーケットの店頭同等の価格」(伊藤本部長)とする「できるだけお買い得な価格」(同)に設定することで、「スーパー価格ですぐ届く」とのコンセプトの新デリバリーサービスに再構築することにした。
それに伴って、11月27日付でイトーヨーカ堂とONIGOの両社が資本業務提携に基本合意するなど、提携をより深いものにした。「今回、やはりお客さまに日常のお買物で使っていただきたいということが一番。店頭価格と全くいっしょというわけではないが、それに近いような、できる限りお買い得な価格で提供したい」(伊藤本部長)
主要2000品目の価格については先立って変更していくが、実際に新サービスが開始するのは25年2月上旬の予定。その際にイトーヨーカ堂以外の企業も入る既存のONIGOアプリに加え、「ONIGO上のイトーヨーカドーネットスーパー」のアプリも立ち上げる。
既存のネットスーパーは25年2月中~下旬にかけて順次、終了していくが、ちょうど補うタイミングでの開始とした。
また、今後、単にネットスーパーの後継の位置づけを超えたサービスの構想もある。介護や医薬品といった分野に加え、ザ・ガーデン自由が丘、アカチャンホンポなど専門店の商品などにも対象を広げていき、当面は2万品目超の取扱品目数を視野に入れる。
さらにインターネットやアプリといった接点を持つ強みを生かして、リテールメディアといった分野も、メーカーと協業しながら模索していきたいという。
今回はあくまで対生活者向けのB2Cであるが、将来的には介護施設など対事業者向けのB2Bのビジネスにしていくことも目指すという。
まずは事業を継続できる体制づくりが大切
ONIGOは、基幹システムの他、ユーザー向けアプリ、ピッキングシステム、配送アプリなどをあくまで自前で構築することにこだわってきた。作業者の生産性を高めたり、顧客体験を良くしたりすることに注力し、自前ならではの細やかさで改善を繰り返してきたことが大きな強みとなっている。
また、配送についても、自前の人員に加え、例えば22年5月から連携を開始したUber Eatsといった、いわゆるギグワーカーを活用する外部パートナーとも連携。柔軟な態勢を築くことで、需要の変動にも効率的に対応できるとする。さらにこうした外部パートナーに関しても、1つのピッキングアプリで対応することができているという。
ただし、ネットスーパーで肝となる在庫管理については連携を強化していく過程にあり、現在では一定の時間でのバッチ処理となっている。今後はいかにリアルタイムに近づけるかの模索が続く。
伊藤本部長は今回の取り組みについて、次のように語る。「われわれとして事業を継続的に行えるような体制にしていくことが大切だと思っている。その上で、店舗のある地域のお客さまに対して日常のお買物を提供していくのがわれわれの商売だと思っている」
自前では継続できなかったビジネスを他社と組むことで継続、発展を目指せるビジネスにしていきたいということだろう。
新サービスはイトーヨーカドー83店、ヨーク10店の合計93店に導入される見込み。閉店が続く同社だが、関東、中京、関西を含む各地域のイトーヨーカドー店舗の多くに導入されていくものとみられる。
「特に首都圏においては約12兆円の食品のマーケットがある中で、われわれの店舗を起点に約5kmで円を描いていくと10兆円ぐらいの規模感のマーケットがある。小さい店舗では基礎商圏で1kmぐらいだが、少し広げた2~3km、さらに5kmまで含めた地域のお客さまに対して、店舗がどういうサービスをできるのかを考える。店舗に来られないお客さまのニーズにはかなりチャンスがあると考えているが、それを自分たちだけでやることは難しいというのが今回の撤退の判断。店に来られる、来られないという点では、『この人は来られる』『この人は来られない』というわけではない。1人のお客さまの中でも、シチュエーション、曜日によって『来られるとき』『来られないとき』があるので、そこをちゃんとつないでいく。われわれの商品を届ける手段を増やすことで、サービスを深めていきたい」(伊藤本部長)
日本ではおよそ四半世紀の歴史のあるネットスーパー事業だが、一般的に日本では生鮮食品を含めた食品の品質に対する目が厳しく、さらにそのために買物頻度が高いという特徴があることもあって、大きな投資を伴う大型のセンターを設置してのモデルが成立しづらく、店舗出荷型のモデルがかろうじて成立し得るといった状況にあるといえる。
今回のイトーヨーカ堂のネットスーパー撤退はまさにそのことを示したといえるが、その意味では今回のピッキングや配送をONIGOに任せた点、さらに店舗出荷型に特化した点は合理的な判断といえるだろう。
一方で、クイックコマースの弱点は、やはり相応のコストをまかなうための高めの価格設定にあるといえる。今回の約2000品目の価格を見直したのはまさにそれを意識したものであり、値頃感と採算性のバランスをいかに取っていくかは、今回のモデルが継続できるかの大きな鍵を握るといえる。
ONIGO上のイトーヨーカドーネットスーパー概要
サービス開始日/2025年2月
取扱店舗数/イトーヨーカドー83店舗、ヨーク10店舗
取扱商品数/約8000~9000商品(店舗によって取扱商品が異なる場合がある)
配送料/買上金額6000円(税込み)以上の場合は送料330円
買上金額5000円~6000円(税込み)未満は送料490円
買上金額5000円(税込み)未満は、少額手数料490円(税込み)加算
即配オプション/即配手数料220円(税込み)
決済方法/クレジットカード、代引き、Apple Pay、Google Pay、PayPay、d払い
配送時間/注文日から翌々日までの11時から20時までの1時間枠で配達(ただし一部店舗は11時から20時までの1時間枠で配送、最短70分、即配オプションでは同40分で配送)
WEBサイト/PC版/スマホ版(開発中)
スマホアプリ/iOS版/Android版(開発中)