ザ・トップマネジメント「ライフコーポレーション 岩崎高治社長」:2021年新春特別版インタビュー

2022.04.12

2021.01.02

「守る」「攻める」「変える」を継続、コロナを「日本の小売業界が変わる」体質改善のきっかけに

ライフコーポレーション岩崎高治社長

——2020年度はどんな年だったか。

岩崎 20年度を振り返ると、新型コロナウイルス感染症の話だけだった。それによって社会が一変した一年だった。

——新型コロナウイルスに対する方針は。

岩崎 「守る」「攻める」「変える」という3つのキーワードで対処しているが、まずは「守る」が大事だと思っている。

当社は「最優先すべきは、従業員とお客様の安全安心を確保すること。その上でライフラインを支えるという使命の可能な限り営業を継続する」という方針で臨んでいる。従業員とお客さまの安全安心という前段なくして後段はないと思っているので、その辺りの優先順位を決して間違えることなくやっていきたいというのが基本方針だ。

加えて、迅速に正確に正直に情報を開示する。感染者が出た際も積極的に情報開示する方針でやってきているが、これも変えずにやっていきたいと思う。当社には約5万人の従業員がいるが、PCR検査を受ける人が毎日のように出ている。その情報がスマホに毎日届くようになっている。

当然のことながら、一定の比率で陽性者が発生する。その感染経路がはっきりしないことも多いが、店舗においての感染拡大、店舗をクラスターにすることは絶対に起こしてはいけないということを徹底してやってきている。

売場、バックヤードの感染対策をしっかりやっているが、これをさらに踏み込んで、ゆるめることなくしっかりとやっていきたいと思う。

去年のこの段階では、オリンピック・パラリンピックがあるから売上予算は東西の数値も変えて、特に首都圏の(20年)7月、8月はかなり高いハードルの予算を組んでいたが、それが全くなくなって一変した。

印象としてはコロナ対応一色だったというのが感想だ。いまでも(連絡の)スマホがずっと鳴っている状況だ。

その上で、「攻める」ということに関して、ネットスーパーの対応店舗の拡大、キャッシュレスの推進、改装の積極化、採用の強化を下期にやってきているが、引き続きやっていきたいと思っている。

2つのネットスーパーの強化とアプリとの連動を進める

——ネットスーパーの状況は。

岩崎 今期の売上げは50億円程度になる。それを来期は100億円にする。自社のネットスーパーとアマゾン(を経由してのもの)の2つあるが、まず、自社のネットスーパーについては、今下期にも約10店舗程度、展開店舗数を増やそうとしている他、既存店については採用を強化し、車の台数を増やすことで受注できるキャパシティを増やすことで既存店1店舗の売上規模を上げていく。

また、(自社のライフ)アプリとも連動させ、よりお客さまが使いやすい買物環境ができるようにしていく。ネットスーパーのシステムについてはいま刷新すべく準備をしている。

本社の態勢についても、トレーナーや企画のメンバーも増やしていくなどして整えるが、場合によっては組織を見直しながら人はしっかりと投入していきたい。

アマゾンとの取り組みも強化していく。いま東京23区は全部カバーし(他東京都4市)、横浜、川崎についても拠点をつくった。大阪も大阪市内の21区をカバーし、その周辺(3市)についてもカバーしている。この拠点については順次拡大をしていく。

また、いままではアマゾンの「Prime Now(プライムナウ)」というスマホの専用アプリでしかオーダーできなかったが、「Amazon.co.jp」という、普通のサイトからもオーダーができるようになった。いままでは意識して買いに来ている、本当に限られた人だけのサービスだったが、通常、アマゾンを使っている方々の目に入るところにライフの入口ができた。

その意味では、非常にお客さまのトラフィックが増えているので、これもエンジンになるかなと思っている。来期100億円の目標だが、できるだけ早い段階で達成したい。200億円まではできると思っている。

ただ、ネットスーパーがすごく儲かるビジネスかというと、これはなかなか難しいのではないかと思っている。最近、いろんな企業がまた、「ネットスーパーをやろう」という感じになってきているが、やめておいた方がいいのではないかと思う(笑)。

——ライフアプリの位置づけは。

岩崎 アプリは大事だと思っている。アプリで(電子マネー機能付きポイントカードの)「LaCuCa」の決済ができるようになり、これで決済は乗った。あとはネットスーパーとの連携を早い段階でやっていきたいと思っている。

そうすると、お客さまがオンラインで買うときも、実店舗で買うときもスマホのアプリを使うことになるので、よりお客さまにとって重要なものになっていく。そこからさらに魅力を上げられないかと社内では検討している。

すでに活用している実店舗のデータにオンラインのデータをリンクさせる

——「守る」「攻める」に続く、「変える」については。

岩崎 「変える」ものとしては、21年度も従業員の働く環境を整備し、3密を避けた営業施策を継続していく。

1つは社員の働き方を変えていくこと。コロナで働き方が大きく変わった。

従業員約5万人のうち、本社は約1000人。残りの約4万9000人が約300カ所あるお店、物流センター、プロセスセンターにいるという人員配置だが、各店の店長や部門のチーフなどはいままでは月に1回本社に来ていた。朝9時~夕方6時ぐらいまで、そこで来月度の営業の方針や販売の方針などを話していたが、それを一切やめた。

動画を撮って動画で配信するやり方になったが、聞く方も自分たちの都合のよいときに観られるということもあるし、本社側の準備も都合の良いときにできるということで、利便性、効率という意味でも上がっている。

物によっては何度も聞いてくれたり、あるいは関係する店長とチーフがいっしょに聞くといったこともできるようになってきている。話の理解度、徹底度の面でむしろ、効率も効果も上がってきていると思う。

本社も徹底して会議も減らし、書類も減らしということをやってきているが、お店は接客業なので、現場を離れるわけにはいかないということで、なかなかテレワークというわけにもいかない。これも何とか月に1日でもできるように持って行きたいと思っている。

何ができるかというと、レジの省力化のためのセミセルフレジを全店に入れるだとか、AI(人工知能)発注として日配の需要予測をして効率化するとか、神田和泉町店(東京・千代田)で始めた電子棚札を入れて効率化していくだとかいったことを進めて、できるだけ店舗の効率化を進めていきたいと思っている。

——DX(デジタルトランスフォーメーション)の方針については。

岩崎 DXは非常にバズワードになっているが、小売りで何ができるかを考えたときに、1つは従業員の仕事を変えるという切り口と、お客さまに対してどういうアプローチができるかということの大きくは2つかなと思う。

従業員の仕事を変えるという意味では、発注の見直しだとか、電子棚札などがあるが、もっと基本的なところでいうとお店のパソコンの環境を変えることで、出勤の日にお店に行かないで家でも、どこでも仕事ができるような環境も整えるといったことも考えている。

対お客さまのDXでいえば、「オンラインとオフラインの融合」はやっていけると思うし、やっていかなければいけないと思っている。実店舗のデータについては、十分にわれわれは活用していると思っているが、オンラインのお客さまとのリンクが十分にできていないので、ここをやることによって、より一層踏み込んだお客さまへの、より価値のある提案ができると考えている。

「小売業界、SM業界はずっと同質競争をやってきた」

「変える」のもう1つは、「3密」を避けた営業施策の継続。この間、既存店前年比の状況は、第1四半期は売上高110%、客数94.3%、第2四半期は売上高106.7%、客数93.7%、第3四半期は売上高101.7%、客数93.6%。

お客さまの数は大体94%前後で一定だが、第1四半期はかなり営業時間を短くしたり、休みを取ったりした中での数字で、1人当たりのお買い上げの単価が上がって売上げが110%まで伸びた。それがなだらかに落ちてきているという感じだ。(前年の消費)増税の裏といった要因はいろいろあるが、やはりスローダウンしていることは否めない。

やはり、「手取り」が減っているなど景気の悪化の影響が少し出てきていると思う。そうは言っても「3密」をつくらないために、大きなチラシに目玉の商品を入れるとか、ポイントの何倍といった倍政策はできないし、やるべきではない。

ライフコーポレーションとしてやりたいことは、「お客様が笑顔でお買い物を楽しめる」スーパーマーケット(SM)をつくること。

当然、お客さまが笑顔になるために「安さ」も大事ではあるが、コロナの環境、そしてアフターコロナになったとしても、前の販売施策に戻ることはちょっとよろしくないと思っている。

小売業界、SM業界はずっと同質競争をやって、低価格競争をやってきた。その結果、何が起こっているのかというとみんな利益が上がらなくて、生産性が低いと言われている。これがコロナになって、みんな販売方法を見直したり、営業時間を見直して「休むときには休む」ということで、体質がようやく変わってきている。

コロナによって、世界中が大変な状況になっているのだが、これは機会として、ピンチをチャンスに変えて、小売業全体が体質改善をすべきタイミングだなと思う。だからちょっと売上げが厳しくなってきたからといって、ポイント何倍だとか、みんなで安売り合戦をするということにするのではなく、もちろん、お客さまに価格のニーズはあるので対応すべきところには対応するが、決してそれ一辺倒ではなく、やはり付加価値を付けたところでの競争をやっていくべきだと思っている。

そういう意味では、1つはID-POS分析をずっとやってきているのだが、マーケティングのレベルが少しずつ上がってきている。店別にお客さまのニーズをちゃんとつかんで品揃え、レイアウトを変えたりといったことをやってきている。力ずくで安売りをするわけではなく、本当にお客さまのニーズをしっかりとつかんで同質競争にならないような切磋琢磨をしていくべきだと思う。

その1つが健康志向の方への対応で、ビオラルというお店を大阪に出したが上期に140%ぐらい売上げが上がって黒字にもなったが、2号店を吉祥寺(丸井吉祥寺店、東京都武蔵野市)にもオープンした。

店舗展開の他、ビオラルというプライベートブランド商品もとりあえず40品準備できたので、そういった商品や健康志向の商品のコーナー化を吉祥寺のお店だけではなく、他の店にも展開していっているが、そうしたことで他社との差別化をしっかりやっていきたいと思っている。

今後のビオラルの店舗展開としては丸井吉祥寺店以外にも大体決まっている物件がある。吉祥寺は良いお店になったのではないかと思う。これが成功するという前提で水平展開をしていきたい。

ビオラルも100億円ぐらいの売上げにはしていきたい。商品開発については首都圏に4人、近畿に1人の専任の担当者を配置している。丸井吉祥寺店のオープンに向けてがんばってくれた。

「来期の売上げの予算については、当然(前期比)100%を切る」

——将来、2020年を振り返ったとき、どのような年だったといえると思うか。

岩崎 希望的観測も含めていうと、「コロナを機に日本の小売業界が変わった」「いままで同質競争をやっていたが、20年を機に1社1社独自性を打ち出すようになった」「小売業自体がもっと魅力ある、働きたいと思ってもらえる産業に変わった転換点だったよね」と言われるようにしたい。少なくともライフコーポレーションはそういう風に変えていきたいと思う。

やはり一番の問題は同質化。どうしても表面的な同質化はやりやすい。その同質化の最たるもの、一番簡単なのが価格競争。もちろん、決してライフが安売りをしないということではなく、価格も対応すべきところは対応するが、そこだけではないところでいかに特徴を出すのかというところを、もっと各社ががんばらないといけないと思う。

データがこれから非常に重要になるので、いままでもやってきたリアル店舗でのお客さまの購買行動だけでなく、オンラインでのお客さまの購買行動についても、何を買ったかだけではなく、何を買わなかったのかといったことも含め、オンラインとオフラインのデータの融合をしていく。もっともっとお客さまのニーズを掘り起こして、しっかりと1人1人のニーズに合ったプロモーションをやっていけるような態勢にいま、少しずつ変えているが、これを一層加速して来期やっていきたいと思っている。

——来期の予算については。

岩崎 来期の数字については、今期いろいろな要因があって上がった数字をさらに超えるような「自分たちの実力を勘違いした」経営計画は立てるべきではないと思っている。そこは冷静に判断をして、しかるべき数字にしたいと思っている。

来期の売上げの予算については、当然(前期比)100%を切る数字で予算を組むべくやっている。そんなに無理をするつもりはない。今期の経常利益は250億円を見込んでいるが、これは外部要因が多く、これを自分たちの実力だと思ったら大間違い。それを前提に来期以降の数字の計画を組み立てないといけない。

21年、コロナはもうしばらくかかると思うので、まずは「守り」をしっかりとやり、その上で「攻める」べきところ、「変える」べきところを明確にして、しっかりとやっていきたいと思っている。

「出店戦略は大きく変えるつもりはない」

——新型コロナによって都市部と郊外の人口に変化が起きる可能性があるが、出店の方針は。

岩崎 出店戦略は大きく変えるつもりはない。

確かに人口動態、あるいは生活様式が変わって、足元の売上げでも良いところと悪いところですごく差が出てきている。例えばJR山手線や地下鉄などの駅前にあるお店の売上げは落ち、特に夕夜間は厳しくなってきている。あるいはオフィス街にあるようなお店が厳しい一方で郊外は良い。こういう傾向は確かに出て来ている。

それは念頭に置くが、だからと言って郊外に大きく舵を切ることはない。チャンスがあれば出すが、大きな方針としてはあまり変わらずに1つ1つの物件で判断していく。

いろいろ事情もあって、都心型小型店として大阪で「Miniel(ミニエル)」(西本町店、大阪市西区)という店を実験しているが、まだまだ成功の型ができていない。小型店については難しいところもあるので、幾つか実験することはあるかもしれないが、いまは積極的にやっていく段階にはない。

——改装は。

岩崎 今期は1億円を超える投資額の改装だけで東西で20店舗程度になると思う。(投資額)1億円以下のミニ改装を含めると50店舗程度になる。上期の分を含めると今期だけで(全体の)25%ぐらいの店舗には何らかの手を入れられたことになると思う。

4年間の第6次中期経営計画が来期で終わるが、もともとその間に全てのお店に何らかの手を入れる予定だった。1年目、2年目にはちょっとビハインドがあったが、かなり追い付いたと思う。来期の改装の計画は、まだ詰め切っていないが、この3年間で手を入れられなかったお店についてはできる限り何らかの手を入れたい。

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